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電動工具の修理サポート体制と修理対応の未来について考えてみる

電動工具の修理サポート体制と修理対応の未来について考えてみる

電動工具は、DIYユーザーからプロユーザーまで広く利用されていますが、修理が必要になった場合、そのコストが予想以上に高額になることがあります。この記事では、電動工具の修理価格が高くなる要因の背景を掘り下げ、電動工具修理の将来についても考えてみます。

電動工具の修理見積は色々と高くつく

修理が高額になる要因のひとつが「修理工賃」です。この修理工賃は工賃として別途請求されることもありますし、購入する部品代に組み込まれている場合もあります。

工賃の計算は事業者によっても異なりますが、カーディーラーにおける整備工賃は7,000円〜10,000円/hと設定されています。電動工具の修理においては車ほど場所や大型設備は必要ないものの、専用工具や専門知識を有する必要があるため極端に安い工賃にはなりません。

例えば、売価1,000円程度のモーターを修理する場合でも、故障診断・部品手配・交換作業・動作確認など一連の工程を行えば、それだけで1時間くらいの時間が必要になり、電動工具修理の工賃3,000~4,000円を想定すると、その分だけ工賃が加算されます。

これは実際の事例ですが、筆者は過去にマキタ製品の修理に7,000円で購入した充電式クリーナのモーター交換をお願いしたことがあり、新品で7,500円で買えるものに6,000円の修理費用を出した経験があります。この修理価格は決して高いわけではないのですが、新品と同じ価格の修理費用と考えると色々と思うところがあります。

以前、マキタ営業所に持ち込み修理を依頼した14.4Vマキタクリーナのモータ交換の修理伝票。修理価格は6,578円だが、実はAmazonから新品価格 7,500円で購入できるので、コストや修理期間を考えれば修理を依頼する利点はほとんど無かった。

修理して使い続けるコストの優位性は低価格化で失われつつある

現在の電動工具は修理して使い続ける製品としてはあまりにも安すぎる製品になっていると考えています。

例えば、マキタが昭和33年に発売した牧田 携帯用電器鉋モデル1000は29,800円でした。当時の大卒初任給が13,000円なので、現在の金銭感覚に当てはめると50万円近い高級品だったことがわかります。

画像引用:マキタ電機製作所70年史

当時の電動工具は高級品でしたが、現代の電動工具と比べれば電子制御も入っておらず、構造もシンプルで部品交換も容易だったので比較的修理しやすい製品でした。50万円近い製品であれば、年間数万円の修理費用を出してもメンテナンス費用として受け入れることができるでしょう。

現在の電動工具は、希土類磁石や高度な制御を組み込んだマイコン、100A近い電流を扱えるパワーデバイスを搭載した超高性能な製品でありながら2~3万円で買える製品となっており、ある意味、信じられないくらい安い価格で売られている製品になっています。この点に関しては、メーカーの企業努力によるコスト削減や中国生産工場に感謝しなければいけないのかもしれません。

しかしながら、低価格化は喜ばしい一方で、50万円近い製品の1~2万円の修理費ならなんとも思いませんが、2万円で売られている製品の修理費1万円は損している感じの印象を受ける方も少なくないはずです。全体としてはユーザーは絶対に得しているのですが、心情的には修理代が割高に感じてしまいます。

工賃は変わらないが、部品単価は少しずつ上がっている

現在の電動工具は、過去モデルと比較して格段に高性能化しています。この技術の進歩は、DIYユーザーやプロユーザーにとって多くのメリットをもたらしますが、同時に修理コストの増加も引き起こしています。

例えば、近年の電動工具に高性能化をもたらした技術の1つにブラシレスモータがあります。ブラシレスモーターは、従来のブラシモーターよりも高効率で長寿命なのが利点でしたが、故障した場合はコントローラ一式の交換が必要になり、修理部品が高額になります。

電動工具も修理できなくなる日はそう遠くないかもしれない

修理対応を受けることで、電動工具を低コストで長く使いたいと思うのはユーザー自然な考え方ですが、現在の電動工具は、修理するには高性能で安くなり過ぎていると思う面もあります。

一応、電動工具メーカーが取り扱う製品の中には依然高価でメンテナンスを必須とするハンマ関係の製品やエア工具なども存在しているため、修理サポート体制を敷くことそれ自体の価値が失われることはありません。

ただし、充電式電動工具の関連製品となる1枚基板で構成される充電器やリチウムイオンバッテリーが主要部品となるバッテリーパックなどは、単体部品がその製品の大部分を占めてしまうため部品交換による修理はコスト的にほとんど意味がありません。

充電器やリチウムイオンバッテリーは交換する部品それ自体が製品を構成する主要部品であるため、修理せずに買い替えたほうが手っ取り早い。道義的には電子部品単位での解析やバッテリーセルを交換すれば修理自体は可能なのだろうが、故障解析や高度な作業工程を行える人材を現場修理に回すのは余程技術者が余っている場合に限られる。

そして、現在において、充電式電動工具全体の半分くらいの製品がコスト的な観点から修理を行う有効性を見いだせない製品になってきていると筆者は考えています。

このあたりは、米国あたりで話題となっている「修理する権利」に近い議論になると考えています。筆者としては、修理する権利はあった方が良いとは思う一方で、ユーザーが考える「低コストで使い続けたい」を満たせるものではないとも考えています。

加えて、電動工具産業は他の産業に強く依存し規模が限られている市場でありながら、価格競争の激化が進んでいる市場であるため、過度な低価格化が進行しやすく「修理で安く長く使いたい」とするユーザーニーズは汲みにくい市場です。と言うよりも、修理価格の低減は各メーカーが必死に提供していますが、「製品価格に対して修理価格は割高」と考えてしまうユーザーの心理的な問題なのかもしれません。

最近の電動工具のトレンドはいくつかありますが、そのひとつに電動工具のさらなる低価格化が挙げられます。これは中国の電動工具メーカーをはじめとする格安電動工具が台頭しており、価格破壊の新たな電動工具市場が形成されつつあります。

少し前の中国ブランド電動工具は、日本や欧米の電動工具ブランドとは比較できないほどの低品質でしたが、ここ数年は明らかに品質が向上しており、価格に見合う品質を持つ高コスパな製品に成長しつつあります。最近では欧米日本の電動工具メーカーで中国メーカーのOEM品を扱う製品も増えているため、中国電動工具の台頭が進むことで低価格化がさらに進む可能性が考えられます。

電動工具製品価格の低下がさらに進めば、コストを要因としてユーザーや企業が共に望む修理対応を続けることは難しくなっていくと予想しています。

もちろん、コストを度外視した修理の需要も存在するのでしょうが、それをメーカー側が負担し続けるのは難しい判断になってきていると思います。将来的には、電動工具もスマホやデジタルガジェットと同じように、修理対応ではなく新品交換対応を主体とするアフターサポートに移行していくのかもしれません。

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