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2022年1月11日

中国ブランド電動工具の問題点、安さの裏にあるユーザー軽視の実態

中国ブランド電動工具の問題点、安さの裏にあるユーザー軽視の実態

記事の内容は投稿時の法令・制度及び筆者の解釈に基づいており、投稿後に法改正等がなされている可能性があります。記事を参考にされる際は、必ずご自身の責任において最新情報をご確認下さい。

技術的には妥協点、販売の実態はそれ以前

近年は、中国メーカーによる格安電動工具がネットモール上で盛んに販売されており、昨今のDIYブームと合わせて手軽に購入できる電動工具として話題を博しています。マキタやHiKOKIの有名メーカーの電動工具と比べ1/3~1/2以下の価格で販売されている中国ブランドの電動工具ですが、本当に問題のない電動工具なのでしょうか。

最初に結論から言ってしまえば、ネットモール上で販売されているほぼ全ての中国ブランド電動工具は存在を許容できる製品ではなく、購入も推奨できない製品、と断言できる製品です。

電動工具はそれ自体が共通化の進み切った製品であり、中国ブランドの格安電動工具に関しても単純な性能だけの評価であれば、日本の主要電動工具ブランドの10年くらい前の技術水準には達している製品です。仮に中国ブランドの超格安電動工具だったとしても、実際のDIYの作業の場において困るようなことはまずないでしょう。

では、性能的に問題のない中国ブランド電動工具に対し「許容できない」と断ずるその理由は何なのでしょうか。

今回の記事では、大手ネットモールで販売している格安電動工具の中国ブランド品の問題点について解説します。

中国ブランドの電動工具は販売方法に問題がある

中国ブランドの電動工具が安く販売されている理由こそ、日本市場で製品を販売するためのローカライズに掛かる費用をほとんど無視している点にあります。

本来のローカライズの意味はIT産業における翻訳やマーケティング戦略を指しますが、この記事解説内では法対応や販路構築なども含めた広義の解釈を持って解説を進めます。

例えば、海外地域に向けて作られた電動工具を日本市場で販売する場合、電気用品安全法(PSE)や安全衛生法に適合した製品に変えなければいけません。また販路を構築には地域販売店やホームセンターとの契約を結ばなければいけません。

これらのローカライズは「日本法人」の設立や販売活動を委託する「正規代理店」を通して行われるのが一般的です。

例としては、米DeWALT国内代理店にあたるポップリベット・ファスナー株式会社米Milwaukee日本法人 ミルウォーキーツール・ジャパンが挙げられます。

中国ブランド電動工具は、日本法人や正規代理店を立てることなく、事実上、海外から直接日本市場へ製品販売を行っています。一見すれば直売に近い形で低コスト販売を実現できる方式ですが、この販売方式は消費者保護を軽視する潜在的な問題を内包しています。

製品に問題が起こったとき消費者は守られるのか

ここで問題にしたいのが、中国ブランド電動工具の”保証”についてです。保証について意味を調べると下記のような解説が出てきます。

ほ-しょう 【保証】[名詞]
間違いがない、大丈夫であると認め、責任をもつこと。「品質を保証する」

デジタル大辞泉|小学館

この記事で掲げる保証とは、製品の不良や故障が発生した時に交換対応してくれるのかという話ではありません。問題としたいのは、製品の瑕疵を原因とする家財への損害や人身災害・事故が発生した場合に責任を負い、補償を行えるのかを論点に問題を提起したいと思います。

一般的に、製造物を原因とした損害が発生した場合、ユーザーはメーカーに対し過失責任を提起し、「製造物に欠陥があったこと」を要件に損害賠償責任を追及できる法律があります。この制度はPL法(製造物責任法)と呼ばれ、欠陥品によって被害を受けたユーザーを救済するために作られた法律です。

さて、このPL法ですが、輸入した製品の責任元においては下記のように定義されています。

第二条
3 この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。
 一 当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者(以下単に「製造業者」という。)

平成六年法律第八十五号 製造物責任法

中国電動工具ブランドの大半は日本法人や代理店販売を置いていません。中国ブランドの電動工具は、日本へ電動工具を輸入する輸入事業者がPL法上の責任元に該当します。

ちなみにこの法文の定義を別の視点から解釈すると、表向き電動工具の販売を行っている中国メーカーは、製造物の責任を負う立場にある「製造業者等」に該当しないとも解釈できます。

仮に構造的な欠陥を原因とするバッテリーの火災や園芸機器での人身災害が発生したとしても、中国のメーカーに直接責任を追及することは難しい状態にあります。極端な話、中国メーカーの工具本体やバッテリー故障の代品対応は彼らがレビュー評価を下げないために勝手に行っている行為であり、私財の喪失や人身傷害が絡む製品事故のような重大な賠償に対しては無視を決め込むことも可能です。

輸入品は、製造を行う海外企業に責任は無く、「輸入事業を行う国内企業」が責任元になる。見かけ上販売活動を行っている中国企業は、日本のユーザーに対して直接関与しない立場にいる。

歪な状態で販売が行われている中国ブランド電動工具

さて、「中国から日本へ電動工具を輸入する輸入事業者がPL法上の「責任元」に当たります。」とは言ったものの、中国ブランド電動工具のネットモール販売ページにその輸入事業者に関する情報はあるのでしょうか。

本記事で提起する最大の問題こそ、輸入事業者の情報が存在しない点です。例えば、Amazonの販売ページには販売元の情報を表示するページがありますが、中国ブランドの電動工具はその大半が中国の住所を記載しています。

仮に製品を原因とする事故が発生して何かしらの損害を受けた場合、この連絡先へ問い合わせを行い、PL法に基づいた調査依頼や賠償要求など何かしらのアクションを行うことができるはずなのですが、問い合わせ先が海外の場合だと手も足も出ないため、泣き寝入りの状態となってしまいます。

実際には中国から日本へ輸入している事業者がいるはずで、実際に問い合わせを行わなければならないのは日本国内の輸入事業者のはずなのですが、その大半が実態不明の名義貸し・書類上のみ存在する事業者であると予想され、実際に責任追及を行えたとしても、本当に責任遂行できる能力を有する企業なのか疑問です。

中国ブランドの電動工具は、中国本土の製造元の情報を掴めることが多いものの、日本国内の仲介しているはずの輸入事業者の実態はほとんど不明であり、有事の場合には実態のわからない輸入事業者を探すところから始めることになる。
マキタ製の互換バッテリーも輸入事業者の実態不明の代表的な海外製品だが、事故が発生しても「輸入・製造事業者が不明」を理由として泣き寝入りの状態になっている。
参考:令和3年度事故情報収集結果(R03年度第2四半期)|nite
[画像クリックで拡大]

当サイトが問題と感じた2つの事例

以前、当サイトでは中国ブランド電動工具の実態を探るべく、興味本位も含めて中国ブランドの電動工具メーカーのレビュー依頼を承諾していた時期もありました。

Amazon等の大手ネットモールで販売している中国ブランドの電動工具は、ほぼ全てのブランドが日本法人または正規代理店を設置していない状態で販売していると認識していたので、事前に下記の条件を設け、承諾を得た中国ブランドの製品のみを掲載することに決めてレビュー記事を掲載しました。

  • 最低限、経済産業省の定める「電気用品安全法 法令業務実施ガイド」上の “3.5.表示” のルールを守っていること
  • PSEマークに記載している事業者を輸入元として記事内に掲載し、責任元として併記すること
  • 相手方から上記2つの承諾を持って記事公開とすること

下記の2例は中国電動工具メーカーと実際にあったやりとりで、当時の内容を少し脚色して解説しています。

PSEマークについて問題があったケース

1例目は、電気用品安全法が定めるPSEマークの記載方法に問題のあったケースです。

アバター
ライター
御社の電気用品安全法の対応に関する運用はどのような形態になっているのでしょうか。関連資料や日本販売を行う企業の情報を下さい。
アバター
中国メーカー①
わかりました、PSE認定の書類を送ります
アバター
ライター
(欲しかった情報はそれじゃないんだけど、埒が明かないから現品確認で進めるか…)

送られてきた現品を確認したところ、PSEマークの表示方法に不備があったので、それを指摘しました。

アバター
中国メーカー①
指摘している問題について理解しました、どのように対応すれば良いのでしょうか

このケースに関しては、電気用品安全法を参照しながら中国メーカー側に指摘を行い、数か月かけてなんとか記事公開できる最低限のレベルまで漕ぎつけました。

これまでの経験として、ほぼ全ての中国メーカーは電気用品安全法について正しく理解していた例が無く、彼らの認識としてPSEは「規格として認定を取得すればOK」程度のようです。

相手側の対応から本当に電気用品安全法を満たしている製品なのかの疑問も浮かび、何よりも国内企業相手であればコンサルティング対応として請求が必要な規模にまで工数に膨らみながらも、なし崩し的に無償で指導を行ってしまった割の合わない案件になってしまいました。

冷静に考えれば、日本の輸入事業者を挟むことなく、中国メーカーに直接改善要求を行ったこと自体おかしな話であり、中国ブランド電動工具の異質さを証明してしまった事例とも言えます。

輸入事業者による保証体制が不明確になったケース

2例目は、輸入事業者における責任の存在が不明確になったため、記事削除に至ったケースです。

アバター
ライター
御社は日本で販売を行う企業の情報が無いので、製品のPSEマークに書かれてる輸入事業者を責任元として書き加えます。内容については予稿を確認してください。
アバター
中国メーカー②
予稿の内容で問題ありません。公開してください

中国ブランドの電動工具の紹介記事を公開したものの、後日になって連絡が入り…

アバター
中国メーカー②
当社と輸入代理店の間に何かしらの合意があるような情報を記載する事は許可していません、該当する部分を消してください。
アバター
ライター
これは日本の製造物責任法の説明であり、企業間の契約・合意を記載するものではありません。法律の解説として、輸入品に重大な事故が発生した場合には輸入者が責任を負うことを明記しているだけです。

相手方の企業は、日本の輸入事業者と中国の製造元の間に何かしらの契約があるような書き方を止めてほしいと考えたようです。こちらの言い分としては、そのような契約の有無以前の問題として日本の法律の解説として製品の責任は輸入事業者が負うものであると説明しましたが、最終的には…

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中国メーカー②
そちらの言い分は理解しました、私たちはその考えを尊重します。申し訳ありませんが、該当する記事は削除してください。

残念ながら、この削除要請によって「中国企業と輸入事業者の間に製造物責任に関する取り決めが存在しない」または「輸入事業者が責任を負わない」可能性があることを示す結果となってしまいました。

本来、中国のメーカーとは別に日本国内の輸入事業者を掲載したところで不都合になることはありません。PSE上の事業者と実際の輸入事業者が異なっていたならこちらの非ですが(それはそれで別の問題ですが)、その場合なら正しい輸入事業者に変えてくれとするのが筋です。

輸入事業者の掲載拒否は「日本における保証体制が全く存在しないことと同義」と解釈することもできます。

当サイトはこの案件を最後に、当面の間「中国ブランドの電動工具には関わらない」を方針としています。

安易に格安海外電動工具をおすすめする動画配信者も考えもの

DIY関連の動画を上げている動画配信者の方を見ていると、「安いから」「レビュー案件」と中国ブランドの製品をおすすめしている方も見受けられます。

工具や使い方やレビュー解説の動画構成に関しては、当サイトのライターよりも優れている方ばかりで、内容も分かりやすくて購入したくなってしまう内容に感心することも多いです。

動画配信者の方全てが該当する訳ではありませんが、工具の使い方に慣れているのと安全性や法律上の問題は全く別の概念です。電動工具の選び方を動画で参考にしている方はこれまで全く工具に触れたことがない初心者の方も多いので、「安いから」と法律上少し問題のある製品を安易におすすめしてしまうのも考え物です。

中国ブランドは日本市場を軽視しているからこそ安い

この記事の中だと中国ブランドの電動工具を全て非難しているようにも見えてしまいますが、法律上適切な方法で販売を行ってくれさえすれば、むしろ低価格な中国ブランド電動工具は歓迎したいとも考えています。

実際の所を言ってしまえば、欧米地域の規格は正しく取得していると思いますし、日本以外の地域で実績のある製品で問題が起こるのかを考えた場合、実際のリスクはほとんど無いと考えても良いでしょう。

ただし、製品の完成度と法令対応の問題は全く別次元の問題です。

現在の中国ブランド電動工具の実態は日本の法制度の軽視によってユーザーを蔑ろにすることによって低価格販売を実現しており、消費者が一方的に不利になる状態で販売が行われている現在の中国ブランド電動工具の存在は不健全であると捉えています。

少なくとも、日本での販売活動を中国企業が行い、法律上の責任元が実態不明の輸入事業者、のようにさまざまな状態が乖離している現状は法制度による対応が難しく、ユーザー側の自衛手段としては関わらないようにするしかありません。

筆者は、電動工具は刃物やリチウムイオンバッテリーを取り扱う製品であり、使い方を1つ間違えれば悲惨な結果に繋がりかねない危険な製品であると捉えています。そのような製品は1つ有事が起きれば被害が拡大しやすく、そのような不慮の事態から消費者を法律的に確実に守るためにも適切な販売体制が必要であると考えています。

電動工具を購入するのであれば、日本地域に本拠地を置く現地法人販売か正規代理店販売を行うブランドが推奨できる最低限のラインと言えるでしょう。

参考

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