モータードライバとは、モーターを制御するためのドライバICです。
ICやマイコンからモーターを駆動するには、パワートランジスタやリレーなどを使って駆動回路を構成しますが、ブレーキや正逆切替など複雑な操作を行うには回路構成も複雑にしないといけません。
モーターの制御回路を1つのICで実現するのが「モータードライバ」です。モータードライバを使うことで少しの配線と信号の切り替えでモーターを簡単に制御できるようになります。
目次
モータードライバを使うメリット
モーターの中で最も使いやすいのが「直流ブラシモーター」と呼ばれるタイプです。直流電流を加えるだけで回転させることができて、電圧の調整でトルクの調整・極性を入れ替えれば逆転動作と使い勝手に優れているのが特徴です。
マイコンやICなどでモーターを使用する場合は、駆動回路の構成が必要ですが、「モータードライバ」を使うと電子部品1つでモーターの調整から駆動まで簡単に使用できるようになります。
回路をコンパクトにできる(信頼性が上がる)
パワートランジスタを組み合わせるよりも小さな実装面積に抑えることができます。製品の小型化も実現出来て部品点数も減るので、設計コストや調達コストの削減も期待できます。
設計工数を削減できる
モーターの出力や用途によってはパワートランジスタの選定に長い時間を必要としてしまいますが、モータードライバはモーター専用のICなので、評価時間を大きく削減することができます。
マイコンで使用するポートも少なくて済むので、パターン設計やトランジスタ配置・配線設計などの手間も減ります。
保護機能が簡単に使用できる
多くのモータードライバには、過電流保護や過熱保護など、IC内部に保護機能を備えています。このような保護回路を自前で構成すると、電流検出や温度検知回路が必要になってしまうため、設計的・製造的なコストを抑えて安全な製品を提供する方法として有効です。
色々な種類があるモータードライバIC、用途を間違えないように
モーターに色々な種類があるように、モータードライバにもそれぞれのモーターに適合するモータードライバがあります。
直流ブラシモーター用のモータードライバでは、ブラシレスモーターやユニバーサルモーターを動かすことはできません。用途によって種類が全く違うので注意しましょう。
ブラシモーター
モータードライバと言えば、一般的には「ブラシモーター」のドライバを指します。
ブラシモーターのモータドライバでは、信号の組み合わせによって回転方向や制動を制御したり、内蔵のレギュレーターやPWMによって変速に対応する機能を備えた製品もあります。
AC電源で駆動するユニバーサルモーターのモータードライバでは、ゼロ交差検知とトライアックによる位相制御で変速制御を実現できます。
ブラシレスモーター
「ブラシレスモーター」と呼ばれるブラシのないモーターを駆動するのがブラシレスモータードライバです。
ブラシレスモーターの制御は複雑で、ディスクリート部品やゲートドライバICでドライバ回路を構成すると設計検証やソフト設計に時間がかかるため、開発負担の低減にブラシレスモータードライバが使用されます。
ただし、全ての機能を内蔵したワンチップのブラシレスモータードライバは小型モーター専用で、高主力のブラシレスモーターを使用する場合はプリドライバを使ってパワートランジスタを選定する必要があります。
ステッピングモーター
パルス信号で駆動する「ステッピングモーター」にもモータードライバを使用します。
ステッピングモーターも複雑な制御や電流検知が必要なので、回路設計やソフト設計のコストダウンを目的にモータードライバが採用されますします。
TA7291P 東芝 モータードライバを使ってみる
実際にモータードライバを使用してみます。今回使うのは東芝製のブラシモーター用ドライバ「TA7291P」です。
TA7291Pは、2.5A以上で遮断する過電流保護・170℃以上で遮断する過熱保護・Vrefによる出力調整・逆起電力吸収ダイオード内蔵などモーター駆動に必要な各種機能を搭載しているので使いやすいモータードライバICです。
端子記号 | ピン番号 | ||
---|---|---|---|
Vcc | 7 | ロジック側電源端子 | マイコンや回路の最大出力電圧を接続 |
Vs | 8 | 出力側電源端子 | モーターで使用する電源のプラスを接続 |
Vref | 4 | 端子電源端子 | モーターに流す電圧を決定する電圧を接続 |
GND | 1 | GND | マイコンのGND端子とモータで使用する電源のマイナスを接続 |
IN1 | 5 | 入力端子 | 命令表にしたがって操作を選択するHighまたはLowを接続 |
IN2 | 6 | 入力端子 | 命令表にしたがって操作を選択するHighまたはLowを接続 |
OUT1 | 2 | 出力端子 | モーターの片側を接続 |
OUT2 | 10 | 出力端子 | モーターのもう片側を接続 |
実際にモータードライバとモーターを接続して動作を確認してみます。モーターは秋月電子で販売されている「RS-385PH-4045」を使用しています。
今回の動作確認では、マイコンを使わず配線だけでモータードライバーを動かしています。実際にArduinoを使ってモータードライバを動かすときは、LEDの点灯と同じようにHigh/Lowの切り替えで制御を行います。
ブラシモーター用のドライバは入力端子を2口備えていて、4種類の状態遷移でモーターの制御を行う方式が一般的です。「ブレーキ」とはモーターの端子を両方ともGND(または電源電圧)に接続するモードで、モーターの回転を急速に止めることができます。
残念ながら、TA7291Pはディスコン(生産中止)が決定していて今後の入手性に難があるので、「TB6643KQ」や「LB1641」を使うのがおすすめです。
- TA7291P | ブラシ付きDCモータードライバー | 東芝デバイス&ストレージ株式会社 | 日本
- TB6643KQ | ブラシ付きDCモータードライバー | 東芝デバイス&ストレージ株式会社 | 日本
- モータドライバー [LB1641]|モータドライバー – aitendo
まとめ 設計・製造工数の低減には欠かせないドライバIC
モーターを回すだけなら電源に繋げばすぐですが、実際にマイコンやICで制御して回すとなると話は別です。そんなモーター制御開発の手間も、モータードライバーを使えば回路設計や検証の手間・ソフト開発工数を低減できるので、製品開発の強い味方と言えるでしょう。
モータードライバはそんなモーター機器開発のハードルを低くできる電子部品です。モータードライバを使用すれば、部品点数は3割以下になって実装面積は8割になるコスト試算データもあります。
ただし、実際にさまざまな保護構造を組み込んだ高い信頼性のモーターアプリケーションを構成するシーンはさほど多くなく、全ての状況でモータードライバが必要になる訳ではありません。特に部品原価的に考えるとモータードライバーは少しコストが悪い部類に入ります。
具体的な例としては、トランジスタ1個で対応できるような簡易的なモーター機器や、高出力のモーターを使用する場合などでは、モータードライバを使わずにディスクリートで回路を構成した方が高信頼性・低コストになります。