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2023年11月16日

なぜ「バッテリー共通化」は実現しないのか①【バッテリー共通化の現実】

なぜ「バッテリー共通化」は実現しないのか①【バッテリー共通化の現実】

電動工具ユーザーが願う「バッテリー共通化」

電動工具を扱う方なら1度は「全メーカーで共通のバッテリーにしてほしい」と思うでしょう。実際には充電式電動工具のバッテリーは各メーカー異なるバッテリーを採用しており、それぞれに互換性はありません。

電動工具メーカーは得意とする製品や独自製品や独自機能によってシェアを拡大しようとしていますが、バッテリーの互換性によって大きく制限されています。新たなメーカーの充電式電動工具を新しく買うためにはバッテリーと充電器もセット購入しなければならず、ユーザーの負担は大きくなってしまいます。

ユーザーの利便性を考えるなら、電動工具メーカー間でバッテリーを統一したり、積極的にライセンス化して異なるメーカー間でバッテリーを使いまわせるように利便性を上げた方が良いのですが、リチウムイオンバッテリー登場から約20年経過した現在もそのような動きは見られません。

今回は電動工具業界でなぜ「バッテリー共通化」が実現できないのか、その理由について考察します。

バッテリー共通化のメリット

各メーカー間でバッテリーを共通化すると、どのようなメリットがあるのか考えてみましょう。バッテリーを共通化すると、主に利便性向上や低コスト化などユーザー側のメリットが大きくなります。

同じバッテリーで複数メーカーの製品を使いまわせる

最も大きな利点こそ、異なるメーカー間でバッテリーを使いまわせる利便性です。

1種類のバッテリーでさまざまなメーカーの電動工具に対応できるので、バッテリープラットフォームを気にすることなく自由に製品を購入できるようになり、バッテリーを現場に持ち運ぶ数も必要最低限で済みます。

専業メーカー参入による低価格化・高品質化

現在の電動工具の主力は充電式製品です。これまでAC電源やエンジン機器の開発を行っていたメーカーも否応なくリチウムイオンバッテリーを搭載しないと売れない時代になってきています。

共通バッテリーがあれば、充電式製品開発のノウハウが乏しくても充電式製品の開発ができるようになり、それまでの強みを生かした製品開発を続けられます。

また、新たにバッテリーパック専業メーカーも参入できるようになるため、バッテリーパック生産ラインの転用による低コスト化や複数企業参入による価格競争も期待できるようになり、低価格で品質の良いバッテリーを手に入れる機会が増加します。

製品展開や販売店の多様化

現在の充電式電動工具用のバッテリーはあくまでも「電動工具」のためのバッテリーなので、金物屋やホームセンターの電動工具コーナーでしか取り扱いがありません。家電メーカーや新興EVに採用されれば、より生活に身近なバッテリーになるでしょう。

例えば、電気屋やコンビニで買えるようになるかもしれませんし、街中に充電スポットが誕生するかもしれません。

バッテリーを共通化しない理由

相性や動作保証の問題など課題もありますが、技術的にはメーカー間の垣根を超えるバッテリー共通化の実現はさほど難しいものではありません。

バッテリーの共通化はユーザーが常に声を上げている要望であり、メーカーもそれを把握しているはずです。共通バッテリーが実現しないのは、主にメーカー側の経営的判断やコスト的な都合が大きな割合を占めます。

共通化に向けてライセンスを積極的に展開したりメーカー間の協議を行わない理由について代表的な例を考えてみましょう。

電動工具メーカの売上が下がる

現在、充電式工具のバッテリーは各充電式シリーズを展開するメーカーがぞれぞれ独自のバッテリープラットフォームを展開しています。メーカーにとって充電式シリーズの根幹を成すバッテリーの売上高は経営指標上無視できない存在になっています。

仮にバッテリーを他社ライセンス化して、新規参入メーカーによる低価格なバッテリーが普及したらどうなるでしょうか。

購入ユーザーはメーカー選択の自由が生まれ、必ずしも純正バッテリーを選ぶ必要がなくなるので純正メーカーの売上は減少します。バッテリーの利益によって新製品開発予算の確保や採算性の悪い製品の補填に使っている側面もあるため、電動工具とは関連の薄い製品展開や研究開発を維持できなくなる可能性が高くなります。

ライセンスよりも開発費の方が低コスト

マキタやHiKOKIからライセンスを受けて同じバッテリーを使えるような充電式製品は存在はするものの、その実態は電設工具や油圧工具の高価格帯の製品が中心になっています。

これはバッテリーを使うライセンス費や調達部品のコストが高いため、実質的にこのコストを無視できるような高価格な製品しか製品化することができないと考えられます。そのため、正規部品や正規ライセンスを受けた状態でライトや家電製品のような低価格製品にライセンスを付与した製品を販売することは、コスト的な観点から難しいと考えられます。

近年はバッテリー技術のノウハウや充電管理ICチップなども普及しており、第二のシリコンバレーとも呼ばれる中国深セン市の海外メーカーを活用すれば充電式機器の新規開発コストも比較的低価格で実現できるようになっています。そのため他社からライセンスを受けなくても、比較的コストをかけず開発できます。

ここ最近はエンジン機器を作っていた造園・園芸機器メーカーも脱エンジン化の流れを受け、海外企業によるODM生産で充電式製品を販売する傾向が見られます。

バッテリー共通化を実現するためのハードルは高い

電動工具は共通化が進み切っており、メーカー毎の特徴の差を出しにくい製品です。

例えば、インパクトドライバは電動工具を代表する最も売れている製品で各社力を入れて高性能フラッグシップモデルを販売していますが、バッテリー共通化が進めば、インパクトドライバの開発を得意とするメーカーにシェアが集中してしまい何社かはインパクトの開発を撤退せざるを得なくなるでしょう。

これがユーザーにとって良いと考えるか悪いかと考えるかは人それぞれだと思います。バッテリー独自規格の乱立はユーザーのコスト的には非効率ですが、製品の多様性を維持する要因になっているのもまた一つの事実です。

「バッテリー共通化」は異なるメーカー間でバッテリーを使える利便性の向上だけに留まるものではありません。

共通化は参画する企業が多くなるほど企業体制や工具産業そのものに大きな影響を与える施策です。現在のコロナの影響で比較的好需要状態にある電動工具メーカーが、わざわざバッテリー共通化に舵を切って売上高の低下リスクを招く判断を下すことは無いと筆者は考えています。

次回は、どのような状況になるとメーカー間のバッテリー共通化が実現できるのか考えてみます。

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