パシフィコ横浜では11月20日から22日の間に組込み総合技術展とIoTの総合技術展のET&IoT Technology2019が開催された。
2016年のIoTブーム以降、IoTに関する技術の華やかさこそ鳴りを潜めてしまったが、技術やコンセプトは年々と発展しており、IoTに関連した展示会が開催される度に新しい技術や実用化を目にすることができた。今回は、その中からいくつかのブースを紹介していこう。
目次
超高速コンタクトレス通信IC『ST60』
STマイクロエレクトロニクスでは、新製品となるライセンス不要の60Ghz近距離非接触高速コネクトを提供するミリ派RFトランシーバ『ST60』を展示していた。
このICは、10数センチの距離間でデータ通信を実現する無線トランシーバーICで、ケーブルレス・コネクタレスでの最大6Gbps無線通信を可能としている。
適応できるアプリケーションは幅広く、ワイヤレスディスプレイや産機アプリケーションの可動部への採用、コネクタレスでのファームウェア書き換えなど、近距離ポイントツーポイント通信を行う機器なら幅広く対応できる仕様となっている。
数ミリの厚さのプラスチック遮蔽物でも問題なく通信できるので、外部コネクタの搭載でデザイン面が損なってしまうプロダクトにも活用できるICとなるだろう。
60GHz近距離無線通信トランシーバ – STMicroelectronics
東芝情報システム株式会社
東芝の半導体と言えばパワーデバイスに関連したICのイメージが強いが、今回はニューロンチップやハードウェアトロイの検出ツールなど新しい取り組みに対する展示が行われていた。
アナログニューロンチップ
参考出典として展示されていたのは、半導体アナログ回路でニューラルネットワークの実証ICだ。
ニューラルネットワークとは、脳機能の特性を模す制御上の概念であり、少し語弊を招いてしまう表現になってしまうが、簡単に言うと人間の脳の働きをソフトウェアとして再現しようとする情報処理手法だ。
ニューラルネットワークは一時期ファジイ推論と並び活発に研究されていたが、近年では大学の研究室のレベルに落ち着いた分野であり、数式的なシミュレーションが研究の主流と認識していたニューラルネットワークが、このような1チップICとして展示されていたのは驚く所だ。
実用化や具体的な活用についてはまだ先であり、今回の展示品はあくまでも研究の1例としての出典との事だが、消費電力が少なく反応が早いアナログニューロンチップは、次のAIブームの火付け役となるのかもしれない。
新型アナログニューロンチップを開発し、基本性能を実証 | 東芝情報システム株式会社
ハードウェアトロイ検出ツール「HTfinder™」
同じく東芝情報システムブースで出展されていたのはハードウェアトロイ検出ツール「HTFinder」だ。これは、近年話題となっている「製品に悪意を持って組み込まれる不正な回路」を検出するツールで、半導体回路の不審な「ハードウェアトロイ」を判別するサービスの解説を行っていた。
近年はIoT化が進み、様々な機器がネットワークに接続されるのが当たり前になっており、悪意を持った業者がこのようなトロイを仕込む商業的・政治的なメリットは年々増加していると考えられる。
実際に回路設計工程にハードウェアトロイが組み込まれる余地があったとしても、担当者の認識や開発スケジュールの都合などから、取引先の良心に依存する結果となってしまい、トロイが組み込まれてしまっても見過ごされかねない現実がある。
製品リリース後にトロイが発見されてしまえば、責任を負うのは発注者側であるICチップメーカーだ。その対応のリコールや回収によって対策費用は天文学的な額になってしまうだろう。このような現実的になりつつあるハードウェアトロイの脅威について、このようなツールの発展や設計時に組み込まれる脅威が迫りつつあるなか、悪意に対する開発プロセスの見直しは必須となるのかもしれない。
ツールの画面に危険な回路として表示します
SPRESENSE LTEモジュール
ソニーセミコンダクタソリューションズのシングルボードコンピュータ「Spresense」の展示ブースでは、12月発売予定のLTE(Cat-M1)拡張ボードが展示されていた。
SpresenseはハイパフォーマンスのCPUを搭載したシングルボードコンピューターで、GPSやハイレゾオーディオ機能、AIからカメラ機能まで幅広いエッジコンピューティングを実現できるコンピューターとして期待されている。
今回の展示では、LTEボードと動作デモが展示されており、カメラで数字が記載されたカードを読み取り、LTEで発信を行いブラウザ上にその数字を表示するシステムが展示されていた(写真は失念)
LTEボードの登場によって、画像処理をSpresense側で行い認識したテキストデータLTEなどのモバイル回線で通信するような使い方も可能になり、IoTデバイスとしてSpresenseの適応範囲はより広がると考えられる。
Spresense – エッジコンピューティングを低消費電力で