
本記事は、レビュー用サンプル品の提供を受けて構成しております。
目次
Creality 新型3Dスキャナ Sermoon S1
3Dプリンタを展開するCreality社は、2025年10月に新型の3Dスキャナ Creality Sermoon S1を発売しました。

Creality Sermoon S1は、Creality社のハイエンドクラスに位置する3Dスキャナです。同社の3Dスキャナとしては、普及機のCR-ScanシリーズやCR-Scan Rapteorシリーズに加わる新しい3Dスキャナシリーズとなっています。
3Dスキャナの特徴としては、ブルーレーザーとNIR(赤外線)の2種のスキャン方式を搭載しており、34本のクロスブルーレーザーと最大90fps(クロススキャン時は最大70fps)の高速スキャニングによって素早い3Dスキャンを実現しています。
また、シングルブルーレーザーによる深穴スキャンにも対応しており、溝やリブ、ネジ穴などのこれまでスキャニングが難しかった領域にも対応しているのも特徴となっています。
筆者の3Dスキャナの用途としては主にリバースエンジニアリングに使用しており、3Dモデル化したデータを元に治具制作や既存製品に対するアクセサリのプロトタイプ開発に活用しています。3Dスキャナの経験に関しては、昔はArtec 3DのEvaを使用していましたが、最近ではM&F THREEを日常的に使用しています。

今回、筆者にとってブルーレーザー3Dスキャナは初めての製品であるため、最初のレビューとしてはCreality Sermoon S1の基本的なスキャン性能や使用感についてレビューを行っていきたいと思います。
製品確認
90fpsですが、本記事で使用しているPCでスキャンを行った場合には約40fpsまで低下しています。
Creality Sermoon S1ケース
Sermoon S1は取っ手付きの堅牢な樹脂製ケースに収納されています。


ケース内部にはスポンジで収納できるようになっており、3Dスキャナ本体、ACアダプタ、USBケーブルを収納できます。

また、底面には補正用のキャリブレーションボードが収納されています。

Creality Sermoon S1本体
Sermoon S1本体は全体的にコンパクトサイズな3Dスキャナながらも灰色のエラストマによって握り心地が良く、取り回し性に優れたボディになっています。

底面には電源と通信を兼ねたUSB Type-Cコネクタ端子があります。

このUSB端子は専用ケーブルでACアダプタと接続できる配線構造になっています。USBだけPCと接続しても動作しないので、AC電源は必須となります。また、スクリューロック仕様のUSB Type-Cですが、ネジの位置がUSB-IFの規格外のため一般的なスクリューロック付きUSBケーブルとしての転用もできません。

Sermoon S1底面にはカメラ用固定ネジの1/4-20UNCがあるので、カメラスタンドで固定したスキャンが可能です。

実際にカメラスタンドで装着するとこんな感じになります。自動回転のターンテーブルを使うと半自動でスキャンが可能です。

USBコネクタの反対側には放熱用のスリットがあります。

操作部はスキャンの開始と一時停止、レーザー照射強度の操作とPC画面上の拡大・縮小が操作できるようになっています。

動作中はスキャン距離を表す5段階のカラーインジケータを搭載しています。

スキャン結果
使用PC スペック
- MSI Prestige-15-A11UD-079JP
- CPU INTEL Core i7-1195G7
- RAM DDR4 64GB
- GPU NVIDIA® GeForce RTX™ 3050 Ti Laptop VRAM 4GB GDDR6
- SSD 1TB(M.2 NVMe)
今回使用するPCは、ビジネス・クリエイター向きのノートパソコンです。普段はAutodesk Fusionなどを使用しているPCで、一応3Dもある程度扱えるPCであり性能的にはVRAMを除くSermoon S1の推奨スペックは満たしているものの、CPU/GPUがラップトップモデルのためスキャンソフトのCreality Scanでスキャン性能がオミットされます。
具体的には、Sermoon S1のレーザーモード時の最大スキャン速度は90fpsですが、当記事のPC環境では最大40fpsまで低下しています。
HiKOKI コードレスエアダスタ RA18DA
最初にスキャンするのは、電動工具ブランド HiKOKIのコードレスエアダスタ RA18DAです。スキャンは青色7線レーザーで作業を行いました。


4面のスキャン後にノイズ除去とスムージングを実施してSTL形式で出力したデータがこちらです。

一般的な認識だと3Dスキャナは黒色の認識が難しく、画像のようなグリップ部分の黒色エラストマは上手くスキャンすることが難しいのですが、Sermoon S1では着色ナイロンとエラストマの二色成形品も問題無くスキャンできました。

下の画像は、ノズルを収納する凹部分です。こちらも3Dスキャナのレーザーが届きにくいことからスキャンの難しい形状とされるのですが、この部分も欠損なくスキャンできています。

マキタ 18Vバッテリ BL18120
次のスキャンは、2025年10月に発売したばかりの大容量18Vバッテリ BL18120です。


このバッテリーもケース全体が黒色なのでスキャン難易度は高い形状となっています。黒色部分をスキャンするにはレーザー出力を上げなければいけませんが、着脱ラッチ部分の白い部品に強いレーザー光が当たった場合、反射・迷光によってスキャン品質が落ちる可能性があります。
しかし、Sermoon S1ではそのような心配も無く、白と黒のコントラスト差が大きい製品も問題無くスキャンができました。

ラベル部分やマキタロゴの窪みもスキャンできています。

スライド着脱部の3Dデータはこのような感じになりました。この部分は深溝によるスキャンの難しさや金属端子による散乱の影響を受けやすいのですが、3Dモデルとして形状を確認するには問題ないレベルのスキャンができています。

マキタ 充電式集じん機 VC013G (赤外線スキャン)
次は大物スキャンとしてマキタ 充電式集じん機 VC013Gをスキャンします。
このスキャンではNIR(赤外線)を使用します。NIRは赤外線でスキャンする方式で、多色物のスキャンに向いている特徴があります。Sermoon S1に関しては広角NIRスキャンに対応しており、大物のスキャンも効率的に行えます。

VC013Gのスキャンでは自動回転のターンテーブルを使用しています。

スキャンから起こした3Dモデルはこんな感じになりました。NIRの大型モードでスキャンを行っており、カラーマッピングは適用していない状態です。

Creality Sermoon S1の結論
一言で言えば、Creality Sermoon S1は優れた3Dスキャナと言えます。
販売価格40万円は、産業向けとしては安く個人向けとしては高い製品ですが、特長として謳われているSermoon S1のスキャンスピードや被写界深度の深さ以外にも、マーカー認識の精度の高さや反応性については普及帯の3Dスキャナが到達できない領域に位置しており、3Dスキャン時の時間と手間を大幅に低減すると言う意味で、大きな価値のある製品です。
筆者が主に使用している3DスキャナはM&F THREEですが、大物のスキャンやTHREEターンテーブルでのスキャンが難しい深穴やリブが多いスキャンなどで使い分けられそうです。
欠点としては、Crealityが提供するスキャナソフトウェア Creality Scan4の操作に関して若干難がある点です。例としては、予期しない操作のフリーズ(ボタン操作はできるがモデルの操作ができなくなる)、実行した処理が反映されない(トリミングが反映されない)、1プロジェクトに対してメッシュが1つしか生成できない、などハードウェアよりもソフトウェア的な方面で改善が必要な点が見受けられました。Crealityはソフトのバージョンアップを細かく行っているので、その辺りの改善に期待したいところです。
導入時の懸念としては、Sermoon S1を十分な環境下で活用するためにハイスペックなPCを必要としている点です。
今回の記事で使用したPCは環境として推奨スペック内ではあるものの、レーザーモードでのスキャンは40FPSが限界であり、S1のフルスペックである90FPSを出すことはできませんでした。また、NIRスキャンでは15fpsまで低下してしまい、トラッキングが全体的に不安定でその性能を活かすことはできませんでした。そのため、S1を快適に使用するにはハイエンドなデスクトップPCが必要不可欠になります。
また、スキャン点群数も多いので、STLに書き出すまでにも比較的長い処理時間が必要になります。最大解像度で出力する場合であれば、スキャンだけノートパソコンでスキャンを行い、モデル処理のみハイエンドデスクトップPCにコピーして処理を行う方法も一つの手です。
今回の記事では、Creality Sermoon S1のトレーニングを兼ねたスキャンを行ってみましたが、本来の性能を活かしたデスクトップPCによるスキャンや精密スキャン、あとはM&F THREEとのスキャン性能比較などを行ってみたいと思います。
Creality Sermoon S1 まとめ

Creality Sermoon S1
青色34ブルーレーザーの90fps高速3Dスキャナ
- 最大90fpsスキャンでスキャンが早い
- クロス34レーザー対応
- マーカートラッキング性能が高い
- 黒色・深溝スキャンに強い
- NIRスキャンに対応
- 広角で大物スキャンが容易
- 別売ワイヤレスハンドルでコードレススキャンに対応
- 民生向け3Dスキャナとしては高価
- 性能を活かすにはハイエンドPCが必須
- ソフトCreality Scan4が若干不安定





