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2021年7月15日

3Dプリンタやレーザーカッターで作れる簡易フェイスシールド、各モデルの特長まとめ

3Dプリンタやレーザーカッターで作れる簡易フェイスシールド、各モデルの特長まとめ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策が進む中、医療現場へ物資が不足しておりフェイスシールドの供給不足なども懸念されています。今回は無償かつモデルデータ配布を行っているフェイスシールドを実際に造形して、実際の使い勝手や3Dプリント時の注意点について検証・解説します。

実際に造形した3モデル

フェイスシールド造形にあたっては、直近でニュースリリースを開示したモデルや無償提供で話題性の高いモデルを選定しました。

配布元神奈川大学
経営学部
大阪大学大学院
医学系研究科
株式会社
ケントチャップマン
モデル名DOYO model
外観
製作機械3Dプリンタ3Dプリンタ
レーザーカッター
レーザーカッター
ライセンスCC BY-SACC BY-NC再配布禁止
改変・商用可
特徴造形しやすい加工なしで使えるフィット感が良い

神奈川大学経営学部「DOYO model」

参考:FabSafeHub
  • 造形時間が速く、手軽に使用できる
  • プリント難度が低い、小型の3Dプリンタでも造形対応
  • 大量造形モデルも配布されていて量産性が高い
  • 問い合わせでigesデータの配布も対応可、金型製作も容易
  • GitHubコミュニティ上での活動が活発

シンプルなフェイスシールド、造形が容易で生産性も高い

神奈川大学経営学部 道用大介准教授開発したフェイスシールドが「DOYO model」です、その後慶應義塾大学看護医療学部 FabNurseプロジェクト(代表宮川祥子)の医療現場の意見を取り入れた「fastモデル-typeV」も配布されています。

非常にシンプルなフェイスシールドフレームで、シールド部にはパンチで穴をあけた透明な樹脂シートを使用します。

複雑な立体構造を持たないため、3Dプリンタの造形難易度は低く、3Dプリンタに使い慣れていない方でも簡単に制作できるフェイスシールドです。実際の造形に関して注意すべきところはほとんどありません。

造形品の検証では、fastモデル-typeVとfastモデル-typeVを造形しました。シールドにはA4のプラシートを使用しています。

ゴム紐などで締め付けて固定するフェイスシールドなので、装着した時の重量負荷は額とこめかみに集中します。頭の大きさや形によってはフレームが触れる部分に違和感を感じる方もいるかもしれません。スポンジやゲルシートなどを取り付けるなど、着け心地への工夫が必要かもしれません。

写真は10個取りのまとめ造形モデルを3つ並べたもの。3Dプリンタの特性を生かし積層方向にはがしやすくしたことで1度に大量の造形ができる。
参考:Face Sheild(フェイスシールド) fast-typeVモデル

解説資料やガイドラインも充実、作り手・使い手 共に活用しやすい体制

参考:FabSafeHub

3Dプリントデータを配布しているモデルとしては珍しく、解説資料や使用方法のガイドラインが明確に表示されており、それをPDF形式で配布しているのも特徴です。

慶應義塾大学看護医療学部 FabNurseプロジェクトによる現場の意見を取り入れており、実際に使用する場合の注意点などが明確に示されています。

3Dプリントで製造されたフェイスシールドは医療機器ではありませんが、実際の用途では医療現場で使用されることが想定される為、消毒や梱包の手順、検品についてのチェックシートなど実際の運用を考えて作られているのが印象的です。

ライセンス「CC BY-SA 4.0」

DOYO modelはクリエイティブコモンズ準拠のライセンスが提示され、「CC BY-SA 4.0」準拠のガイドライン下で使用可能です。データの複製・頒布・展示・実演にはクレジット表記が必要です。

データの二次加工や販売等の商用利用も可能です。「継承」を持つため、データの二次加工時には同様のBY-SAライセンスに準拠する必要があります。

大阪大学大学院医学系研究科「フェースシールド」

  • クリアファイルをそのまま使用できる手軽さが魅力
  • 輪ゴムなどの固定具が不要
  • 子供向けのスモールタイプも配布
  • 3分割モデル・レーザーカットモデルなどバリエーションが豊富
  • 造形難度が若干高め
  • ライセンス上、非営利使用に限定されているので運用方法に注意

クリアファイルをそのまま活用できる手軽さが魅力

大阪大学大学院医学系研究科の中島清一特任教授、室崎修招へい教員が産学連携で開発したのが「フェースシールド」です。メガネフレームメーカーのシャルマンと連携し。

大阪大学のフェースシールドはクリアファイルを無加工で使用できるのが大きなメリットです。急ぎでフェイスシールドが必要な場合などには、あらかじめフェースシールドを一本造形しておいて、その辺のクリアファイルなどで代用するのが良いでしょう。

より使いやすくするなら、クリアファイルの綴じ代部分をハサミでカットすれば一般的なフェイスシールドのように使用することができます。

造形難度は少し高め、ブリムは必須

大阪大学のフェースシールドは造形難度が少し高めで、スライサーの設定には注意が必要です。今回の造形では、スタンダードタイプのFace shield_1.0を造形しました。

クリアファイルを挟む部分が少し複雑なので、その部分はベッドとの高い密着力を必要とするための「ブリム」有効化は必須です。

糸引きが多いとクリアファイルの挟み込みの障害になるため、フィラメントの品質も比較的良いものを使用し、造形の際には新品のフィラメントや予備乾燥などの配慮が必要になります。

造形に際してはブリムとフィラメント管理以外では注意するところはほとんどありません。積層ピッチを細かくとる必要もなく、公式サイトで記載されている「標準的な印刷条件」での0.2mm~0.25mmの標準的な積層ピッチが推奨されています。

頭の装着にはプラスチック素材の弾性を使用しているため、フィット感と装着力の強さはウォールライン数に左右されます。0.8mmで造形を行ったところ、フィット感は抜群でしたが固定力は少し足りない感じがしました。フィラメントの材質にも左右されますが、ウォールライン1.2mmを基準に調整してみるのが良いかもしれません。

造形品の出来合いによっては、クリアファイルがうまく挟めない場合もあるので、ヘラや鋼線などで挟む部分を少し削る必要があります。フィラメントや3Dプリンタによってはどのようにしてもうまく造形できない場合があるので、その場合はクリップ着脱式のFace shield_3.0に変更します。

ライセンス「CC BY-NC 4.0」

大阪大学フェースガードはクリエイティブコモンズ準拠のライセンスが提示され、「CC BY-NC 4.0」準拠のガイドライン下で使用可能です。データの複製・頒布・展示・実演にはクレジット表記が必要です。

データ・制作物の扱いは非営利使用のみ許可されます。データ二次加工・再配布も非営利に限り使用できます。

非営利ライセンスは解釈が少し複雑、商用活動の範囲に注意

クリエイティブコモンズ上の「NC」は非営利活動のみに限定されるライセンスなので、商用利用は不可能となります。

定義上、商用利用は解釈の範囲が広く、広義の意味で捉えると報酬の発生する活動全般を商用活動と見なすことができます。報酬の発生する医療現場の場合、どのように解釈するのかは著作者の匙加減になり、使用者側での判断は難しくなります。

実際の報酬発生する医療現場で使用する場合でNCライセンスの著作物を正しく運用を行う手順としては、ライセンスを持つ著作権者に問い合わせを行い、商用利用の許可を取ってから使用するのが正しい流れとなります。

ケントチャップマン レーザー加工フェイスシールド

  • レーザーカッターで製作時間が早く大量生産に向く
  • フィット感に優れ、頭の締付力調整もできる
  • フェイス面の角度調整ができる
  • 型紙を使えばハサミでも製作可能
  • 別途、ネジなどの組み立て小物が必要

レーザーカッターで製作するフェイスシールド

クラフト製品を手掛ける株式会社ケントチャップマンが配布しているのは、レーザーカッターを使用して製作するフェイスシールドです。シート材を切り出して組み立てるフェイスシールドなので加工時間が短く、短期間で製作できるのが特徴です。

使用する素材は指定されていませんが、バンド部分はPP(ポリプロピレン)の0.75mm厚シート、シールド部分はPETの0.5mm厚シートが公式販売の素材として採用されています。シールド部分は透明樹脂の採用が必須となりますが、バンド部分に関しては素材を選ばないので、弾力性のあるプラスチックシートなら何でも使用できます。

ケントチャップマン製のフェイスシールド最大のメリットは、手作業でもフェイスシールドを作れる点です。紙に印刷してから型紙としてハサミとカッターで切り出して製作できるので、3Dプリンタやレーザーカッターなどを持っていない人でもフェイスシールドを作ることができます。

頭に装着した時のフィット感が非常に良い、角度調整もできる

今回の検証では、PDFデータからバンド部分の3Dモデルを起こして3Dプリンタで造形を行いました。実際の制作ではA3サイズ以上の切断に対応するレーザーカッターが必要です。(バンドだけならA4でも対応可)

装着した感じではフィット感が非常に良いため少し動いたり首を振ったりする程度では全く動きません。後頭部の締付力の調整機能も使いやすく、子供から大人まで幅広く快適に装着できるのが良いフェイスシールドです。

部品が分割されているので、組み立てにはネジが必要になります。穴径は4mmなのでM3やM4のボルトで締め付けることができます。公式サイトではMISUMI-NOVAのポリカーボネート製ネジPCSARA-M4-8が推奨されています。

装着イメージ図。頭の全周で固定される構造なので頭に装着した時のフィット感が非常に良い。
固定のネジが頭に当たって気になるのでは?と思ったが実際につけてみると全く気にならなかった。
公式サイトで販売されているフェイスシールド。未組立品は1,000円、組立完成品は1,800円で販売されている。2020年5月15日(金)からは改良版のVer2.0モデルが販売開始。

ライセンス:再配布は禁止、改変・商用利用はOK

配布データに関しては公開ページ上で再配布が禁止、改変・商用利用はOKと記載されています。クレジット表記に関しては記載されていません。

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