VOLTECHNO(ボルテクノ)

ガジェットとモノづくりのニッチな情報を伝えるメディア

電動工具バッテリーの変換アダプタや汎用アダプタはちょっと注意が必要という話

電動工具バッテリーの変換アダプタや汎用アダプタはちょっと注意が必要という話

最近SNSや動画配信で見かけるバッテリー変換アダプタとは何か?

最近、SNSや動画配信サイトで目にする機会が増えているのが、「バッテリー変換アダプタ」と呼ばれる電動工具用のアクセサリです。これは、異なるメーカーのバッテリーと電動工具をつなぎ、互換使用を可能にする中継パーツで、「便利グッズ」として紹介されることも多くなっています。

たとえば、HiKOKIバッテリーをマキタの電動工具に装着する方法など、通常は不可能な組み合わせを可能にします。この変換アダプタはECサイトで数千円で販売されており、新しくバッテリーを買い足すよりも安価であるため話題を集めやすい電動アクセサリとなっています。

変換アダプタの背景には、複数メーカーの工具を所有しているユーザーの間で「バッテリーを共通化したい」というニーズがあるほか、メーカーごとに異なるバッテリー規格によって運用が煩雑になることへのストレスも影響しています。しかし、こうしたアダプタを使うことで電動工具本来の安全設計が損なわれ、火災や故障といったリスクを招く可能性があります。

当サイトでも、過去にHiKOKIバッテリーをマキタに変換するアダプタを検証していますが、大電流で振動や衝撃の加わる電動工具のような製品に使うアダプタとして「高リスク」の評価を下しています。

今回の記事では、このような電動工具バッテリー変換アダプタの危険性を再度警鐘すると共に、なぜ危険性が高いのかについて解説します。

PSE適合の電動工具バッテリーを“グレーゾーン”にしてしまうアダプタ

日本で販売されるリチウムイオンバッテリーパックは、電気用品安全法における「リチウムイオン蓄電池」に該当する製品で、その安全性を示すためにPSEに適合することを示すPSEマークの表記が必要です。これは「電気用品安全法」というルールに基づいて、発火や故障を防ぐための基準に合っていることを示すマークです。

電動工具のバッテリーの場合、その安全性はバッテリー単体だけではなく、工具本体と一緒に使うことで成立していることが多いのが特徴です。たとえば、バッテリーが熱くなりすぎたり、電気を流しすぎたりしたときに、それを止める仕組みはバッテリーの中ではなく製品側に入っていることがよくあります。

この仕組みに関しては、電気用品安全法の技術基準 別表第十二 J-62133 (JIS C 62133-2)の記述として「組電池は電流,電圧,温度及びその他の安全要求に対するパラメーターに対して,独立した制御保護機能をもち,単電池を作動領域内に維持しなければならない。ただし,制御保護機能は,充電器及び最終製品のような外部機器から組電池へ提供してもよい (5.6 組電池への単電池組込み 5.6.1 一般) 」とされています。電動工具の場合、放電性能の向上やコスト削減を目的として検知機能をバッテリー側に搭載し、製品本体側で遮断する構成がよく採用されています。

このように充電式電動工具に関しては「バッテリー+電動工具=ひとつの安全なシステム」になっているため、違うメーカー同士をつなげる変換アダプタを使ってしまうと、もともとの安全設計が崩れてしまう可能性があります。

たとえば、HiKOKIのバッテリーをマキタの充電式電動工具に取りつけると、工具側がバッテリーの状態を正しく判断できず、本来は止めるべき危険な状況でも動作が止まらないということが起こりかねません。その結果、バッテリーが過放電状態に至ったり、過熱状態でも止まらなかったり、最悪の想定として発火するおそれもあります。

変換アダプタを使用すると、バッテリーが適合しているPSE適合を満たすための条件が機能しなくなってしまい、事実上PSE非適合のバッテリーを使うのと同じことになります。

変換アダプタは、法律上、製品単体としては違法とは言えない製品であり、実際に使用したとしてもそれを罪に問う法律は事実上存在しないグレーな製品です。しかし、アダプタを使うことで、安全マークが付いているバッテリーが実質的に“安全ではない状態”になってしまう点に注意が必要です。

変換アダプタ以外にもサードパーティによる多対応製品も同様のリスク

最近、複数の電動工具メーカーのバッテリーに対応すると謳うサードパーティ製の「多対応型」電動工具や充電器が増えています。これらは一見すると便利で経済的な選択肢に見えますが、実は変換アダプタと同様に大きな安全リスクをはらんでいます。

純正メーカーの電動工具とバッテリーは、バッテリーと工具本体が通信し合い、過電流や過熱、過放電を防ぐための保護機能を相互に働かせる設計が施されています。しかし、サードパーティの多対応製品は、複数の異なるメーカーの規格を“無理に”ひとつの製品にまとめるため、こうした保護機能の多くを省略、もしくは実質的に無視した設計になっていることが少なくありません。

例えば、HiKOKIのコードレス電動工具の場合、電源端子のプラス端子とマイナス端子のほかに、バッテリーの状態を受け取る3端子目が存在します。しかし、同社の共通バッテリー規格であるマルチボルトアライアンスに参画していないHiKOKIバッテリー装着対応製品は3端子目が無く、バッテリーの状態を検知することができません。

日動工業 マルチチェンジャー
BBKテクノロジーズ WP-BA-H
ハイガー 5900154

PSEの技術基準では「組電池製造業者は,この安全関連情報を充電器製造業者及び最終製品製造業者へ提供しなければならない。 (5.6 組電池への単電池組込み 5.6.1 一般) 」とされています。そのため、原則としてバッテリーの情報を受けていない状態での製品開発を行うことは技術基準上よくないことと解釈されます。

事実上、PSE適合を無効化する製品を取り締まる法律はない

すべての法令を網羅しているわけではない前提でお話しますが、充電式の電動工具本体は、PSE(電気用品安全法)の対象外です。つまり、充電式電動工具そのものにPSEマークを付ける義務はありません。

一方で、リチウムイオン蓄電池はPSEの対象であり、技術基準(JIS C 62133-2など)には「安全機能をバッテリーではなく接続される製品側で行っても良い」とされています。これは、電動工具の本体に温度管理や電流制御などの安全機能を任せる設計でもよいということです。

しかし問題は、その“製品側”である電動工具がPSEの適用対象外であるために、その本体側のバッテリー保護設計が適切かどうかを制度としてチェックできないという点です。つまり、バッテリーに本来備わっているべき安全機能が工具側の設計に依存していても、それが不適切だったとしても規制できないという「制度の抜け穴」が存在しています。

このため、たとえばバッテリーの保護機能を無効にしてしまうようなサードパーティ製の工具や製品があったとしても、それを法律で取り締まることは難しいというのが現状です。仮に発火事故が発生した場合においてその責任は有耶無耶になり、最終的にユーザーが全ての責任を負う可能性が極めて高いです。

ただし、現状ではこの制度の抜け穴が実際に製品事故を起こした事例はほとんど発生していないと考えられます。また、マキタ18Vバッテリにおいては、バッテリー側に安全機能を搭載する構造のため当記事の事例に当てはまらない可能性が高いことや、特許切れによる事実上のデファクトスタンダード化、解析の進行、サードパーティが自らサードパーティバッテリーを作るなどの状況で状況が有耶無耶になっている点も含め、一概に全ての変換アダプタやサードパーティ品が悪いとも言えない状態です。

とは言え、変換アダプタは法律上、画一的に取り締まる方法が無いために野放しとなっているだけの製品であり、リチウムイオン蓄電池の安全設計の観点から考えれば推奨はできない製品です。「色々なバッテリーを使える便利アイテム」として製品紹介を行う方も少なくないのですが、実態としては脱法にも近い存在と解釈しているので、見かけても基本的には触れない方が良い製品だと考えています。

Return Top