- 国内販売店ブランドRebuild Storeのバッテリーを分解検証
- 純正バッテリーに採用実績があるSamsungSDI 30Qを搭載
- 過放電遮断機能を搭載
- 全セル監視をしていない
目次
話題の国内互換バッテリーブランドRebuild Store品を検証
今回、久々の互換バッテリーで検証するのは、国内販売店ブランドRebuild Storeのマキタ18V互換バッテリーです。
Rebuild Storeは長野県の工具販売店 平林工機がプロデュースする工具用消耗品ブランドです。マキタ互換バッテリーのほか、HiKOKI・ダイソンの互換バッテリーやマルチツールの替え刃なども取り扱っています。
電動工具用の互換バッテリーは、中国ブランドの製品が大半を占めていますが、Rebuild Storeは「今までの互換バッテリーとは違う、品質にこだわったバッテリー」が特徴で、高い耐久性と純正同等の作業時間を確保した互換バッテリーとして販売を行っています。
本記事では、国内ブランドの電動工具用バッテリーが純正バッテリー相当に使用できるか・仕様上の安全性が確保されているかを検証します。
互換バッテリーのチェックポイント
今回は、下記の4項目を中心に分解・検証を進め、互換バッテリーの安全性を評価します。
- ハイレートセルの採用
電動工具は急速充電・大電流放電で使用する製品なので、高い充放電性能を持つハイレートセルの搭載が必須。 - バッテリーセルの電圧監視方式
リチウムイオンバッテリー機器で必須の「過放電/過電流/過充電/過熱/低電圧保護」の有無。セルバランスの監視方式が「全セル個別監視」であること。 - 遮断回路(マキタ14.4V/18Vのみ)
マキタの14.4V/18Vスライドバッテリーは、各種保護と遮断機能をバッテリー側に依存しているため、バッテリー側に遮断機能が必要。 - 製造元・輸入者・販売店情報
販売元の住所・連絡先記載の有無。製造物責任法(PL法)上の責任者の表記。
2番目のバッテリーセルの監視方式については、PSE(別表第九 リチウムイオン蓄電池)上ではセル個別監視を必須と定義する項目はありませんが、「純正バッテリーは全セル個別監視を採用」「特定の条件下では過充電を検知できない」「電動工具用バッテリーはセルバランスが崩れやすい」の3点から、本記事ではセル個別監視方式を必須の条件としています。
4番目の製造元・輸入者・販売店情報については、株式会社平林工機と明記されており、住所・電話番号・公式サイト等各種情報も網羅されているため、購入時点で販売店の情報に問題はありません。
容量測定・過放電遮断電圧をチェック
分解する前に、バッテリーを測定器と電子負荷に接続して放電波形を測定します。測定には、以前製作した60W電子負荷とUSBテスタCT-3を使用しています。
バッテリー容量測定値は5.76Ahとなりました。公称容量の6.0Ahとほぼ同等の測定結果が得られました。
Rebuild Storeの販売ページ画像ではINR18650-35Eの画像が記載されているため、セルの容量的には7.0Ahになるはずですが、これは後の分解検証でセルの品名を確認します。
過放電保護の遮断電圧は12.5Vで動作しました。1セル/2.5Vを遮断のしきい値にしており、リチウムイオンバッテリーの特性としては正しい設定ですが、マキタ純正バッテリー側の遮断値は1セル/1.25Vに設定されているので、このあたりの設計思想は大きく異なります。
大型のインパクトレンチやハンマドリルのような高負荷な電動工具を使った場合、早い段階で遮断が働いてしまったり、電圧変動による遮断と復帰の繰り返しで動作に不具合が出るかもしれません。
高負荷動作時の挙動も気になるところですが、1000W級の負荷時の動作は未確認なので、高負荷時の挙動については後日実施します。
この検証では、バッテリー容量は公称通りで過放電保護時の遮断動作も確認できたので、このあたりは従来の中国ブランド互換バッテリーより良いと言えそうです。
バッテリーセルはSamsung SDI INR18650-30Qを搭載
販売ページの製品画像上ではINR18650-35Eを搭載しているようですが、実測定値と公称値に差異があったのでバッテリーを分解して搭載セルを確認します。
セルのラベルはバッテリーホルダーに覆われて確認できなかったので、超音波カッターを使ってセルの鉄缶を傷つけないように慎重にホルダーを剝がします。セルのラベルから、搭載されているセルはINR18650-30Qと判明しました。
30QはHiKOKI(日立工機)の6.0Ahバッテリーに採用されている電動工具にも実績のあるセルなので、セルに問題はなさそうです。ただし、セルそのものの真偽は不明でありラベル情報で本物かの判断はできません。
保護回路の外観を確認
バッテリーセルに関しては問題は無さそうなので、保護回路基板を確認します。中国メーカー設計品の電子回路は、中国深セン市の独特な電子部品が多く、見たことの無い部品やメーカーも多いので新鮮味があります。
国内機器メーカーは、信頼性や調達の都合から大手半導体メーカーの部品を採用していますが、今後の原価低減最後の手段として中国深センブランド半導体の採用が進むのかもしれないので、今後の回路設計者としては要チェックな部分です。
話は少し逸れましたが、この検証では搭載された電子部品の確認と、ざっくりとした回路パターンの確認を行います。
電子部品の確認した結果、リチウムイオンバッテリーの監視ICと思っていた電子部品がオペアンプでした。
このオペアンプは、シャント抵抗の電流検知を担っている部品と考えられます。そうなると、詳細不明のICチップらしいものが個別セル監視を担うことになりますが、残量LEDや通信端子などを考えるとピン数が不足しています。
表面のパターンをよく見ると、各セルを監視しているはずのタブ半田部に配線パターンが見当たりません。少し雲行きが怪しくなってきたので、セルケースから保護基板を外して裏側実装部品とパターンを確認します。
結果:全セルを監視していない、製品画像と差異あり
基板を取り外して裏面パターンと電子保護ICの搭載の有無を確認します。
取り外して裏面を確認したところ、裏面にも各ブロックの電圧を検出するパターン配線がありませんでした。
各ブロックを測定していると思われたランドパターンは固定に使用しているだけで、これは販売ページの製品画像から受ける「全ブロック監視」を行うイメージと異なる仕様です。
※2021年7月時点でAmazon販売ページの画像は差し替えられており、この画像は使われていない。
基板のパターンを確認すると、セルの電圧検知にを行っているのは1セルだけでした。
この保護基板のセル電圧監視方式は「全セル+単セル比較方式」で、ネット通販上で販売されている中華ブランドの互換バッテリーと同じ仕様であることが判明しました。
この方式でも、試験方法によってはPSEで指摘している試験項目を満たせると解釈できますが、この監視方式ではセル電圧バランス崩れを完璧には検知できません。そのため、現在のプロ向け電動工具バッテリーの監視方式は全セル個別監視を採用するのが一般的です。
電動工具向けのバッテリーであれば、PSEに加え全セル監視を定義しているJIS C8712:2015に適合していることが望ましく、この互換バッテリーは電動工具用途として不適と判断します。
後に調べたところ、この保護基板はRebuild Store専用または設計の基板ではないようで、別業者から同じ保護基板の単体販売も行われていました。
セルアンバランス時の遮断の挙動や温度検知時の動作なども検証する予定でしたが、「全ブロック+単ブロック比較方式」を確認した時点で、電動工具バッテリーの保護基板として不適と判断したため、分解と検証はここで打ち切りにします。
バッテリー保護回路が不完全、使用は非推奨
国内販売店ブランドとして「品質にこだわったバッテリー」の謳い文句通り、今回のRebuild Storeブランドのマキタ互換バッテリーは、中国ブランドの互換バッテリーと比べると確かに優秀な互換バッテリーです。
ただし、製品画像では全てのセルを個別監視しているように見せておきながら、実際は全セル+単セル比較方式なので、過充電によるバッテリー発火を完全に排除しきれておらず、意図的にユーザーを騙す悪質なやり方で販売されています。
注目すべきは、販売ページのカスタマーQ&Aではセルの電圧チェック方式について「当社のバッテリーはセル毎に電圧をチェックするような仕様ではなく、基盤にて全てのセルの電圧をコントロールする仕様となっております。」と回答しており、製品画像から連想される仕様と異なることを公式に明言しています。
この回答は、販売者側がバッテリー保護仕様や回路構造を理解していないか、意図的に詐称を行っているかのどちらかです。
高品質な互換バッテリーを謳いながら、虚偽的な販売行為を行うのは国内ブランド製品として残念なやり方であり、中国ブランドの互換バッテリーと大きな差はありません。
総評としては、純正品同等のセルの採用など従来の互換バッテリーと比較すれば確かに優れていてPSEが定める運用も守られている互換バッテリーではあるものの、電動工具用のバッテリーとして必要最低限求められる安全性にあと一歩達していません。当サイトの評価としては、このバッテリは非推奨と評価します
Rebuild Store マキタ互換バッテリーまとめ
Rebuild Store (リビルド ストア) マキタ互換18vバッテリー
VOLTECHNO製品評価 (2.5 / 5)
長野県松本市の販売店 株式会社平林工機が販売する互換バッテリーブランド
- 純正バッテリーと同等のセルを採用
- 販売店の身元がはっきりしている
- 電池保護基板が機能不十分
- 販売ページ画像に虚偽記載あり(現在は画像修正済)