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アメリカのホームセンターで海外の電動工具シェアを見る
前回、ミルウォーキーツール・ジャパン様の好意でアメリカ ウィスコンシン州にあるMilwaukee Tool本社に訪問させて頂きました。
そのツアーの日程には、ホームセンターの視察も含まれており、ミルウォーキーブランドの電動工具が北米市場でどのように取り扱われ、どのような売場で販売されているのかを視察する機会もありました。あわせて、北米の工具取扱店がどのような形態で運営されているのかも確認しています。
日本市場では、日本メーカーの電動工具が圧倒的に強く、海外ブランドの製品を目にする機会はほとんどありません。しかし、これは日本市場特有の現象であり、海外市場では各国のブランドが入り混じって販売されており、販売店ごとに取り扱うブランドの個性が際立っているのが特徴です。
特にアメリカは、根強いDIY文化を背景に、工具産業の市場規模が日本のほぼ倍の規模であり、それに伴って製品の多様性や選択肢の広さも段違いなのが特徴です。そういう意味では、日本とはまったく異なる工具販売文化を体感できる貴重な機会でもありました。
ただし、今回の北米ホームセンター視察は、あくまでミルウォーキーツール・ジャパン様によるMilwaukee Tool本社視察ツアーの一環であり、本社のあるウィスコンシン州およびその周辺地域の販売店が中心となっていたため、Milwaukee Toolの影響が比較的色濃く反映された店舗が多かった点にはご留意ください。
1店舗目:カー用品ショップ NAPA AUTO PARTS
NAPA AUTO PARTSは、全米自動車部品協会 (通称 NAPA)と呼ばれる北米全域で自動車の交換部品を販売する小売店です。

主に、プロ向けの車の修理パーツや補修工具、その他資材などを取り扱う販売店で米国には6,000店以上の店舗があるようです。販売だけではなく、車両のメンテナンスや修理サービスも提供しています。
店の中に入るとこんな感じです。奥にはカウンターがあり、店員に話しかけると車の純正部品を出してくれるスタイルになっています。

電動工具コーナーにはMilwaukee Toolの製品が置いてあります。カテゴリとしてはラチェットレンチやインパクトレンチを中心に空気入れやグリースガンなどの整備製品、あとは小型ライトなど車整備中心の製品が多く並んでいます。

電動工具コーナーの隣には、PACKOUTが並んでいました。作業台にするPACKOUTが積んであるところをみるとガレージ向けを意識した品ぞろえとなっているようです。

消耗品コーナーには色々なケミカル類が売られています。

ディスクグラインダやロウ付け用品なども置いてあります。この辺りはレストアに欠かせない資材類なので、車社会のアメリカカー用品店ならではの品揃えと言えるのかもしれません。

Milwaukee Toolはタップダイスまで売っています。一番下にあるPACKOUTのダイスセットを購入しようか迷ったのですが、ネジ切り作業はほとんど行わないので見送ることにしました。

店の入り口近くの隅にはDeWALTの空気入れコンボキットが特価品で置かれていました。この販売店も昔はDeWALT製品を置いていたのかもしれませんが、Milwaukee Tool中心に変えたのかもしれません。

2店舗目:工具・機械販売店 Northem Tool (ノーザンツール)
アメリカの工具・機器の小売店がNorthem Tool (ノーザンツール)です。北米には140点の店舗を構えています。

ノーザンツールは、店舗だけではなく自社ブランドの展開にも努めるプロ〜本格DIY向けの大型機器や特殊カテゴリ(発電機・高圧洗浄・油圧・搬送等)に強みを持つ北米の専門リテーラーです。
店舗に入ると広い面積に全て機械工具類が置かれています。郊外の大型ホームセンターが全て機械工具コーナーになった感じです。

早速、Milwaukee ToolのPACKOUTコーナーが目に映りました。箱物類は棚の面積を使う割に売価が安く、販売効率的にはそこまで良くない商材の印象があるのですが、棚一列全てがPACKOUTで埋められています。

その隣の列は、Milwaukee Toolの手工具&電動工具棚です。通路丸々全てを1つの工具ブランドで抑えるのはなかなか見られないのではないかと思います。

ちなみに、工具コーナーの別の棚には、Northem Toolのプライベートブランド KLUTCH(クラッチ)の製品が置かれています。日本でプライベートブランドと言うと細々とした低価格品の印象がありますが、KLUTCHはバリュー価格ではあるものの手工具の生涯保証や電動工具の2年保証などかなり力を入れて展開を行っているブランドのようです。

工具コーナーの少し離れたところに、またMilwaukee Toolの棚がありました。こちらははつり作業関係の棚のようです。

エア工具ではIngersoll Rand (インガソール・ランド)の工具が置かれていました。インガソール・ランドは日本でも正式販売を行っていますが、基本的には商社販売の工具なのでこんな風に店舗販売の製品を見ることはほとんどありません。

エアレンチ向けのコンプレッサーも普通に並んでいるのもアメリカならではでは無いでしょうか。と言うよりコンプレッサーにもKLUTCHブランドが並んでいるのは北米プライベートブランドのスケールの大きさを感じます。

店舗内を少し歩いたところには、KLUTCHブランドの溶接機までありました。

園芸機器コーナーに向かうとEGO・STIHL・Milwaukee Toolの製品が置いてあります。

STIHLは日本でも広く展開しているブランドですが、国内市場では販路が少し特殊で、インターネット上の情報も乏しいので、実物をじっくりと見てしまいました。

筆者の地域ではSTIHLのチェンソーを見ることもないので、じっくりと観察します。

今年、日本での正式販売が始まったEGOです。同行していたWASABI Channelさんは興味津々でした。

新興の工具ブランドの中では結構勢いがあるはずなんですが、この店舗では販売棚の空白が目立ちました。ノーザンツール的にはKLUTCHブランドの園芸機器と競合するので、やる気がなくなってしまったのかもしれません。
2区画だけですが、Milwaukee Toolの製品も並んでいます。Milwaukeeはどこのコーナーにも置いてあるので恐ろしさすら感じます。

とは言え、Milwaukee Toolの園芸コーナーも陳列に何となくやる気が感じられない印象を受けたので、こちらもこの店舗では本気度が高くないのかもしれません。下に置いてあるMilwaukee斧にそそられていましたが、飛行機じゃなければアウトドア用に買っていたかもしれません。
3店舗目:アメリカ最大のホームセンター The Home Depot
アメリカのホームセンターと言えばThe Home Depotです。店舗の外観を撮影し忘れてしまったので、WASABI CHANNELさんの動画を拝借します。
The Home Depotは売上高 16兆円 (USD 159.5億)を誇る超巨大販売店で、アメリカのほかにもカナダ・メキシコにも店舗を展開しています。売上の約半数がプロユーザーなこともあり、北米地域の売上確保にThe Home Depotは無視できない存在となっています。
ウィスコンシン州のMilwaukee本社に近い店舗である関係もあってか、店に入った直後からMilwaukee Toolの嵐です。下はレジ前の特設販売棚のMilwaukee Toolキャンペーンコーナーです。

それを奥まで進むとPACKOUTコーナー

少し戻ってて手工具コーナーに入るとMilwaukeeブランドの刃物類が並んでいます。

電動工具コーナーに入ると全体の半分以上の棚がMilwaukee Toolの電動工具で埋められています。

電動工具コーナーと言うよりも、もはやMilwaukeeコーナーと言った方が良いかもしれません。

ツールボックスコーナーに行ってもPACKOUTが見え隠れしています。

作業着コーナーに行くと、ここにもMilwaukeeが並んでいます。

こうしてみるとMilwaukee一色にも見えてしまいますが、The Home Depotにはちゃんと他のブランドの電動工具も並んでいます。マキタはこんな感じでした。

マキタXGTは北米でほとんど普及していないのかもしれません。と言うよりも、マキタがこんなに弱いのが予想外でした。とは言えこの辺りは地域的の問題であって、ウィスコンシン州ではマキタが弱いだけなのかもしれません。

Milwaukeeと同じTTIグループのRYOBIブランドは結構強い方です。ちなみに、北米の黄色いRYOBIは、現在の京セラインダストリアルツールズおよびリョービとは無関係のブランドなので混同しないようにしましょう。

レジ前の特設販売棚にはRYOBIも置いてありました。今回のMilwaukee本社訪問でTTIグループに籍を置く企業であっても、MilwaukeeとRYOBIは全くの別企業であることが分かったのですが、この扱いだと販売戦略的にはTTI資本がかなり強く影響しているのかもしれません。

園芸機器コーナーに向かうと、Milwaukeeがすし詰め状態で置かれていました。

ただし、RYOBIも同じくらいの販売棚面積で売られています。

マキタの園芸機器の販売棚はこれだけでした。しかもこの製品は微妙に長期在庫になっているようで、照明の光で箱が劣化して色褪せかけていたのがちょっとげんなりしてしまいました。

芝刈り機ではDeWALTが多く並んでいました。あとは日本のやまびこグループのECHOが奮闘していたのもちょっと意外です。マキタは何があったのか陳列棚がECHOに食われていたので、何があったんだろうと不安になるレベルです。

最後に釘打ち機コーナーを回っていたのですが、コンプレッサを撮影したところでカメラのバッテリが切れてしまいました。ちなみに釘打ち機コーナーは半分以上が充電式電動釘打ち機になっていて、そこもMilwaukee Toolの電釘で占められていました。

北米地域の電動工具販売店の象徴とも言えるThe Home Depotの状況がMilwaukee Tool一色だったのは結構驚きでした。もし、他の地域の状況も同じようであるならば、ここ最近のMilwaukee Toolが好調な理由も十分理解できます。
とは言え、この店舗はMilwaukee Toolのエリアマネージャーが配置されており、本社に近い店舗である点からも強力なマーケティングが敷かれているものと想像しています。ただ、そのような状況であってもDeWALTとマキタがここまで排斥されてMilwaukee Tool一色になっていたのは想像以上で、北米におけるMilwaukeeの強さを象徴しているものだと思っています。
4店舗目:住宅リフォームショップ Lowe’s (ロウズ)
最後に訪問したのが、北米2位の住宅リフォームショップ Lowe’s (ロウズ)です。

Lowe’sの訪問に関しては予定が組まれていなかったものの、ファクトリーギア代表 髙野倉氏と筆者の強い要望で最後に寄ってもらいました。
ちなみに、Milwaukee ToolsはLowe’sに販路を持っていないため、この店舗のみMilwaukee Tools以外のブランドの紹介が中心となります。
店舗に入ると真っ先にEGOが目につきました。

園芸機器コーナーでは最も大きい販売面積を確保しているのではないでしょうか。現在、脱エンジンの流れで園芸機器の電動化が進んでいますが、このように大々的に売られているのであればEGOも侮れないブランドであると言えそうです。
工具コーナーに入るとMetabo HPT (北米HiKOKI)が置いてありました。北米でも電動工具は展開しながらも事実上の釘打ち機メーカーと化してしますが、それだけで他社ブランド並みの陳列棚を確保しているのは相当のブランド力があっての物だと思います。

Metabo HPTの釘も大量に陳列されており、消耗品の分野でも結構売行きが良さそうです。

DeWALTはThe Home Depotにも販路を持っているはずなのですが、陳列棚確保の意味ではLowe’sの方で優勢に動いているイメージです。

これは地域的なものかもしれませんが、The Home Depotの陳列棚を失っている分、Lowe’sでの販売面積確保に動いているのかもしれません。

DeWALTと同じSBDグループのCRAFTSMANも置いてありました。ただしCRAFTSMANはDIY~ライト層向けのブランドでLowe’sを中心に展開が進んでいます。

実は今回初めて見ました、FLEXです。FLEXは日本では全く無名ですが、資本は中国Chervon社であり、先述のEGOと同じ資本の電動工具ブランドです。

FLEXは24V動作(6セル直セル)の充電式電動工具を展開しているのが特徴で、新興の中国系電動工具メーカーでありながら積層セルバッテリーパックも展開する野心的なブランドです。

Lowe’sと言えばKOBALTブランドです。KOBALTはLowe’sのプライベートブランドで、ハンドツール・電動工具・収納・屋外機器まで幅広く展開する実績のある工具ブランドです。

KOBALT電動工具に関しては製造開発は外部OEMに委託しており、24V電動工具や40V OPEはChervon、80V OPEはGreenworksと報じられています。
北米の電動工具ホームセンター事情の一端が見えた今回の視察
今回のホームセンター巡りについては、海外電動工具ブランドの動向や北米市場のトレンド、日本とは異なる店舗の販売スタイルなど、書きたいことは色々とあったのですが、すべてを盛り込むと冗長になってしまうため、今回はシンプルに写真中心の構成としています。
とはいえ、今回の訪問で得られた気づきや情報も多く、このあたりは改めて電動工具コラムとして近いうちにまとめられればと思っています。
さて、筆者は過去にもアメリカのホームセンターを巡ったことがあるのですが、今回のホームセンター巡りは約10年ぶりとなります。当時と比べても、北米の電動工具販売事情はかなり様変わりした印象です。
電動工具市場は、国や文化が違えば売り方も大きく異なり、やはり特殊な市場だなと感じるところがあります。特に北米市場は、日本とは異なる販売手法や売れ筋製品が多く、その違いは興味深いものがあります。
今回のツアーは、やはりミルウォーキーの印象が強く残る内容となりました。ウィスコンシン州という本社所在地に加え、訪問先のホームセンターもMilwaukee製品の取扱店が中心だったという点を差し引いても、北米におけるMilwaukee Toolの影響力がこれほど大きいとは正直予想していませんでした。
このあたりは筆者の電動工具市場に対する捉え方にも通じるのですが、電動工具市場というのは、性能そのものよりも「販売棚の確保」や「ネットを通じた露出機会の獲得」が最も重要な要素だと考えています。そういった意味で、Milwaukee Toolの北米展開戦略には非の打ちどころがないと感じます。
日本市場においても、北米ほどの規模ではないとはいえ、脱エンジン化による農機・園芸機器の充電式化の推進や、海外電動工具ブランドの新規参入、あるいは今後の電動釘打ち機の解禁など、北米と同様の市場革新が起きる可能性は十分にあります。その時、日本の電動工具市場が北米のような展開を辿るのか、それとも独自の方向に進むのか——。その行方については、今後も注視していく必要があると感じています