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最近話題のポータブル電源は電動工具にも使えるか
最近のガジェット周りで話題の製品と言えば、ポータブル電源が挙げられます。ポータブル電源とはリチウムイオンバッテリーからAC100Vを取れる可搬式のバッテリー製品です。
この手の製品は昔からあったものの、昨今のポータブル電源界隈においては、リチウムイオンバッテリーの性能の向上・安定性の向上・コストダウンなど複数の要因が重なり、アウトドアや災害用途での実用性が高まったことから販売数が伸びているそうです。
ポータブル電源の製品カタログを見てみると、活用方法に「電動工具」と書かれているポータブル電源もあります。今回の記事では、ポータブル電源を実際に電動工具メインで運用した場合の実用性やコストについて考えてみます。
1000Whクラスのポータブル電源を基準に考えてみる
今回は参考例として、普及帯のクラスである1000Whのバッテリー容量を備えたJackery ポータブル電源1000をベースに考えてみます。
Jackeryのポータブル電源1000は、バッテリー容量1,002Wh・出力仕様1kW・AC100V出力を備える普及帯のポータブル電源です。
ACコード式の電動工具をポータブル電源で動かす場合
ポータブル電源はAC100V出力を備えているので、ACコード式の電動工具を使用できます。
ただしポータブル電源でACコード式の電動工具を使う場合おいては、2つの懸念があります。
1つ目は、そもそも電動工具自体が充電式化の進んでいる製品であり、一部の分野を除いてACコード式の電動工具を使うことが稀になっている点です。これはプロ向けモデルに限った話ではなく、低負荷なDIY向け電動工具も充電式化が進んでおり、ACコード式の電動工具を必要とする製品は解体作業用のハンマやDIYモデルのトリマなど一部の製品に限られています。
2つ目が、電動工具は誘導負荷の製品である点です。誘導負荷はモータ起動時の突入電流を始めとする電流量の変動が大きく、ポータブル電源搭載のインバータが正しく動かなかったりダメージを与えてしまったりする場合があります。エンジン発電機の例においては、電動工具の消費電力の1.5~2倍程度の出力仕様を備えた製品が必要とされています。
これらの点を考慮すると、普及帯の500~1,000Whのポータブル電源で使用できる電動工具は200~500W程度の製品が現実的なラインであり、このクラスの電動工具であれば低価格な充電式電動工具でも十分対応できると考えられます
充電式工具用のバッテリーの再充電で使う場合のコストを考えてみる
充電式電動工具の一般的なバッテリー仕様は18V-5.0Ah(または36V-2.5Ah) なので、電動工具用バッテリー1個あたりの電力容量は90Whです。
ポータブル電源は大容量バッテリーを搭載する製品ですが、実際には昇降圧による損失によって取り出せる電力量は目減りします。ここではAC100Vインバータと電動工具バッテリー充電器を合わせた変換効率70%程度として、バッテリー容量1,000Whのうち700Whを工具バッテリーに再充電できると仮定します。
この数字を元に電動工具用バッテリーの充電可能な本数に換算して価格を比較したのが下の表です。価格比較はJackery ポータブル電源1000は公式サイト価格 140,000円を比較対象にします。
バッテリー品名(ネット参考価格) | ポータブル電源と同じ容量になるバッテリー個数 | ポータブル電源比較で |
---|---|---|
マキタ BL1860B (\15,000) | 6.5本分 | 42.500円安い |
マキタ BL1830B (\11,000) | 13本分 | 3,000円高い |
マキタ BL4025 (\17,000) | 7.8本分 | 7,400円安い |
マキタ BL4040 (\20,000) | 4.9本分 | 42,000円安い |
マキタ BL4050F (\27,000) | 3.9本分 | 34,700円安い |
HiKOKI BSL36A18 (\12,000) | 7.8本分 | 46,400円安い |
HiKOKI BSL36B18 (\20,000) | 4.9本分 | 42,000円安い |
単純な容量比較の価格効率を考えた場合、電動工具の予備充電用途として考えても同じバッテリー容量分の電動工具バッテリーを揃えた方がコストパフォーマンスで優れる結果になりました。
ちなみに容量単価で電動工具バッテリーより安くするには、1,000Whの場合で100,000円を下回るポータブル電源を選ばなければいけません。
ポータブル電源を電動工具専用の電源として使うのは実用上難あり
正直なところ、ポータブル電源でACコード式電動工具を使うのであれば、同じ予算で充電式電動工具を買った方が良いと結論付けられてしまいます。
本来、ポータブル電源は災害やレジャー用途で家電を使うのに適した製品です。その点を考慮すれば、現場作業におけるポータブル電源の実用的な活用方法としては、投光器や投げ込みヒーターのような電動工具以外の現場用製品に使うのが現実的な所と言えそうです。
普及帯のポータブル電源ではなく、2,000Whを超えるクラスのポータブル電源なら高負荷なACコード式電動工具の運用も可能ですが、そのクラスのポータブル電源は200,000円を超える製品になってしまうため、それならばエンジン発電機を買うか、初めから充電式電動工具と予備バッテリーを大量に買った方が良いと言えるでしょう。
ポータブル電源は大量のリチウムイオンセルを搭載する製品なので、低価格なセル採用によって容量単価の点では電動工具バッテリーよりも優れてバッテリー再充電用の電源として活用できるかもと見込んでいましたが、今のところその点でもコストパフォーマンス的に良いとは言えそうにありません。
今回の記事では、ポータブル電源の電動工具活用に対して否定的な結論に至りましたが、これは記事を執筆した時点の話であり、長期的にはこの結論が変わる可能性も十分にあると考えています。
結局のところ、一番の課題は価格な訳ですが、ポータブル電源はまだまだコスト削減の余地がある製品です。将来的に低出力仕様で大容量低価格なセルが登場すれば容量単価的な利点は解消され、ポータブル電源で電動工具用バッテリーを充電する未来もあり得るのではないか?と考えています。