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充電式電動工具はこの先どこへ進むのか―性能競争の先にある電動工具市場の変化【電動工具コラム】

充電式電動工具はこの先どこへ進むのか―性能競争の先にある電動工具市場の変化【電動工具コラム】

充電式電動工具は”市場の要望を十分満たす製品”へ成熟した

現在の充電式電動工具の持つ印象とは異なり、一昔前の充電式電動工具はかなり用途の限られた製品でした。

ニッカド電池やニッケル水素電池を搭載した時代の充電式電動工具は、軽作業や補助的な作業には便利な存在ではあったものの、電源コード式の電動工具と真正面から比較できる存在ではありませんでした。例えば、穴あけやネジ締めのような比較的軽い作業であれば使える一方で、連続作業や高負荷作業になると途端に力不足が目立ち、作業時間も短く、バッテリーの劣化や充電時間も気になるものでした。

リチウムイオンバッテリー登場以前の充電式電動工具の製品リスト

当時の充電式電動工具の感覚としては、「電源が取れない場所で仕方なく使うもの」あるいは「ちょっとした作業に便利な工具」という立ち位置であり、本格的な作業では電源コード式の電動工具を使うのが当然と言った感覚です。特に丸ノコ、グラインダ、ハンマドリルなどの切断工具のように大きな出力を必要とする製品では、充電式はどうしても非力な印象が強く、プロ用途の主力工具として使うにはまだ心もとない存在だったと言えます。

この状況を大きく変えたのが、リチウムイオンバッテリーとブラシレスモータの登場です。

かつては電源コード式が当然だった丸ノコやグラインダ、ハンマドリル、インパクトレンチ、チェンソー、ブロワといった高出力工具にも充電式化が進み、今では、現場で電源コード式の電動工具を引き回して使う機会はかなり少なくなり、一般的な建築用途においては、充電式電動工具が主役になったと言ってもよい状況になりました。

現在の充電式電動工具は、単に「昔より高性能になった」という段階を超え、市場の多くの要望を十分に満たす成熟製品にまで成長しています。

これは電動工具にとって大きな変化となった一方で、今後の発展を考えるうえでは重要な転換点にもなりました。

なぜなら、すでに多くのユーザーが必要とする性能に到達している以上、今後は単純に製品性能を上げたり、バッテリー容量を増やしたりするだけでは、かつてのような大きな感動や買い替え需要を生みにくくなるからです。

電動工具の技術開発を大きく延命した”リチウムイオンバッテリー”と”ブラシレスモータ”

現在の充電式電動工具の発展を語る上で、リチウムイオンバッテリーとブラシレスモータの存在は避けて通れません。

この2つの技術は、単に電動工具の性能を高めただけではなく、電動工具メーカーにとっての製品開発そのものを大きく延命した技術でもありました。

例えば、リチウムイオンバッテリーとブラシレスモータが本格的に普及する以前の電動工具市場は、現在の状況に近い成熟段階に入りつつあった時期だったとも言えます。

電源コード式の電動工具ではブラシ付きのユニバーサルモータが広く使われ、充電式電動工具ではブラシ付きDCモータを搭載した製品が主流でした。もちろん各メーカーは、軽量化、耐久性、操作性、安全性、付加価値などの改良を続けていましたが、製品の基本構造そのものが毎年大きく変わるような分野ではありませんでした。

そこに登場したのが、リチウムイオンバッテリーとブラシレスモータです。

リチウムイオンバッテリーは、従来のニッカド電池やニッケル水素電池と比べて、充電式電動工具の実用性を大きく引き上げました。高出力化、軽量化、長時間化、急速充電への対応が進み、充電式工具は「補助的に使うもの」から「現場の主力工具」へと変わっていきました。

画像引用:マキタ 充電式インパクトドライバ TD130Dカタログ

そして、ブラシレスモータは、バッテリーから取り出した電力をより効率よく出力に変換できる技術として充電式工具の性能向上に大きく貢献しました。カーボンブラシの摩耗がないためメンテナンス性に優れ、モータ制御もしやすく負荷に応じた回転制御や保護制御も組み込みやすくなりました。そういう意味でブラシレスモータは単なるメンテナンススリーのモータと言うよりも、電動工具を電子制御された製品へ進化させる土台になったと言えます。

画像引用:日立工機 日立コードレスインパクトドライバ WH14DBLカタログ

かつてAC電源式でなければ実用的ではなかった丸ノコ、グラインダ、ハンマドリル、インパクトレンチ、切断工具、屋外作業機などを、順番に充電式へ置き換えていく。さらに、従来のブラシモータ搭載機をブラシレスモータ搭載機へ置き換えていく。この流れそのものが、しばらくのあいだ電動工具メーカーにとって強力な開発テーマになりました。

この2つの技術の登場は、電動工具の技術開発を大きく前へ進めた存在であると同時に、成熟しかけていた市場をもう一度成長軌道に乗せた存在でもあり、経営レベルで「次に何を作るべきか」の製品開発コンセプトを明確にした時代になったと言えます。

電動工具の性能や使い勝手が上がっても、工具の使用量は増えにくい

リチウムイオンバッテリーとブラシレスモータの登場から、おおむね20年ほどが経過した現在、充電式電動工具は「性能が足りないから選ばれない製品」ではなくなっています。むしろ、多くのユーザーにとっては、出力、作業時間、充電速度、取り回し、耐久性といった面で、必要とする水準をかなり満たす製品になっています。

その意味で、筆者は充電式電動工具は再び成熟段階に入りつつあるる状況にあると考えています。

もちろん、今後も電動工具の性能向上は続くと考えられます。より高出力なモータ、より発熱の稼働時間の長い製品、より大容量で高出力なバッテリー、より軽量な筐体、より高度な安全機能など、改良の余地はまだ残されています。しかし、電動工具の性能がさらに向上したとしても、性能向上が電動工具自体の需要を増やすとは限らないと点です。

例えば、これがスマートフォンやPCであれば性能が向上することで新しい用途が生まれ需要が増える可能性は十分考えられます。高性能なカメラ、動画編集、ゲーム、AI処理、クラウドサービス、配信、電子決済、SNSなど、性能向上が新しい用途を生み、その結果として市場の需要や利用時間が増えることがあります。

一方で、電動工具は現場作業のための道具であり、電動工具それ自体が需要を生むことはほとんどないと考えられます。

インパクトドライバの締付け速度が少し速くなったからといって、世の中のビス打ち作業そのものが増えるわけではありません。丸ノコの切断能力が上がったからといって、住宅着工数や建設現場の数が増えるわけでもありません。電動工具による作業量そのものは最終的には建設需要や製造需要に左右されます。

むしろ、作業効率が上がることで、現場によっては必要な工具台数や作業者数が抑えられる可能性もあります。性能向上はユーザーにとって価値のある進化である一方、市場規模を拡大させる力としては、必ずしも万能ではないと考えられます。

新規需要の本命は、既存工具の買い替えではなく“充電式製品の市場創生”

すでに多くの主要な充電式電動工具は、十分に実用的な性能を持つようになりました。そのため、既存工具の買い替え需要だけを見れば、かつてのように「コード式から充電式へ」「ブラシモータからブラシレスモータへ」といった分かりやすい更新理由は弱くなりつつあります。

もちろん、新型のインパクトドライバや丸ノコが登場すれば、一定の買い替え需要は生まれます。より小型で、より軽く、より扱いやすく、より高出力になれば、プロユーザーを中心とした一定の需要は期待できます。しかし、それはあくまで既存需要の更新であり、市場全体を大きく押し広げる力としては限界があります。

筆者は、この電動工具市場の成熟に対する1つの解決策として充電式製品の市場創生が今後の重要なテーマになると想定しています。

ここでいう充電式製品の拡大とは従来の電動工具そのものではなく、現場で使われる関連機器やこれまでエンジン式・エア式・AC電源式・手作業で行っていた製品の充電式化を進め、他分野の市場シェアの奪取、または新市場の創生を指しています。

既存工具の買い替えだけに依存すると市場はどうしても成熟していきます。すでに十分な性能を持つ工具を使っているユーザーに対して新型機を売るには、明確な性能差や利便性を提示しなければなりません。しかし、同じバッテリーで使える周辺機器を増やせば、ユーザーは既存のバッテリー資産を活用しながら、新しい製品を買い足す理由を持ちやすくなります。

筆者は、現在の電動工具メーカーにとって「どれだけ性能の高く、使い勝手に優れたインパクトドライバを作れるか」だけで通用する時代は少し前の時点で終了したものと考えています。現場で使われているエンジン式、エア式、AC電源式、手作業の機器をどこまで充電式に置き換えられるか。そして、同じバッテリープラットフォームの中に、どれだけ多くの作業機器を取り込めるかが今後の電動工具としてのテーマになると考えています。

ただし、すべての機器が簡単に充電式へ置き換えられるわけではありません。

大きな電力を長時間必要とする機器では、バッテリー重量や価格が問題になります。業務用として連続稼働が必要な機器では、バッテリー交換や充電体制も含めて考える必要があります。また、製品ジャンルが広がるほど、メーカーには工具とは異なる技術や品質管理、販売戦略も求められます。

電動工具の未来は、スペックや使い勝手など既存分野の競争の先にある

今回のコラムで象徴的な例として挙げられるのが、各社が開発力を注ぎ込んできたフラッグシップクラスのインパクトドライバです。

近年のフラッグシップと呼ばれるクラスでは、爪数を増やしたアンビル構造、複数のスプリングを組み合わせた打撃機構、著名デザイナーによる外装設計、感圧センサスイッチ、ベクトル制御など、高度な技術や工夫が盛り込まれており、メーカー、販売店、ユーザーのいずれにとっても、フラッグシップインパクトドライバは電動工具の進化を分かりやすく示す存在であり、新製品が登場するたびに大きな注目を集めてきた分野でもあります。

これはインパクトドライバに限らず、一般的な電動工具に分類される製品の大半がすでに成熟した領域に入っているとも言えます。

もちろん、今後も小型化、軽量化、制御性、耐久性、打撃感、デザイン性などの改良は続いていくと考えられます。しかし、現在の充電式電動工具は、ほとんどの用途においてユーザーが必要とする性能をかなり高い水準で満たしています。そのため、さらに高度な技術を投入したとしても、一時期のような大きな驚きや、分かりやすい買い替え動機を生み出すことは難しくなりつつあります。

この点は、今後の電動工具メーカーにとって重要な課題になると考えられます。

これまでの電動工具メーカーは、基本的に「より高性能で使い勝手の良い電動工具を作る企業」として成長してきました。

しかし、充電式電動工具が多くの用途で十分な性能に到達した現在、これから求められる役割は少しずつ変わっていくと考えられます。今後の電動工具メーカーには、単に電動工具そのもの使い勝手を向上するよりも、現場の作業環境を支え、作業者不足を補い、安全性や品質管理を支援するような視点がより重要になります。

電動工具の未来は、スペックや使い勝手を磨き込む既存分野の競争だけではなく、その先にある現場全体の省力化、安全性向上、作業環境の改善などのソリューション化、そして周辺領域の充電化が広がっていくのではないでしょうか。

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