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2023年8月28日

日立造船や日本電気硝子が全固体電池を展示 第14回 国際二次電池展 [春]【イベントレポート】

日立造船や日本電気硝子が全固体電池を展示 第14回 国際二次電池展 [春]【イベントレポート】

スマートエネルギーWeek2023が開催

スマートエネルギーWeek[春] 2023が、東京ビッグサイト(会場:東京都江東区 2023年3月19日~21日) で開催されました。

今回のイベントレポートでは、「第14回 国際二次電池展」の展示会場を中心に、全固体電池など次世代二次電池の技術開発がどのような動向にあるのかをレポートします。

日立造船株式会社
全固体5,000mAhセル AS-LIB試作品を展示

日立造船株式会社は、全固体リチウムイオン電池 AS-LiBを展示しました。このAS-LiBは三井金属工業社製の硫化物固体電解質「A-SOLID」を採用する全固体リチウムイオン電池です。

電極や構造の設計を見直すことで、全固体電池単体としては容量の大きいバッテリー容量 5,000mAhの高い水準を実現しています。また、全固体化により温度仕様域や使用環境が広がり、真空中での充放電も無拘束で可能になりました。

この全固体リチウムイオン電池は、今後宇宙環境や真空装置関連の用途に応用されることが期待されています。真空中での充放電が可能になったことで、使用環境が広まり宇宙環境や真空装置のような新市場でのバッテリー運用が見込まれるものと考えられます。

ただし、今回展示した全固体バッテリーのサイズはL58×W132×H16mmであり、現行の21700セル比較で約1/5の体積エネルギー密度しかありません。また、開示されている放電レート特性によれば、1C放電までしか確認できておらず、電動工具のような高出力製品に採用できる段階にはまだ達していません。

現段階では、この全固体リチウムイオン電池は特殊環境での使用を目的とするもので、一般向けを想定したバッテリーとは異なるものです。しかし、今後の技術開発が進めば一般向け用途にも適用される可能性もありそうです。

放電レートは1Cまで確認されているが、工具や高出力モバイルバッテリー用途では物足りなさがある。今回の全固体電池は極地環境向けなので、より高い容量密度と出力密度の向上が期待される
画像引用:容量5,000mAhの全固体リチウムイオン電池試作品を二次電池展に参考出展|日立造船

日本電気硝子株式会社 
オール酸化物全固体ナトリウム(Na)イオン二次電池

日本電気硝子株式会社は、オール結晶化ガラスの全固体ナトリウムイオン二次電池を用いた容量500mAhのモデルが披露されました。

正極、負極、電解質のすべてを結晶化ガラス化を実現しており、同社従来品と比較して同容量で2倍の容量密度を実現したのが大きなポイントです。同社は2021年から全固体ナトリウムイオン二次電池の開発を進めており、今回の展示では大幅な容量向上が達成されました。

全固体ナトリウムイオン電池は、リチウムやレアメタルを使用していないため、地政学的なリスクや価格高騰による影響を受けにくく、安定した調達が可能であることが強みになると考えられます。今後のバッテリー市場や開発状況次第では、同社の全固体ナトリウムイオン二次電池は大きな発展が期待できるかもしれません。

日本電気硝子株式会社のナトリウムイオン二次電池は展示会ごとに性能向上を続けており、個人的にも今後の開発傾向や展示品の内容に注目しています。

オール酸化物全固体ナトリウムイオン二次電池は極材料と電解質を全て結晶化ガラスであるため動作温度域が高く発火や爆発のリスクも低くなっている。
画像引用:世界初、結晶化ガラス固体電解質を用いたオール結晶化ガラス全固体ナトリウムイオン二次電池を開発|日本電気硝子株式会社

ソリッドバッテリー株式会社 
詳細不明の全固体電池メーカー

スマートグリッドEXPOエリアの展示ブースには、据え置き式から手持ちサイズまで30種近いサイズの全固体電池を展示していたソリッドバッテリー株式会社がブースを開いていました。

ブース内には企業概要や資本を表す資料や展示が一切無く、ブース内では写真撮影も禁止されていました。このことにブース内説明員に質問したところ、イベントに関しては直前に中国側から情報開示禁止が通達されたらしく、詳細については近々ニュースリリースを出すとのことでした。

中国AMPower社の技術提供を受けて日本ブランドを掲げたバッテリーブランドとすることを予定とのことで、展示の方針としては、全固体バッテリーそれ自体よりもバッテリーを運用した蓄電システム向けにアピールを行いたいようでした。

RXJapanの展示会は門戸が緩いので稀に不審な企業も入り込むことあり、過度に情報を隠す点は怪しく見える部分もあったものの、筆者の質問に対して説明員は納得のいく形で答えてくれたので、一応国内展開の全固体電池メーカーとしてチェックリストに加えておく形にしたいと思っています。

イベント全体の傾向として全固体関連の展示は沈静気味
中国ブース展示増によるポタ電が中心に

2023年春の二次電池展では全固体電池に関連する展示は減少した印象があり、2018年頃から始まった全固体ブームは一旦落ち着いたものと考えられます。

現在の全固体電池の動向としては、局地仕様などの特定用途向けの全固体バッテリーは実用に達しているものの、民生向けに一般普及する段階には遠く、性能・コスト的に当面液系リチウムイオンバッテリーの市場環境が続くと予想される印象を受けるものでした。

今回の二次電池展で特に増えたのが、中国メーカーによるポータブル電源関連の展示ブースです。新型コロナウイルスが落ち着き渡航制限が緩和されたことから、日本市場への展開を狙っているようにも見えました。

展示会では中国企業を中心とする多種多様なポータブル電源が展示されていましたが、ポータブル電源はバッテリー電源をAC電源に変換する装置であるシンプルな製品であるため、根本的な差別化は難しくレッドオーシャン化は避けられないものと考えられ、そう遠くないうちに市場淘汰が進むことが予想されます。

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