マキタは電気工具メーカーの中でも世界的なシェアと高い品質で知られ、その充電式製品の戦略も注目を集めています。今回は、マキタの充電製品戦略における電動工具市場の現状や課題、総合サプライヤーを目指す理由、製品開発における取り組み、競合他社との差別化戦略、そして今後の展望と戦略の可能性について解説します。
目次
マキタが掲げる「充電製品総合サプライヤー」とは?
2021年末ごろからマキタは決算説明会上で充電製品の総合サプライヤーを掲げています。この充電製品の総合サプライヤーとは「ありとあらゆる製品で充電化を推進する」であると説明しており、製品ラインアップ拡充による販売拡大の積極的な取り組みであると予想されます。
直近の例では、マキタの主力製品であるプロ向けの現場用充電式電動工具だけでなく、清掃業者向けの充電式掃除機やアウトドアや防災にも利用できる充電式ライト、さらには充電式家電など幅広い製品の充電式化を進めることで、従来の電動工具市場に留まらないさらなる売上拡大を見込む戦略と捉えています。
マキタが充電製品の総合サプライヤーを目指す理由
電動工具市場は元来建設関連業と密接な関係を持ち、常に住宅市場動向や公共工事事業に左右される市場です。
アナリストによるレポートでは電動工具市場は堅調に成長すると予想していますが、金融不安による景気悪化や電動工具の共通化が進むことによる競争激化などさまざまな不安要素もあり、必ずしもすべての電動工具メーカーが成長できるとは言い難い状況にあります。
電動工具市場は成熟が進んでいるために新規顧客の獲得はほぼ見込めない状態であり、また充電式バッテリーのプラットフォーム化に伴う各社のユーザーの囲い込みによってシェア率も変わりにくい状態になっています。その中においてマキタは日本国内においては国内シェアトップを誇り、世界的にも高いシェアを持つ電動工具メーカーです。
そのためマキタの取り得る戦略として、コトラー競争地位の考えとしてリーダー企業に位置することとなり、市場そのものを拡大させることで新規ユーザーを獲得する方針が中心となります。
昨今の電動工具メーカーは従来のような現場向けの作業道具だけではなく、リチウムイオンバッテリー製品開発技術を応用して充電式の製品それ自体も開発販売もできるようになりました。そのため、マキタは市場のポジションや製品開発多様性の点から、市場規模の拡大を行う上でとても都合の良い位置にいる状態とも言えます。
話題性としては注目度十分、しかし普及するかは別の話
最近のマキタは充電式電動工具に留まらず、充電式レンジや充電式ケトルなど家電領域の製品展開も行っています。マキタにとっては新カテゴリの製品になる訳ですが、過去にもマキタは電動工具以外の新カテゴリ製品を発売しており、その中には成功を逃した例や事業の柱にもなり得る例にまで成長したものもありました。
マキタは過去にポータブル電源の市場確保に失敗している
今回の例で最も懸念しているのが、マキタが2012年に発売したポータブル電源 PAC100の事例です。
現在、ポータブル電源はJackery、EcoFlow、BLUETTIなどの特色のあるメーカーがさまざまな製品を展開しており、ホームセンターやネットモールなどを中心に販売が進んでいます。
実はマキタもポータブル電源の普及が進んでいない2012年にリチウムイオンバッテリー搭載の出力AC100Vのポータブル電源 PAC100を販売していました。しかし、マキタはこの製品以降バッテリ一体式のポータブル電源を販売しておらず、現在のポータブル電源市場において、マキタの影響は一切残っていません。
マキタの当時のコンセプトとしては、2011年に発生した東日本大震災による防災需要を見越した製品でしかなく、本腰は入れていなかったと言いたい製品なのかもしれません。しかし、結果としてマキタはポータブル電源の製品開発や市場投入は行いながらも、その後の100億ドル市場とも言われるポータブル電源市場を獲得するチャンスを見逃しています。
マキタクリーナーの普及の背景にある通販生活の存在
もう一つ挙げられるのが、マキタクリーナーの普及についての事例です。
今でこそマキタクリーナーは現場用の掃除機としてだけではなく、ダイソンに並ぶ家庭用の2台目クリーナーブランドとしての地位を確立しており、今では清掃事業として新たな収益の柱にするべく力を入れていますが、筆者はその背景にある通信販売大手である通販生活の存在も無視はできません。
通販生活とマキタは長い付き合いがあり、通販生活ではリチウムイオンバッテリー普及以前の4072Dからマキタクリーナーの販売を行っています。その時点から一般家庭へのマキタクリーナーの普及は進み始めていましたが、リチウムイオンバッテリー搭載モデルのマキタ ターボ(CL103DW)の登場によって「マキタのクリーナーは良いらしい」との口コミでマキタクリーナーはより一層普及し、マキタ現場用クリーナーが幅広い市場に受け入れられる高い評価につながったものと考えています。
この時代には、マキタ以外にも日立工機やRYOBIなども近い仕様の充電式クリーナーを展開していましたが、筆者は一般家庭向けの通販生活のような販売チャネルの有無が電動工具ブランドにおけるクリーナー拡販戦略、さらにはブランディングの明暗を分けたものと考えています。
利益確保のファンアイテムか、次の市場を見通す取り組みか
筆者の個人的な見解ですが、直近に発売したマキタ充電式ケトルや充電式レンジ・充電式アシスト自転車のような個性的な充電式製品は、電動工具市場としての売上拡大や今後の多様性を表す意味で好意的には見えるものの、既存のマキタユーザーに対するファンアイテムでしかないと捉えています。
独自性や性能面などで個性的な立ち位置ではあるものの、結局はマキタの既存販路に売り込むマキタ経済圏の中で完結に留まっており、それは電動工具市場の中にある小さな利益を確保するだけのやり方にしか見えていません。
仮に、1月に発売した充電式アシスト自転車 BY001Gを自転車市場へ本格的に普及させつつ40Vmaxシリーズの存在を他分野のユーザーにアピールするのであれば、工具販売店での販売ではなくホームセンターの自転車コーナーに陳列するのは当然でしょう。
咥えて、後発であるマキタが今からシェアの確保と十分なサポート体制の拡充を早期に図るためには有力な他社との提携による「株式会社あ〇ひとの業務提携による充電式アシスト自転車市場参入のお知らせ」のような取り組みも不可欠だと考えています。
現在のマキタが行っている「電動工具市場にとって新規性の高い製品を既存ユーザー中心に販売する方法」は周辺需要の拡大の意味で賢いビジネスモデルとも言えますが、後の大きなビジネスモデルには繋げられる売り方とは言い難く、企業としてのマキタを大きくするような取り組みには見えません。
個人的な推察としては、ポータブル電源 PAC100の時と同じく、もう少し技術革新が進んだあたりで既存メーカーによる新ブランド戦略による正攻法や、ちゃんとしている中国メーカーの物量に押され、マキタが今行っている先進性は全て失われる可能性も在りうると考えています。
もし本当に充電製品の総合サプライヤーを目指しているのであれば、電動工具ユーザーに甘んじている状態から脱却し、電動工具ユーザーとは異なる視点から売り上げ拡大を図り、本当の意味で「充電製品の総合サプライヤー」としての勢いを見せてほしいと思ってしまうのが正直なところでしょうか。