屋外の作業が多いから「防水に対応したインパクトドライバを買おう!」と決断したものの実際に使ってみたら、数か月で動かなくなってしまい、修理に出したらコントローラーの故障で高い修理費を取られる。なんて経験がある方もいると思います。
こうならないために防水に対応した電動工具を選んだのに、なぜ防水対応の電動工具は壊れてしまうのか。
本記事は電動工具が表記している防水防じんに対するコラムです。私的意見や不確定な情報も含むので参考としてご覧ください。
目次
防水対応でも壊れてしまう電動工具
ブラシレスモーターの搭載とほぼ同時に進んだのが、電動工具の防水(防滴)・防じん化です。
HiKOKI(旧日立工機)やRYOBIではIP56、マキタではAPT、MAXではMAX EGISなど各社様々な規格や名称で防水・防じんをアピールしています。しかし、実際に屋外の雨中で使っていたら動かなくなってしまう事も珍しくありません。
確かにカタログには「故障しない事を保証するものではない」と記載されているものの、実際に壊れてしまうのには納得がいかない、なんて考える人もいるかもしれません。
電動工具はスイッチが水で真っ先に壊れる
電動工具に水が入るとどこが壊れるのか。ブラシレスモーターによって電子部品が搭載されるようになったため、電子回路部分が一番水に弱いと考えてしまいますが、回路周りはコーティングが比較的容易なので防水性を持たせること自体はそこまで難しくありません。
電動工具で最も水に弱い部品こそ「トリガスイッチ」です。
電動工具に採用されるスイッチは、ストローク量が多いためスイッチ内部の呼吸量も大きい特徴があります。そのため、トリガ操作を行った時に周囲の水分を内部に吸い込みやすい構造になっています。
スイッチ内部に入り込んだ水が接点にまで達してしまうと、接点の錆や内部配線の劣化によって起動しなくなる動作不良が発生します。
理由① 実際の使用環境と防水試験基準が異なる
防水(防滴)対応モデルなのになぜ水で壊れてしまうのか。その答えは、防水規格の試験条件と実際の使用環境の違いにあります。
IP防水試験を定めるIEC 60529内の試験項目は、試験を行うときの製品に関して製品の状態に対する基準を定めていません。そのため、一般的な防水試験では製品を操作していない状態で試験を行っています。
しかし電動工具で工具内部に最も水が浸入するタイミングは「電動工具を始動・停止させるトリガスイッチ操作を行う時」です。
先述した通り、ON・OFFを操作するトリガスイッチは、トリガーを引いたときのスイッチ操作時に水を最も吸い込みやすい状態となります。電動工具の実使用を考えれば、この状態を無視して防水性を評価してもあまり効果はありません。
理由② 劣化に対しての評価がない
防水性の問題を少しややこしくしているのが「電動工具は水に濡れた程度では簡単に壊れない」と言う点です。
実は、例え防水に対応していない製品であっても、仮に電動工具を水没させたとしても、その直後であれば動作してしまう場合も珍しくはありません。
実際に電動工具が動かなくなるような影響が表れるのは少し時間が経った後からです。
水がスイッチ内部に侵入すると接点の「腐食」や「酸化」が発生します。これは時間経過により悪化が進み、最終的には製品が使用できなくなる状態まで進行するケースもあります。
例えば、水を濡らしたその日は問題なかったのに、次の朝には動かなくなっていた、とか、休み明けに使用できなくなった、などはこのパターンが当てはまります。
IEC 60529の水に対する保護の適合条件の表記では、試験後に放置して劣化を確認する項目等は記載されていないため、放水する試験だけを行えば防水等級が表示できてしまいます。
独り歩きしてしまった電動工具の防水防じん性能
ブラシレスモーターでは、ブラシモーターの弱点だったブラシや接点がなくなったことで、防水防じん性を搭載できるようになり。単純に比較しても、防水防じんに対応する電動工具は水に対して強くなっていますし、屋外で使用する場合を考えるならIP56適合やAPTに対応した製品以外の選択肢はありません。
しかし、実際の防水性能と市場が要求している性能で差があるのではないか?と考えているのが今回の記事で語りたかった点です。
筆者は、電動工具の防水保護等級に関して「雨で濡れてしまった」程度であれば防水性能を発揮できるのかもしれませんが、「雨の中での使用」に関しては厳しいのではないか?と予想しています。
もちろん、防水防じんを搭載する製品が水で壊れてしまう問題に関しては、各メーカーが独自の試験基準を設けて対策を行っているとは思いますが、電動工具に使われているストローク量の大きいスイッチは、対策が難しい部品なので防水表示に対して過信してしまうのも考え物です。
電動工具の防水・防じんに関しては、ユーザー、メーカー共に防水・防じん性能に高い期待を寄せてしまったばかりに、言葉だけが独り歩きしてしまい、実際に求められる性能に対して劣る状態で普及してしまっていると考えています。