ホームセンターでボルトやナットを探していると「ユニクロ」と書かれた金属部品が数多く並んでいるのを見る方も多いと思います。ユニクロはステンレスよりも安く、見た目にも優れているので、広く使われている亜鉛メッキの製品です。
当記事では、ユニクロがどのような製品なのか、特徴や種類について解説します。
目次
ユニクロとは亜鉛メッキに表面処理を行ったもの
ユニクロとは、鉄鋼材料の電気亜鉛メッキ品にクロメート処理を施した資材の総称です。ユニクロの外観は青みがかった銀色の色調が特徴です。
鋼材はそのまま使用するとすぐに錆びてしまうため、電気亜鉛メッキを施して鉄錆が発生しないように表面処理を行います。しかし亜鉛メッキを施した状態でも犠牲防食作用によるメッキの腐食は激しく、早い段階で外観を損ねてしまうため、電気亜鉛メッキの状態そのままで使うことはほとんどありません。
電気亜鉛メッキ品は、メッキの良い状態を長く保つための後処理として、クロメート皮膜を形成するのが一般的です。クロメート皮膜は、変色耐性や耐食性を向上するクロム酸塩による表面処理です。つまりユニクロとは亜鉛メッキ品にクロメートと呼ばれる表面処理を行った製品を指す1分類であり、広義の亜鉛めっきの種類の1つに分類されます。
ユニクロの語源は米ユナイテッドクロミウム社が開発したユニクロムディップコンパウンドと呼ばれる処理液からきており、そこから転じてユニクロと呼ばれるようになりました。ユニクロはユニクロ以外のクロメート処理やアパレル企業のユニクロとの差別化から「光沢クロメート」とも呼びます。
ユニクロは亜鉛めっきそのままの状態よりも耐食性に優れ、良好な外観を得られることから、建築から家電・車産業など幅広い業界で採用されています。
クロメートは表面処理によって固定化された三価の水和クロムと残存する六価のクロムを含む状態で被膜中に存在するので、クロメートがはがれて亜鉛素地が露出しても、周囲の六価クロム浸出によって被膜の修復する作用を持ち高い耐食性があるので、被膜が長持ちする特徴を持ちます。
企業によってはユニクロをユニクロームと表記する場合もありますが、呼称が異なるだけで同じ製品です。
ユニクロメッキが使われている製品・資材
ユニクロは鉄(合金)材料に幅広く用いられ、SPCC, SS400, S45C, SKS93等身近な鋼材材料に採用されています。
ユニクロに近い用途の金属材料にはステンレスが挙げられますが、ステンレスは耐食性・耐候性に優れる一方で加工性やコストパフォーマンスが悪いので、ステンレスの利点を必要としない場所にユニクロが多用されます。
ボルト・ナット・ビス
全ねじ(寸切ボルト)
金具
スチールチェーン
ユニクロメッキの電気抵抗について
ユニクロは電気抵抗値に大きな違いは発生しないとされていますが、ユニクロ以外のクロメート処理では電気抵抗値が変動するため注意が必要です。
表面処理 | 電気抵抗値(μΩ/cm2) |
---|---|
亜鉛金属のみ(クロメート処理なし) | 0.02〜0.05 |
ユニクロ(光沢クロメート) | 0.02〜0.05 |
有色クロメート | 0.2〜0.8 |
黒色クロメート | 1.0〜2.0 |
※引用:電気亜鉛めっき後のクロメートの電気抵抗について|三和メッキ工業株式会社
ユニクロメッキはRoHS指令の規制対象
ユニクロメッキが含む六価クロムには人体に対して有害な発ガン性物質です。
クロメート処理に使われる六価クロムが含む三酸化クロムの人体に対する致死量は約1~3グラムです。1
EU諸国では、人体への影響や環境への負荷から有害物質を規制するRoHS(II)で指定する10の制限物質に六価クロムを指定しており、製造品および輸入に対して厳しい制限を課しています。2
RoHS指令はEU諸国の電子部品・電化製品を対象とした発令です、近年は環境問題に対する意識の高まりによって中国・アメリカ・韓国など多くの国で独自に規制内容を取り決めたRoHS指令があり、あらゆる製品・分野・地域でRoHS指令を基準とした物質規制が行われているため注意が必要です。
日本においても、RoHS指令に関連する規制として資源有効利用促進法やJ-MOSSと呼ばれるJIS規格があります。
ユニクロ以外の亜鉛メッキ クロメート処理について
ユニクロはクロメート処理の種類の1つです。このクロメート処理は使用する薬剤や処理時間を変えると異なる特性を得られる特徴があり、用途によってユニクロ以外のクロメート処理品が採用されます。
一般的なユニクロは耐食性よりも外観を重視しており、耐食性やさらなる美観が求められる場合にはユニクロと異なるクロメート処理品を採用します。
種類 | タイプ | 外観 | 耐食性 白錆発生時間(h) | 全クロム量 (mg/m2) | 六価クロム量 (mg/m2) | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|---|
ユニクロ | 外観型 | 青銀白 | ~24h | 30~40 | – | 美観を充填し、耐食性は要求されない分野で利用。 |
ユニクロ | 耐食型 | 青~淡黄 | 48~96h | 40~80 | ~10 | 光沢と耐食性が要求される分野で使用。 |
有色クロメート | 一般形 | 虹 | 96~120h | 100~200 | 20~40 | 耐食性重視の分野で使用される。 |
有色クロメート | 密着型 | 虹 | 72~96h | 80~150 | 10~30 | 密着性を重視している |
黒色クロメート | 外観型 | 黒 | 24~72h | 150~300 | 20~30 | 耐食性良好。装飾的にも良く使用する。 |
黒色クロメート | 耐食型 | 黒 | 96~120h | 300~500 | 40~70 | 耐食性・退行性重視分野で利用する。 |
グリーンクロメート | 耐食型 | 緑 | 400~500h | 400~700 | 50~120 | 最も耐食性に優れる。環境規制により採用は減少 |
クロメート処理方法の違いによる呼び方は複雑で、化成的な処理名や製品名・商標が入り混じっている上に地域や業界による表現の振れもあり、外観や呼び方だけではわからないことも珍しくありません。略称では正しく伝わらないことも多いため、発注や納品時には注意が必要です。
※引用:鉛めっきのクロメート処理の現状と将来|大阪府立産業技術総合研究所
三価ユニクロ(別称:三価クロメート)
近年は、RoHS指令の規制対象となる六価クロムを含まない三価クロメートと呼ばれるクロメート処理品が広く採用されています。自動車関連・弱電関連を中心に三価ユニクロ採用が常識とされています。
一般的な三価ユニクロはシルバー調の色調ですが、着色や処理方法によってユニクロに近い青銀調や有色クロメート・黒クロメート等と同様の外観形状を持たせた製品もあるため、外観だけで六価と三価の判別は難しくなっています。
原理上、三価ユニクロは三価クロムによる単独被膜しかないので六価→三価による被膜の自己修復性が無く、処理技術・工程管理が難しく高コスト傾向と言われています。
ただし現在は薬品メーカによる膜質改良剤の併用や処理技術も進み、六価クロムの有色クロメート処理品と遜色がないレベルに到達しています。しかし処理業者レベルで耐食性や色調の安定に大きな違いが出るので注意が必要です。
クロメート(別称:有色クロメート)
クロメートとは、クロメート処理液の浸漬時間を長くして被膜を厚くしたクロメート処理です。ユニクロよりもクロメート化成皮膜層が厚くなるので優れた耐食性を持つのが特徴です。
クロメートの呼び方は、処理方法それ自体のクロメートと識別するため「有色クロメート」と呼称されますが、施工現場においては単純にクロメートと呼ばれていることが多いので注意しましょう。
古い有色クロメートは六価クロムの層を厚い製品を指していましたが、近年は先述のRoHS規制による三価クロメートへの切り替えが進んでおり、従来の有色クロメートに近い色調になるよう配慮した有色着色の三価黄色クロメートの採用も進んでいます。
黒色クロメート
銀塩を添加したクロメート処理液でクロメート処理を行うと優れた黒色被膜を持つクロメート層が形成されます。
黒色度が高く、外観や耐食性にも優れているので自動車部品や家電部品などの目につく場所に採用されます。
グリーンクロメート(オリーブドラブ)
クロメート皮膜が最も厚く、優れた耐食性を持つクロメート処理がグリーンクロメートです。
外観はその名の通り緑色で塩水噴霧試験500時間を超える耐食性を持つので、過酷な腐食環境下で採用されました。
分厚いクロメート層は有害物質の六価クロムを多く含むため、環境規制の影響を受けたため三価クロメート品や別材料への転換が進んでおり、現在において採用される機会はほとんどありません。
参考文献
- 現代めっき教本|電気鍍金研究会|日刊工業新聞
- 現場技術者のための実用めっき|日本プレーティング協会
- 環境調和型めっき技術―表面技術におけるマテリアル・イノベーション|電気鍍金研究会|日刊工業新聞
- クロメート代替処理法の動向|青江徹博
- 亜鉛めっきのクロメート処理-プロセスと特性-|輿水勲
- 亜鉛めっきのクロメート処理の現状と将来|大阪府立産業技術総合研究所
- 多臓器不全を合併し死亡した急性六価クロム中毒音一例|日臨救医誌2014:17:794-9