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2020年9月29日

電動工具市場 主要マーケット8分類解説

電動工具市場 主要マーケット8分類解説

電動工具の市場規模は3~4兆円産業

電動工具産業は別名パワーツール産業とも呼ばれ、電動工具・エア工具・油圧工具・エンジン工具・消耗品等の関連製品を合わせ全世界で3~4兆円産業と評価される市場です。1

電動工具市場は、リチウムイオンバッテリーによる充電式化が進んだことによって、園芸機器や清掃機器・その他周辺機器まで製品開発が進み、一概に電動工具市場と言っても電動工具を指しているとは言えない状況になりつつあります。

電動工具市場は成長産業、ただし例外も

電動工具市場は、経済アナリストの評価によると成長中の市場で2020~2027年の間に5.5%の成長率で拡大が進むと予想されています。

ただし、電動工具産業の成長は、「他市場への展開」「家庭向け電動工具のバッテリー化による単価上昇」「新興国の建築需要」が大きな要因を占め、全ての電動工具市場が成長を続けているわけではありません。

電動工具メーカーとバッテリーは一心同体

電動工具バッテリーは、メーカー毎に異なる仕様のバッテリーを採用しており、各社製品の互換性はありません。現在の電動工具メーカーは、リチウムイオンバッテリーによるユーザー囲い込みが経営上の重要な戦略でユーザーにとっての魅力的な製品展開や、取り回しに優れるバッテリーの開発など、各社製品拡充を進めています。

製品ラインナップの拡充や他社にない独特な製品展開は、売り上げに影響する重要な要素を占めており、この分野で大きく先行する国内マキタは競合他社を抑える強力な製品展開を進めています。

2010年代後半に電動工具各社が展開を進めた新たなバッテリープラットフォーム

プロ向け電動工具市場:電動工具の主要市場

電動工具主力のマーケットが、建設業ユーザー向けに販売しているプロ向け電動工具です。ここでのプロ向けとは、建築業・一部産業市場に関連するユーザーを対象にした市場です。この市場はマキタとHiKOKIが同等のシェアを持ち、そこに京セラ・MAX・Panasonicなどの国内メーカーが続きます。海外参入メーカーではHiltiとBOSCHが影響力を持っています。

国内・海外の主要な電動工具ブランド

建築業プロユーザーが使用する電動工具は、性能・耐久性・調達性・アフターサポート全てが一級品の高性能品です。産業製品なので安定した買い替え需要が見込め、リチウムイオンバッテリーの性能向上とブラシレス化によって製品単価の上昇が続いたこともあり、主要電動工具メーカー売上の大きな割合を占めています。

プロ向け電動工具市場は、普及率100%のユーザー需要を満たした市場です。新規需要はほとんどないため市場規模の増加や劇的なシェアの移り変わりが発生し難く、新規メーカー参入もほとんど不可能の閉塞的な市場構造を形成しています。技術開発もここ数年は停滞しており、技術革新による新規需要も当面発生しないと予想されます。

さらに、プロ向け電動工具のバッテリー化の移行は概ね完了しており、現行のリチウムイオンバッテリーとブラシレスモーター技術で実現できるスペックでは、大型電動工具(大型ハンマ・コアドリル等)をバッテリー化する利点もないため、現在のプロ向け電動工具の新規開発は閉塞的な状態になりつつあります。

リチウムイオンバッテリー電動工具の登場から15年が経過し、電動工具の充電式化は概ね完了した。より大型の電動工具(大型ハンマ・コアドリル等)では高い出力やバッテリー容量が求められ、現行のバッテリー技術では実用化に難がある。
画像出典:電動工具 [マルチボルトシリーズ] | 受賞対象一覧 | Good Design Award

日本の販路構造は独特で、プロ向け電動工具市場ではマキタが戦後開拓した地域密着型の金物屋・プロショップを中心に販路を依存しており、事実上マキタ1社の専売に近い形の地域販売店も多く存在します。

この販路構造は、Stanley Black&DeckerやTTIのような海外トップメーカーの日本市場参入を拒む要因になっており、日本の電動工具メーカーが数多く生き残っている理由にも繋がります。この状態は大手ホームセンターやネット通販サイトの普及により変わりつつありますが、今後も地域密着型店舗依存の販売構造が続くと推測されます。

電動工具世界トップ3ブランド(BOSCH, Milwaukee, DeWALT)が展開するスマートツールアプリ。日本市場はこれらの世界的なメーカーの製品の事実上の締め出しには成功しているが、これら先進技術の普及は全く普及しておらず、情報方面の技術開発に対する遅れが懸念される。

プロ向け電動工具の市場規模は、住宅着工件数や経済動向に左右されます。日本国内の動向については、少子化や中古住宅の供給過剰・工場自動加工技術の発展・職人の減少などの要因によって電動工具の需要は減少が進むと考えられ、長期的にプロ向け電動工具の市場規模は今後も縮小していくと予想されています。

DIY電動工具市場:新たな市場形成が進むカジュアルな工具市場

近年のDIYブームとリチウムイオンバッテリーの低価格によって、DIY電動工具市場も成長が続いています。ここ数年でさまざまなDIY電動工具ブランドが誕生し、国内市場では、藤原産業高儀新興製作所の3社が影響力を持っています。

この市場は、低価格バッテリーの搭載により、販売価格をプロ向け電動工具の半分以下に抑えているのが特徴です。バッテリー技術の進歩や中国メーカーの品質向上によって、一昔前のプロ向け電動工具とほぼ同等の性能を備えており、価格的なコストパフォーマンスに優れています。

かつてはプロ向け電動工具メーカーも積極的にDIY向けの製品展開を行っていましたが、収益構造やアフターサポート体制の違いによる企業構造の違いから低価格化・ブランド構築が上手くいかず、プロ向け工具ブランドを持つメーカーのDIY電動工具のシェアは減少傾向にあります。

最近のプライベートブランドではバッテリー共通化も意識されるようになり、新たなユーザー囲い込み競争が始まりつつあります。ただし、日本のDIY文化は海外のように本格的な日曜大工向け需要がなく、簡単な内装工事や手芸・工芸での需要しかないため、成長中ではありますが需要そのものはあまり大きくありません。

ホームセンターコメリが展開する電動工具のプライベートブランド「B-Share」シリーズ。昔の電動工具は、プロ向け工具メーカーのDIYブランド製品を販売するのが一般的だったが、近年ではホームセンターが独自にブランドを立ち上げる例も出てきた。

園芸機器市場:脱エンジン・環境規制の受け皿として成長中

電動工具の中で最も成長著しいのが園芸機器市場です。エンジン機器の排ガス規制とリチウムイオンバッテリーの普及によって、園芸機器の脱エンジン化と一般家庭への浸透が同時に発生し、充電式園芸機器の需要は年々増しています。

この市場は長年充電式園芸機器の展開に取り組んでいたマキタのシェアが高く、プロ向け・家庭向け共に高いブランド力を持っています。エンジン園芸機器を展開していたメーカーも充電式園芸機器の展開を進めていますが、販路展開やブランド力の不足から苦戦を強いられています。

家庭向け製品では、RYOBI製品がホームセンター販路で強い存在感を放っており、プロ向け充電式を中心に展開するマキタとシェアを二分しています。テレビ通販の定番商品だった高枝切ハサミも、最近ではポールチェンソーやポールヘッジトリマに変わるほど充電式園芸機器の普及が広がり、ホームセンターによるプライベートブランドの園芸機器展開も進んでおり、電動工具市場の中で最も成長と競争の激しい市場が形成されています。

リチウムイオンバッテリーの性能頭打ちとモーター出力の限界もあり、バッテリー化が完了したのは一部の製品のみに留まっています。ただし、充電式バッテリーの性能向上の恩恵を最も受ける製品カテゴリなので、今後の技術動向次第ではさらなる需要拡大も期待できる市場です。

清掃機器市場:マキタが形成したコードレスクリーナー市場

業務向けの掃除機・公共交通機関の設備・家庭用クリーナー需要として新たに形成されたのが、充電式清掃機器市場です。この市場はマキタの製品が強い影響力を持っています。

元々、大工現場向けのシンプルな掃除機として販売されていた充電式クリーナーでしたが、取り回しの良さとシンプルな外観で清掃業務用の掃除機としても需要が高まり、従来のショルダー式業務用掃除機を置き換える形でプロ向け清掃業にも市場が拡大した製品です。

業務用掃除機として使用されていた肩掛け式のコンパクトな電源コード式掃除機。マキタの充電式クリーナーは分野でもシェアを大きく拡大した。

ホームセンター販路との相性も良く、手軽なクリーナーとして人気も高いため、2台目の手軽に使える掃除機として一般家庭にも使える製品なので今後も継続的に成長を続けると予想される市場です。

一般家庭から清掃プロユーザーまで普及が拡大した充電式クリーナー市場。さまざまな市場で需要が高く、消耗品需要や買い替え需要もあるため、底堅い市場として今後も期待できる製品カテゴリ。
ハウスクリーニング請負のおそうじ本舗と旧日立工機が共同開発したエアコンクリーニング用のコードレス高圧洗浄機。現在のプロ向け清掃業需要はクリーナー中心だが、高圧洗浄機のような清掃需要も潜在している。
画像出典:福岡市早良区の学生寮でナショナルCS-227TB-W のエアコンクリーニング|おそうじ本舗荒江店

バッテリー家電市場:先行き不透明、コードレス家電は需要を生むか?

今後の充電式製品のダークホースと成り得るのが、充電式家電市場です。AC電源で動作する生活家電をバッテリー駆動で動作させる小型家電が対象になります。

現時点では、マキタがテレビやコーヒーメーカーのような低消費電力または使用頻度の限られている製品を家電製品として市場に投入しています。

電動工具メーカーは家電製品を展開したとしても、金物屋が展示販売する製品カテゴリではなく、ホームセンター販路も家電コーナーへの配置が制限されているため、売り上げを拡大するには新たな販路開拓・交渉が必要になります。

現状のリチウムイオンバッテリーの性能では、全ての生活家電をバッテリー動作に置き換えることは難しく、一部の製品が現場や災害の備えして需要があるのみですが、今後の技術動向の展開によっては拡大も見込める市場になると予想されます。ただし、その頃には汎用的な充電規格の普及や、バッテリー制御の汎用IC化、中国メーカーの台頭による競争激化も予想され、瞬く間に陳腐化・レッドオーシャン化する可能性も高いと予想されます。

2020年夏の大ヒット商品マキタ CW180DZ。電動工具メーカーの販売する家電製品としては異例の話題性と売上価格の高騰を記録した。

アウトドア需要:電動工具メーカーの製品が隠れた人気に

近年のキャンプブームで成立しつつあるのが、電動工具のアウトドア需要です。アウトドア分野だけ需要と書いているのは、明確にこの市場に向けた製品を投入するメーカーがなく、ユーザーが代替的に電動工具メーカーの製品を使用していることが多いため、ここでは需要と明記しています。

各メディアでマキタ沼と表現されている通り、ライトやブロワ・扇風機のような現場向け工具がキャンプでも活躍できると話題になり、隠れた人気を得ています。

最近では、この話題性に目を付けたsnowpeakがマキタ製の充電式ファンをアウトドアブランドとして販売しており、今後も電動工具用バッテリーを生かした充電式アウトドア工具に目をつける動きが出てくるかもしれません。

ただし、これもバッテリー家電市場と同じく、汎用的な充電規格の普及や中国メーカー製品の台頭によって電動工具メーカーのバッテリーを搭載する製品の利点は早い段階で失われると推測され、数年のうちに製品展開が完了しなければ普及は難しいかもしれません。

工場ライン工具市場:IoT電動工具市場の本命

高付加価値の電動工具として期待されているのが、高度動作制御・通信機能を内蔵するIoT機能搭載電動工具です。

これらの製品は自動車工場や家電組み立て工場など生産工場で使われる電動工具を指し、高精度トルク管理や作業手順のガイダンスなど、設備と連携した高度なモニタリング機能を備えているのが特徴です。

近年のIoT技術の進歩によってスマート工場・Industry4.0と呼ばれる最新工場設備への投資額も年々増えており、今後情報分野の技術動向次第では大きく成長する市場と予想されます。

BOSCHが展開するIoTを活用したNEXOタイトニングシステム。電動工具の多機能化によって、締結作業の高度化・ブラウザベースのガイダンス・PLCとの同期などを搭載し、自動車産業を中心に工場向け工具の本命とも言われている。

加工工場市場:据置型電動工具の需要はほぼ終焉へ

1990年代に全盛期を迎えた工務店・加工工場向けの据置型電動工具は、2000年から普及が進んだプレカットなどの全自動加工設備によって需要はほとんどなくなりました。一時は、電動工具メーカーの主要な製品品目として地方工場などで生産されていましたが、現在はほとんどの生産工場が閉鎖・停止しています。

全自動カンナ・ほぞ取り・角ノミのような据置・大型機械の新製品開発は行われなくなり、既存品の継続販売と修理サポートのみが継続されています。

この分野で行われていた木材加工は、電動工具メーカーの手を離れ、プレカットメーカー・設備機械メーカーに変わり別の業種の産業として発展が進んでいます。

プレカット工場の普及により加工機械の需要は大型工場設備メーカーに移り、かつて使われた半自動加工機械は、伝統文化機械としての趣が強くなるのかもしれない。
参考:日立工機カタログ(1995)

脚注

  1. 世界の電動工具市場ーサイズ調査、タイプ別、用途別(住宅用途、建設分野、産業分野、園芸分野、その他)および地域別予測2020-2027年
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