2018年2月14日~16日に開催された「3D Printing 2018」の有限会社スワニー様のブースで「デジタルモールド」の展示を見てきました。今回は、そのレポート記事です。
目次
3Dプリンタの革命 樹脂で型を作るデジタルモールド
3Dプリンタと言えば通常、樹脂を溶かしてプリントするものだが、今回紹介する有限会社スワニーが考える3Dプリンタの使い方は少し異なる。
有限会社スワニーとストラタシスが考える3Dプリンターの新しい使い方とは、プラスチック成形に使う金型を3Dプリンタで作ってしまおうという取り組みだ。
この3Dプリンタで作った金型はデジタルモールドと呼ばれている。名前の通り、3Dでデータ化された金型の情報をそのまま3Dプリンタで作ってしまっているのだから、その名前にも頷ける。
そもそも、通常のプラスチック製品はどうやって作られている?
さて、デジタルモールドについて解説する前に大量生産されているプラスチック製品がどのように作られているのか説明しよう。
プラスチック製品の作り方は、大きく分けて射出(インジェクション)成型と吹込(ブロー)成型の2つの成型手法が取られる。その内、殆どのプラスチック製品は射出成型で生産される。
射出成型を例えるなら、たい焼きを想像するといいだろう。焼く前の生地をたい焼きの型に流し込んで上から型を押し固めて鯛の形に焼き上げる。厳密にはたい焼きと射出成型の方法は異なるが、型を使って同じ形に仕上げるという原理は同じだ。
さて、たい焼きで最も重要になるのは何だろうか、職人の腕や温度など色々な要因があるだろうが、たい焼きで一番重要になるのはたい焼きの外見となる型だ。射出成型ではこの型に相当するものを金型と呼ぶ。
金型とは溶けたプラスチックを流し込んで望んだ形にするための金属製の型を指す。身近なプラスチック製品はすべて金型を使って成型されていると言ってもよい。
さて、この金型と呼ばれるものは大量生産にとって、非常に重要なものになっている。
1つの金型からは数万から数十万の全く同じプラスチック製品を射出することになり、そのような金型は高精度・高耐久性・高機能性が必要になっている。そのため、金型の製造・維持管理コストは非常に高くなり、簡単に作り変えたり、買いなおしたりすることができなくなるのだ。
従来の金型の概念を大きく変えるデジタルモールド
デジタルモールドとは、今までの金属の型を使用せず、3Dプリンタで作られた樹脂の型でABSを始めとしたPS、POM、PPなどの各種樹脂材料の射出成型を可能にする技術だ。
製品試作の初期ではRP工法と呼ばれる技術による、光造形や粉末造形での積層方式による試作品評価がほとんどだ。しかし、RP工法だと形状は同じ物にできても、金型を使った射出成型品とは成型方法や材料が異なるため、試作品と最終品で同じ評価になるとは限らない。
ストラタシスのデジタルABSで作られたデジタルモールドは、樹脂を金型に使用する事で試作金型完成までのリードタイムを非常に短くすることができ、しかも最終製品と同じ金型・材料を使った試作を重ねることが可能になる。
デジタルモールドであれば、型の修正を行う場合3Dデータを更新し3Dプリントすることで、オンデマンドですぐに型修正が可能だ。これによってRP品では不可能だった試作品の適切な評価や金型時の製造コストを大幅に改善させることができる。
金属加工分野にも進出するデジタルモールド・プレス
デジタルモールドの適応範囲はプラスチックの射出成型だけではない、デジタルモールド・プレスでは金属加工手法の一つであるプレス加工にも活用されている。
プラスチックの射出成型と同じく、プレス加工においても金型が使われるが、やはりこれも従来では金属製の金型を使用しなければならない加工手法だった。しかし、このデジタルモールド・プレスにおいては樹脂型によるプレス加工も可能にしている。
通常、プレス加工の試作では簡易金型が使用される。量産金型に比べれば安価な簡易金型ではあるが、金属加工品であるためコスト・納期共に高く、手軽な型修正や検証などは行いにくかった。
デジタルモールド・プレスであれば早期の型修正はもちろんの事、材質に合わせた多彩なプレス型を早期に展開することができる。デジタルモールドであれば、時間のかかるプレス加工品の開発であっても、1日ほどで樹脂型を作り、すぐにでも試作を開始することが可能だ。
圧倒的に短い納期と低コストのデジタルモールド 少ロットプロダクトは新時代へ
3Dプリンタを活用した樹脂型 デジタルモールドによって、これまでの大量生産が前提だった製品開発は大きく変わることになる。
デジタルモールドで使われる型は樹脂であるため、金属型を完全に置き換える事はまだ不可能だろう。特に、ショット数に対する耐久性や成型品の精度においては、金属の金型と比べると不利な面は確実に存在する。
しかし、デジタルモールドによる低コスト性や開発リードタイムの短さは、初期コストの高い大量生産を過去のものにする可能性を秘めている。高品質な大量生産前提のプロダクトを少量生産でも高品質・低価格とし、個人レベルの開発環境でも企業のプロダクトと真っ向勝負出来る時代がすぐそこまで来ている。
この先、デジタルモールドによる樹脂型を使った製品開発が普及すれば、モノづくりの大量生産で受けられた特権は、個人のモノづくりまで浸透し、メーカーだけのものではなくなるに違いない。この先のモノづくりは、新しいチャレンジに溢れ多彩なアイデアで色づいた小ロット生産プロダクトに向かっていく事だろう。
※デジタルモールドは、有限会社スワニーの商標、もしくは登録商標です。