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ポタ電を電動工具バッテリーの屋外充電器として使うのはアリか【電動工具コラム】

ポタ電を電動工具バッテリーの屋外充電器として使うのはアリか【電動工具コラム】

ポタ電を母艦とした電動工具バッテリーに順次充電する運用は有効か

2022年頃、当サイトでは電動工具の運用にポータブル電源が実用的に使えるかを考察する記事を投稿しました。

当時の価格感として、1,000Whの容量で130,000円程度で販売されているポータブル電源は容量的なコストパフォーマンスが悪く、同容量の電動工具用バッテリーよりも高くなってしまうため実用的ではないと結論を付けています。

しかし、2025年の現在ではポータブル電源の価格競争もだいぶ進んでおり、1,000Whクラスで10万円を切る製品も見かけるようになり、セール価格では2,000Whで10万円台前半の製品も売られるようになりました。

そこで、今回の記事ではポータブル電源を電動工具用バッテリーの屋外充電器として使用した場合のコスト感について、再度考えてみました。

まずは前提として電動工具用バッテリーの容量単価の計算から

ポータブル電源と電動工具用バッテリーの比較の前に、まずは電動工具バッテリーの容量単価を計算してみます。

ここでいう容量単価とは、バッテリーパックの1Wh当たりの価格になります。例えばマキタ18Vバッテリ BL1860Bの場合を考えるとバッテリ仕様は”18V-6.0Ah”であり、これを電力容量として計算すると電圧×電流時となり、電力容量は108Whとなります。

これに、BL1860Bのネット上における実勢販売価格である16,000円(2025年10月時点)を電力容量で割ると、16,000円÷108Wh=148円/Whとなります。

ここからの検証では、マキタBL1860Bバッテリの1Whあたりの容量単価148円として計算します。

実際にポータブル電源で運用した場合のコスト感を考える (セール価格)

ここからは、実際に販売されているポータブル電源と比較してみます。比較の条件としては下記のように考えてみます。

  • マキタ18V×2の充電式電動工具を使うと仮定、2本は機器に装着する
  • ポータブル電源運用では工具装着2本+充電2本で計4本のBL1860Bを考慮する
  • マキタバッテリ運用では比較対象のポータブル電源の容量分のBL1860B+BL1860B×4本としてバッテリー総容量を同じにする
  • ポータブル電源は変換回路の損失 (インバータ90%×充電器90%×バッテリ受電効率95%≒76%) を含む実効容量で比較
ポータブル電源は実際には接続する機器の損失が存在するため公称容量を全て使うことはできない。理論的には、ポータブル電源内部のバッテリーをAC100Vにするインバータの損失、AC100VをCCCV充電制御にするDCDCコンバータ損失、バッテリ内部で発生する充電損失の3つの影響により、公称容量値の約7割~8割が電動工具バッテリに充電できる想定となる。

本記事の投稿時点(2025年10月30日)では、Amazon スマイルSaleが開催されており、JackeryやECOFLOWなど主要なポータブル電源ブランドの製品が大幅な値下げが行われています。セール中での値引き価格ではあるものの、最近のポータブル電源価格状況としては定価価格よりもセール価格での販売の方が多く行われているため、今回の記事では2025年10月時点のセール価格を基準とした比較を行います。

Jackery 1,070Whポータブル電源で運用した場合

1つ目の計算では、ポータブル電源の主要ブランドであるJackeryの1,000Whクラスのポータブル電源での運用を考えてみます。

  • Jackery 1,070Whの容量と購入コスト:1,070Wh, 70,000円(セール価格)
  • ポータブル電源からBL1860Bに充電できる実効電力容量:823Wh ( BL1860B 約8本分 )

A案:マキタバッテリだけで運用する場合

  • BL1860B 8本+4本=12本 (計1,296Wh)
  • BL1860B実勢価格 16,000円×12本=192,000円
  • 1Whあたりの容量単価:148円/Wh

B案:Jackery 1,070Whと合わせて運用する場合

  • Jackery 1,070Wh(実効容量 823Wh) + BL1860B×4本(432Wh) =1,255Wh
  • Jackery 1,070Wh セール価格70,000円 + BL1860B実勢価格 16,000円×4本=134,000円
  • マキタバッテリ4本を含む1Whあたりの容量単価:106円/Wh

差額
A案192,000円 – B案134,000円 = 58,000円

この計算から、Jackery 1,070Whとマキタバッテリ4本を購入した場合、マキタバッテリを12本購入するよりも58,000円分だけ得する計算になりました。容量単価としては約40%のコストパフォーマンス向上となります。

EcoFlow DELTA Pro 3,600Whポータブル電源の場合

  • EcoFlow DELTA Pro 3,600Whの容量と購入コスト: 3,600Wh, 220,000円(セール価格)
  • ポータブル電源からBL1860Bに充電できる実効電力容量:2,770Wh ( BL1860B 約26本分 )

A案:マキタバッテリだけで運用する場合

  • BL1860B 26本+4本=30本 (計3,240Wh)
  • BL1860B実勢価格 16,000円×12本=480,000円
  • 1Whあたりの容量単価:148円/Wh

B案:Jackery 1,070Whと合わせて運用する場合

  • EcoFlow DELTA Pro 3,600Wh(実効電力容量 2,770Wh) + BL1860B×4本(432Wh) =3,202Wh
  • EcoFlow DELTA Pro 3,600Wh セール価格220,000円 + BL1860B実勢価格 16,000円×4本=284,000円
  • マキタバッテリ4本を含む1Whあたりの容量単価:88円/Wh

差額
A案480,000円 – B案284,000円 = 196,000円

この計算から、EcoFlow DELTA Pro 3,600Whとマキタバッテリ4本を購入した場合、マキタバッテリを30本購入するよりも196,000円分だけ得する計算になりました。容量単価としては約70%のコストパフォーマンス向上となります。

安く売られているポータブル電源であれば電動工具バッテリーの初期コストを抑えられる可能性は十分にある

計算の結果では、単純なバッテリー容量の比較だけで考えた場合だと、単純に電動工具用バッテリーを買い増しするよりも、ポータブル電源でバッテリーを順次充電することでバッテリー購入のコストを抑えられる可能性が見出せる結果となりました。

今回は18VバッテリのBL1860Bで計算していますが、よりバッテリー単価の高い40Vmaxバッテリの場合だと容量単価の差はもう少し広がるのではないかと考えています。

ただし、今回想定しているのは電源環境の無い場所で充電式電動工具を使うために大量の予備バッテリーを購入するケースです。具体的には、屋外長時間の園芸機器運用や電源が取れない解体現場でのはつり作業などを想定した考え方になります。

最近のポータブル電源は価格低下に加え、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの採用による充放電サイクルが伸びている点やUSB PDやAC100Vが取れる汎用性もあるため、電動工具バッテリーにはない利点として価値を見出せるかもしれません。

とは言え、ポータブル電源で充電を行う運用の懸念点としては、複数の充電式電動工具を同時に運用する使い方には向かないことや、充電器の充電電力を超える放電電力での運用では対応できない欠点もあります。また、少数のバッテリーの充放電を短い時間で繰り返すことになるので、電動工具バッテリーのサイクル劣化進行も早くなってしまう点にも注意が必要です。

ポータブル電源で電動工具用バッテリーを充電する行為に関しては、バッテリーでバッテリーを充電することになるため何となく無意味さや嫌悪感を感じてしまう方も少なくないとは思うのですが、意味合い的にはモバイルバッテリーでスマートフォンを充電するのと同じことなので、慣れさえすれば気にならないと思っています。

個人的な想定として、ポータブル電源と電動工具バッテリーで容量単価の価格差が今後も大きくなっていくのであれば、ポータブル電源で電動工具バッテリーを充電する運用が広まっていく可能性は十分にあると考えています。例えば、電動工具に求められるバッテリー性能は高出力性であり、ポータブル電源に求められる性能が高容量性、の用に今後のバッテリー技術の発展性が高出力と高容量の2方向に分かれて進むのであれば、十分棲み分けが可能になるのではないかと考えています。

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