本記事で紹介する製品は、専門知識を有し安全かつ適切に取り扱いができることを前提に紹介しております。本記事によって生じた故障または損害等に関しては一切の責任を負いかねます。
目次
バッテリーで動作する充電式のスポット溶接機を購入
リチウムイオンバッテリー搭載製品の修理やバッテリーパック試作を行うため、充電式ハンドベルトスポット溶接機を購入してみました。
今回購入したのは、リチウムイオンバッテリーを内蔵しているバッテリー向けのスポット溶接機です。2~3年前からネット通販を中心に見かけるようになった製品で、今回はカラーLCDパネルを搭載で操作性に優れていそうなモデルを選んでみました。
この充電式スポット溶接機は、USB充電器から充電して使うタイプの製品です。本体上部にはUSB Type-C充電口とモUSB Type-A出力口、チップの装着コネクタ、電源と操作を兼ねた2つのボタンが搭載されています。
スポット溶接作業のセットアップは簡単で、本体上部のチップ装着コネクタにチップを差し込むだけでOKです。
あとは本体を操作して、作業に応じたパラメータを変更するだけでスポット溶接の準備は完了です。
試しにアルカリ単三電池と付属ニッケル板で溶接
動作確認として、製品に付属していた0.1mm厚のニッケル板で使い切ったアルカリ単三乾電池を溶接してみます。
このスポット溶接機で調節できる主なパラメータは、予熱パルス・インターバル・メインパルスの3種です。パラメータの参考値は付属の説明書に書かれているので、0.1mmニッケルストリップの項目を参考に設定します。
本体上部のボタンを操作でパラメータを変更できるので、取扱説明書の表と同じ設定にします。
このスポット溶接機は、先端の電極チップがニッケル片に触れると自動的に放電が始まる仕様になっています。ちなみにチップ同士を接触させても放電が始まってしまうので、不意に接触しないよう注意しましょう。
スポット溶接作業自体は簡単で、タブを付けたいところにチップを当てて、火花が飛べば溶接完了になります。1回の作業で2カ所溶接できるので、2回作業して4ヵ所溶接して強度を確保します。
作業を行った後にニッケルタブを剝がしてみたところ、しっかりと溶融して付いていることが確認できました。ニッケルタブを千切ってもナゲットは残っているので、強度面も問題なさそうです。
21700リチウムイオンバッテリーにはんだ用タブ付け
単三電池で良好な結果を得られたので、リチウムイオンバッテリーセルにはんだ付けするためのタブ溶接を行ってみました。
作業は単三電池の溶接と同じです。タブははんだ面のために少し長くとらないといけないので、ニッケルタブが落ちないようにカントンテープで仮止めしてスポット溶接を行います。
というわけで、マイナス側の溶接がこちら。少しスポット溶接が浅い気もしますが、しっかり溶接できています。
こちらはプラス側。こちらもしっかりと溶着できています。ちなみに絶縁紙を挟むのを忘れているので、後で隙間に差し込んで絶縁を確保します。
タブ溶着が完了したリチウムイオンバッテリーの全体がこちら。タブ溶接した部分にはんだを付けられるようになるので、ハーネスをはんだ付けしてコネクタを付けたり、直接電子回路基板に実装したりなど色々活用できるようになります。
USB出力機能も搭載
今回購入したスポット溶接機は、USB Type-A端子も備えているのでモバイルバッテリーとしても活用できます。
出力は5V-2.1AとApple2.1A規格のような仕様ですが、USB給電規格はUSB BC1.5Aのようで、ただの最大出力2.1Aの5V電源なのかもしれません。恐らくスマホの急速充電には非対応と考えられます。
試しに2.1A負荷を接続してみたところ、若干の電圧降下はあったものの2.1Aを取り出すことが出来ました。
さらに負荷電流を増やすと、2.2Aで電圧が怪しくなり、2.25Aで出力が遮断されました。
ちなみにもう一つのUSB端子であるType-Cコネクタは充電入力専用で給電機能は非搭載でした。
電気用品安全法の解釈的にも問題ない(恐らく)
今回のミニスポット溶接機は、USB出力機能を備えているのでモバイルバッテリーとしても使用できる製品です。
モバイルバッテリーは2019年に法改正が行われ、特定電気用品以外の電気用品として丸のPSEマーク表示が義務付けられているのですが、このミニスポット溶接機はリチウムイオンバッテリーを搭載し、USB出力機能を搭載するモバイルバッテリー的な機能を持ちながらも、製品本体にPSEマークの記載はありません。
PSE無しで販売している理由として、電気用品安全法の法令業務実施手引書や経産省 電気用品安全法FAQから、今回のミニスポット溶接機の主たる機能は「スポット溶接作業」であり、外部へ給電する機能は主たる機能ではないとするため、PSEの非対象であると解釈したものと予想しています。
このあたりは、ノートパソコンやスマートフォンのUSB端子が実質的に電源供給機能を備えていながらも、主たる機能が「計算機」や「通信機器」であるためPSE非対称になるのと同じ理屈と解釈しています。とは言え、製品にメーカーや製品仕様を記すラベルが無いのは非常識的であり、今回のような製品が普及してこの先事故が多発すれば、法改正後の対象になると考えられる製品です。
バッテリー残量機能は当てにならない
この溶接機には搭載バッテリーの残量をパーセントで表す機能が内蔵されていますが、どうやらバッテリー電圧を基準とした電圧測定方式のようで、数値としてあてになりません。
本来、電圧測定方式による残量表示は3から5段階程度が限界であり、パーセント表示で表せるようなものではありません。そのため方式としては不正確であり、経年劣化や放電電流・温度などの判別が出来ないため不正確になりがちです。
例えば、USB充電を始めた瞬間に8%も上昇しているので、バッテリー残量表示としては参考程度に見るのが良さそうです。
バッテリー交換やバッテリーパック試作に1台あると便利
今回の充電式ハンドベルト溶接機は、敷居の高かったバッテリーへのタブ溶接作業を手軽にしてくれる便利な製品です。
これまでも個人ユースで使えるようなスポット溶接機は存在していたものの、今回の充電式スポット溶接機は手軽さの面で圧倒的であり、こんなものが1万円以下で買えてしまうとは恐ろしい世の中になったものです。製品的には黒寄りのグレーですが、今のところ法的に問題はなさそうなので、手軽にスポット溶接をしたいと考えている方には良い製品かもしれません。ただし専門知識や経験は必要なので注意しましょう。
耐久性の面は未知数ですが、1充電で約1,000の溶接作業ができるらしく、リチウムイオンバッテリーのサイクルが300程度と見積もれば、少なく見積もっても10万回は作業できるものと考えられます。とは言え純中国バッテリーの性能は未知数なので、内蔵バッテリーが怪しくなっていたら良い感じの21700セル高出力パックを作って入れ替えてしまっても良いかもしれません。
チップの耐久性や予備チップがついていないことから大量生産には向かないものの、リチウムイオンバッテリー搭載製品のバッテリー交換作業や、製品開発で必要なバッテリーパックの試作などの使い方であれば十分活用できる製品だと思います。リチウムイオンバッテリーセルの調達先さえ確保できれば、バッテリー製品に関わるいろいろなシーンで活用できるでしょう。
念のためですが、スポット溶接は今回の製品で手軽になったとしても、リチウムイオンバッテリーそれ自体が使い方を誤ってしまえば発火や事故に繋がってしまう危険なものです。修理やバッテリーパック試作制作に使う場合には、リチウムイオンバッテリーセルの危険性や製品仕様などを確認し、自己責任の上で作業を行うようにしましょう。
まとめ
KOFEEGO スポット溶接機
VOLTECHNO製品評価 (4 / 5)
バッテリー内蔵の充電式ハンドベルドスポット溶接機
- 手軽にスポット溶接ができる
- 最大0.2mm厚のニッケルストリップに対応
- LCDパネルで設定値が分かりやすい
- USBで充電できる
- 予備チップの購入先がない
- USB急速給電規格を搭載していない
- USB PD充電器では充電できない