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科学技術振興機構がリチウムイオン電池の劣化挙動に関する調査結果を公表
JST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)は令和2年3月に、発表されている各種文献からリチウムイオン電池の様々な条件下での劣化特性を整理した調査報告書を公開しました。
本報告書では充電率や温度、充放電サイクルなどの各種条件を比較し、その影響によってどのようにリチウムイオン電池の劣化が進行するかを表した内容となっています。
報告書内では、NMC(三元系)とLFPのリチウムイオンバッテリーついて記載していますが、今回の記事の中ではNMCについてのみ言及します。
報告書を読む前の簡単な用語解説
- SoC (State Of Charge)
充電状態を表す仕様、満充電状態をSoC 100%、完全放電をSoC 0%と定義する。 - DOD (Depth Of Discharge)
電池の放電容量に対する放電量の比率、放電深度とも言う。例えば容量1,000mAhのバッテリーを100mAh放電した場合はDOD 10%となる。 - NMC (Nickel, Manganese, Cobalt)
正極材にニッケル、マンガン、コバルトを主成分とするリチウムイオンバッテリーを指す。三元系とも呼ぶ。 - LFP (LiFePO4)
リン酸鉄リチウムを主成分とするバッテリー。レアメタルを使用しないため低コスト。主にEVやポータブル電源に採用される。 - Normalized Discharge Capacity (正規化放電容量)
計測時点の放電容量を試験開始時の容量で割った割合。
① 満充電で保存すると劣化が早くなる
この試験は、温度50℃環境でバッテリーのSoC (充電容量)を変化させた時の保存劣化の度合いを確認したグラフとなります。
グラフでは、充電容量10%程度の時の状態では400日経過しても約95%の容量を維持できていますが、100%で保管した時は急激なスピードで劣化が進んでおり150日時点で60%まで容量が減少しています。
この試験結果は、保管温度50℃の極端な条件であるため、一般的な使用状態で100%状態を維持していてもこのグラフのように急速に容量が減少するものではありませんが、満充電状態で保管する状態はバッテリーを劣化を早めるものと考えられます。
② 保存温度が高いほど劣化が早くなる
この試験は、SoCを50%の状態にして保管温度を変えて測定しています。
グラフでは25℃の室温状態で100%近い容量を400日に渡って維持できていますが、40℃状態ではわずかに減少し、60℃環境では300日時点で80%まで減少しています。
この試験結果としては、リチウムイオンバッテリーは温度によって劣化が進行し、40℃を超えるあたりで急激に劣化が進行することがわかります。
③ 50%前後の容量で使用するのが最もバッテリーの寿命を延ばせる
ここからは、実際の充放電を伴う測定結果となります。この試験では、SoCの範囲を絞って充放電試験を行っています。
この結果では、SoC 45~55%の充放電領域が最も良い状態を維持できており、次いで20~30%の充放電領域が80%以上の容量を維持できています。
満充電に近い80~100%と放電状態に近い5~30%の領域では容量の低下が大きくなっていますが、論文内では負極のステージ構造変化に伴う急変点が存在しおており、この領域を通過する充放電サイクルでは劣化が進みやすいとされています。
④ DOD(放電深度)は浅い方がバッテリーの寿命は延びる
この試験では、SoC 100%からDOD (放電深度)を変化させて充放電サイクルを繰り返しています。
グラフでは広いDODを取った場合に劣化が進みやすいと説明しています。この結果に関しては、③項目で述べた「負極のステージ構造変化」が関係しているためと想定されています。
ちなみに、DODの検証項目では、負極にLTO (チタン酸リチウム)を使用するバッテリーについての記載もあります。その項目で、チタン酸リチウム二次電池はDOD100%での運用ながらも高い寿命を持つことが説明されています
チタン酸リチウム二次電池一般的なリチウムイオンバッテリーと比べて充放電サイクルが3,000~7,000と長く、充電速度が速くできる特徴を持つバッテリーです。国内では東芝がSCiB™として販売を行っています。
⑤ 充放電時の温度が高いとバッテリー温度の寿命が短くなる
このグラフは、充放電時の温度変化による充放電サイクルの影響を表しています。
②の保存温度の条件と同じく、温度45℃と46℃環境での劣化は早く、250回程度の充放電サイクルで90%を割っています。
放電レートは1/3~1Cと条件は揃えられていませんが、温度による劣化の相関性は強く表れており、リチウムイオンバッテリーにとって温度の影響は劣化状態に強く影響すると考えられます。
⑥ 大電流放電を行わない方が寿命は延びる
このグラフは、放電電流を変えた時の充放電サイクルの結果を表しています。
Cとはバッテリーの容量に対する放電電流を表すもので、Cの前の数字が大きいほど大きな電流で放電していることになります。
グラフでは6.5Cで放電しているデータが最も劣化が大きいとしており、その理由として大電流放電を行うことでバッテリーが局所発熱して劣化に繋がっているものとしています。また2Cに関しては、均一に発熱するために劣化が穏やかになっていると説明しています。
過度に気にする必要はないが、普段の使い方には気を付けたいところ
今回のJSTが開示している報告書に関しては、あくまでも引用する各論文に記載されている試験結果の中から類似するものを比較したものであり、同じ仕様のバッテリーを比較したものではではない点に注意が必要です。
条件こそ完全に整えられているわけではありませんが、リチウムイオンバッテリー運用の基本的な傾向として満充電状態、高温状態、大電流放電を繰り返し行うとバッテリーの寿命は短くなる傾向があると言えそうです。
実際には、充電レートや満充電容量などは機器によって決まっており、残量管理なども難しい機器も多いのですが、直射日光に当てて温度が上がるのを避けたり、充電式製品に負荷をかけたりするような使い方を少し気にしていくだけで、バッテリーの寿命を延ばすことはできるかもしれません。