VOLTECHNO(ボルテクノ)

ガジェットとモノづくりのニッチな情報を伝えるメディア

36Vと40V電動工具の違い、電動工具バッテリーの電圧表記について

36Vと40V電動工具の違い、電動工具バッテリーの電圧表記について

「36V電動工具」と「40V表記の電動工具」に大きな違いはない

HiKOKIは18Vと36Vに両対応するマルチボルトバッテリーシリーズ、マキタは40Vmaxシリーズを展開しています。

カタログスペックを見ると電圧の分だけ40Vmaxシリーズの方がパワーが高そうに見えます。しかし、リチウムイオンバッテリーにおける36Vと40Vの電圧表記は同じものであり、バッテリーそのものとして考えた場合違いはありません。

実はマキタの40VmaxバッテリーとHiKOKIマルチボルトのバッテリー構成に違いは無く、バッテリーパックとして考えた場合ほぼ同じ仕様です。

今回は、36Vバッテリーと40V表記の違いについて解説します。

36Vバッテリーを”40V”と表記できる根拠

電動工具バッテリーの中には、乾電池を大きくしたような缶が入っています。これはバッテリーセルと呼ばれバッテリーの最小単位として扱われます。

リチウムイオンバッテリーと言っても、電圧に関する基本的な考え方はコンビニや家電量販店で売られている乾電池と大きな違いはありません。リチウムイオンバッテリーはセル1本の公称電圧が約3.6Vなので、これを4本直列に繋げば14.4Vバッテリーパックになり、5本なら18Vバッテリーパック、10本で36Vバッテリーパックにできます。

マキタの40Vmaxは40Vをアピールしているのだからセルを11本構成にして39.6Vにしているのだろう、とも思ってしまいますが、40Vmaxバッテリーも10本セル構成の36Vバッテリーです。なぜマキタは36Vバッテリーを40V扱いにしているのでしょうか。

先程、「リチウムイオンバッテリーはセル1本の公称電圧が約3.6V」と言いましたが、リチウムイオンバッテリーを始めバッテリーには公称電圧と呼ばれる考え方があります。Wikipediaでは公称電圧について下記のように書かれています。

公称電圧(こうしょうでんあつ)とは、電池を通常の状態で使用した場合に得られる端子間の電圧の目安として定められている値である。新しい(あるいは満充電に近い)電池では、公称電圧より高い端子電圧(初期電圧)が得られるが、放電が進んだ場合や、負荷に大きな電流を供給する場合には、公称電圧より低い端子電圧となる。

公称電圧|Wikipedia

リチウムイオンバッテリーは常に3.6Vで放電できる訳ではありません。

一般的なリチウムイオンバッテリーは、満充電電圧4.1~4.2V・放電終止電圧2~3Vと定めており、実際のバッテリー放電電圧は負荷やバッテリー残量によって常に変動します。公称電圧とはバッテリーを使う場合の「目安の電圧出力」を表す数値なのです。

ここで感づいた方もいると思いますが、マキタ40Vmaxは満充電電圧の約4Vを40V表記の根拠にし、HiKOKIは公称電圧の3.6Vをそのままバッテリー電圧として表記しています。

日本の電動工具やバッテリー製品においては、長らく公称電圧を記載するのが一般的でした。

下手な表記を行うと景品表示法の誇大広告に触れる可能性もあるので、マキタその点も考慮して40V”max“として表記し、裏面のラベルには”36V”と公称電圧を書くことでお茶を濁しています。

バッテリーの構成や電圧を測定する

マルチボルトバッテリーと40Vmaxバッテリーの満充電直後の電圧を確認した結果がこちらです。

HiKOKI マルチボルトバッテリーBSL36A18の充電直後にマルチボルトのコネクタを使って電圧を測定すると41Vになる。ちなみにマルチボルトバッテリーは厳密には18Vバッテリーが同じパックの中に2つ入っている構成であり、36V取り出し用のコネクタを接続しないと36V出力にはならない。
マキタ 40VmaxバッテリーBL4025の充電直後の電圧は41.1V。僅かにマルチボルトバッテリーよりも高いが、この程度なら誤差。

どちらの電圧も概ね41.0V前後で極端な電圧差はありません。次にバッテリーパックを分解してセルの構成を確認してみましょう。

こちらはHiKOKIのマルチボルトバッテリー。18650セルを10本搭載している
こちらはマキタの40Vmaxバッテリー。18650セルを10本搭載している

どちらのバッテリーパックもリチウムイオンセル10本で構成しています。

両社のセルは異なるメーカーのバッテリーを使用していて、HiKOKIはSamsung SDIの25S、マキタは村田製作所(旧ソニーエナジーデバイス)のVTC5Aを使用しています。もしかするとマキタ40Vmaxのセルは僅かに出力性能が優れていて性能比で40Vを謳っているのかもしれません。

と言うわけで、海外の有志が運営しているリチウムイオンセルの放電評価サイトFlashlight informationから両社のセルの放電特性を確認してみます。

マルチボルトSamsung 25S(青)と40Vmaxmurata VTC5A(赤)の10A放電電圧波形比較図。
どちらのセルも4.2Vから放電を開始し、同じような波形を描いて2Vまでゆっくり下がる。両社のセルの放電特性に違いはほとんど無く、マルチボルトも40Vmaxもバッテリー的な優位差は無いと言える。
引用:Flashlight information

バッテリーはもう電圧表記よりも形容詞表現で良いのでは

この36V・40V表記に関して最も残念なのは、ユーザーに対して正しい情報を伝える立場にいたはずのHiKOKIでさえ同じ土俵に上がってしまったことです。

HiKOKIはバッテリーの公称電圧の概念をユーザーに正しく説明することで、マキタが行った欺瞞的な広報戦略を批判することもできたはずですが、その立場を捨てて、安易に「充電直後の電圧は、MAX41V!!」と工具メーカーとしての立場を無視した無意味なバッテリー電圧の宣伝合戦に加わってしまったのは残念でなりません。

パワーが凄いのと充電直後の満充電電圧が41Vであることに関係はほとんど無く、マキタ40Vmaxに対抗した宣伝手段としては何の意味も無い。
引用:KOKI PRESS 2020年1月(315号)
引用:ハイコーキ電動工具総合カタログ2020.4 April

ちなみに、マキタの40Vmaxなどは裏面ラベルに36Vと記載しているだけ良心的な方なのですが、最近のアクセサリーメーカーは40V対応と表記する製品もあり、ユーザーへの誤解をより一層促進しています

一度「18Vや36V・40V対応と書かれたビットで何か違うのか?」とビットメーカーに聞いたところ、返ってきた答えは「すべて同じものだが書かないと売れないため書いている」との回答されたこともあります。

インパクトのビットに書かれている「40V対応」の一文。ビットをはじめとする電動工具アクセサリに対応電圧の概念はないのだが、ユーザーの不安を解消するために「入れざるを得ない」現状が続いている。

企業としての広報活動としてこのやり方は間違っているわけではないものの、モノが変わっていなくても販売店の在庫として残るであろう「18V対応」や「36V対応」とパッケージに書かれた製品の処理を、販売店側に雑に押し付けている結果になりかねないケースを考えれば、あまり良いやり方ではありません。

このあたりの問題は、全ての責任がメーカーにあるわけではなく、ユーザー側が安易でわかりやすい表記を求めてしまう点にも原因があると考えています。この電圧表記のややこしさを解決するためには、ユーザー・メーカー共に歩み寄れる正しい認識への啓蒙が必要になるのかもしれません。

次のバッテリーではどうなるか?

次世代バッテリーの将来を考えれば、リチウムイオンバッテリーに続く新たな次世代バッテリーとして固体電解質を使った全固体電池や新材料を使った先進LiBの研究が進んでいますが、それら新しいバッテリーの定格電圧も3.6Vになるとは限りません。もし仮に次世代バッテリーの公称電圧が5Vとなった場合、再び電圧表記が変わり市場が再び混乱が発生する可能性もあるでしょう。

筆者は、電動工具のバッテリーシリーズの表現についてはMakita XGTやMilwaukee MX Fuelのような形容詞的表現でも十分事足りると考えていて、将来的な対応も含めるなら、もはや数字を出さない方が都合が良いのではとも考えています。

少し話は逸れますが、新しい電動工具への買い替えは出費も嵩むので、バッテリープラットフォームの変更はマルチボルトや40Vmaxで最後にしてほしいと願っています。

筆者が将来的な電動工具メーカーに願うことは、次世代バッテリーの登場に備えたモーター制御・インバーター技術を中心とした電圧変動に対する動作域を大きく取る方向に技術を発展であり、どんな次世代バッテリーが登場してもこれ以上ユーザーがメーカーのバッテリープラットフォームに起因した買い替えを行わなくて済む方向性に動いてくれれば良いなと思っています。

少し話は逸れてしまいましたが、ユーザーに下手な混乱や勘違いを招きやすい状態を是とする現状は良くはないかな、と言うお話でした。

Return Top