本連載「Shadow of Tools」は、人知れず消えた製品や市場動向を見誤って埋もれてしまった電動工具関連の話題を、当時の話題性、現在の動向、などを独自の視点から解説するシリーズです。
目次
工具アクセサリキャラクター展開の先駆け
ベッセル「スーパーヒーローズビット」シリーズ
工具の製造・販売を行う株式売社ベッセルは、2015年にベッセル史上最強ビットを謳うスーパーヒーローズビットシリーズを発表しました。
スーパーヒーローズビットは、ベッセル 創業100周年を迎えるにあたり最強のビットを作り上げると共に販売促進の一新を目的として行われた広報企画活動です。
当時の工具産業において、あまり扱われないキャラクター風のデザインをパッケージに採用したのが大きな特徴で、当時「強烈なインパクトを持たせるためにヒーロー調のデザインを採用し、四人のスーパーヒーローが仕事に最適なビットをナビゲートするデザインにしたもの」と説明しています。
このヒーローライクなキャラクターは、BL(ブラック&レーザー)加工が施された新製品ビットシリーズのパッケージに採用されており、ホームセンターやプロショップなどベッセル取扱店で陳列されていました。
結果的に、このスーパーヒーローズビットシリーズは発売から2年後にキャラクターを全て取り除いたブラックレーサービットシリーズとして一新されており、2022年の現在においてこのキャラクターを店頭で見ることはできません。
パッケージで避けられる傾向もあったが、製品それ自体としては高評価
スーパーヒーローズビットは、工具アクセサリにキャラクターを採用した珍しい製品でした。
とは言え、その特徴的なパッケージデザインを嫌気する傾向が強く、市場の評価として芳しいものではありませんでした。2022年の現在においてスーパーヒーローズビットを冠した製品は市場にほとんど流通しておらず、一部の店舗在庫品を残すのみとなっています。
ビット単体の評価としては、ベッセルの最上位クラスのビットとして高価格帯に位置する製品でありながらも、ダイハード鋼の採用やレーザー加工による装飾を加えるなど意匠性や耐久性から高い人気を博し、シリーズを変えて現在も販売が続けられています。
現在はブラックレーザーシリーズとして販売が続けられており、「サキスボビットBL」「サキスボトーションビットBL」「リブビットBL」「リブトーションビットBL」の4種のビットを展開しています。
製品のコンセプトは良いのだが、キャラクターとしての展開に方向性が無かった広報企画
筆者は、このスーパーヒーローズを冠した一連の広報企画は完全な失敗だったと結論付けています。
工具市場との元々の親和性の低さが大きな要因ではあるのですが、キャラクターを使った広報企画それ自体の問題として「キャラクターの必然性が無い」「立ち絵1枚はやる気がない」など、キャラクターを採用すれば市場のインパクトは大きいだろう、のような浅はかな思惑が透け見えてしまうやり方だったと言えます。
2015年の発売当時の工具レビューブログにおいても下記のように述べられています。
アニメの物語があるわけでもなく各キャラクターの設定等も特に決まってないみたいで・・・。これを今後どのような形に進化させて市場に認知してもらうつもりなのか・・・。個人的には全く読めません・・・。
おすすめ!?ベッセルのスーパーヒーローズビットセット|建築道具マニアのレビュー
拡販のための新しい試みを行った点に関しては賞賛されるべきものですが、キャラクター立ち絵1枚だけでベッセル100周年拡販を謳うのはあまりにも無理があり、結果として悪しき前例にしかならなかったと考えています。
業務向け製品のキャラクター性は広報企画のかじ取り次第
キャラクター要素を含む広報企画と工具市場の親和性ですが、筆者の考察として、あまり相性の良いものではないと考えています。
これは筆者の憶測を含む独自的な解釈なのですが、工具を業務として使用するユーザーの大半はこの手のキャラクター的なものに興味を持っておらず、むしろ業務的な用途として使用する場合においては警戒される存在でさえあると捉えています。
工具市場においてサブカルチャー的な文化は比較的未知の存在であり、仮に興味を持ったユーザーがいたとしても、周りの目を気にして「自分には合っていない」「周りからかわれてしまいそう」と警戒を抱かれやすい傾向があると考えられます。
もちろんこれは工具市場に限った話でも無く、ビジネスフォーマル的な話にも繋がるものです。サラリーマンの身近なもので例えるならば「キャラクター的な文房具やノートパソコンをビジネスシーンでも多用できるのか?」にも近い話と考えています。一部のエンターテイメント業界やサブカルチャー文化と親和性の高い業界は除くとして、この手の製品を業務で使うのはひっそりと使うくらいが限界だと思っています。
それでも広報的なインパクトは求められますし、他産業におけるキャラクタービジネスの成功は目を見張るものがあるのですが、現状においてこの妥協点をうまく探れているのがモトユキのチップソーシリーズだと考えています。
モトユキはチップソーシリーズとしてパッケージとチップソー刃にイメージキャラクター「希瑠乃ハヤ」をプリントした「職人屋さんシリーズ」を展開し、さら全く同じ仕様のキャラクタープリントを除いた「一番シリーズ」も展開しており、ユーザーが好みに応じて自由に選べるようになっているのが特徴です。
工具展示会でモトユキの説明員の方に「同じ仕様の製品を出すのは在庫や販売上不利ではないか?」と聞いてみたのですが、「新しい試みとして続けていきたい」や「ニーズは色々あるので、それを少しでも汲んでいきたい」等の答えがあり、このような新しい取り組みが続いていくのであれば、昨今叫ばれている建築業の高齢化対策の一要因にも繋がっていくのかもしれません。
話は戻って、最近のベッセルは再びキャラクター的な新製品を展開しましたが、2022年販売開始のレシプロソーブレードシリーズでは動物モチーフの無難なデザインをチョイスしています。シリーズとしてのわかりやすさや製品コンセプトとの親和性も高められており、ある意味で過去の経験が十分生きた例とも言えるのでしょう。