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2021年10月5日

電動工具メーカーが充電式湯沸かし器や電気ケトルを販売しない理由【工具コラム】

電動工具メーカーが充電式湯沸かし器や電気ケトルを販売しない理由【工具コラム】

製品要望の定番「充電式湯沸かし器」はなぜ出ない?

現場でどんな充電式製品が欲しい?のような話題になると常に話題に上がるのが「お湯を沸かせる」製品の要望です。

結論から言ってしまえば、お湯を沸かす充電式製品それ自体を作ることは容易ですが、現在のバッテリー容量では調理に使える量のお湯を沸かす製品を作ることは実用的な面で不可能です。

今回は、さまざまな充電式製品を開発する電動工具メーカーが電気ケトルや電気ポットのような充電式湯沸かし器を販売しない理由について解説します。

業界唯一のお湯を沸かせる製品 充電式コーヒーメーカー マキタCM501DZ
18V-6.0Ahバッテリー使用時で約640mLのドリップが可能としている。ただし、1ドリップ(160mL)に約5分必要でカップラーメンを作るには15分必要
2021年10月5日追記:充電式のケトルの実現は難しいと語る当記事でだが、マキタから充電式ケトルKT360DZが発売してしまった。

2021年10月にマキタから充電式ケトルKT360DZが発売してしまいましたが、当記事では現在のバッテリー技術と水を沸かすためのエネルギー量を中心に解説を続けます。

お湯を沸かすために必要なバッテリー容量は?

熱を生むにはモーターを回す以上の膨大なエネルギーが必要です。しかし、現在のバッテリー技術では水を沸騰させるほどの十分なエネルギーを確保できません。

例えば、お湯を沸かすのにどれくらいのエネルギーが必要なのかを考えてみます。

ここで電力量に注目しましょう。バッテリーに詳しい方ならピンとくると思いますが、電力量を表す単位[Wh]は電動工具用バッテリーのラベルにも記載されていて、バッテリー容量を表す単位としても使われています。

電気ケトルで有名なティファールによれば、1Lのお湯を沸かすために必要な電力量は0.109kWhと記載しています。

マキタ 40Vmax バッテリBL4025 36V-2.5Ahバッテリーが持つ電力容量は90Wh

例えば、18Vの6.0Ahバッテリー容量をWh換算すると108Whの容量を持つことになります

電気ケトルの電力量0.109kWからk(キロ)の接頭辞を抜くと109Whになるので、18V-6.0Ahのバッテリー電力容量が108Whなら約1Lの水を沸騰できる電気エネルギーを持っていることになります。

この原理から言えば、18V-6.0Ahバッテリーを使用すれば1Lのお湯を沸かせる充電式ケトルを作ることができます。

ただし、これは理想的な話であり、充電式湯沸かし器を実用化する場合「バッテリー出力性能の問題」と「製品として実用上の問題」の2つの問題が発生します。

充電式湯沸かし器 実用化の2つの課題

1つめはバッテリーは常に同じ性能で放電できるわけではない問題です。

バッテリーは常に同じ電力量を取り出せるわけではありません

例えば、バッテリーは出力が大きいと取り出せる電力量が少なくなるため、湯沸かし器のような大きな電力を必要とする用途ではバッテリー容量が減少します。

それに加え、ユーザーが使っているバッテリーは経年劣化で容量が減少していることも考えなくてはいけません。

「充電式」製品の特性を考えると、屋外夜間や寒冷地などの外気温が低い環境で使われることも予想されます。

寒い環境でバッテリーの温度が下がるとバッテリーは十分な出力を発揮できなくなるので、バッテリー容量はさらに減少します。さらに、水が冷たいのでお湯を沸かすために必要なエネルギーが増えるのはもちろん、湯沸かししているそばから熱も逃げていくため余計にエネルギーが必要です。

実際に18V充電式湯沸かし器を作ったとしても、バッテリー容量を減少させるさまざまな要因があり、湯沸かしのための十分な電気エネルギーを確保するのは難しいと考えられます。

2つめは、製品として価値があるかという問題です。

現在のバッテリー容量でも、お湯を沸かす環境が好条件であればカップラーメン一杯分ぐらいのお湯を沸かすことは可能かもしれません。

しかし、1回の湯沸かしで1個のバッテリーが空になってしまう製品をユーザーが欲しがるかを考えると難しいところです。

充電式である以上、電源が満足に取れない場所で湯沸かしするわけですが、1充電で1回しか湯沸かしできないのであれば、1回ごとに再充電しなければいけない充電式製品は魅力半減でしょう。

実用性だけを考えるのであれば、携帯用コンロとガスボンベを使ってお湯を沸かした方が遥かに合理的です。

もちろん、火を使えない環境でお湯を沸かしたいユーザーのニーズは確実に存在するため一定数は売れると考えられますが、そのような製品コンセプトでだけで採算ベースに乗せられるかはまた別の話です。

メーカーの立場として考えれば、ブランドを傷付けるような中途半端な製品を販売するような真似は避け、技術的に十分実用化できる水準になった時点で製品化したいところです

充電式製品でお湯を気軽に扱えるようになるのは約10年先

結局のところ、充電式の湯沸かし器が作れない理由はバッテリー容量が致命的なまでに不足していることが原因です。

ここ最近の充電式製品は性能が向上しているのでなんでもできるように思ってしまいますが、カセットコンロのガスボンベ1本と同じ熱量を確保するには電動工具用バッテリーを35本用意しなければなりません。リチウムイオンバッテリーはエネルギー源として考えればまだまだ非力です。

リチウムイオンバッテリーとカセットボンベの熱量をkWhで比較すると、圧倒的にカセットボンベの方が熱源として優れている。
参考:Q12:ボンベ1本の燃焼時間はどのくらいですか。|イワタニ

現在のバッテリー技術で製品化できるクラスの実用的な充電式の湯沸かし器を作るなら、ミルウォーキーMX Fuelマキタ80Vmaxのような大容量前提のバッテリープラットフォームが必要です。

しかし、そのような大型バッテリーを使用したとしても、0.5~1リットルくらいのお湯を沸かせるかどうかが今のバッテリー技術の限界なのです。

製品化できる最低限ラインの製品仕様を考えてみると、こんな感じになる。
「※」の注記を消すためには、タンク容量を減らしたりバッテリー本数を×3や×4にしたいところ

現行材料によるリチウムイオン二次電池は、容量や出力の向上の限界に差し掛かっています。

電動工具のバッテリーも2015年の18V-6.0Ahバッテリーの登場以降、容量の向上が停滞しており、電動工具メーカーは36Vバッテリーのような見せかけの新バッテリーを展開してお茶を濁す状態を続けています。

電気ケトルのような大電力を必要とする充電式製品を販売するためには、現行のリチウムイオンバッテリーからさらに技術革新が進み、現行バッテリの3~4倍の容量を持つ新型の充電式バッテリーの登場を待たなくてはいけません。

マキタが充電式ケトルKT360DZ発売

長々と充電式湯沸かし器について語ったものの、2021年10月にマキタが18V×2本シリーズ 充電式ケトル KT360DZを発売します。

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