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新構造のグラフェンバッテリーを採用する電動工具バッテリーが登場
建設機械を取り扱うキャタピラー社は、2021年にグラフェンバッテリーを搭載する充電式電動工具バッテリー発売しました。
グラフェンバッテリーとは、原子1個分の厚みを持ち炭素原子が六角形の格子状に連なった2次元層状物質のグラフェンを採用するバッテリーです。従来リチウムイオンバッテリーより効率的なエネルギー伝達と4倍の長寿命、広い温度動作範囲を持つ次世代バッテリーとして注目されています。
今回キャタピラー社が充電式電動工具用途に開発したのは、積層型グラフェンバッテリーを搭載する18V-5.0Ahクラスのバッテリーです。同社が展開する18Vバッテリーシリーズに対応しており、18V-4.0Ahバッテリーや18V-2.0Ahバッテリーと共通で使用できます。
性能は向上しているものの、価格は2倍・重量は60%増加
鳴り物入りで登場した次世代バッテリーCAT Graphenバッテリーですが市場の評判は芳しいものではなく、電動工具市場における影響力は皆無に近く、Graphenバッテリーに追従する電動工具メーカーは今のところ存在していません。
Graphenバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーと比べ、4倍のサイクル寿命・3倍の充放電性能・-25℃動作も可能とする高性能バッテリーですが、価格面で同仕様の18V-5.0Ahバッテリー比較で約2倍と高価で、重量も一般的なバッテリーが0.6kgに対して1kgと悪化する結果となり、ユーザーから見て魅力的では無かったためと考えられます。
性能向上は必ずしも市場シェア獲得に結び付かない
今回のグラフェンバッテリーに関しては、電動工具市場として新規参入メーカーであるCATが他社差別化のために投入した商材だと見ていますが、性能差別化とマーケティングに偏重し過ぎた結果、今回のようなユーザーの意向を軽視した製品を投入してしまったものと考えています。
グラフェンバッテリーによる性能向上は確かに魅力的であり、従来比で4倍のサイクル寿命を持つのであれば例え2倍の売価であっても長い目で価格的なメリットは享受できるようにも見えます。
ここでネックとなるのは、プロ向け電動工市場の普及率は100%に近い状態であることと、各社で独自のバッテリープラットフォーム化が進んだことでユーザー移行が難しい状態にある点です。
最近の充電式電動工具は、工具以外へも製品展開が進んでおり、バッテリープラットフォームへの依存は高まっています。バッテリー製品を数多く揃えているユーザーからすれば、別のバッテリープラットフォームへの移行は金銭や時間的な負担も大きく、ある程度の性能向上やちょっとしたコストパフォーマンスの上昇くらいでは移行するメリットを見出すことはできません。
電動工具は少し特殊な商材であり、一般向けに販売されている製品でありながらも仕事道具として使うユーザーが大半を占めています。プロのユーザーが使うからこそ、実用性には厳しい目を向けられています。そしてその実用性は製品の性能だけではなく、プラットフォームとしての評価なども含まれていることを忘れてはいけないのかもしれません。