日立工機 マルチボルトとは?――次世代型のコードレス工具

来る8月23日に日立工機から次世代バッテリー『マルチボルト』シリーズが発表されました。今回はカタログやリリース資料・各金物屋の紹介記事等を参考に、独自見解を加えてマルチボルトについて客観的に考察していきたいと思います。

日立工機 マルチボルトシリーズとは?

資本が日立製作所からKKRに移り、大転換期を迎えている日立工機ですが8月23日に待望となる新製品『マルチボルト』が発表されました。

  • 新36Vバッテリー
  • 36V⇔18Vの自動切替
  • 18VサイズのバッテリーサイズでAC100V電源に匹敵する1kW高出力

と今までの電動工具より大きな性能向上が期待される製品です。

新36Vリチウムイオン電池の電動工具

今回発表された『マルチボルト』は新構造の36Vバッテリーを搭載した電動工具製品群になります。『マルチボルト』は36Vのバッテリーでありながらバッテリーサイズを18Vの大きさに留め、AC電源並の1kWと言う高出力が可能になった製品です。

今までも36Vの電動工具というものはありましたが、ハンマドリルや刈払機などの大型の工具が中心になっており、電動工具として一般的なインパクトドライバやドリルなどの電動工具は18Vが主流でした。

36V⇔18Vの自動切替

『マルチボルト』バッテリー BSL36A18最大の特徴は既存の18V工具との後方互換性があり、今まで使用していた18Vの電動工具にマルチボルトバッテリーが取り付けられることが可能です。

また、マルチボルトは今までの18V充電器で充電することができるため、充電器を新たに増やす必要もありません。

注意点として、既存の18Vのバッテリー(BSL18**)はマルチボルト電動工具に取り付ける事は出来ない事、14.4Vの電動工具にマルチボルトバッテリーを取り付けられない事に注意です。

マルチボルトの対応充電器は?


日立工機 急速充電器 スライド式リチウムイオン電池14.4V~18V対応 USB充電端子付 超急速充電 UC18YDL

今まで36Vバッテリーには36V専用の充電器が必要でしたが、このマルチボルトシリーズでは今までの18V電池に対応した充電器で充電できます。

2017年11月時点で日立工機の一番最新の充電器はUC18YDL問題なく充電できるようですし、それ以前のUC18YSL3UC18YSL2、さらにはホームセンター向けのUC18YKSLなどでも充電が可能です。

一方、充電するときは強制的に18Vで充電されてしまうようで、UC36YSLなどの36V充電器を使用しても充電電圧は18Vになってしまうようです。

マルチボルトは電圧を高くすることによりモーター効率が上がる

同じ出力の電動機(モーター)を使っている場合、電圧を高くすればその分電流値が減少するため、モーターの損失(発熱)が減る事になります。

モーター効率が良くなればモーターの出力も上げやすくなり、発熱も減るため作業効率の大きな向上が見込めるようになります。身近な例ではハイブリットカーのモーターなども効率をよくするために電圧を高くしているようです。

ブラシレスモーターになってから電動工具の効率は上がったものの、過負荷に弱くなったり過熱ですぐ止まってしまったりと作業が停止してしまう事もありましたが、この高電圧化によって影響は少なくなるものと考えられます。

しかしバッテリーの容量は…?

マルチボルトの新バッテリーBSL36A18のスペックを見てみると18V – 5.0Ahと記載されており、バッテリー自体の容量はBSL1860(6.0Ah)よりも減っていることがわかります。

ニュースリリースの資料ではAC電源並の1kWの高出力が可能と書いてあります、これは高出力ができるセルを選んだかわりに容量が少ないセルに変更せざるを得なくなった影響と考えられます。

容量に関しても36V – 2.5Ahでは電力換算で90Whの容量しかない点に注意が必要です。これで1kWの連続放電を行うと5分程度しか動作させられないことになります。実作業で5分間ずっと1kWの作業を行う事はなかなかないでしょうが、UC18YDLを使用した場合の充電時間が25分となっていますから、1kWの作業をずっと続けられるわけではありません。1kWと言う出力だけを見てAC工具を完全に置き換えるのはまだまだ難しそうです。

バッテリーの性能自体は変わらない

マルチボルトのコンセプトはDeWaltのFLEXVOLTに非常に近いものがあり、この構造を参考に開発された製品群であると考えられます。

さて、この2種のバッテリーを比較するとFLEXVOLTは20V – 60Vとリチウムイオンセルを15本を5×3本と15×1本で切り替えているバッテリーなのに対し、マルチボルトは18V – 36Vとセル10本で5×2本と10×1本で切り替えるバッテリーになっています。両方とも電圧を切り替えるという構造を持つバッテリーですが、日立工機のマルチボルトは『バッテリーを構成するセルの本数が変わっていない』という点に着目したいと思います。(既存の18Vは5×2本)

原理上、どのような構成にしても「電池1本から取り出せるエネルギー」は変わりません。身近な例を挙げれば、10本の乾電池を直列にしようが並列にしようが仕事量(Wh)が変わらないのと同じ理屈です。

この点を考慮するとマルチボルトは既存の18Vバッテリーと同じく、セル10本によって構成されたバッテリーとなっているため、今までの18Vバッテリーと取り出せるエネルギー総量は変わらないことになります。

このことからマルチボルトについてはバッテリー性能を向上させた製品ではなく、あくまでも『高電圧化によってモーターの発熱(損失)が減る』事をメリットに置いた製品群と考えるのがよさそうです。

マルチボルトの電動工具紹介

『マルチボルト』の新製品群ということで、全11機種がラインナップされるようです。第1弾となる8月は下記の5機種、9月以降に残りの6機種を発売する予定になっているようです。

さて、マルチボルト工具の特徴をさっと見てみると、重負荷になりやすい工具、例を挙げると丸のこやディスクグラインダなどの回転系工具に対する恩恵が強いようです。

卓上スライド丸のこ C3606DRA

コードレスの卓上スライド丸のこC3606DRAです。『日立工機のコードレス卓上スライド丸のこ』そのものを心待ちにしていた方も多いのではないでしょうか。

同じ165mmのAC卓上マルノコC6RSHCとの大きな違いはブラシレスモーターに変わっている事、スライド幅が6寸切断までとなっており1尺切断が出来なくなっている事です。最近では1尺フローリングが減っているとも聞くのでスライド幅が小さくなっても大きな問題はないのかもしれません。

切断性能についてはDCブラシレスモーターを採用したことによってAC並の切断能力を持っているようです、グラフを見る限りでも負荷に対する回転数の変動が非常に小さいことがわかるので、負荷に対する切断面の荒さなどをそれほど気にする必要はないのかもしれません。ですがAC電源と異なりバッテリーは電圧降下による回転低下の影響は受けますので注意が必要です。

丸のこ C3606DA

こちらは通常の丸のこC3606DAです。

18VのC18DSALと比較すると切断スピードと粘り強さが特徴的な製品になっています、18VのC18DBALと比較して約2倍の切断スピードと高負荷時の粘り強さを考えると、高電圧化の恩恵を最も受けている電動工具であると言えるのかもしれません。

外観的には大きな変更点がなく、切断能力が向上した点が特徴的なポイントと言えるでしょう。もちろん、従来品と同じようにフッ素プレートも装着可能です。

ディスクグラインダ G3610DA, G3613DA

ディスクグラインダも切断スピードや過負荷作業に強くなっています、切断スピードに関しても丸ノコと同じように1.6倍近い切断スピードになっているので、これも高電圧の恩恵を十分受けている製品ともいえるのかもしれません。一方で1充電当たりの作業用は減っているようなので、この点はバッテリーの容量減の影響を受けているようです。

外観の変更点としてバッテリーの脱着が斜めになってスリムになった点と、握るところがさらに細くなって握りやすくなった点が上げられます。

マルチボルトのディスクグラインダは砥石100mm径のG3610DAと125mm径のG3613DAの2種類をラインナップしています。

インパクトドライバ WH36DA

他のマルチボルト電動工具と比較すると影が薄くなってしまっているインパクトドライバWH36DAです。

変化点は少なく、特徴としてはネジ締め時のスピードが落ちにくいこと本体の温度上昇が少なくなっているようです、またカタログスペック上のトルクもWH18DDL2の時から大きく上昇していません。

これはインパクトのトルクを上げても木ねじに使うプラスビットを破壊してしまうだけなので、180N・m以上のトルクにすることは現実的ではないためだと思われます。このあたりは四角頭ネジが普及すれば解決する問題だとは思いますが、価格の問題もありまだまだ先になると考えられます。

インパクトドライバは最も売れる工具ではありますが、海外も含め業界全体で3年くらい前から大きな新構造がなく、既に完成しきった工具であるとも言えます。インパクトに大きな変化点がないのは仕方のないことかもしれません。

ちなみに、今回のインパクトはカラーバリエーションが2色のみになっているようです。

ドライバドリル DS36DA 『2017年9月発売』

2017年9月にマルチボルト第2弾として発表されたドライバドリルです。

36Vに高電圧化したことにより穴あけ能力が大きく向上しました。特に特徴すべきはサイディングの穴あけ能力で200mmまで穴あけ可能になっています。ダクト穴の作業で大きなドリルを持ち歩かなくて済むようになりました。

DS36DAの最大穴あけ能力比較。いままでと同じ大きさの電動工具でも36Vになったことで穴あけ能力が向上している。

振動ドライバドリル DV36DA 『2017年9月発売』

DS36DAに振動ドリルが付いたドライバドリルです。基本的な性能はDS36DAと同じになります。

18VのDV18DBL2と性能比較したかったのですが、公表してる作業量が同一ではないため直接比較できないのが残念です。(電池容量が同じではないので仕方ないのですが)

まとめ・所感

電動工具の高電圧化は切断系の回転工具、特に丸のことディスクグラインダは高電圧化による恩恵を受けやすいので、これらの工具については作業スピードが大きく向上するようです。

その一方で、電池の容量そのものが向上したわけではありませんから、1充電当たりの作業量はそこまで変わっていません。このことからマルチボルトを端的に表現するなら『出力が上がった』電動工具であると考えられます

実際に購入する場合は実際の作業と充電する頻度は問題ないか、高負荷時の挙動が今までの18V電動工具と変わるから違和感がないか、などを確認したほうがいいかもしれません。

ニュースリリースではAC電源並とは言っていますが現状のリチウムイオンバッテリーの性能を考えればAC工具並みの1kW出力が可能であっても、それを長時間維持することはまだまだ難しいと考えられます。

しかしながら、かつてのコードレス工具に比べれば大きな性能向上が見込め、この先の2次電池の性能向上によってコードレス工具はまだまだ性能向上できそうなので、36V工具はこの先の電動工具の標準的な電圧になっていくのかもしれません。

また、既存の18V工具にも使えるバッテリーなので、試用していい感じであれば、1台くらいは試しに購入してみるのもアリなのかもしれません。充電器が18Vと共用できるのもgoodです。

また情報の少ない製品ですので、購入を考えている方は販売店や展示会で実機に触れて十分に確認したほうがいいかもしれません。

さて、マルチボルトに関する情報は少なく、筆者もまだ現品に触れていないので、記事内容に誤りや訂正する部分があるかもしれません。本記事に関してはあくまでも参考程度に考えていただければと思います。今後、マルチボルト現品に触れる機会があればまた内容を追記していきたいと思います。