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ポータブル電源はエンジン発電機を置き換えることは可能か、ポタ電運用時の損益分岐点を検証【電動工具コラム】

ポータブル電源はエンジン発電機を置き換えることは可能か、ポタ電運用時の損益分岐点を検証【電動工具コラム】

ポタ電はエンジン発電機を置き換えれるか

先日、ポータブル電源を電動工具用バッテリーの外部充電器として運用した場合のコストについて比較検討しました。

その中の計算では、セール販売中のポータブル電源であれば、電動工具用バッテリーの容量単価で約半分ほどのコスト低減となり、大量にバッテリーを必要とする作業環境であれば十分検討の余地があるとの結論を付けています。

今回の検討では、充電式電動工具のバッテリー充電用途ではなく、AC電源で動作するコード式の電動工具での稼働を考えています。このケースでは、電源の無い環境下でエンジン発電機を運用するケースが、ポータブル電源で置き換え可能か、そしてコスト的な利点を見出せるかを比較検討します。

1日あたりに必要な電力量は8kWと仮定

今回の記事で想定するのは電動ハンマーを使ったはつり作業です。電動ハンマーは解体工事や屋外での作業に使われることも多く、そのような現場では電源が取れないことも多いので、エンジン発電機で電源をとることも珍しくありません。

電源の取れない場所でエンジン発電機でACコード式の電動ハンマを使用しているイメージ

解体作業を円滑に進めるため電動ハンマは1kW以上の高出力の大型製品が使われることが多く、エンジン発電機もそれを動作できる3kVA級以上のものが使われます。今回の想定では、定格1.5kWの100V電動ハンマ マキタ HM1511を1台のエンジン発電機で動作させた場合を基準に考えます。

この作業では一日当たりの労働時間7時間を前提とします。ただし、7時間常時ハンマでハツリ作業を行うことは無いと考え、実際の稼働時間は最大でも5時間程と想定し、そこから1日当たりの電力消費量は8kWと仮定します。

エンジン発電機の1kWあたりのガソリン消費量を計算

もう一つの前提として、エンジン発電機を使用した場合のガソリン消費量を計算します。

今回の検証では、ホンダのエンジン発電機 EU28isの製品仕様を前提に計算を行います。

エンジン発電機はガソリンを燃焼して発電を行う製品です。ガソリンは1Lあたり約8.9kWhの発熱エネルギーを持ちますが、発電機として稼働させた場合、この8.9kWhの効率として熱効率20%×発電効率90%が実際に取り出せる電力量になります。

エンジン発電機の具体的な発電量目安としては、燃料タンク容量から連続運転時間を割って1時間当たりガソリン消費量を割り出し、定格負荷出力を割ることで1kW当たりのガソリン消費量が計算できます。

その計算を元にすると、ホンダ EU28isの1kWあたりのガソリン消費量は、1kWhあたり0.64Lとなります。

電動工具の力率は約85%だが記事の中では100%として計算する

ちなみに、エンジン発電機の発電効率は低出力時に低下する傾向があり、製品仕様上では定格1/4負荷時の動作時に計算上1kVAhあたりガソリン消費量1.05Lまで発電効率が悪化します。

エンジン発電機に相当するポータブル電源としてDelta Proで比較

本記事ではホンダ EU28isの性能に準拠するポータブル電源として、EcoFlow DELTA Proで比較します。

EcoFlow DELTA Proは最大出力3kWのポータブル電源であり、3.6kWhのバッテリー容量を備えています。さらに、容量拡張バッテリーを最大2基まで接続でき、最大10.8kWhのポータブル電源として使用できます。

ポータブル電源 +専用容量拡張バッテリー 2枚セットは、通常価格だと76万円ですが、2025年11月のセール販売価格では29万円まで値下げが行われており、専用拡張バッテリー単体もセール価格で18万円で販売されているため、バッテリー容量10kWhの大容量ポータブル電源であっても、セール価格の期間中であればエンジン発電機の約2倍の価格差である50万円での購入が可能です。

2025年 ECOFLOW STOREのBLACK FRIDAY エクストラバッテリーセット品販売価格

エンジン発電機とポータブル電源を比較した時のコスト感

それでは、実際にエンジン発電機運用とポータブル電源運用のコスト比較を行います。

計算のための基本条件

  • 1日あたりに必要とする電力量:約8kWh
  • エンジン発電機:Honda EU28is (258,660円)
    • ガソリン消費量 (損失含む):0.64L/kWh (定格発電)
    • ガソリン価格:175円/L (2025年10月平均)
  • ポータブル電源:EcoFlow DELTA Pro拡張バッテリーセット (298,760円) + Delta Pro専用エクストラバッテリー (181,500円)
    • バッテリー合計容量:最大10.8kWh
    • バッテリー充電電力(損失含む):8kWh÷0.72≒11kWh
    • 電気料金:36.4円/kWh

一日当たりのランニングコストの試算

  • エンジン発電機運用
    • 8kWh × 0.64L/kWh × 175円 =896円/日
  • ポータブル電源運用
    • 11kWh × 36.4円/kWh = 400円/日

損益分岐点グラフ

初期費用価格差 ÷ (燃料費 – 電気代)で算出
→ 221,600円 ÷ ( 896円 – 400円 ) = 446日
稼働日数446日がポータブル電源運用時の損益分岐点

※別ケースでの損益計算
Delta Pro専用エクストラバッテリーを追加購入しない場合 (バッテリー合計容量 7.2kWhで妥協するケース)
初期費用価格差 ÷ (燃料費 – 電気代)
→ 40,100円 ÷ ( 896円 – 364円 ) = 75日
→ 稼働日数75日がポータブル電源運用時の損益分岐点

もう少し先だがエンジン発電機を置き換える未来も見えてきた

今回の検証の結果としては、1日当たり8kWhを供給できるポータブル電源とエンジン発電機の燃料費の導入コストと燃料費を比較した結果、ポータブル電源はエンジン発電機の約2倍の初期コストが必要になるものの、ガソリン代より電気代の方が安いことから約450日で損益分岐点となり、長期的に運用した場合においてはエンジン発電機よりもポータブル電源の方が総合コスト的には安くなる可能性が見えました。

エンジン発電機の利点としては「初期コストが安い」「給油による容易な燃料補給」「本体重量が軽い(ポタ電比で)」となり、ポータブル電源の利点としては「ランニングコストが電気代のみで安い」「動作音が静かで排気も無い」「充電が容易」が挙げられます。

ポータブル電源運用の想定される欠点としては「本体重量が重く輸送コストが高い」「数時間の充電時間が必要」「インバータやバッテリーの耐久性が未知」「メーカーが産業用途に対応するか不明」などが考えられます。特にインバータやバッテリーの耐久性に関しては、電動工具運用に関する市場的な実績が少ないため、劣化が想定以上に早く進んだ場合だと損益分岐点が存在しない可能性も考慮しなければいけません。

また、想定通りに運用できた場合でも、稼働日数450日は1年あたりの営業日を200日と考えても2年以上かかる計算であり、稼働率次第では5年以上かかってしまう可能性もあります。とは言え、エンジン発電機の耐用年数が約5~10年と考えると、この点に関しては意外と良い勝負ができるかもしれません。

今回の検証では、導入時の初期コストと燃料代または電気代のランニングコストだけで比較を行っており、エンジン発電機のメンテナンスコストや重量差による輸送コストなどは考慮していない為、実際の運用を行った場合もう少し違った結果となるかもしれません。

注意点としては、今回の検証はEcoFlowのセール価格を前提とした比較結果であり、通常の販売価格で有意義なコスト差を見出すことはできません。それでも性能的にはエンジン発電機からポータブル電源に置き換えることも可能であり、今後の技術展望や価格動向次第では現場作業でエンジン発電機が必要となるくなる未来もあるかもしれません。

この辺りの損益分岐点計算は、ガソリン価格や電気代の影響を強く受けてしまうため、今後の動向によっては展望が大きく変わる可能性もあります。

少し政治的な話になってしまいますが、直近の話題として暫定税率によるガソリン価格の影響や、原発再稼働や再生エネルギー政策が電気代に強く影響することになります。それ以外にも、系統用蓄電池改正による再生エネルギーの増加やバッテリー単価の変動などが今後のポタ電の現場運用を加速する可能性があり、今後、政治や国政情勢的な動向の変化が現場作業の設備投資にも影響することになるのかもしれません。

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