VOLTECHNO(ボルテクノ)

ガジェットとモノづくりのニッチな情報を伝えるメディア

ビルディが電動工具ブランドDCKで狙う新市場の創出

ビルディが電動工具ブランドDCKで狙う新市場の創出

工具販売店のビルディが取り扱う電動工具ブランド「DCK」

事業用途の機械工具販売を手がけるビルディ株式会社は、2024年9月にグローバルブランド「DCK」の日本総代理店としてDCK電動工具の国内展開を開始した。

DCKは日本ではまだ馴染みの薄いブランドだが、充電式バッテリーを搭載する電動工具シリーズでは約50機種を展開しており、すでに世界80以上の国と地域で販売実績を持つ国際的な有力ブランドである。 

一方、日本の電動工具市場は、プロユース向けの充電式電動工具が主流であり、その市場は大手の日本ブランドで圧倒的なシェアを占めているのが実情だ。 

この現状は、国内有数の通販サイト「工具通販ビルディ」を運営し、主要国内ブランドの電動工具を数多く取り扱うビルディ自身も十分に把握している。それにもかかわらず、同社が“販売店”という枠を超えてグローバルブランドであるDCKの日本総代理店に踏み切ったのはなぜか。 

本シリーズでは、その背景にあるビルディの戦略と、DCKというブランドの実力に迫っていく。 

プロユースにおける”低価格帯”充電式電動工具市場の創出を狙う 

DCKは、中国に本拠を置く電動工具メーカー「DongCheng社」が展開するプロフェッショナル向けのグローバルブランドだ。

DongCheng社は中国市場におけるトップシェアの売上を誇る企業である。世界市場においては売上高1,300億円を達成し、工具を主要製品として扱う企業としては規模も大きい工具メーカーとなっている。欧米や日本を起点とする大手電動工具ブランドの知名度には及ばないものの、コストパフォーマンスに優れた低価格帯の製品群を強みに世界各国で展開が進んでいる。 

DongCheng社の企業概要と売上推移。2016年より右肩上がりで売上高を伸ばしている[画像クリックで拡大]
DongChengブランドの香港ショールーム (筆者撮影)
日本では知名度の低いDCK (DongCheng)ブランドだが、世界市場ではシェア拡大が進んでおり製品ラインアップ数も国内ブランドに匹敵する。

近年のグローバル市場では、低価格帯のプロ向け市場において電動工具ブランドの台頭による各社シェア争いが広がっており一種の群雄割拠の様相を示している。その中のプレイヤーであるDCKもまた世界市場で着実にシェアを伸ばしている実力派ブランドの一つだ。 

ビルディ代表 渡邉氏は「DCKブランドでこれまで本格的な普及が無かった日本市場における低価格帯のプロ向け電動工具市場の創出を狙いたい」と語る。

「これまでの国内市場では高価格帯の電動工具しか選択肢が無く、プロユーザーや事業者にとって負担が大きい状況が続いてた。低価格帯でありながらプロの現場に耐えうる品質を備えた電動工具を国内市場に展開することで、現場のコストダウンに貢献したい。」 と意気込んでいる。

この発言の背景には、海外市場での電動工具購入における選択肢の広さがある。 

海外市場では、日本市場以上に電動工具ブランドが豊富に展開しており、プロ向け電動工具ブランドといえども性能と価格のバランスを追求した低価格帯のプロ向けブランドも並んでいる。 

日本市場におけるプロ向けの電動工具の場合、大手電動工具ブランドの製品が定番であり、製品価格もほとんど横並びであるため、ユーザーにとっての主要な選択肢は手持ちのバッテリーとの互換性や製品性能が中心になってしまっている。そこに「価格」の選択肢がほとんど入り込まないのが現実だ。 

こうした国内外の市場の違いに注目したのがビルディのDCKブランドの導入だ。ビルディは、日本市場においても低価格帯プロ向け製品という新たな選択肢を提示し、ユーザーにとって実用性と価格のバランスが取れた製品群を普及し、電動工具市場における市場創出を行うことを目指している。 

DCK取扱いにより一般社団法人 JBRCにも加入するビルディ 

低価格の電動工具で懸念されるのがリチウムイオン蓄電池に対する廃棄の方法や安全性だが、ビルディはこの点もクリアし、国内有力電動工具ブランドに匹敵する信頼性を確保している。 

その象徴的な手段こそ、一般社団法人 JBRCに加入している点だ。 JBRCに加入している企業のリチウムイオンバッテリーパックは、JBRCが各所に設置しているリサイクルボックスへ投入でき、リチウムイオンバッテリーの廃棄に困らない利点があるのだが、JRBC加入企業であるかも一つの信頼性の判断基準となっている。 

JBRCとは小型充電式電池のリサイクルを推進する団体だが、実は、このJBRCは申請だけで加入できる団体ではなく、加入する企業とバッテリー製品に一定の信頼性が無いと加入できない実態がある。 

ビルディのDCKブランド展開が異色なのは、販売店が取り扱う電動工具ブランドでありながらも、このJBRCへの加入を行っている点にある。 

JRBCの入会には法人組織としての評価やリチウムイオンバッテリーの技術的な資料に基づくJBRC理事会による審査が必要であり、販売ルートやバッテリーの安全性を証明するテストレポートの提出や適切な管理なども求められており、JRBC加入の敷居は想像以上に高くなっている。 

JBRCの公式サイト『JBRC会員』企業リストにもビルディ株式会社は記載されている。
画像引用:NMG054 会員一覧|JBRC

実際、電動工具ブランドにおけるJBRCの各企業加入状況としては、主要なプロ向け電動工具各社はJBRCに加入しているものの、ホームセンターでよく見かけるプライベートブランドやDIYブランドの企業に関しては、そのほとんどがJBRCに加入しておらず、JBRC加入か否かが充電式製品を販売する本気度を見る試金石になっている実態がある。 

そういう意味で、JBRCの加入による企業審査やバッテリーに対する安全性の判断が行われていることも考慮すれば、DCKブランドのリチウムイオン蓄電池は大手電動工具ブランドにも匹敵する信頼性を確保できている製品だと言えるだろう。 

DCK 20Vmaxシリーズは2.0Ah/4.0Ah/6.0Ah/8.0Ahから選べる

 DCKブランド電動工具の主力である20Vシリーズは、2025年6月時点で2.0Ah/4.0Ah/6.0Ah/8.0Ahの4種類のバッテリー容量で展開を行っている。取り回しに優れる小型バッテリーから1充電あたりの容量が大きい大型バッテリーまで取り揃えており、必要とするシーンに応じて最適なサイズのバッテリーを選べるのも特徴だ。 

この20Vシリーズのバッテリーには、中国セルメーカーのTENPOWER社とEVE Energy社のリチウムイオンセルを採用している。 

中国メーカーのリチウムイオンバッテリーと聞くと不安に感じる方も少なくないと思うが、昨今の大手電動工具メーカーでも中国セルを採用している実例はあり、実際に国内の大手有力電動工具メーカーの中にもTENPOWER社とEVE Energy社のリチウムイオンセルを採用している企業がある。 

このような言い方は極端ではあるものの、中国セルといえども実際に大手電動工具メーカーが採用している実態を踏まえれば、それと同様のセルを採用しているDCKのバッテリーも「中国ブランドのセルだから」と簡単に一蹴できないのも一つの考え方と言える。 

もちろん、DCKバッテリーは安全性として必須の過負荷保護、過充電保護、過放電保護の3つの基本的な回路保護に加え、温度検出保護と単セル単位での充電・過放電保護も搭載しており、これは昨年改定した電気用品安全法の技術適合である(JIS C 62133-2)が定める保護条件にも適合する仕様となっている。 

ちなみに、2025年夏には4.0Ahバッテリーと同等サイズで5.0Ahの新型バッテリーも投入される予定だ。容量密度の点では、大手電動工具メーカーのバッテリーと同じ容量になるので使い勝手もほぼ同等となる。 

プロユーザーにも低価格帯の選択肢を提示するビルディ 

プロ向け電動工具市場の特徴を一言で表すとブランド力がモノを言う世界だ。これは、大手の電動工具メーカーによる長年の実績と信頼によって育まれてきた市場とも言えるのだが、プロユーザー同士の現場の視線も無視することができなくなっており、実際の作業現場において大手ブランド以外の電動工具は避ける傾向が強くなっている。

そういう意味で、新規参入の電動工具ブランドにとってすれば厳しい環境であるとも言える。しかしながら、電動工具はコモディティ化が進んでいる製品であり、電動工具ブランドごとの差異はユーザーが考えている程大きくはないのも事実と言える。 

※「コモディティ化」とは
製品やサービスについて、性能・品質・創造性・ブランド力などに大差がなくなり、顧客からみて「どの会社の製品やサービスも似たようなもの」に見えるようになった状況、を意味するマーケティング用語。購入者からは企業間の技術の均質化によって機能・品質などの差がほとんど無くなったように見える。(引用 : Wikipedia | コモディティ化

電動工具も他産業における家電や携帯電話のように低価格な海外ブランドの普及によって市場環境そのものが大きく変わっていく可能性もある。そういう点で、ビルディが電動工具販売に参入したのは先見の明とも言えるのかもしれない。

ツールジャパン2024年でのDCK出典ブースの様子 (筆者撮影)

それでも先述のように電動工具市場は大手電動工具メーカーのブランドへの信頼を前提としているため、プロ向け電動工具の新規参入はリスクも高い。ビルディはそれらの背景を把握しつつも、プロユーザーに新しい選択肢の存在を知った上で最適な製品を選んでほしいと考えている。 

ビルディはDCKブランドの日本展開にあたり、大手電動工具ブランドと同等の信頼を得られるよう堅実な展開を行っている。その中でもJBRCの加入はバッテリーの廃棄の問題の解決に留まらず、企業的な取り組みや製品への品質に対しても一定の信頼性を得られていると言えるだろう。 

製品展開に関しても、幅広いユーザーにアピールできるよう、自社通販サイトの「ビルディ」での販売に留まらず、Amazonでの販路開拓も進めている。自社ECサイト上での単なる商材確保だけではない点にもビルディのDCK展開に関する意気込みを感じられる。 

もちろん、ビルディがここまでDCKブランドの普及を図っていても、現在の日本市場におけるプロ向け電動工具市場の新規参入は厳しい立場にある。 

国内市場における実績や知名度、販路などの課題もあるが、プロ向け電動工具市場はユーザーの流動性が低い市場であることから、ユーザー知名度や修理体制の評判などは長い期間をかけて取り組まなくてはならない。長い時間をかけて、製品ラインナップの拡充を続け、ユーザーに少しずつ使ってもらいながら直面する一つ一つの課題に真摯な対応を続けることでようやく評価してもらえる厳しい市場環境なのも現実だ。 

そのような厳しい市場環境にも関わらず、ビルディが自ら電動工具ブランドの展開を行う意気込みには並々ならぬ情熱を持っていることは間違いない。ブランド普及として公式サイトの設立やSNSキャンペーンなどさまざまな取り組みを進めているDCKは要注目の電動工具ブランドだ

ビルディDCKの修理体制やサポート、DCKブランドの製品解説については、また追って紹介したい。 


提供: ビルディ株式会社 
〒892-0834 鹿児島県 鹿児島市南林寺町6-17 
ブランドサイト : https://dck-tools.jp/ 
X(Twitter) : @dck_tools_jp
Instagram : dck_tools.jp

制作: VOLTECHNO 編集部 

Return Top