VOLTECHNO(ボルテクノ)

ガジェットとモノづくりのニッチな情報を伝えるメディア

2022年10月19日

マキタが40Vmaxシリーズを新しく展開した理由

マキタが40Vmaxシリーズを新しく展開した理由

2019年10月に突如発表されたマキタの40Vmaxシリーズですが、パワーや防水機能の搭載が評価され、市場の反応は概ね好評のようです。シリーズの発表と同時に予告された8製品についても早いペースで展開が進み、12月をもって全機種の販売が開始され第一弾のシリーズ展開としては一定の成功を収めたと考えられます。今後、40Vmaxシリーズは第二段以降のラインナップや周辺機器への展開などが期待されます。

その一方で、マキタは18Vシリーズのような優秀で多彩なラインナップのバッテリーシリーズを持ちながら、なぜ40Vmaxシリーズを新しく立ち上げたのか、マキタの裏にあるバッテリーの技術的背景や業界動向について推察します。

※本記事は当サイト記者による情報収集・業界研究・独自考察を元に構成しています。

なぜマキタは今更、新しいシリーズを作ったのか

電動工具の国内トップメーカーと言えば愛知県安城市に本社を置く株式会社マキタです。近年では通販生活の「マキタのターボ」や園芸工具、コーヒーメーカーやスピーカーなど一般ユーザーの愛好家も多く、ライト層からプロユーザーまで幅広いユーザーに好まれています

そのマキタの中核と言える電動工具シリーズがマキタのスライドバッテリー18Vシリーズ(LXT)です。このシリーズは、国内最多の245モデルの電動工具に対応する電動工具バッテリーシリーズで、バッテリーを2つ装着した36V工具にも対応する18V×2本シリーズ(LXTx2)も展開しており、広いユーザーニーズを掴んでいます。

筆者の当初の予想だと、マキタは「18Vバッテリーシリーズと18V×2本シリーズによる展開をこれからも続ける」と予想していましたが、その予想は2019年10月の40Vmaxシリーズの発表により覆されてしまいました。

マキタ40Vmaxシリーズは従来の18Vシリーズと互換性を排したシリーズです。DeWALTの54VバッテリーFLEXVOLTやHiKOKIの36Vバッテリー マルチボルトのような既存18Vシリーズとの互換性を有しているのに対し、マキタは市場で最も多いマキタ18Vユーザーを切り捨てる戦略を選びました。

今回は、この決断に至るまでマキタに何があったのかを推測します。

互換機能は「あえて」搭載しなかったのでは

筆者は、「マキタは互換機能をあえて搭載しなかった」と推測しています。

電動工具市場はユーザー普及度が100%近い超成熟産業です。今更新たなバッテリープラットフォームが開発されたところで、新規ユーザーを獲得することには繋がらず、逆にユーザー離れや既存シリーズとのカニバリゼーション(競合)を引き起こす可能性もあるため、販売戦略的なメリットよりもデメリットの影響が強く、売上戦略上の利点はありません。

そのため新たなバッテリープラットフォームの創出は、リチウムイオンバッテリー技術の普及・モーターの低価格化、新興ブランドの進出も進み競合他社との差異化が難しくなっている関係上、経営上のリスクが高い戦略です。

例えば、HiKOKIのマルチボルトやDeWALTのFlexVoltの例に倣えば、互換性の搭載によってユーザー移行を促す戦略を取るのが一般的ですが、40Vmaxシリーズに関しては互換機能を搭載していません。

HiKOKIのマルチボルトの特許によって互換機能を持たせられなかった説もありますが、HiKOKI マルチボルトが持つ特許の内容は電圧切替構造に対する特許であり、18Vと36Vを切り替える仕様そのものに対する特許ではありません。

出力電圧を切り替えられる特許はDeWALTが先行しており、HiKOKIのマルチボルトは後発にあたりますが、特許戦略によって同じ電圧切り替えのコンセプトを持つバッテリーを投入できています。そもそも、1つのバッテリーで2つの電圧出力を行う構造は、少ないながらも様々な機器で古くから採用されてきた考え方です。

筆者は、マキタの開発力と知財戦略を持ってすれば特許の回避は可能であったと予測しています(事実、京セラは特許を回避しDPバッテリーを開発)。ここでは、なぜマキタが互換機能を排除した新バッテリーを展開したのか考えてみます。

米DeWALTのFLEXVOLTバッテリー。このバッテリーは18V-56Vの切り替え機能を持つ。登場はHiKOKI マルチボルトよりも2年ほど早い

[推測1] 他社のバッテリー高電圧戦略に追随した

最も考えられるのが、DeWALTやHiKOKIなど高電圧バッテリーの電動工具シリーズにシェアを押されることを危惧したことによって40Vmaxシリーズの展開を行った可能性です。

ほとんどのユーザーは製品の良否に対してわかりやすい表現を好むため、いかにもパワーのありそうな高電圧バッテリーのイメージ戦略を危惧した背景があるのかもしれません。

数多くのユーザーがマキタの18Vシリーズから他社の高電圧バッテリーシリーズに移行する現状を憂い、18Vバッテリーの戦略に苦しんだ(または今後のリスクを予想した)と考えられます。

それを象徴するかのように、いざマキタが36Vバッテリーの新シリーズを立ち上げた際には日本の充電式バッテリーで慣例だった1セル3.6V表現を破り、半ば反則的な表現である40Vmaxのブランドネームを与えています。

この命名は、マキタが他社の高電圧バッテリーに対して何を思っていたのかを窺い知ることが出来ると考えています。

40V並みのパワーをイメージさせるモデルナンバー的な表現と理解していますが、電圧の表記を電動工具のパワーの大小に関係するような表現にすること自体、ユーザーに誤った認識を与えてしまう原因になるため、筆者は好感を抱いていません。

この点に関してはMilwaukeeの高電圧バッテリープラットフォーム MX Fuelに倣い、”V”の単位をつけるようなブランド名を避け、海外展開と同じXGTでシリーズ展開するべきだったと考えています。

[推測2] 性能向上を続ける電動工具にプラットフォームの限界が見えた

充電式電動工具の製品性能は年々向上しており、現在ではAC100Vで動作する製品と遜色ない出力の充電式工具も販売しています。

しかし、マキタの18Vバッテリーは2003年から続くバッテリープラットフォームを使用しており、その仕様の古さが今後の電動工具の発展の足枷となるのを危惧したのかもしれません。

マキタの14.4V及び18Vバッテリーはバッテリー側に保護機能のほとんどを組み込んだ詰め込んだオールインワンな仕様になっています。

電動工具が求める性能を出し切る前にバッテリー側の保護機能が働いてしまい、バッテリー本来の性能を活かしきれない仕様になっているのではないかと推測されます。

この図を参考にすると、JR001Gの出力が1000Wとするなら18V×2の出力は約600Wと考える事ができます。バッテリー1つあたりの18Vバッテリーの仕様的な最大出力の定格は300W~500W前後が限界なのではないかと推測されます。
参考:マキタ充電式レシプロソー JR001GRDX|Youtube MakitaProducts

その根拠の1つとして考えられるのが、同じ36Vで動作する40Vmaxシリーズと18V×2シリーズの出力の違いです。

電源の原理を考えれば、リチウムイオンセル10本で構成する40Vmaxよりも20本で構成している18V×2本シリーズの方が出力を高くできるはずですが、バッテリーシリーズの仕様としては40Vmaxシリーズの方が高い出力を出せる仕様にしています。

マキタは2005年から続くリチウムイオンバッテリーの仕様では今後の充電式電動工具が要求する仕様を満たすことができないと判断したため、「スマートシステム」を含む新しい機能を搭載する新シリーズを展開しなければならなくなったのかもしれません。

ちなみに、このマキタバッテリーの技術仕様的な問題については、後述の「21700サイズのセル」や「市場のコピー品」にも関連します。

[推測3] 21700サイズの大型セルを使用したかった

これまでの電動工具バッテリーは18650サイズのリチウムイオンセルを採用してきましたが、近年は21700サイズの大型のリチウムイオンセルを採用したバッテリーパックの普及が進んでいます。(HiKOKI BSL36B18等)

マキタの18Vバッテリーは、18V×2シリーズ(LXTx2)との互換性や200モデルを超える18Vシリーズのラインナップ戦略によって、迂闊にバッテリーのサイズを変える事ができません。

バッテリーサイズの変更すると18Vバッテリーの最大の特徴の18V×2本シリーズとの互換性を切り捨てることになりかねまぜん。現に2021年現在でもマキタ18Vバッテリーの21700採用セルは販売されていません。

21700サイズのリチウムイオンセルは18650セルよりも出力が高いセルです。従来の18Vバッテリーの仕様のままでは大型セルの性能を活かしきれない欠点と合わせて、今後の展開のために先手を打ったと予想されます。

リチウムイオンバッテリーセルのサイズ比較図。これまでは左の18650サイズが使われていたが、近年は大容量の21700セルが採用が進んでいる
参考:Battery Classifications 18650 20700 21700|Vaping Vibe

[推測4] 市場に溢れる「マキタコピー品」の一掃を狙っている

マキタを悩ませているのが互換バッテリーを中心とするマキタコピー品の氾濫です。

電動工具のコピー製品は世界的に見れば珍しいものではなく、アジアや発展途上国市場においてはポピュラーな存在です。しかし、近年の国内ECサイトでは一般ユーザーまでもが手軽に購入できてしまう状態になっています。

マキタバッテリーは他社の電動工具用バッテリーと比べて技術的な制限が緩く、マキタバッテリー製品は比較的簡単に作ることができます。マキタバッテリーは流通量も多いため、コピー品を扱うメーカーにとって最も狙われやすいバッテリープラットフォームです。

写真はAmazonで購入できるマキタバッテリーが使用できる互換製品の一覧。画像の製品はマキタバッテリーの装着が可能で、純正品より低価格なのが特徴。現在のマキタ電動工具は、バッテリーから充電器、工具本体まで購入できてしまう異様な状態になっています。

現在の国内ECサイトでは、純正品より互換バッテリーが検索上位に表示される状態です。バッテリーどころかコピー製品やコピー充電器まで購入できる状態になっている現状は明らかに異常です。

このコピー品が溢れる現状に業を煮やしたマキタは、市場に乱立するマキタコピー製品に終止符を打つべく技術的・特許戦略的にコピー品を作り難いバッテリーとして40Vmaxの開発を進めたのかもしれません。

Amazonで販売されているマキタバッテリーの互換品の一例。近年は様々なマキタバッテリー互換電動工具が販売されており、ハンマ・グラインダ・ドリル・USBアダプタ等ラインナップは多岐にわたる。ちなみに写真のグラインダはアマチュアのイメージ図配置が逆。

[推測5] 特許切れに対する対策

スライド式リチウムイオンバッテリーがマキタから初めて登場したのは2005年発売の充電式インパクトドライバTD130Dです。

この製品は国内市場の先駆けとなったリチウムイオン電動工具で、当時としては画期的なスライドレール構造を採用しています。このバッテリーはそれまでの国内1位だった日立工機からシェアを奪い取る切っ掛けとなった製品として話題になりました。

現時点でTD130Dの販売から15年が経過しており、マキタの保有するリチウムイオンバッテリーの関連特許の期限は近づいています。特許切れは先述のマキタコピー品の増加に更なる拍車をかけるものと推測されます。

先述のコピー品の問題も絡み、マキタは市場に低価格なマキタ互換品が溢れる前に高性能な新しいバッテリープラットフォームである40Vmaxを展開し、マキタ純正品の優位性を保とうと考えたのかもしれません。

18V互換であればシェアを圧巻できた40Vmax

互換性さえ確保していれば、HiKOKIどころかDeWALTの市場も圧巻できたと考えられる40Vmaxシリーズですが、互換性を排する決断に至るまでの背景を考えると要因は複数考えられ、マキタが互換性を排した新しいバッテリープラットフォームを立ち上げるのは必然の流れだったのかもしれません。

バッテリーの販売と囲い込みを第一に考えなければならない現在の電動工具メーカーにとって、電動工具事業しか持たないマキタにとって、今後のバッテリーシリーズ展開の戦略は最重要課題です。

これまでのマキタの強みはバッテリーの対応ラインナップ数の多さにこそあったため、それを切り捨ててまで新しいバッテリープラットフォームを立ち上げるマキタの方針は、既存のユーザーからしてみれば厳しい反応を取らざるを得ないのが実情です。

40Vmaxの製品拡充については驚異的ペースで進んでおり、2021年12月時点で94モデルを展開し、先発のHiKOKI マルチボルト36V製品を上回るラインナップを揃えています。さらに80Vmaxシリーズの展開も始まり、次世代の電動工具としてその本領が徐々に発揮されており、ユーザーにとって有力な選択肢となりつつあります。

Return Top