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2025年1月21日

リチウムイオンバッテリーの3.6V表記と4V表記は何が違うのか、公称電圧と満充電電圧の違い

リチウムイオンバッテリーの3.6V表記と4V表記は何が違うのか、公称電圧と満充電電圧の違い

色々ややこしくなってきたリチウムイオンバッテリーの電圧表記

ここ最近、工具関連のバッテリー電圧表記において、リチウムイオンバッテリー従来の3.6Vを基準とする表記ではなく、19Vバッテリーや21Vバッテリー、40Vmaxバッテリーなど色々な表記が混在するようになりました。

これまでは、アルカリ電池は1.5V、ニッカドやニッケル水素が1.2V、リチウムイオンは3.6V、のように電圧を見ればバッテリーを判別できる業界標準的な数字で表記されてきたのですが、最近はそういう慣例も有耶無耶になりつつあるようです。

リチウムイオンバッテリーの場合だと、14.4Vや18Vバッテリーと記載されていればリチウムイオンバッテリーの直列構成数なども判別できたのですが、最近では19Vや22V、40Vmaxを表記するバッテリーも増え、実態が分かりにくくなっています。

通販サイトでよく見かける出自不明の21Vバッテリー。実態は一般定な18Vリチウムイオンバッテリーパックと変わらない。

そこで、今回の記事では、リチウムイオンバッテリーにおける電圧の考え方とその表記について解説します。

バッテリーの仕様書には公称電圧と満充電電圧が定められている

リチウムイオンバッテリーの仕様書では大きく分けて3種類の電圧を記載しています。その3種類とは公称電圧満充電電圧放電終止電圧です。今回の解説ではバッテリーにおける公称電圧と満充電電圧の違いについて解説します。

公称電圧とは、実際の放電時における全体的な出力平均電圧を表しています。バッテリーは常に同じ電圧を出力していると思ってしまう方も多いのですが、実際には満充電状態から放電を続けると電圧は下がってしまうので、バッテリーの電圧は常に変動してしまいます。その実際のバッテリーの実力値を表す数値として、仕様書では平均電圧を公称電圧として表記しています。

満充電電圧は、バッテリーの満充電状態の電圧を表す数値です。一般的にはバッテリーが満タンになった時の電圧を表しますが、リチウムイオンバッテリー仕様書上の意味合いとしては、CCCV充電におけるCV領域の電圧設定値やリチウムイオンバッテリープロテクトIC選定の値にしていることが多いです。

実際のバッテリー仕様書を見てみると、Samsung SDIのリチウムイオンバッテリーセル Q30の仕様書の場合、3.2 Nominal Voltageの3.6Vが公称電圧であり、3.3と3.4のchargeに記載している4.20±0.05Vが満充電電圧に該当します。

この公称電圧や満充電電圧に関しては、リチウムイオンバッテリーが登場して間もないころは公称電圧 3.6V、満充電電圧4.2Vの仕様が一般的でしたが、最近ではリチウムイオンバッテリー技術の向上に伴って公称電圧3.8Vや満充電電圧 4.4Vなどのバッテリーも登場しています。

バッテリーは複数個組み合わせて使う場合

バッテリーは1つだけだと電圧や出力性能が足りない場合も多いので、複数個のリチウムイオンバッテリーを直並列にして使用するケースが多いです。例えば、リチウムイオンバッテリーが1つだと公称電圧 3.6Vですが、2個直列にすれば公称電圧 7.2Vになり、5個直列にすると公称電圧 18Vになります。

例えば、電動工具の18Vバッテリーの6.0Ah品の場合、3.6V-3.0Ahのリチウムイオンバッテリーを5直列2並列で構成されたバッテリーパックになります。この構成のバッテリーを5S2Pバッテリーパックとも呼びます。

実際の電動工具用18V用バッテリーパックを開封すると、下のような写真感じで10本のリチウムイオンバッテリーセルを内蔵しています。この構成で5S2P構成のバッテリーとなります。

先ほどの公称電圧の考え方としては、単セル3.6Vを基準とした場合であれば5本直列で公称電圧18Vになり、単セル3.7Vだと18.5V、単セル3.8Vだと19Vになります。このように、搭載しているリチウムイオンバッテリーセルの公称電圧が高いと直列にした本数だけ公称電圧も高くなります。

実際のリチウムイオンセル Samsung 30Qの放電波形を見てみる

実際にリチウムイオンバッテリーセル Samsung 30Q(3.6V-3.0Ah) リチウムイオンセル単体の放電波形を見てみましょう。

(画像クリックで拡大)

画像は4.2Vまで充電した30Qセルを3Aで放電した時の波形です。黄色がバッテリー電圧を表しており、縦軸が電圧値で横軸が時間です。放電を開始した直後では4.1Vですが、放電を続けると電圧が下がり、放電を終了する3Vまで電圧が低下していることが分かります。

ちなみに、このバッテリーセルは4年ほど前に互換バッテリーを分解して取り出したもので新品状態よりも少し劣化しています。新品状態なら平均電圧3.6V付近になるはずだったのですが、バッテリーの劣化により性能が下がってしまったためこのような結果になっています。

バッテリーの電圧表記だけで性能の良し悪しの判断は難しい

バッテリーの電圧表記については、基本的に公称電圧を基準とする表記が慣例的に行われています。さらに日本国内におけるPSEでは定格電圧の数値を記載が義務付けられており、公称電圧を無視した電圧値や満充電電圧を記載すると、必ず公称電圧も記載しなければならず、二重表記にもなるのであまり良い表記方法とは言えません。

マキタ40Vmaxは商標として40V”max”と書かれているが実際は公称電圧3.6Vのセルを10本使っているのでDC40V(max)と共にDC36Vも併記している。

とは言え、一部の製品市場や地域によっては満充電電圧を記載せざるを得ない製品もあり、海外製品を輸入している場合などにはブランド名や商標の関係から仕方なく2重表記となってしまうケースもあります。

北米の電動工具ブランド DeWALTのバッテリー。中身は5Sのリチウムイオンバッテリーだが、北米の電動工具バッテリーは1セルあたり4Vで記載することが多く、20Vmaxバッテリーとして販売している。

また、中には公称電圧 3.8Vのリチウムイオンバッテリー搭載によって一般的リチウムイオンバッテリーよりも本当に高い電圧のバッテリーパックもあるのですが、バッテリーの性能は電圧だけではなく、内部抵抗の低さやセル並列数、バッテリーの体積によっても変わるので、一概に高電圧だからと言って高性能バッテリーと断言できる訳ではない点に注意が必要です。

ただし、モバイルバッテリーや一部の空調服用バッテリーにはバッテリー内部に昇圧回路を内蔵している製品もあり、この場合バッテリーの公称電圧と異なる数値であっても表示通りの電圧出力を行っている製品もあるので、その辺りを正しく判断するには製品ラベルや取扱説明書の熟読、あとは実際の計測などによって判断しなければいけません。

空調服 バートル用のバッテリーパック。電圧は19Vや22Vとなっているが、このバッテリーは4S構成ながらも昇圧回路を内蔵しているので定格出力は22Vとなっている。
画像引用:2024年、新作バートル「エアークラフト」。空調服・EFウェアの進化がここに!|空調服専門サイト
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