今回は3Dプリンタに欠かすことのできない「フィラメント」について解説します。3Dプリンタに使う樹脂材料は様々な種類があり、それぞれ一長一短な特性を持ちます。コストや用途から最適な材料を選定するのが樹脂造形の第一歩となります。
本記事で紹介する以外にも様々なフィラメントが販売されていますが、造形難易度や入手性の観点から、エンプラ系材料・ナイロン等の材料は省いています。
フィラー配合とエンプラのフィラメントについては「PLAやABS以外の特殊フィラメントで3Dプリンタをもっと楽しく!特殊フィラメント8選!」で解説しています。
目次
PLA(ポリ乳酸)
PLAは植物由来の二酸化炭素を排出しない原料で作られるカーボンニュートラルなプラスチックです。3Dプリンタのフィラメントとしては通販サイトで1,500円~3,000円と比較的低価格で販売されている材料であり、色やフィラー配合品など種類も豊富な材料です。
3Dプリンタの樹脂材料として非常に扱いやすく造形難度が低いのが特徴です。造形温度は180度からと比較的低く、造形後の収縮率が少なくて変形も小さいため、市販されてるほとんどの3DプリンタがPLAでの造形に対応しています。
材料の用途としては、3Dプリンタ造形時の安定した成形特性から、製品のデザイン確認などのプロトタイプやワンユースの造形などへの使用に使われます。
PLAの溶融時には有害物質や臭気が発生せず、造形中の周囲環境にも大きな影響がありません。フィラメントによっては造形時に特有の甘い匂いがします。
一方で、ガラス転移点が55~60℃と低く、温度に対する耐性が低い欠点があります。高温下では容易に変形してしまうため、実使用では注意が必要となります。造形後の加工性は非常に悪く、研磨や切断などは積層面から剥がれてしまい、塗料も乗りにくい材料なので後加工には向きません。
3Dプリンタで最も普及しているPLAですが、通常の射出成型ではあまり使われていなかった材料であり、製造メーカーは限られています。特に、2019年後半頃からPLA供給の逼迫が始まっており、今後の安定供給が懸念される材料です。1
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ABS
ABSは樹脂成型品に広くに使われ、耐衝撃性と硬さを有し機械的強度に優れているプラスチックです。
材料の用途はPLAと同じく、プロトタイプやデザインの確認など様々な場面で使用できます。ABSは量産品にも使われる材料なので、量産品と近い状態で製品評価が可能です。衝撃性も高いので、落としたり乱暴に使われるもの、高温環境下で使用するものなどにも使用できるため、PLAより機能的な部分で上回る多い汎用的な樹脂材料です。
ABSは加工性も高く、3Dプリンタで成形した製品でも切削や接着、溶接、メッキ、塗装など様々な後加工に対応します。
3Dプリンタにおいても優秀な樹脂材料ですが、ノズル温度の高さ(240℃以上)や収縮率の高さによる造形後の変形などが発生しやすく、PLAと比較して造形難度の高い樹脂材料です。造形時にはエンクロージャーで覆って温度を保ったり、造形形状を工夫して変形を抑えるなどの対応が必要になります。
造形中の欠点としては特有の異臭が発生するので、常に周辺への臭気の配慮を必要を必要とします。また、ABSは樹脂の熱分解で有害なアクリロニトリルやスチレンなどが蒸散する可能性もあるため、造形中は換気が必要となります。
ABSは耐薬品性が高く酸やアルカリにも耐性がありますが、有機溶剤には溶けるので注意が必要です。また耐候性は悪く、屋外に置くと紫外線の影響を受けて黄変や劣化が進行しやすくなる点にも注意が必要です。
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写真: Alan Chia – Lego Color Bricks
PETG(ポリエチレンテレフタラート)
PETGとは名前の通り、ペットボトルに代表される樹脂材料の1つです。比較的新しい材料であり、フィラメントの色など種類はあまり多くありません。
3Dプリンタの材料としては、PLAの造形のしやすさとABSの加工容易性を併せ持った材料です。比較的造形しやすい特徴を持ち、耐衝撃性も高くガラス転移点も高いため、造形品の安定性も高い材料です。
特性としてはABSに近いものの、ABSよりも収縮率が低く、大きい造形物を作成しても変形が少ないため3DプリンタにおいてはABSよりも使いやすい材料です。
PETGは非晶性樹脂のため、透明なフィラメントを使用した場合、他の材料よりも透明度の高い成形が可能です。
耐候性は悪い材料で、紫外線により劣化が進行しやすい欠点を持ちます。色の変化や機械特性の劣化を招くため屋外での用途には向きません。
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TPU(熱可塑性ポリウレタン)
3Dプリンタで使用できるフィラメントの中で、弾力性を持つ樹脂材料が「TPU」です。
TPUは他の樹脂材料と違い、ゴム的な弾力性を持つ「エラストマ」と呼ばれる樹脂材料です。高い衝撃耐性を持ち、耐候性、耐オゾン性も強く一般薬品への耐性にも高い特性を持ちます。
用途としては、スマホケースや靴底、グリップなど、弾力が必要な製品に幅広く使用できます。2種のフィラメントを使用できるデュアルエクストルーダー対応3Dプリンタを使用すれば、プラスチックとエラストマの二層成形品も造形可能です。
3Dプリンタの造形においては、造形難度の高い材料になります。
フィラメント自体が柔らかいためノズル詰まりや逆流が起こりやすく、振動によって造形品が揺れてしまうため最適な温度設定やプリントスピードの調整が必要になります。造形速度を一定にし、造形スピードを概ね20mm/s前後に調整することで安定するようです。
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