VOLTECHNO(ボルテクノ)

ガジェットとモノづくりのニッチな情報を伝えるメディア

2024年3月27日

直流電源装置でリチウムイオンバッテリーを充電する方法【Li-ionバッテリー解説】

直流電源装置でリチウムイオンバッテリーを充電する方法【Li-ionバッテリー解説】

本記事で紹介する製品は、専門知識を有し安全かつ適切に取り扱いができることを前提に解説しております。本記事によって生じた故障または損害等に関しては一切の責任を負いかねます。

リチウムイオンバッテリーを充電する方法

リチウムイオンバッテリーには色々な形状、種類があり、その中でも広く普及しているのは18650サイズと呼ばれる直径18mm 高さ65mmの規格サイズのセルです。この18650セルは規格サイズであり、モバイルバッテリーや電動工具を始めとする色々な充電式機器に採用されています。

今回使用するのは、いわゆる生セルと呼ばれるバッテリーです。バッテリー仕様を超えた動作を検知した時に遮断する保護回路を搭載していないリチウムイオンバッテリー単体を指します。

この状態のリチウムイオンバッテリーはセルそのままの状態であり、充放電条件を間違えると過充電や過放電状態になって発煙や発火に至る可能性もあるので、一般的にはBMSを搭載するリチウムイオンバッテリーの使用を推奨します。

今回の記事では、BMS非搭載の生セル状態のリチウムイオンバッテリーの充電手順を解説していますが、BMS搭載の直列多セル構成のバッテリーも同じ手順で充電できます。

直流電源装置でリチウムイオンバッテリーを充電する

リチウムイオンバッテリーの充電には、CVCC直流可変電源装置を使用します。

CVCCとは、あらかじめ設定した電圧値・電流値の範囲内で、負荷状態に応じて自動的に定電圧(CV)モードあるいは定電流(CC)モードで動作する機能を搭載した直流電源装置です。ほとんどの電源装置にはCCモードが搭載していますが、低価格な製品や電源キットには搭載されていない場合もあるので注意しましょう。

リチウムイオンバッテリーの充電制御にはこのCVCC機能を使用します。電源装置としての機能はCVCCと呼びますが、リチウムイオンバッテリーの充電制御としては最初にCCモードで充電を行い、規定電圧に達するとCVモードに移行することからCCCVと呼ばれています。

今回使用するリチウムイオンバッテリーは、秋葉原のラジオデパート 3Fの㈱平澤電気セレクトイン22で購入したTewaycell製の3,000mAhの生セルです。

セルを確認するとタブを剥がした痕跡があった。これは一度バッテリーパック化したリチウムイオンセルを分解してリサイクルしたものと推測される。

生セルそのままの状態で販売されており、陳列棚のポップにはバッテリー容量だけしか記載していませんでした。満充電電圧や充電レートの情報も一切書かれておらずネットからデータシートを拾うこともできない出自不明のセルです。とりあえず一般的な満充電電圧4.2Vと充電電流0.5Aに設定して様子を見ることにします

CVCC機能を搭載する直流電源背装置であれば、出力電圧と出力電流をプリセットできるので、電圧出力を4.2V、電流値を0.5Aにセットします。

RIGOL DP932UはSet欄から出力電圧と最大電流値をプリセットできる。

電圧と電流を設定したあとは、直流電源の出力をONにしてからバッテリーを接続すると充電が始まります。

CCCV充電中は、プリセットの最大電流値に到達すると出力電流は設定値に固定され、それに合わせて自動的に電圧値を調整してくれます。充電が進み出力電圧に達すると、今度は電圧が設定値に固定され電流値は少しづつ減少していきます。

定電圧(CV)充電では充電が進むにつれて電流が少しずつ絞られていくので、ある程度まで電流値が減ったところで充電を終わりにします。充電終止電流の値はバッテリーのデータシートに記載されているのですが、今回はデータシートが無いので50mAまで電流が絞られたら充電完了とします。

充電が完了したら、ケーブルを抜いてから直流電源の出力をOFFにします。

ちなみに、CV充電領域に入ると充電器から測定した出力電圧はほぼ一定の電圧に保たれていますが、バッテリー側では配線抵抗や電池内部抵抗による分圧が発生して電圧が降下するため、CV充電中でも僅かながら電圧が変動する波形になります。

今回のバッテリーとは異なるが、とあるリチウムイオンバッテリーを充電した時の充電波形。CV領域に入ると充電器の出力電圧は一定になるが、電池側から見ると配線抵抗や電池内部抵抗の関係からCV領域でも電圧が上昇しているように見える場合がある。

リチウムイオンバッテリーセルを扱う時の注意点

バッテリーを接続したまま直流電源装置を出力OFFにしないこと

基本的に直流電源装置は、装置から回路に電源を供給する装置であり、バッテリーのような起電力を持つ製品から逆流に対応するようには作られていません。そのため、バッテリー

一部の直流電源は「シンク機能」と呼ばれるようなOFF時に電流を吸い込む機能を内蔵している製品もありますが、これは回路に残る僅かな電荷を速やかに0にするものであるため、OFF状態の直流電源にバッテリーを接続すると大電流・長時間の吸い込みによって電源装置を壊してしまう場合もあります。

直流電源装置でバッテリーを充電する場合には、出力ON状態にしてからバッテリーを接続し、充電が完了してからバッテリーを外してから出力OFFするように注意しましょう。

接点はバッテリーホルダー使うかスポット溶接機でタブ付けすること

リチウムイオンバッテリーに限らずバッテリー全般に言えることですが、電池は熱の影響に極端に弱い部品なので、電池に直接はんだ付けして結線するのは危険な行為です。最近ではリチウムイオンバッテリーを使った工作を行っている動画配信者の中にはんだ付けでセルを結線している方もいますが、決して真似してはいけません。

バッテリーから電気接点を取るときには、バッテリホルダーを使うかスポット溶接でタブ付けする必要があります。

写真は18650セルの装着に対応するリチウムイオンバッテリーセル。秋月電子で購入

今回の記事で使用している18650バッテリーホルダーは秋葉原のパーツショップのほか、通販サイトなどでも購入できます。

バッテリーホルダーを使わずにはんだ付けで接点を取りたい場合には、直接はんだ付けを行わずスポット溶接機でニッケルタブを取り付けてからはんだ付けします

保護回路搭載の18650セルもあるがサイズが異なる

今回、BMS非搭載の18650サイズの生セルリチウムイオンバッテリーを充電しましたが、似たような形状のリチウムイオンバッテリーとして保護回路を搭載する18650サイズのリチウムイオンバッテリーもあります。

写真右の青いセルが保護回路搭載のリチウムイオンバッテリーですが、これはバッテリーサイズに合わせた直径18mmのBMSを搭載するもので、主にフラッシュライトや電子タバコなどに使用するバッテリーです。

一見すると便利なバッテリーですが、本来の意味での18650の規格サイズとは異なり、通常の18650セルを対象にした製品には収まらないので、専用機器以外の使用にはあまり適さないバッテリーです。

保護回路搭載の18650セルは少し長細いのでホルダーに装着できない。

ちなみに、保護回路搭載のバッテリーと言っても落下や釘打ちなど外的な衝撃には弱く、大電流放電や過熱保護を備えていないBMSも多いので取り扱いには注意が必要です。

直流電源はプリセットと実際の出力電圧が異なる場合もあるので注意

菊水 KX-100Lはプリセットボタンを押すと出力電圧と最大電流の値を指定できる。

筆者が使っている直流電源の中には、長年使用していて校正もしていない直流電源装置があります。この直流電源は長年使用していて校正も行っていないので表示値と実際の出力値が乖離しており、無負荷出力状態でも0.1V程度のズレが発生しています。

普通に電源として使う分には0.1Vくらいのズレでも問題になることはありませんが、リチウムイオンバッテリーを安全に充電するには高い電圧精度が必要になるため、このような設定値と実際の出力値が異なる電源を使う場合には注意が必要です。

直流電源が搭載している出力電圧値やプリセットを過信するのは危険なので、充電を行う場合には事前に出力電圧を確認しておきましょう。

筆者が長年使っている菊水 KX-100L
プリセットは4.2Vに設定しているが、出力設定は4.29Vだが実際の出力は4.21Vと設定値との乖離が大きい。プリセットより低く出るので過充電になることはないが、直流電源装置として信頼性に乏しいのでバッテリー充電用途には使用したくない。
こちらは最近購入したRIGOL DP932U
無負荷時のプリセット4.2Vに対して0.4mVの誤差があるが、これくらいならリチウムイオンバッテリーの充電に使っても無視できる。

BMS無しのバッテリーを直列に接続して充電を行わない

リチウムイオンバッテリーは、BMS無しの状態で2直以上の充電を行ってはいけません。

これは、バッテリーの総電圧は簡単に把握できても、各セルの充電電圧を把握して保護停止することが難しいため、各セルの電圧状態がアンバランスになって過充電状態になるリスクが高いためです。

1直の状態であれば総電圧=セル電圧なので心配はありませんが、2直以上の充電を行うのであればBMSは必須となります。

今回の手順ではプレチャージや発熱は考慮してないので安全には更なる配慮が必要

今回使用したリチウムイオンバッテリーの生セル充電は、バッテリーパック分解した製品から取り出したリサイクル品であり、詳細なバッテリー仕様も不明なセルでした。そのため実際の充放電時に関しては必要以上に警戒する必要があります。

店舗のポップではバッテリー容量3,000mAhと記載されていたので、充電レート0.5Cを想定するなら1.5Aでの充電電流も取れそうですが、所詮はリサイクルセルなのでどこまで充電電流が取れるかは未知です。

今回のような実態が不明なセルに関しては、充電レート0.25C以下から様子を見るのがおすすめです。今回の記事では、安全性に配慮して0.15C(0.5A)で充電を行っていますが、より高い安全性を確保するために、さらに低い電流によるプレチャージ工程を入れて様子を見てから判断するのもおすすめです。

より安全に充電する場合には、低電流で充電して電圧が上昇するのを確認するなどのプレチャージ領域を設ける必要がある。
画像引用:はじめてのバッテリ・マネジメントIC|丸文株式会社

また、充電前にはバッテリハイテスタで内部抵抗値で選別したり、充電中に温度計で表面温度を測りながら温度上昇を確認した方が良いでしょう。

(左) バッテリハイテスタ、電池の内部抵抗を測定するのに使用
(右) 熱電対温度計 電池の表面温度をモニタリングするのに使用

本来、リチウムイオンバッテリーの生セルはBtoB取引でしか入手できないものであり、個人が入手できるようなリチウムイオンバッテリーセルはリサイクルセルやブランドコピー品など出自不明のセルが混入するケースも少なくありません。

この辺りは、メーカーの試作段階などにも言えることですが、信頼できる購買先からリチウムイオンバッテリーを手配できない限りは、充電方法や測定器を手配するなど可能な限り自衛手段を備えておくのが推奨です。

ちなみに、満充電電圧を誤って過充電状態にしたり、万が一にセルを落下させるなどで発煙、発火事故が発生した場合には消化よりも先に安全なところに退避して、バッテリの発火が落ち着いたところで消化や消防に連絡するようにしましょう。

この記事で紹介したアイテム

Return Top