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2021年11月26日

スマート電動工具やBluetooth搭載工具の現状

スマート電動工具やBluetooth搭載工具の現状

IoTと騒いで数年、業界を牽引する製品は現れず

2016年にIoT電動工具の特集記事を執筆し、その後も電動工具各社のIoT化された電動工具についてリサーチを続けていましたが、それから3年経過した現在でも業界標準と成り得るようなスマート電動工具は展開されておりません。

電動工具を使用する建設業や設備施工業などはIT化から遠い位置にあり、導入企業としてもプロユーザーとしてもスマート工具には使い道がなく、受け入れ難い印象を受けています。

しかしながらこの数年間では、スマート電動工具に新規参入したメーカーや機能追加などが少しづつ展開されているため、再度、電動工具業界のスマート電動工具の現状についてチェックしてみます。

スマホ連携スマート電動工具は海外を中心に3種類

本記事では、電動工具にBluetooth通信機能を搭載しスマートフォンと連携する事で、工具の細かな設定やロック機能、クラウドトラッキングを備えた電動工具を「スマート電動工具」と定義しています。

スマート電動工具は主に海外工具ブランドが展開しており、工具トップ3メーカーの「Milwaukee (Stanley Black & Decker) 」「DeWALT (Stanley Black & Decker) 」「Bosch」の3社が積極的に開発を行っています。これらの工具メーカーは、電動工具以外にも幅広い事業とブランドを持ち、スマート電動工具以外にも様々な情報機器やスマホ連携工具を展開しています。

スマート電動工具が実現している機能は、工具の追跡やモニタリングを行う「工具管理」、スマホの画面で工具の動作を細かく設定する「設定のカスタマイズ」、スマホの遠隔操作で工具をロックする「盗難セキュリティ機能」です。

Milwaukee One-Key

Milwaukeeが展開するスマート電動工具は「One-Key」です。

One-Keyは電動工具側にBluetooth通信機能が内蔵されており、スマートフォンと通信させることで工具を追跡するトラッキング機能や盗難防止ロック、スマホでの細かいカスタマイズなどを実現しています。

One-Keyアプリで取得した工具の情報はオンラインによるパソコンへのデータ転送が可能で、工具の在庫管理や稼働率の確認などを容易に行えるようになっています。

Screenshot

進化し続ける工具の識別ツール、ヒルティ・コネクト

あなたの手元で工具管理を簡単にするスマホアプリ、ヒルティ・コネクトがヒルティから登場しました。修理進捗、修理履歴、工具使用履歴などの確認や、修理の手配をすることができるアプリです。

DeWALT Tool Connect

DeWALTが展開するスマート電動工具は「TOOL CONNECT™」です。

スマート電動工具としてはTTIより後発となるTool Connectですが、対応機器には「電動工具」「タグ」の他に、非対応工具に装着する「Tool Connectコネクタ」や「Tool Connectバッテリー」など、様々な工具をスマート化させることのできるアクセサリーが数多く展開されています。

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Tool Connect | DEWALT

Learn More about DEWALT Tool Connect™, our three-part inventory management solution designed to help you save time and money.

BOSCH Connected-Ready

BOSCHが展開するスマート電動工具は「BOSCH Connected-Ready」です。

Connected-Readyは対応している工具本体に「コネクティビティチップ」を装着することによってBluetooth通信を搭載する方式を採用しています。

日本国内でも直接購入が可能なスマート電動工具であり「コネクト機能」の名称で展開されていますが、管理機能など一部の機能は無効化されており、PCへの転送等の機能は制限されているようです。

Connected-Readyで使用する「Toolbox」アプリは、電動工具の他にもレーザー温度計やカメラ搭載の距離測定器などにも対応しており、計測業務の簡略化なども行うことができます。

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コネクト機能+Toolboxアプリで、スマート電動工具! | ボッシュ電動工具

コネクト機能+Toolboxアプリで、スマート電動工具! 効率・生産性が一気にアップ! ボッシュ電動工具のコネクト機能の詳細はこちら。

国内電動工具メーカーはスマホ連携に消極的

主要電動工具メーカーが全てスマート化の流れに乗っているわけではありません。特に日本の電動工具メーカーはスマート電動工具の開発に対して消極的です。

現在のスマート電動工具が開発費に対して売上に繋がらない製品となっているのは大きな要因ですが、それ以外に国内工具メーカーは主要事業が電動工具事業のみであり、Webアプリ開発やスマホアプリ開発の実績に乏しくスマート電動工具の開発に必要な技術を持たないのも要因と考えられます。

国内電動工具メーカーがBluetoothモジュールを搭載して実現している機能は、電動工具同士を連携動作させる程度に留まっています。

マキタ AWS (Auto-start Wireless System)

マキタが展開するのは、電動工具と集じん機を連携させるAWS(Auto-start Wireless System)です。

Bluetoothによって無線での集じん機連動が可能になったため、コードレス電動工具でも集じん機連動が使用可能になったのが特徴です。AWSに対応した電動工具であれば、後付けのBluetoothユニットを装着することによって集じん機連動に対応するようになります。

AWSはスマート工具のようなスマホとの通信機能は搭載されておらず、電動工具と集じん機の連携動作のみに留まっています。

HiKOKIからも同等の機能を持つ「無線連動機能」工具を販売していますが、対応機種が少なく機能的にもマキタAWSとの大きな違いはありません。

その他、Bluetooth以外を搭載した電動工具の傾向

マキタ SyncLock

無線通信ではありませんが、少し変わり種となる工具管理機能がマキタのバッテリータイマ機能「SyncLock」です。

SyncLockはマキタの現行バッテリーとバッテリータイマ設定アダプタ「BPS01」を使用する事でバッテリーの放電に制限時間を設け、間接的にバッテリーの盗難防止などに活用できる機能です。

現行のマキタバッテリーはSyncLockに対応しており、「BPS01」を使用するだけで導入できるため低コストなのが最大のメリットです。

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Makita USA – Product Details -BPS01

18V LXT Sync Lock Battery Terminal

HILTI

Hiltiが展開するのは、NFC通信を使用した「ヒルティコネクト」です。

NFCとは近距離無線中心の略称で、工具内部に仕込まれたICタグによってスマホなどのNFCに対応した機器でデータ通信ができる機能です。身近な所では電子マネーやICカード免許証などに活用されています。

ヒルティコネクトは電動工具本体とのデータ通信は行いませんが、内部のICタグにより電動工具ごとの個別識別を行うことができます。これにスマホやPCとの登録と連携を行うことで、修理依頼やメンテナンス履歴の確認、手持ちの工具の在庫管理など、工具管理の簡素化を行えるようになります。

ヒルティコネクトは多機能化を実現する機能ではありませんが、大量の工具を管理する側にしてみれば、管理業務を簡素化できるソリューションになると考えられます。

Screenshot

進化し続ける工具の識別ツール、ヒルティ・コネクト

あなたの手元で工具管理を簡単にするスマホアプリ、ヒルティ・コネクトがヒルティから登場しました。修理進捗、修理履歴、工具使用履歴などの確認や、修理の手配をすることができるアプリです。

Rexroth Nexo Wifi

産業用途で使用されるナットランナーなどの産業用工具は、早い段階からパソコンとの接続やBluetooth搭載に対応しています。数ある製品の中で、最も電動工具に近く最先端の機能を備えているのが、Boschグループの産業機器ブランドrexrothが展開する「Nexo」シリーズです。

NexoにはWiFiモジュールが搭載されており、ネットワークに直接接続する事で締め付け時のトルク管理や計測の記録などのトレーサビリティを向上させ、作業工程をグラフィカルに表示させる事もできます。

工具を直接ネットワークに接続する事で周辺機器や外付けモジュール等も必要なくなり、長い経験を必要とする作業でも高品質化を図れるよう高度かつ柔軟なシステムを構築できるようになっています。

Screenshot

Nexo cordless Wi-Fi nutrunner | rexroth

USA|Products|Product Groups|Tightening Technology|Topics|Nexo cordless Wi-Fi nutrunner

電動工具のIoT化には、何が求められているか

電動工具のスマート化は手探りの段階であり、ユーザーに利便性をアピールでき魅力ある製品に繋げるかは未だ発展中の段階です。

工具のカスタマイズや盗難防止のセキュリティ機能を搭載する事が、工具の実用性やユーザーの購買欲に繋がるのかと言われれば疑問が残ります。作業中にスマホを操作する不自然さをカバーする画期的な機能にはまだ届いておりません。

電動工具の集中管理機能は、設備として従業員に電動工具を貸し与えて管理を行う企業にはメリットが大きいですが、大工を中心とする大多数のプロユーザーの認識は「工具は自分で手配するもの」であり、工具の集中管理を必要としない層が大多数が占めています。

しかしこれも電動工具を使用するユーザー層の変化や、企業による集中管理の需要、更にはウェアラブルデバイスの発展などによって今後の電動工具の在り方も変わってくるのかもしれません。

2010年代の電動工具はリチウムイオンバッテリーの普及によるメーカー毎の独自バッテリーがユーザーを囲い込む要因となりましたが、IoT化が進んだ2020年代には工具とネットワークやデバイスを繋ぐ管理システムよる囲い込みが企業による工具購買を誘い込む新たな要因となるのかもしれません。

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