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2020年12月22日

電動工具のバッテリーはなぜ高い?リチウムイオンバッテリーの話

電動工具のバッテリーはなぜ高い?リチウムイオンバッテリーの話

電動工具のバッテリーは非常に高い消耗品の一つです。「安く買えればいいのに…」と思う方も多いと思いますが、電動工具のバッテリーの価格の高さにはそれなりの理由があったりします。

工具のバッテリーに対して、スマホのモバイルバッテリーはなぜ安い?

現在のバッテリーの主流と言えばリチウムイオンバッテリーです。過去にはニカド電池やニッケル水素などのバッテリーもありましたが、現在ではほぼ全ての用途においてリチウムイオンバッテリーが使われています。

Amazonのモバイルバッテリーの販売ページを見ていると「モバイルバッテリーに比べて電動工具のバッテリーは高いなあ」と思うことも多いでしょう。モバイルバッテリーには大容量でありながら3,000円を切るものもあるのに、同容量の電動工具用バッテリーは1万円を超えています。

モバイルバッテリーをそのまま電動工具に使えれば良いのに、と考えてしまいたいところですが、実はモバイルバッテリーが大容量で安いのにはそれなりに理由があります。

モバイルバッテリーは大容量の物でも非常に安い価格で販売されており、価格を比べてしまうと電動工具用のバッテリーは非常に高く感じる

リチウムイオンバッテリーの価格は容量だけで決まらない

リチウムイオンバッテリーの製品で気にする所として「何時間持つの?」「どれくらい作業できる?」と言った容量の部分が大きいでしょう。

ですが、リチウムイオンバッテリーの性能を左右するのは容量だけではありません、充電、放電、サイクル寿命、安全性、保存性、そして容量などの複数の要素がリチウムイオンバッテリーの性能とコストを決定づけています。

この様々な要素は、どれか1つだけを伸ばすことが難しく。1つの要素を大きくすると他の要素が小さくなるトレードオフの関係を持ちます。

バッテリーの要素バランスのイメージ図。バッテリーが備える要素の1つだけを伸ばすことが難しく、ある要素を増加させると他の要素が減少してしまう。

エネループで見る容量とサイクル寿命の関係

ここではニッケル水素バッテリーの話になってしまいますが、電池におけるトレードオフの関係がわかりやすい製品としてPanasonicのeneloopを例に説明しましょう。

eneloopは3つのバリエーションがあります。

  • スタンダードモデルのeneloop
  • ハイエンドモデルのeneloop pro
  • お手軽モデルEVOLTA e(eneloop liteとブランド統合)

の3種類です。

製品名 eneloop eneloop pro EVOLTA e
パッケージ
電池容量 1,900mAh 2,500mAh 1,000mAh
繰り返し回数 約2,100回 約500回 約4,000回
保管時の容量抜け

スタンダードモデルのeneloopは容量・サイクル数・長期保管性などが良くバランスの取れたバッテリーです。

ハイエンドモデルのproは容量が増加していますがサイクル数が500回と1/4以下になっていて、保存性もスタンダードモデルより劣るようです。

お手軽モデルのEVOLTA eは容量こそ半分の1000mAhですが、サイクル数は4000回と2倍の充放電サイクルが可能になっています。

バッテリーとは容量や充電回数などに筆頭に様々な要素が絡み合っており、絶妙なバランスの上で成り立っている製品なのです。

参考
エネループ | ニッケル水素電池&充電器 | 電池/充電器総合 | Panasonic
充電式エボルタ | ニッケル水素電池&充電器 | 電池/充電器総合 | Panasonic

充電・放電に特化した電動工具用バッテリーは非常に高価

電動工具のバッテリーにリチウムイオンに使われるのは、ノートパソコンへのリチウムイオンが一般的になってから、だいぶ後になります。

2000年半ばまでの充電式電動工具は、ニカドバッテリーが主流でした。なぜなら、当時のリチウムイオンバッテリーでは電動工具が要求する放電性能を満たすことができなかったためです。その後、電池材料の技術革新により急速充電、大電流放電が可能になると、2008年ごろから電動工具へのリチウムイオンバッテリーの採用が本格的に始まります。

その後、電動工具用のリチウムイオンバッテリーは技術革新が進み、18600サイズのセルの容量も当初の1、500mAhから3,000mAhと2倍の容量を持つようになりました。

現在の電動工具用リチウムイオンバッテリーは、ハイレート充電、大電流放電にも対応した非常に高い性能を持ったバッテリーとして電動工具のみならず、電気自動車などのEVの動力源としても採用されています。

そう考えると、モバイルバッテリーに使われているリチウムイオンバッテリーの充電時間が10時間、放電電力が10W前後であることを考えると、充電時間はわずか30分、放電電力が1000Wに近い電動工具用のバッテリー性能の高さが理解できると思います。

結論、互換バッテリーはなぜ安い?

さて、ここまで解説すると、電動工具に少し詳しいユーザーからは「互換バッテリーはなんで安いの?」という疑問が浮かぶと思います。

純正のバッテリーと比べると非常に安くて魅力のある互換性バッテリーですが、通販サイト上の互換バッテリーのレビューや、セルまで分解しているレビュワー写真などから、バッテリーのデータシート確認すると下記のパターンに分けられるようです。

  • 容量を偽って販売(6.0Ah表記だが、実質は4.0Ah等)
  • 高レート充電・大電流放電に対応していないバッテリーセルを採用している
  • EVや電動バイクからのバッテリーをリサイクル

バッテリーセルのデータシートを確認した限りの範囲ですが、互換バッテリーで着目したいのが、純正品バッテリーに匹敵する高レート充電・大電流放電に対応しているセルを採用している互換バッテリーは見当たらないという点です。

特に充電電流に関して、互換バッテリーは国内各社の急速充電器マキタDC18RFやHiKOKI UC18YDLの充電電流を満たしておらず、非常に危険ではないのか?と考えられます。放電に関してはインパクトドライバー程度の使用なら問題なさそうですが、丸ノコやグラインダーなどの大電流を必要とするスペックを満たしていませんでした。

レビューの投稿写真から確認できたセルの品番からデータシートを検索してスペックを確認した。データシートを見る限りでは、電動工具用としては難ありだ
  • 製品には6.0Ahと記載されていたが、3.Rated Capacityは2.0Ahしか容量の記載がなく、2並列構成で4.0Ahの容量しかない。
  • 7.Max Charge Currentは1Cとなっており、2並列構成の場合でも4A充電が最大値である。
    • 現在の急速充電器は4A以上の電流で充電されている。
  • 8.Max,Continuous Dischage Current(連続放電電流)は20Aだが、高負荷な工具では性能不足となる可能性がある。
  • 結論として、バッテリーは2並列で構成されていたが、このスペックでは3並列で構成しないといけないだろう。

まとめ|電動工具のバッテリーはリチウムイオンバッテリーの中でも最高性能品

モバイルバッテリーは、充電電流・放電電流共にUSBの規格に縛られている面があるため、そこまで高性能なバッテリーセルを必要としていません。そのため容量重視の充電、放電レートが低く安いセルを採用しており、安価な価格で市場に供給されています。

電動工具はハイレート充放電が必要になるため、高性能なバッテリーセルを使わざるを得なくなっているために価格が高くなっているのですが、今後USB PDの20V, 5A給電規格が普及すると、現状の安価なモバイルバッテリーではこの要求性能を満たすことが出来ずに姿を消してしまうかもしれません。

リチウムイオンバッテリーは適材適所で使われており、非常に高価な電動工具のバッテリーにはそれなりの理由があったりします。安価な互換バッテリーもありますが、やはり安いものには裏があるようです。

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