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2026年3月17日

充電式電動工具用のACアダプタは何故存在しないのか (HiKOKI ET36Aは除く)

充電式電動工具用のACアダプタは何故存在しないのか (HiKOKI ET36Aは除く)

電動工具ユーザーが望む充電式電動工具用ACアダプタ

現在、電動工具はリチウムイオンバッテリーパックを装着する充電式電動工具が主流となっていますが、バッテリーの価格や入手性の観点から、バッテリー型のACアダプタを求むユーザーの声も定期的に挙げられます。

電動工具は従来AC電源で動作するユニバーサルモータや誘導モータなどを搭載していましたが、最近の充電式電動工具はバッテリー動作時の動作時間を増やすためにDCブラシレスモータ搭載機種が主力となっており、基本的にバッテリーによる直流電源でしか動かすことができません。

充電式扇風機やラジオのように電動工具に使えるACアダプタがあれば、バッテリーの残量や劣化を気にすることなく電動工具が使い放題になるだろうと考える方も多いと思いますが、実際にそういう製品は過去に何度か登場したことがあり、その度に電動工具市場における評価として定番化しなかった歴史があります。

今回の記事は、充電式電動工具向けに開発されたACアダプタについてのコラムです。

企業の売上的な都合もあるが、技術的に難のある製品

実は、過去には色々な電動工具用ACアダプタが登場しているのですが、根本的な問題として、AC電源を降圧してリチウムイオンバッテリーの電圧に下げて大電力駆動を行うこと自体、かなり無理があるコンセプトです。

例えば、18V電動工具用バッテリーの場合、電力的に約300~800Wが給電できる能力が必要になりますた、800W負荷を考えた場合、18V換算で約50Aの給電用力が必要です。一般的な小型家電に使うACアダプタが12V-1.5A前後の数10Wクラスで手のひらサイズであることを、ACアダプタで18V充電式電動工具を駆動するにはとてつもない大きなACアダプタを必要とします。

例えば、工業向けに販売されている1,000W級のAC-DC変換回路を電動工具用ACアダプタの場合、下の画像のようなACアダプタが一般的なサイズ感になります。

工業設備や家電に用いられる一般的なサイズの18Vの1000Wスイッチング電源装置

このような電源装置は体に抱えて持ち上げなければいけない程の大きさであり、本来は電動工具用として気軽に使えるようなものではありません。

特に、昨今の充電式電動工具は36V駆動やタブレスバッテリーの登場によって高出力化が進んでおり、消費電力が2,000Wに届く充電式電動工具も展開されるようになり、AC100Vで動作する電動工具よりも高い消費電力の充電式電動工具も広まりつつあります。

これが海外のようなAC200Vのような電源環境の国であれば、最大で3,000Wまで対応できるので、ACアダプタ化にもまだ実現性があると言えるのですが、日本のAC100V環境では1,500Wまでしか給電できず、AC電源環境的にも根本的に技術革新でどうにかなるレベルの話ではありません。

これは電気安全や法令の関係も含むため、そもそも充電式電動工具のACアダプタを作ること自体が不可能だと言えます。

それでも技術力の結晶によって何とか形にまでこぎつけたのは、後述のHiKOKIのET36Aなのですが、それすら大多数のユーザーが持つACアダプタとのイメージの違いから市場から諸手を挙げて称賛されるような製品とはならず、むしろ充電式電動工具用ACアダプタの現実的な実現性と市場的な需要限界を証明してしまったとも考えています。

また、別の要因として電動工具メーカーとしてのビジネスモデル的な都合も考えられます。

現在の電動工具市場は電動工具のみで収益を確保する構造とはなっておらず、バッテリーやアクセサリなどの売上も無視できない環境となっています。売上の根幹となるバッテリーの売上を下げかねないACアダプタの存在はバッテリービジネスモデルに根本的な影響を与えかねない存在であり、基本的には手を付けたくない分野の製品だと想定しています。

それでもユーザーから強い要望があれば、多少のカニバリゼーションがあってもメーカーはそれに応えることもあるのですが、技術的に難易度の高い製品であり、せっかく開発したとしても採算性に乏しいとなれば取り組む優先順位は極めて低くなってしまうのが実情ではないかなと考えています。

純正やサードなど各企業が挑戦してはパッとしなかった充電式電動工具用ACアダプタの歴史

電動工具市場においてACアダプタは市場に何度も登場しているのですが、どの製品も定番化することは無く、電動工具の歴史に埋もれてきた製品です。

ここでは過去に発売された充電式電動工具用のACアダプタをピックアップして紹介します。


2000年頃から携わっている職人さんがよく見かけたのは日立工機スーパーチャージャ ET14DMではないでしょうか。

この製品は9.2V~14.4Vまでのニッカドとニッケル水素バッテリーの充電器でありながらも、直流電源装置としての機能も搭載しており、別売のアダプタを装着することによってコードレスインパクトドライバも駆動できる画期的な充電器でした。

ただし、この直流電源機能は後継機種のET14DM2までしか搭載されていない機能であり、アダプタで駆動できる製品もニッケル水素の差し込みバッテリーの充電式インパクトまでに留まり、リチウムイオンバッテリーの製品には非対応でした。この機能は日立工機最後の差し込みバッテリー対応充電器であるUC18YLでも復活することはありませんでした。


北米で大きなシェアを持つDeWALTも電動工具用ACアダプタの開発に積極的に取り組んでいました。

画像のDW0247は、ニッケル水素時代の24V充電式電動工具をAC電源化するアダプタです。

出力性能は24V-23.5Aで約500W程であり、当時はニッケル水素電池の重さや容量、出力性能の関係からACアダプタによる運用も現実的な選択肢に含まれていた製品でした。

しかしながら、DeWALT 24Vシリーズはリチウムイオンバッテリーの登場によりシリーズ展開終了となり、その後のリチウムイオンバッテリーシリーズでは対応するACアダプタの展開は行われませんでした。


そんなDeWALTも最近までFLEXVOLTシリーズのACアダプタ DCB500を販売していました。

FLEXVOLTは定格54Vのバッテリーであり、それを2本装着する電動工具専用のアダプタとして展開を行っていました。このアダプタはサイズ的に整流部のみのシンプルなものと考えられます。54V+54V時の動作電圧は約110Vとなることから、恐らく整流のみの電圧波形で動作するよう電動工具側で対応させていたため実現できた製品と考えられます。

このACアダプタは2017年から発売している製品でしたが、2023年頃から購入できなくなっています。


最近の事例では、マキタやDeWALTの互換製品を販売するMellifが2023年頃にAC120V~DC20Vアダプタを販売していました。

このアダプタは18V出力で1,000Wの出力仕様を持つ製品なのですが、負荷の状態によって電圧変動が12Vから28Vまで変動してしまうため、ACアダプタとしての完成度は極めて低く、発売から一年も経たずに市場から消えています。


また、2016年頃には北米LOS GATOS POWER社がPOWER BRICK PROと呼ばれる汎用的な電動工具用ACアダプタを発表しました。

北米の電動工具界隈で一瞬だけ話題になりましたが、権利的な問題やACアダプタのサイズや実性能などを考えると無理のある製品であり、開発には相当難儀したようです。

2017年にはサイトの更新が停止し、2019年には企業組織そのものが消滅したようです。


それ以外でも、中国の通販サイトではACアダプタボックスに電動工具用のバッテリアダプタを接続した出自不明の製品が販売されています。この製品は現在(2025年2月)でも購入できます。

出力仕様は18V-16.5Aで300W程度であるため、この性能ではインパクトドライバなどの軽いビス止め作業くらいでしか使用できないスペックであり、一般的な電動工具用バッテリーの代替品としては使用できません。

HiKOKI ET36Aは電動工具業界の特異点のようなアダプタ

ここまで色々な電動工具用ACアダプタを紹介していますが、あの製品が抜けていることに気が付いた方もいると思います。

電装工具用ACアダプタにおける唯一無二の存在がHiKOKI ET36Aです。このアダプタだけは他のACアダプタとは別格の製品であり、筆者はこのアダプタを電動工具業界における特異点のような製品だと思っています。このET36Aだけは電動工具ACアダプタの中で別格です。

ET36Aは電動工具用のACアダプタとして極めて完成度が高く、コンパクトサイズなボックスとアダプタ、1050VAの出力性能を考えれば他社電動工具メーカーが追随できない旧日立工機時代の開発力の極致とも言える製品です。

AC電源でコードレス電動工具を使える利点から愛好家も一定数存在している製品ではあるものの、大多数のユーザーが考えるACアダプタが持つイメージとのギャップから市場における評判は賛否両論であり、昨今の電動工具トレンドである1.5kWクラスの高出力電動工具にも対応できない点も含み、今日ではあまり日の目を見ない製品となってしまっています。

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