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皆さんは仕事道具として使っている電動工具はどの充電式シリーズを使っているでしょうか。事実上、日本市場におけるシェアトップの充電式電動工具はマキタ 18Vシリーズな訳ですが、マキタにはさらに上位クラスにあたる40Vmaxシリーズがあります。
今回の記事は、そんなマキタ最上位の充電式電動工具 40Vmaxシリーズに対するコラムです。
目次
マキタ 40Vmaxシリーズとは何か
40Vmaxとは、2019年10月からシリーズ展開が始まったマキタの36V充電式電動工具シリーズです。
この40Vmaxシリーズが登場した時期の電動工具市場には色々と複雑で、HiKOKI マルチボルトシリーズの登場や21700サイズのリチウムイオンセルの普及など、充電式電動工具市場に色々と革新があった時期でした。あとはマキタ18Vバッテリーの関連特許の存続期間満了など、マキタ的なの事情もあり、筆者の認識として非常に複雑な背景の元で開発が始まった充電式シリーズだと考えています。
割とネガティブ寄りな背景で始まったマキタ40Vmaxシリーズな訳ですが、なんだかんだで製品開発は継続的に行われており、2025年2月時点のシリーズラインナップ数としては国内競合のHiKOKIマルチボルトシリーズを抑え、国内2位の製品ラインナップ数を揃えるまでに成長したバッテリーシリーズとなっています。
2019年では電動工具8モデルのみだったが2025年には230モデルに
登場したばかりの頃のマキタ40Vmaxは、僅か8機種の電動工具からスタートした充電式電動工具シリーズでした。
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初めの頃のシリーズ拡充は電動工具を中心に行われていたのですが、園芸機器や周辺機器の拡充も精力的に行われ、2025年2月時点で230モデルにまで展開する規模のバッテリープラットフォームになっています。
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2021年2月には40Vmaxバッテリを2本直列接続する80Vmaxの展開もスタートしており、世界的な電動工具市場でもトップクラスの高出力と大容量バッテリーを兼ね備えた充電式電動工具シリーズになっています。
既存の電動工具市場では目立ったシェア拡大を確認できない40Vmax
40Vmaxシリーズは、プロショップなどの販売店で40Vmaxシリーズの陳列などが積極的に行われているものの、正直なところ、現場作業における普及はそこまで進んでいない充電式シリーズであると認識しています。
筆者は色々な現場を覗いて電動工具を見て回っているのですが、充電式電動工具においては、感覚的に95%がマキタ18V、5%がマキタ14.4V、3%がHiKOKIです。40Vmaxシリーズを使っているユーザーを見かけることはほとんどありません。
40Vmaxのラインナップ数や販売店陳列棚の多さと裏腹に普及が進んでいない原因については、大半のユーザーが性能的に現状の電動工具で満足しており、新しく高出力な電動工具そのものに対する興味も薄いため、新しく買い替える必要性を感じていないためであると想定しています。
この辺りは40Vmaxに限る話ではないのですが、36Vバッテリーによる高出力充電式電動工具に関しては、当サイトも含めメーカーや販売店が勝手に凄い製品と盛り上がっていただけで、大多数の電動工具ユーザーにとっては高出力充電式電動工具自体が白け気味の製品だったのかもしれません。
そんな40Vmaxの幸が薄い印象はあるものの、マキタの売上高推移を見ると40Vmaxシリーズのシリーズ展開以降、特にコロナ時期の2020年から2022年にかけて売り上げが急拡大しています。この時期は40Vmax中心の製品開発が行われた時期であり、コロナの事情と合わせて少なからずマキタの売上拡大に寄与していた部分もあるのかもしれません。
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画像引用:マキタレポート2024年3月期
とは言え、この時期のマキタの売上拡大の要因はドル円為替が最も影響していると思うのですが、40Vmaxシリーズ製品拡充の影響も無くは無いのかな、と思いたいところです。
なんだかんだで40Vmaxの評判がいい市場は園芸機器分野
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40Vmaxシリーズはインパクトドライバや小径丸ノコのような18Vクラスでも十分実用的な一般作業需要層での評判はそこまで良くない印象なのですが、高出力用途を必要ととする大型丸ノコやディスクグラインダ、ハンマドリルなどのAC電源を置き換える用途では堅調に普及が進んでいるようです。
その中でも40Vmaxシリーズの特に伸びている分野が、刈払機を代表とする園芸機器(OPE)分野です。
これも筆者が街中での観察レベルの印象なのですが、40Vmaxを使っているユーザーは本当に多く感じます。割合としては40Vmaxが4割、エンジンが5割、残り1割が18Vシリーズです。マンション管理から公園整備、個人レベルの生垣剪定まで40Vmaxの園芸機器をよく見かけます。
本格的な農機作業に対しては力不足なところもある40Vmaxシリーズですが、都市部や住宅街におけるマキタ40Vmax OPEのほぼマキタ独壇場の状態で市場形成が進んでいる印象です。
個人的に思う40Vmaxシリーズ展開の不満点
ここから本題ですが、筆者がこれまでマキタの40Vmaxシリーズを見てきた中で思った諸々の不満点です。
スペックに差がほとんど無いのに価格だけ高い製品がある
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18Vと40Vmaxの製品の中には、ほぼ同じ製品仕様でありながら価格が異なる製品があります。
傾向として、40Vmaxが先行し18V化した製品の場合には同じ価格設定になっていることが多いのですが、18V製品を40Vmax化した時には、ほとんどの製品で40Vmax製品の方が高くなっています。
回路構造やモータ仕様的に40Vmaxシリーズの方が高くなってしまうのは理解できるのですが、ユーザー視点のスペックに大きな違いが無いのに、数千円の価格差があることはある種の抵抗を感じてしまう要因だと思っています。
40Vmaxの大容量バッテリが使えるのは利点ではあるものの、18Vと40Vmaxで同じスペックの製品は小型の製品も多く、大型バッテリを使える利点はあってないようなものであるため、製品仕様としての明確な違いや価格差を抑えた状態になって欲しいと願っています。
アシスト自転車や電子レンジのように作っただけで満足している製品がある
これはマキタ40Vmaxと言うよりもマキタの営業戦略に関する不満点なのですが、一部の40Vmax製品にはコアなマキタファンを喜ばせるだけの製品を作って満足している印象があります。
それに真っ先に上げられる製品がアシスト自転車や電子レンジです。どちらの製品も普通に考えて金物屋や工具プロショップに並べるような製品ではないのですが、マキタ製品開発の特異性を象徴する製品として話題になった製品です。
とは言え、アシスト自転車のような電動工具以外の製品であれば、ホームセンターの工具コーナーや金物屋で売るのではなく、ホームセンターの自転車コーナーやサイクルショップで販売されるような高いレベルでの営業交渉を行い、継続的に売り上げを高める活動に繋げていくのが道理ではないのかなと思ってしまうところがあります。
そうは言っても、国内電動アシスト自転車市場に関しては既にある程度市場が完成しており、ある意味でレッドオーシャン的な市場なので実際厳しい戦略ではあるのですが、電動アシスト自転車の国内販売規模は750億円と国内電動工具市場の1/3の規模を持つ市場であり、昨今はe-bikeと呼ばれる電動スポーツサイクルの新市場拡大も模索が続いています。そのような市場拡大のポテンシャルがありそうな環境下で、でコアなマキタファンを喜ばせるだけの製品を作って満足してしまうのも製品企画としてどうなのだろうと思ってしまうのが正直なところです。
この辺りはマキタの営業事情やブランドが確立してしまった故の弊害も出ていると思っています。実際、マキタは80年代にホットカーペットや温水洗浄トイレなど住宅家電に参入して大きな成果の出ないまま撤退した経験もあるため、「営業のマキタ」とは言われつつも、新しい市場に飛び込んで販路を開拓する企業文化に乏しいのかなとも思ったりしています。
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80年代のマキタは住宅設備機器や家電などの新規市場への展開を意欲的に進めていたが、90年代には撤退している。
画像引用:マキタ100年のあゆみ
通信アダプタ ADP11の扱いが雑
マキタが40Vmax充電式インパクトドライバ TD002Gを発売した時に通信アダプタ ADP11も同時発売していたことを覚えている方はいるでしょうか。
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このADP11は、TD002Gに取り付けてスマホと接続することで打撃モードやLEDライトをカスタマイズできるようにするアクセサリですが、2022年1月の発売以降、対応製品はTD002G 1機種しかありません。筆者が期待していたのはTD002Gに留まらず色々な40Vmax製品に対応して、幅広い製品の動作カスタマイズやログ取得に対応してくれることでした。
特に、メンテナンスに関わるログを見れるようにする機能は、仕事道具として使うには必須だと思っていて、インパクトドライバならハンマとアンビルの摩耗タイミングや故障診断、クリーナーならフィルタの清掃時期、扇風機とかならブラシモータの交換時期など、ひと昔前でいうところの”見える化”をユーザー目線でやってほしいなと思っていたわけです。
とは言え、実際電動工具を使うユーザー層はIT関連サービスとの親和性が高いわけではなく、調子が悪くなるまで仕事道具に無頓着な方も多いので、この手の機能は使われないことがほとんどだと思います。しかし、こういう新しいサービスは提供側が拡充を進め、使わせることで新しいソリューションやマネタイズ手法を見出さなければいけないとも考えています。こういう機能は電動工具界のマイナンバーカードみたいなもので、使わせなければ普及しないものだと思っています。
そういう意味で、対応製品1機種の時点で見切りをつける判断を下すのであれば、こういう機器など初めから作らなければいいとなるわけです。
この辺りはユーザーによって意見が異なると思いますが、最低限、ADP11による40Vmax特有の機能が搭載されていたならば「40Vmaxにこういう機能があるしちょっと高いのも仕方ないか」と高価格な理由にも納得できたと思っています。
18Vシリーズに対して「後継」なのか「上位」なのかが不明
個人的な印象なのですが、現行のマキタ18Vユーザーの方は40Vmaxの立ち位置が良くわかってないために手を出せない方も多いのではないかと思っています。
当初の40Vmaxは高性能であることを謳い18Vシリーズよりも高いスペックの製品を投入していたのですが、最近では40Vmaxと18Vで全く同じ仕様の製品を出していたり、40Vmaxの製品を18Vで展開したり、その逆で18Vの製品を40Vmaxで展開したりと2つのバッテリーシリーズがどのような関係なのかよくわからない状態になっています。
これは日本に限った話ではなく、世界的なマキタユーザーのコミュニティで話題になるトピックであり「40Vmaxと18Vは何が違うのか」「40Vmaxの利点は何か」「18Vは終わってしまうのか」などの飛び交っている状態です。
多分、この辺りはマキタ自身も40Vmaxの立ち位置を明確していないのだと思います。
そもそもとして5S2P構成と10S1P構成は同じ10本使いのバッテリーなので、それをうまくクラス分けしようとすること自体が相当無理のある製品展開だったと思っています。それでもマキタは18Vと40Vmaxでシリーズ展開を推し進めたので、製品展開の計画や製品スペックの決定などは相当慎重にならなければいけなかったと考えています。
仮定の話として、もし21700セルを搭載する18V-8.0Ahの大容量バッテリなんてものをマキタが作ってしまえば、マキタユーザーの困惑はより一層加速してしまうでしょう。
何だかんだで今後の期待も大きい40Vmaxシリーズ
ここまで色々とマキタ40Vmaxシリーズに対する不満点を述べたのですが、なんだかんだで筆者の手持ちの充電式電動工具の中で一番使用している充電式シリーズです。
電動工具市場に対する筆者の解釈の話になるのですが、ユーザーに選ばれるブランドになるためには、如何にユーザーからの信頼獲得やブランディングを成立させられるかに尽きると思っています。
それをどのように行うかは色々な考え方があるのですが、筆者がマキタ 40Vmaxシリーズを評価している点は、そんなに売れていないバッテリーシリーズでありながらも製品拡充と市場への40Vmax普及に努め続けている点です。
普通に経営効率的を考えれば、18Vシリーズの拡充を進めていくのがマキタにとっての無難な戦略だったと思います。しかし、従来の電動工具メーカーとしての形に留まること無く、高出力・大容量バッテリーで新しい市場を開拓しようとする取り組みはそれだけでも評価できるポイントだと思っています。
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画像引用:マキタレポート2024年3月期
筆者の想定として、超長期的に見ればマキタは40Vmaxに移行するのでしょうが、18Vバッテリーは電気的仕様や特許の緩さからサードパーティーによる互換工具が増えつつある状況です。そのような電動工具市場における事実上のデファクトスタンダードなバッテリーに成りつつあるマキタ18Vバッテリーの事情を考えれば、本元であるマキタが完全に18Vを手放すとも思えず、40Vmaxの立ち位置が定まらない微妙な状態はまだまだ続くと考えています。
ちなみに、ユーザーの一部意見では「HiKOKIのマルチボルトの特許が切れれば18Vに36V切り替え機能が搭載されるだろう」の意見も見かけるのですが、恐らく切替機能を乗せる方向には進まないだろうと想定しています。電圧切替機能それ自体は特許ではなく、その構造が特許の対象であるため、本当にマキタが電圧切替バッテリーを必要としていたならば18Vに何らかの形で電圧切替構造を入れていただろうと考えています。
あり得るとするなら、ボッシュの倍ターボやミルウォーキーのM18 FORGEシリーズのように18Vのまま高出力化する路線を歩むと考えられます。ただしこれはマキタによってではなく、互換バッテリーや互換工具を作っているサードが勝手に18V高出力化バッテリーを作ってしまう可能性もあります。
そういう意味で、マキタは40Vmaxをより発展させなければいけないと思っていますし、18Vシリーズと併売する以上、製品展開や戦略にも最大限気を払わなければならないだろうとも考えています。贅沢な事を言えば、販売店が40Vmaxシリーズの陳列棚を確保してくれているうちに、OPE以外の40Vmaxシリーズの市場への拡充を加速させるもう一手が欲しいところでしょうか。