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2023年9月26日

LFPバッテリー(リン酸鉄リチウムイオン電池)とは

LFPバッテリー(リン酸鉄リチウムイオン電池)とは

普及が進むLFP(LiFePO4)バッテリー

LFP(LiFePO4)とはリン酸鉄リチウムを略した名称であり、日本語ではリン酸鉄リチウムイオンバッテリーが正式名称として使われています。そのほかの呼称として、LFPバッテリー、LiFeバッテリー、LiFePO4バッテリー、オリビン型リン酸鉄リチウムバッテリー、リフェバッテリーとも呼ぶ場合もあります。

LFPバッテリーはリチウム、リン、鉄と酸素で構成されるリチウムイオンバッテリーであり、コバルトやニッケルを使う一般的なリチウムイオンバッテリーよりも安全性に優れる特徴があり、価格も安いので、EVや非常時電源など大きな容量を必要とする製品に向けて普及が進んでいます。

市場に登場し始めた当初のLFPバッテリーは、中国メーカー BYDが中国国内向けのEV機器に供給する程度のものでしたが、現在はニッケル、コバルトの高騰やLFPバッテリー自体の性能向上によって見直しが進んでおり、現在は欧米や日本のメーカーでもLFPバッテリーの採用が検討されています。

リン酸鉄リチウムバッテリーを採用するBYD車に搭載しているブレードバッテリーユニット
画像引用:BYD ATTO 3 | BYD Auto Japan株式会社

リチウムイオンバッテリー正極材比較の比較

少し古い資料ですが、リチウムイオンバッテリーの極材料ごとに特性を比較したのが下記の表になります。

正極材コバルト系マンガン系ニッケル系三元系リン酸鉄系
公称電圧3.7V3.7V3.5V3.7V3.2V
理論容量
(Ah/kg)
148274274278170
熱分解温度355℃225℃180℃300℃400℃以上
熱安定性×
原材料費率11/81/61/61/10
可採埋蔵量4680474/4783,000

※参考:富士時報2012 Vol.85 UPSにおける新型電池の評価・適用技術

レアメタルを使わず低価格で安全性の高いバッテリー

LFPバッテリーはリチウムイオンバッテリーの一種で、熱的な安定性が高く、熱暴走のリスクが低いのが特徴です。

また、他のリチウムイオンバッテリーと比べて比較的長いサイクル寿命を持ち、コバルトやニッケルなどのレアメタルを使わないために低価格なのも特徴です。ただし、エネルギー密度はやや劣るため、容量密度が求められる用途では不向きなバッテリーです。

LFPバッテリーは主に大容量が求められる製品に搭載されている。主な製品はEV、蓄電システム、非常用電源(ポータブル電源)など。LFPのほどんどが中国ブランドの製品に搭載している。

コストパフォーマンス比でバッテリー容量に優れる

LFPバッテリーは、コバルトやニッケルなどのレアメタルを使用しないため原材料費も安く、金属取引相場の影響を受けにくたいめ価格も安定しているのが特徴です。

コストパフォーマンスの比較としては、三元系との価格比較で4割ほどの価格でありながらも、バッテリー容量では三元系の約8割の容量があります。

とは言え、容量価格比のコストパフォーマンスとしては優れているものの、その分体積を多く確保しなければ十分な容量が得られないため、モバイル機器などの容量重視の小型機器には適していないバッテリーです。LFPバッテリーの大多数が大型製品用のバッテリーとして採用されています。

具体的な製品例としては、電気自動車(EV)や非常用電源としての蓄電システムなどに搭載するケースが多く、複数のLFPバッテリーセルを組み合わせて大型のバッテリーパックとして構成しています。

熱分解温度が高く、熱暴走の心配が少ない

リチウムイオンバッテリーは、内部に燃焼の3要素「可燃物、酸素供給源、点火源」内包しています。

加熱や落下などの要因が加わると製品事故のリスクが上昇し、条件次第で容易に発火や破裂が起きる可能性は飛躍的に上がります。そのため、求められる安全管理は電子回路的なものだけにとどまらず、使用環境や製品構造までに及ぶ場合があるほどです。

LPFバッテリーは、同じく燃焼3要素を含むバッテリーではあるものの、要素の1つである酸素供給減となる酸素がリンと強く結びついているため、過充電や高温においても結晶構造の崩壊による酸素放出が起こりにくく、異常発熱や発火の危険性が低いのが特徴です。

3.2V/単セルのバッテリーなので鉛蓄電池の代替に向く

LFPバッテリーは、単セル電圧3.2~3.3Vのバッテリーです。

4セル直列構成にすることで、一般的な鉛蓄電池に近い12Vバッテリーパックを構成できるので、既存の鉛蓄電池を置き換える用途などにも対応できます。

ただし、一般的なリチウムイオンバッテリーの単セル電圧の3.6~3.7Vに比べると電圧が低く、バッテリー容量も少なくなるため、容量体積比を重視するモバイル機器などでは通常のリチウムイオンバッテリーが使われます。

バイク用の12V鉛蓄電池大体のLPFバッテリー。バッテリー重量が軽く大電流放電が可能なのでバイク向けとしては一定の需要がある。

32700/26700の円筒形セルを組み合わせてパック化することが多い

LFPバッテリーは32700セルや26700セルサイズのセルが広く使われています。

リチウムイオンバッテリーセルでよく使われている18650/21700セルよりも一回り大きいので、一目で判別することができます。(ただしLFPでも18650セルや小型サイズのセルなどもあります。)

ただし、これまで解説した特徴から、LPFバッテリーは大型化に向いたバッテリーであるため、1~2セルの小型パックとして使うことは少なく、最低でも12Vとなる4直列を最小構成とするバッテリーパックから始まり、専用のハードケースに収められている中型~大型の専用バッテリーパックとして構成することの多いバッテリーです。

ちなみに広く流通しているものではありませんが、単セル15Ahの超巨大円筒型 34145セルを開発する企業もあり、EVや蓄電システムなどの大型アプリケーションに特化したサイズのセルの普及も進んでいます

写真内ケース一番右が34145セル。一般的なセルの約2倍近い高さと太さがある。
画像引用:Greenway Large cylindrical battery with LMFP LFP│Linkedin

また特注サイズのバッテリーとしては角型セルもあります。こちらも大型バッテリーパックとしての需要に答えるために大型のセルサイズとなっており、主にポータブル電源やEVバッテリーなどに使われます。

角型LFPバッテリーの内部構造
画像引用:What Are LiFePO4 Prismatic Cells? Which One Is The Best?

製品に合わせたバッテリー選定と安全設計は必須

LFPバッテリーは価格が安く、安全性も高いため大容量化に向くバッテリーですが、リチウムイオンバッテリーの例に漏れず、適当に使えるバッテリーではありません。

リチウムイオン監視プロテクトICによる全セル監視は必須ですし、安全性が高いと言っても、BYDのEVが発火事故を起こした事例もあるため、安全対策を施しても発火事故の可能性は0ではありません。

コストパフォーマンス面では優秀なバッテリーと言えるものの、そのメリットを最大限に活かすためにはバッテリーサイズを極限まで大きくする必要があります。またほぼ中国企業に依存するバッテリーであるため、資源や価格とは別の懸念点もあり、製品手配においては信頼できる調達ルートを開拓する必要があります。筆者の個人的な印象としては、日本市場のベンチャーレベルクラスの開発環境では懸念点も多いため、使いにくさがあるバッテリーだと思っています。

また最近は個人用途でも、鉛蓄電池に変わる蓄電用途や車載向けの高性能バッテリーとしてインターネット通販で容易に入手できるようになりました。ただし、見たところ輸入事業者の実態が掴めない状態で販売されており、個人で購入するには注意が必要な製品となっています。

これらの個人規模で入手できるLFPバッテリーは、製品保証が乏しいために安全面での保証を受けることが難しく、バッテリー回収も受け付けておらず廃棄することが難しいなどの問題もあり得るため、導入を検討する際には注意が必要です。

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