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2020年11月1日

なぜマキタは電動工具トップメーカーになれたのか、マキタとHiKOKI (日立工機)リチウムイオン戦略の歴史

なぜマキタは電動工具トップメーカーになれたのか、マキタとHiKOKI (日立工機)リチウムイオン戦略の歴史

※本記事の内容は、筆者による情報収集・業界研究・独自考察を元に構成しています。

マキタとHiKOKI(日立工機)企業規模は約2倍差

マキタとHiKOKI(日立工機)の企業規模比較

日本を代表する電動工具メーカーと言えば、マキタとHiKOKI(日立工機)です。この2社は日本発の電動工具トップブランドで、世界的なグローバル企業として展開を進めています。

日本国内でシェアを分ける2社ですが、企業規模の差は大きく、世界的なシェアも含めればマキタ圧倒的優勢な状態が続いています。

2020年現在、マキタは時価総額1兆円を超える大企業へと成長しており、電動工具市場で国内1位・海外2~4位の地位を獲得しています。一方のHiKOKI(日立工機)は国内2番手・海外では4~7位と評価されており、この30年間は大きな売上成長もなく停滞経営が続いています。

現在でこそ、企業規模の差で大きく差がついているマキタとHiKOKIですが、平成初頭までは売上額の差も1.2倍~1.5倍程度1であり、さらに前の昭和の時代では日立工機が電動工具トップシェアの時代もありました。

この状態が崩れ、マキタが業界他社を圧倒的なまでに突き放すまでに成長したイベントこそ、2005年のリチウムイオンバッテリーの登場です。

今回は、電動工具業界史上で説明を欠かすことのできないビックイベントだった、リチウムイオンバッテリーの登場による業界の影響、なぜマキタが国内トップシェアの企業になり今尚不動の地位を占めたのか、マキタと日立工機の企業動向がどのように変化したのか、などを解説します。

電動工具メーカーの在り方を大きく変えたリチウムイオン

電動工具へのリチウムイオンバッテリーの採用は、電動工具業界にとって商材・技術・販路など企業方針のあらゆる点を変えてしまう出来事でした。

それまで玩具同然の扱いだった充電式の電動工具が、リチウムイオンバッテリーの登場により瞬く間に現場の主力になる製品へと移り変わり、今日では締結・切断・研磨・穴あけなど、ほぼすべての現場作業でリチウムイオンバッテリーを搭載する電動工具が使用されています。

電動工具メーカーの商材も、定置型・電源コード式主体の製品展開からリチウムイオンバッテリー充電式の電動工具に変わり、メーカーの製品ラインナップは大きく一新されることになりました。

2005年に登場したリチウムイオンバッテリーは、メーカーにとって売上躍進の原動力となり、2005年期から2008年期までの間にかけては、充電式電動工具による成長市場が発現し、充電式電動工具の新規シェアの獲得合戦が行われています。

その中で、いち早くスライド構造のリチウムイオンバッテリー電動工具を投入し、市場の成長と盤石な販売基盤を合わせて効率的に製品を投入したのがマキタでした。マキタは、リチウムイオンバッテリーの登場によって、今日まで続く国内シェア1位不動の地位を固めることになります。

一方の日立工機は、リチウムイオンバッテリーの動向を読み違え、製品展開の遅れによって新規シェア獲得に後れる結果となり、成長市場の恩恵を十分に受けることが出来ないまま、業界2番手の地位に甘んじる結果となっています。

ちなみに、リチウムイオンバッテリーによる成長市場は、2009年の民主党政権下の円高によって急速にブレーキがかかります。海外売上の依存率を上げていた電動工具メーカー各社は、円高対応に舵を切らざるを得ず、その対応に追われることとなります。

一世を風靡したマキタのリチウムイオンシリーズ

マキタのリチウムイオンバッテリー電動工具1号機は、2005年2月に発売したインパクトドライバTD130Dが初の製品でした。

この製品は、現在の充電式電動工具と同じスライド装着構造を採用しており、充電時の強制冷却・デジタル通信などを搭載し、現在の充電式電動工具の基礎とも言える構造を搭載する製品でした。2

このリチウムイオンバッテリーの登場によって、当時の現場ユーザーの充電式電動工具に対する認識は一変し、瞬く間にリチウムイオンバッテリー搭載の電動工具への転換が進みます。

スライド式構造の利点は大きく、グリップのスリム化や接触の安定性、強制冷却の最適化など、リチウムイオン化に伴うスライド構造の採用は電動工具にとって大きな革新となった。(マキタ2004-4月カタログから引用)

僅か1年で主要製品を拡充、驚異的な製品展開で瞬く間に市場を掌握

マキタの14.4Vリチウムイオンバッテリー電動工具の功績は、リチウムイオンのインパクトドライバを最も早く投入しただけではなく、僅か1年ほどの間に主要な電動工具のリチウムイオンバッテリー製品の展開を遂行した点にあります。

TD130Dを発売した2005年2月から2006年春までの間に展開された14.4V電動工具は、下記15機種です。

  • 充電式インパクトドライバ TD130D (2005年2月発売)
  • 充電式インパクトレンチ TW152D (2006年2月発売)
  • 充電式ソフトインパクトドライバ TS130D(2005年9月発売)
  • 充電式4モードインパクトドライバ TP130DRFX(2006年3月発売)
  • 充電式ハンマドリル HR162D(2006年2月発売)
  • 充電式震動ドライバドリル HP440DRFX(2005年6月発売)
  • 充電式ドライバドリル DF440D(2005年6月発売)
  • 充電式ピンタッカ PT350DRF(2006年2月発売)
  • 充電式オートパックススクリュードライバ(2005年8月発売)
  • 充電式125mm丸ノコ SS540D(2005年6月発売)
  • 充電式防じんマルノコ KS521DRF(2005年6月発売)
  • 充電式ディスクグラインダ GA400D(2006年2月発売)
  • フラッシュライト ML145(2005年11月発売)
  • 充電式蛍光灯 ML144(2005年9月発売)
  • 充電式ラジオ MR100(2005年9月発売)

これらリチウムイオン電動工具シリーズの早期展開により、当時のマキタは2008年期まで売上高の更新を続け、過去に類を見ない驚異的な企業成長を成し遂げました。

国内は勿論のこと、北米・欧州地域でもシェアの拡大に成功し、電動工具メーカーとしてマキタの地位は盤石なものになります。3

リチウムイオン戦略の初手を誤った日立工機

日立工機は、2005年7月にのリチウムイオンバッテリーに対応するインパクトドライバWH14DMLを発売しており、リチウムイオン展開はマキタに対し遅れているわけではありませんでした。

日立工機のリチウムイオンバッテリー1号機は差し込みバッテリー構造を採用しており、従来のニッカド・ニッケル水素との互換性を維持したのが特徴でした。しかし、このことが日立工機にとって今日まで続く最大の失策になります。

互換性の確保によってユーザーの取り込みを狙った日立工機でしたが、充電器端子接点の複雑化・接触抵抗の問題・工具バッテリー配置による展開の難しさなど、リチウムイオンバッテリーの高出力化に伴う問題点が浮き彫りになり、差し込み式のリチウムイオンバッテリー電動工具はわずか3機種で打ち切りのシリーズなりました。4

2006年6月には、高出力の18V差し込みリチウムイオン電動工具も展開しましたが、市場からの評価を得るには至らず、海外展開含め10機種程で打ち切りのシリーズとなりました。

従来の12V電動工具シリーズとの互換性が特徴の差し込み14.4Vシリーズ。12Vバッテリーがそのまま使える経済性が優位点だったが、差し込み14.4Vシリーズは全3機種に終わる短命なシリーズとなった。
30機種シリーズ展開・年間60万台の生産体制を予定していた差し込み18Vシリーズ。国内展開終了後も海外を中心に展開を進められていた。
参考:リチウムイオン電池搭載コードレス工具の本格的世界展開 [2006年8月24日]|日立工機

2006年にスライド構造へ転換、本格展開は2007年から

差し込みバッテリーの失策によってリチウムイオン戦略の見直しが必要になった日立工機は、WH14DMLを発売した1年後の2006年9月にスライドバッテリー構造の新インパクトドライバ WH14DSLを販売して、再スタートを図ることになります。

WH14DSLを発売した2006年9月から2007年の間に展開された14.4V対応電動工具は、下記14機種です。

  • コードレスインパクトドライバ WH14DSL(2006年9月発売)
  • コードレストーチライト UB18DAL(2006年12月発売)
  • コードレスランタン UB18DSL(2006年12月発売)
  • コードレスインパクトレンチ WR14DSL(2006年12月発売)
  • コードレス全ねじカッタ CL14DSL(2007年1月発売)
  • コードレスディスクグラインダ G14DSL(2007年3月発売)
  • コードレスドライバドリル DS14DSL(2007年3月発売)
  • コードレスブロワ RB14DSL(2007年5月発売)
  • コードレス丸ノコ C14DSL(2007年5月発売)
  • コードレスロータリハンマドリル DH14DSL(2007年5月発売)
  • コードレスチップソーカッタ CD14DSL(2007年6月発売)
  • コードレスジグソー CJ14DSL(2007年7月発売)
  • コードレス振動ドライバドリル DV14DSL(2007年9月発売)
  • コードレスブラシレスインパクトドライバ WH14DBL(2007年9月発売)

2007年9月には、ブラスレスモーター搭載インパクトドライバ WH14DBLを発売し、業界に大きな衝撃と影響を与えましたが、リチウムイオン戦略で大きく先行するマキタに追いつくには遅すぎた登場でした。

日立工機は、遅れること2年かけてマキタと同等ラインナップのリチウムイオン電動工具を揃えましたが、リチウムイオンバッテリー化による成長市場の恩恵を大きく受けることなく、2009年からの円高経済に身を投じることになります。

業界に衝撃を与えたブラシレスモーター搭載インパクトドライバ WH14DBL。マキタより早く投入されたブラシレスモーターインパクトだったが、競合するWH14DSLとの差別化が上手くいかず、締結工具以外の実用化にはさらに10年を要したため、電動工具シェア全体を覆す技術にはならなかった。

技術の転換点でうまく立ち回ったマキタ、読み違えた日立工機

リチウムイオンバッテリーが電動工具市場に与えた影響は大きく、売上額推移のグラフを見てもリチウムイオンバッテリーが登場した2005年から円高が始まる2008年の間にかけて、マキタの売上高が大きく成長していることがわかります。

マキタと日立工機(HiKOKI)の連結売上高推移のグラフと、主要な企業動向や製品シリーズ展開のタイムライン [画像クリックで拡大]

電動工具リチウムイオンバッテリー黎明期では、技術の転換点でうまく立ち回ったマキタが勝者となり、後のマキタブランドの確立・充電式園芸機器展開・清掃機器市場の開拓につながるなど、マキタの売上をより成長させる要因の基礎となりました。

円高解消以降のマキタが売り上げを大きく伸ばした要因は、また別の理由ですが、その基盤となったリチウムイオンバッテリー戦略の成功は、マキタ経営史上、欠かすことのできない出来事です。

日立工機の当時の動きは、リチウムイオンバッテリーをニッカドやニッケル水素のような従来のバッテリーの延長線上の技術と捉え、「バッテリーの電動工具が電源コード式を置き換えることはない」と侮っていたものと考えられます。

歴史に「もし」はないとも言いますが、もし当時の日立工機が、リチウムイオンバッテリー1号機からスライドバッテリーを展開し、2005年時点からマキタと同じペースで新製品投入を行い、早くからコードレス製品に本腰を入れていれば、HiKOKIはマキタに並ぶ企業になっていたのかもしれません。

脚注

  1. この時代の日立工機はプリンタ事業の売上分も含む
  2. ただし、ほとんどのノウハウはニッケル水素スライドバッテリーで確立していた。
  3. 2006年3月期 業績予想の修正(連結・単独)|マキタ株式会社
  4. 差し込みバッテリーシリーズの打ち切りについては、保護回路構造でマキタとパテント抗争が発生した可能性もある。
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