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2020年4月28日

なぜグラインダー(サンダー)にチップソーを装着してはいけないのか

電動工具の中で最も危険な製品がグラインダー(サンダー)です。そして、電動工具アクセサリの中で最も危険なのがチップソーです。この2つを組み合わせは禁止されていますが、実際の現場では使用されることも多く、事故は毎年のように発生しています。今回はなぜグラインダー(サンダー)にチップソーを装着してはいけないのか、その背景は何か、他に代用できる工具はないのか等を解説します。

グラインダー(サンダー)にチップソー装着は厳禁

ディスクグラインダー(サンダー)は、本来砥石またはダイヤモンドカッターを装着して研削を行う工具です。

しかし、その手軽さからチップソーを装着して木材切断を行うこともでき、実際に小回りの利く便利な使い方として使用するユーザーも多いようです。しかし、ディスクグラインダーへのチップソー装着は非常に危険で、下記のような原因から電動工具メーカー・砥石メーカー・その他様々な団体が使用の禁止を徹底しています。

回転数が高く、超硬チップが飛散する可能性がある
 チップソーは丸ノコやチップソーカッターに装着する刃物で、6,000min-1付近の回転数が想定されています。ディスクグラインダーはこれを超える回転数の製品が多く、中には高速型と呼ばれる回転数12,000min-1ものディスクグラインダーもあります。
 回転速度の上限を超えてしまうと、材料切削時に高速で衝突して超硬チップが割れたり、接合しているチップが剥離・飛散し、作業者や周囲に甚大な被害を発生させます。

グラインダーは切断面上に体を置く必要があり、キックバックを発生させやすい
 グラインダーの切断は基本的に両手で保持して使用するので、切断面が体の正面と重なります。この時にキックバックによるグラインダーの反発やチップソーが材料上で走って手元を離れて暴れた場合、作業者に跳ね返ってきて避ける事もできず人体に当たってしまいます。
 特に、ディスクグラインダーに装着する小型の小径のチップソーであっても、モーター出力は丸ノコ以上の製品が多く、回転軸に近い面がロックされるため、大径のチップソーを搭載する通常の丸ノコと同程度の大きな反発力が発生します。

キックバックの原因
キックバックは材料とディスクの接触によって発生する。ディスクの回転が止まると、その運動エネルギーは工具と作業者に一気に返ってくる。
参考:電動工具丸ノコ 使用時の怖いキックバックについて 丸ノコ使用の注意点について

木材切断はチップソーが走りやすい
 ディスクグラインダーは丸ノコのようなベース(切断時に工具を置く板)がありません。切断しているチップソーの当たり位置は変わりやすく、保持する力の位置は常に変化します。もし、切断中のチップソーが木材を乗り上げて走ってしまうと、作業者は振り回されて周囲に被害を発生させます。

チップソー 反発力  危険
ベースが無い切断の場合、チップソーが当たる位置によって反発力の方向が変わる。切断の進み具合や僅かな振動でも押さえつける力の方向は変わるため、グラインダーは簡単に吹き飛ぶ
チップソー 危険
チップソーの切断位置を極端に浅くした場合、チップソーは材料の上を走り始めてしまう。この場合は工具が吹き飛ぶか、材料が作業者側に引きずり込まれて直撃してしまう。

ディスクカバーが小さく、接触時には広い範囲を深く裂傷させる
 ディスクグラインダーは砥石やダイヤモンドカッターを装着する電動工具で、カバーは作業を行うための最低限の覆いになっています。砥石の場合、作業者に跳ね返ってきても皮膚が削れる場合で済む場合も多いですが、回転するチップソーの場合、触れただけで皮膚を裂き、骨も一瞬で切断してしまいます。

手を放しても回り続けて、被害を拡大させる
 ディスクグラインダーはレバースイッチやスライドスイッチの製品が多く、作業者の手を離れても回り続けます。何らかの不手際でグラインダーを手を放してしまうと、作業者だけではなく周囲の作業者にも被害を拡大させます。

チップソーは丸ノコ・チップソーカッターでも事故が多い

丸ノコ 切断

チップソーは本来丸ノコやチップソーカッターに装着する刃物です。これらの電動工具には「切断を安定させるためのベース」「体を正面に置かなくても切断できるハンドル構造」「トリガスイッチ」「チップソー全面を覆う保護カバー」「キックバック防止機能」など様々な安全構造が搭載されていますが、それでも年間100件を超える死傷事故が発生しています。

丸ノコ チップソー 
丸ノコの場合は、当たりを固定するベースが材料を押さえつけるため切断が安定する。これでもチップソーは暴れやすいので、真っすぐな切断と確実な押さえつけが必要になる。

元々危険なチップソーを、更に危険なグラインダーに装着してしまう裏側には、グラインダー特有の小回りの良さや現場作業のチョイ切りに重宝できるなどの理由があります。実際に実用面を見るだけならグラインダーにチップソーを装着するのは便利で有用です。

しかし、実際に事故が発生した時のリスクは生死に関わるほど程高く、運よく大きな血管が傷つくのを避けられても、指の切断や後遺症に繋がります。また、自分自身の被害だけではなく、現場を止めてしまう周囲の影響などを考えると、デメリットの方があまりにも多く、得られるメリットは決して多くありません。

切断砥石・ダイヤモンドカッターの切断について

グラインダー グリップ

建前上は「研削工具」のディスクグラインダーですが、実際の用途では金属の切断作業にも使用されており、切断砥石やダイヤモンドカッターと呼ばれる薄い軟鉄・石材切断用のディスクも販売されています。

切断砥石による切断作業では電動工具メーカー・砥石メーカー各社が「砥石半径の1/2以上をおおう」切断用砥石カバーの装着時に限って切断作業を行えると明記されています。

更に、切断時の安全のためには、ガイドベースの装着も推奨されています。

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グラインダー+チップソー装着に対応できる「プロテクトX」

山真製鋸 プロテクトX グラインダー サンダー チップソー

総合ワークツールメーカー「山真製鋸」からは、ディスクグラインダーのチップソー取り付けに正式対応させるディスクカバー「プロテクトX」販売しています。

プロテクトXはチップソーカッターに近い全面カバーと可動カバーを備え、労働安全衛生規則に準拠しており、このカバーを装着すればチップソー切断にも対応させる事ができます。本来、チップソーを使用するにはこれ程までの保護構造を搭載しなくてはいけません。

ただし、カバーだけで重量780gもあり、最大切込み深さも大きくとれず、全てのグラインダーへの装着にも対応していないのが欠点です。

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グラインダー+チップソーに最も近い「マルチツール」

マキタ マルチツール

ディスクグラインダー+チップソーの組み合わせは使用しないのが最善ですが、実際には現場の合わせ作業や丸ノコ・手ノコが入らない現場などで、必要性に迫られてしまうケースもあります。

そのようなケースで活用できるのが、近年普及が進んだ万能電動工具「マルチツール」です。

マルチツールはディスクの回転ではなく、先端の振幅によって切断・研磨を行う電動工具で、本体サイズも小さく小回りが利いて安全性も高い電動工具として注目されています。ただし、切断性能はグラインダー程とはいかないので、その点は妥協が必要です。

グラインダーの安全構造は常に変わり、現在も進行中

グラインダー サンダー スイッチ 種類 

ディスクグラインダーは単純な電動工具で、基本的な構造はほとんど変わっていません。単純故に応用が利く工具として切断・穴あけ・アクセサリ装着による別の電動工具化など、万能工具として幅広く使われています。

その一方では事故件数も多い電動工具であり、被害も大きくなりやすいグラインダーは真っ先に安全対策の槍玉に挙げられてきました。過去までさかのぼると、様々な構造の変更や安全機能の搭載が行われています。

  • レバースイッチ
  • スライドスイッチ
  • 再起動防止
  • パドルスイッチ
  • ブレーキ搭載
  • X-LOCK

例えば、古いモデルのディスクグラインダーは本体後方に位置するレバースイッチ仕様だけで、両手で持たなければON/OFFを切り替えられない製品でした。

その後、片手で使えてワンタッチでOFF出来るスライドスイッチが登場し、さらに安全が強化された握っている間だけ回転するパドルスイッチ仕様になりました。今ではパドルスイッチ搭載のグラインダーでないと使用できない現場も増えています。

そして、ディスクグラインダーの新たな仕様として控えているのがX-LOCKです。このX-LOCKはグラインダーの砥石の取り付け構造を一新し、チップソーの装着を排除した新方式で、ワンタッチの砥石交換に対応しナットの脱落も防ぐ安全性の高い仕様となっています。

BOSCH ボッシュ X-LOCK
BOSCHが展開を進めるX-LOCK。ツメによる砥石固定で、従来のナット止め砥石は装着できなくなったが、チップソーも装着できなくなった。

グラインダーを直接取り締まる法令はなし、現場では規制があることも

グラインダーの安全機構搭載を必須とする条例や法規はありません。しかし、建築現場などではグラインダーの安全機能を搭載していなければ使用を許可されないケースもあります。

このようなケースは現場や事業所で過去に起きた事故や災害を原因としており、その対策として電動工具メーカーが安全性を高めた製品を開発してきた経緯があります。

チップソー装着に限る話ではありませんが、今後もグラインダーの事故が多発するようであれば、パドルスイッチスイッチを必須とする現場やX-LOCKグラインダの対応、今以上に高度な安全構造を搭載したグラインダーでないと使用できない現場も増えてしまうかもしれません。

実際に事故が起きるまでは誰もが自分だけは事故を起こさないと自信に満ちています。極端な例では注意をしても「現場を知らない」と反論されることも少なくありません。しかし、工具の安全装置を外して事故に合った方は、口を揃えて「馬鹿な事をした」「絶対にやってはいけない」と語ります。

事故は誰もが望んでいないのは当然ですが、実作業の妨げになるこれ以上の安全機能の搭載も望んではいません。今以上の電動工具買替負担や安全構造による作業の煩わしさを招かないためには、作業者1人1人がしっかりとした安全意識を持たなければなりません。

現場だけではなく、監督や販売店などの共通認識へ

もちろん、これは作業者当人だけの問題ではありません。中には、本来危険な作業を取り締まる側の監督者や会社側が危険性を把握していなかったり、僅かな手間を省く・工具購入を避けるために危険な作業をあえて指示するケースもあります。また、経験の浅いユーザーに対し販売店が言われるままΦ75mmやΦ110mmなどのグラインダーに装着できるチップソーを販売してしまうケースもあります。

筆者としては、効率を向上させるための僅かなルールのはみ出しは黙認せざる得ないと考える部分もありますが、その中には決して行ってはならない危険な行為もあり、明確な危険性がある場合にはルールを徹底して確実に禁止を周知しなければなりません。

それらの危険性を伝えるのは作業者1人1人や監督・管理者や販売店・メーカーであり、工具に関わる方々の様々な形での相互注意が必要になります。ぜひ、一度自分の行っている業務やルールを周囲に確認してみてはいかがでしょうか。

参考

  • 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)
  • 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)
  • 研削盤等構造規格(昭和46年3月18日労働省告示第8号・一部改正)
  • グラインダ安全必携(中央労働災害防止協会出版)
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