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日本の電動工具メーカーが好むバッテリーセル10本構成
日本メーカーが展開する高電圧充電式電動工具の特長は、36V構成のバッテリーパックになっている点です。
リチウムイオンバッテリーはセル1本で約3.6Vで動作するバッテリーです。これを5本直列に接続すれば18Vバッテリーになり、10本直列に接続すれば36Vバッテリーになります。
現在の18Vバッテリーは5本直列セルを2列束ねた10本構成のバッテリーであり、36Vバッテリーはこの5直2並列構成を10直構成に組み直す構成になっています。基本的なセル本数が変わっていないことから、サイズが同じで18Vとの互換性を確保しやすい一方で高電圧化による恩恵は高出力モーターによる効率向上に限られており、バッテリーパックとしての最大出力そのものは変わっていません。
18Vと36V切替の基本原理は「配線切替」
36Vバッテリーの中には18V出力と切替可能なバッテリーもあります。この切替機能はバッテリーの配線切替によって実現されているもので基本原理としては意外とシンプルなものです。
切替機能を搭載するバッテリーや電動工具には、直並列状態を切り替えるための接点を備えています。具体的には、直列5本×2並列と10本×1並列を切り替えることで18Vと36Vの2種類の出力機能を実現しています。
この切替接点は配線状況を切り替えられれば構造に制限は無く、工具との接続部やバッテリー内部のスイッチに設けられるなどさまざまな形状があります。
36V構成によってバッテリー容量が減る訳ではない
電動工具のバッテリー容量は、一般的にAh(アンペアアワー)という単位で表現されます。例えば、同じサイズの18Vバッテリーと36Vバッテリーを比較すると、18Vバッテリーの方がAh数値が大きい値になります。
しかし、Ah数値が低くなったからといって、36Vバッテリーの容量が減少しているわけではありません。実際には、バッテリー容量はAh(電流時)だけでなくWh(電力時)でも表現することができ、このWh表記においては同じ容量になります。
36Vバッテリーで動く充電式製品は出力が高い傾向があるので、作業時間が短くなることがありますが、その分作業速度も速くなります。結果として、1つのバッテリーでこなせる作業量は同じくらいになると考えられます。
とは言え、実際は高出力セルの採用でバッテリー容量は少しだけ減っている
先程「36V構成によるバッテリー容量の減少は無い」と説明したものの、実際としては36Vバッテリー化によって容量は減っています。
実は、18Vバッテリーと36Vバッテリーでは使用しているセルが異なっており、同じサイズでの比較だと18Vバッテリーが6.0Ah(108Wh)ながらも36Vバッテリーでは2.5Ah(90Wh)と約20%ほどバッテリー容量が減少しています。
これは採用しているセルの種類が異なるためで、18Vバッテリーではmurata VTC6/Samsung 30Qなどの3.0Ahセルを採用しており、36Vバッテリーではmurata VTC5A/Samsung 25Sなどの2.5Ahセルを採用しています。バッテリーセルの仕様としては36Vバッテリーで採用しているセルの方が高出力な特徴を持っています。
ちなみに、高電圧化は効率向上によるモーター出力の向上を実現する1要因ではあるものの、実態としては高出力セルの採用による影響の方が強いと考えています。これらのことから、36V化は高出力セルを採用によるバッテリー容量の減少を誤魔化しながらも新製品として仕切り直すための1面もある製品シリーズだと予想しています。
36V充電式電動工具は(今のところ)市場に大きな影響を与えていない存在
36V構成の充電式電動工具は高出力の次世代電動工具として鳴り物入りで登場しましたが、その実態としては市場に大きな影響を与えられない存在に留まっていると考えています。
充電式電動工具として実用レベルの高出力化は達成でき、一部の園芸製品などはエンジンからの置き換えも進んだものの、高電圧化はバッテリー容量の問題を解決する手段にはなっていません。そのため継続的な作業量が求められるAC電源工具やエンジン工具を完全に置き換えるまでには至れていない現実があります。
事実、各企業の売上額を見てみるとマルチボルトシリーズの展開を率先する工機HDの売上額はシリーズ展開以降も長らく横ばい状態が続いており、後続のマキタ40Vmaxシリーズも充電式シリーズ全体の売上比率で言えばそこまでのシェアを獲得できていない状態だと聞きます。筆者の知る限り、充電式電動工具の高出力シリーズの展開による市場シェアの逆転等は発生していないと言えます。
個人的な解釈として、現在の36V電動工具は次世代の高出力・高容量二次電池が登場する前にプラットフォームだけ先行させた中間過渡期な技術であると捉えています。