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日立工機 I-BOX JUMBO、登場が早すぎた黎明期のポータブル電源【Shadow of Tools ④】

日立工機 I-BOX JUMBO、登場が早すぎた黎明期のポータブル電源【Shadow of Tools ④】

本連載「Shadow of Tools」は、人知れず消えた製品や市場動向を見誤って埋もれてしまった電動工具関連の話題を、当時の話題性、現在の動向などから独自の視点から解説するシリーズです。

I-BOXシリーズ最後の拡張アクセサリ I-BOX JUMBO

日立工機(現HiKOKI)は2011年8月に、携帯型電源 日立ポータブル電源I-BOX JUMBO(EH400D)を発表しました。

I-BOX JUMBOとは、ハイブリッド電源 EH400に使用する外部接続の大容量バッテリーです。EH400は電動工具用14.4VバッテリーをAC100V矩形波に変換するアダプタで、14.4Vバッテリーの代わりにI-BOX JUMBOを接続することで、長時間のAC100V連続給電が可能になります。

I-BOX JUMBOの給電能力は、定格150W/断続240W出力に対応し、電力容量は300Whです。

販売仕様は、基本仕様のEH400D(A1)、14.4Vバッテリーが付属するEH400D(A2)、I-BOX JUMBOのみのEH400D(A3)の3仕様で販売していました。

家庭向けACコード式の園芸機器・DIY電動工具を動かすアクセサリ

I-BOX JUMBOの母体であるI-BOX(EH400)について説明すると、この製品は電動工具用14.4VバッテリーをAC100V出力に変換するための製品でした。

当時、プロ向けの電動工具はリチウムイオンバッテリーへの移行が進んでいたものの、DIY電動工具や家庭向け園芸機器の分野ではAC100Vで動作する電源コード式の製品が数多く流通しており、電源コード式の電動工具を当時普及が進んでいた14.4Vバッテリーで動作させようとした製品がハイブリッド電源 EH400です。

出力波形こそAC100V矩形波ですが、肩にかけられるサイズながらも最大400Wまでの電動工具に対応でき、芝刈り機やバリカン、電気ドリル、ジグソーなど幅広いACコード式電動工具の動作に対応していました。

ちなみに、オプションとして正弦波アダプタ EH400Aもありました。EH400は矩形波出力のため、一部の家電では使用できませんが、EH400Aに繋げて出力すると最大出力は下がりますが、正弦波のAC100Vに変換できるので幅広い機器で使えるようになります。

I-BOX JUMBO(EH-400D)製品仕様

製品名 EH400D
外観
出力仕様 AC100V正弦波
出力周波数 50/60Hz 手動切替式
電力容量 300Wh
(正弦波アダプタ装着時)
最大出力 240W (断続)
150W (連続)
DC12V出力
バッテリー シール形鉛蓄電池 12V-38Ah
充電時間 EH400充電時:約26時間
UC18YSL2充電時:約5.5時間
UC18YML2シガー充電時:約20時間
重量 26kg
寸法 591×395×297mm
本体価格 114,000円(税別)
販売年月 2011年08月

容量・価格・実用性の面で優れていた意欲作のI-BOX JUMBO

今でこそ珍しくないポータブル電源ですが、当時はバッテリー電源のAC100Vを出せる製品は少なかったので、エンジン発電機が不要ながらもAC100Vを使える製品として注目されました。

I-BOX JUMBOの特徴こそ、当時のポータブル電源としては比較的高水準な電力容量300Wh、定格出力150Wのバッテリー仕様、そして鉛蓄電池採用によって高容量を実現したコストパフォーマンスの高さです。

いまでこそポータブル電源は1,000Whのバッテリー容量で10~15万の価格帯なイメージですが、当時のバッテリー技術水準はそこまで高いものではなく、パナソニック CB-LS01H(130Wh)で99,800円、マキタ PAC100(255Wh)で214,000円と現在の10倍以上バッテリー容量単価が高く製品も高価なものでした。

このI-BOX JUMBOに関しては、容量300Wh 価格135,000円と現在の水準には及ばないものの、当時の水準としては容量面でのコストパフォーマンスで群を抜いており、ポータブル電源として最も実用的な製品だったと考えられます。

また充電器も電動工具用の急速充電器UC18YSLを使用できるので、一般的に市販されている鉛蓄電池用充電器を用意する必要もなく、シガーソケット対応の2Way充電器 UC18YML2を使えば車載用途も可能にする隙の無い製品でした。

残念ながら防災需要による売り上げは見込めず、売り上げは不発

残念ながら、2010年代前半に防災用途として販売されたポータブル電源の需要は無いに等しいものでした。

筆者は、単純に価格が高いことに加え、エンジン発電機と比べると性能があまりにも乏しく、その後のアウトドアやレジャー用途の需要に繋げられなかったことが原因と考えています。

I-BOX JUMBOは、家庭向け園芸製品のアクセサリとしての立ち位置もあったため、ホームセンターの園芸コーナーに陳列されていたことも多かった製品です。店頭販売はそこそこ行われていたと思いますが、売れず、色あせて、ホコリかぶった展示品のI-BOX JUMBOを見かけたこともありました。実際の売れた数量は不明ですが、後継製品を作らない程度には売れなかったのでしょう。

残念ながら、I-BOXのハイブリッド電源の構想は、それ自体がリチウムイオンバッテリーの普及によるコードレス化が進んだことから、市場での優位性を失ってしまいました。I-BOX JUMBOを最後に電動工具用バッテリーでAC製品を動かすコンセプトの製品開発は終了しており、HiKOKI園芸商品カタログからもI-BOXシリーズの姿を見ることはできません。

2023年現在でI-BOX JUMBOは廃盤機種となっており、2018年の時点で交換用鉛蓄電池の交換修理対応も受け付けていないようです(Twitter情報)。とは言え、回路部分が生きていれば鉛蓄電池の交換は容易なので、規格化されたサイズの38Ah鉛蓄電池に交換すれば、社外バッテリーに替えることで修理して使い続けることは可能かもしれません。

詳細は不明だが、上部外観や筐体サイズから純正部品が無くても汎用的な38Ah鉛蓄電池に交換することが可能と考えられる。
画像引用:日立工機が携帯型電源、容量38Ahの鉛蓄電池を搭載│日経クロステック

拡販を続けて少しずつ市場を作っていけば未来はあったかもしれない

もともとポタ電は愛好家による自作が活発な製品でしたが、メーカーによる実用的な製品開発の取り組みが増えたのは2011年ごろからです。その頃は複数のメーカーがポータブル電源の開発を進めており、まさに日本国内におけるポータブル電源市場の黎明期とも言えた時期でした。

その背景にあったのは、2011年3月に発生した東日本大震災です。当時の経営層や企画陣は、リチウムイオンバッテリーや充電器の開発技術を活用し、防災需要に答える製品を開発すれば売れると踏んだものと考えられます。

残念ながら、日立工機の例に限らず、この東日本大震災をきっかけとした日本ブランドによるポータブル電源開発の取り組みはほぼ全てが不発に終わっており、現在のポータブル電源産業は、LFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーの調達力に優れる中国メーカーが覇権を握る商材となっています。当時の技術水準として、リチウムイオン18650セルの容量が1.5Ahの時代に取り組むには早すぎた製品だったのかもしれません。

企業評価の話に飛んでしまいますが、日立工機は、良い製品を作り、知ってさえもらえれば評価してもらえると思う傾向が強いメーカーです。そのため、その後の製品改良や市場成長に繋げる活動は積極的ではありません。

例えば、コードレス冷温庫の分野は今でこそHiKOKIが一歩先んじているものの、マキタが2020年に充電式保冷温庫 CW180Dを発売していなければ、HiKOKIは2021年にUL18DBを作ることなくペルチェ方式冷温庫 UL18DAのまま投げっぱなしにしていたと思っており、今現在においてもマルチクルーザーをツールストレージ市場で戦うために必須となるラインナップ強化を怠っています。

I-BOX JUMBOに関しても、製品開発を継続して拡販を根気よく続け、18V対応モデルやマルチボルト対応1,000W出力仕様の展開、現場向けのプロ向け大型ポータブル電源などに繋げていけば、今頃国内ブランドのポータブル電源ブランドとして確固たる地位を確保し、事業の柱にすることも不可能ではなかったと思っています。

ちなみに、電動工具市場の動向を発信するP.T.G.氏( Twitter:@HPT39447734 )によると、HiKOKIは再びハイブリッド電源に着手する構想があるようです。一度手放したI-BOXの構想を本当に取り組むのか、ある意味で今後のHiKOKIの動きに注目と言えそうです。

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