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マキタが40V MAXを新しく展開した理由【電動工具コラム】

マキタが40V MAXを新しく展開した理由【電動工具コラム】

2019年10月に突如発表されたマキタの40V MAXシリーズですが、パワーや防水機能の搭載が評価され、市場の反応は概ね好評のようです。シリーズの発表と同時に予告された8製品についても非常に早いペースで展開が進み、12月をもって全機種の販売が開始されて第一弾のシリーズ展開としては成功を収めたと考えられます。今後、40V MAXシリーズは第二段以降のラインナップや周辺機器への展開などが期待されます。

その一方で、マキタは18Vシリーズのような優秀で多彩なラインナップを持つバッテリーシリーズを持ちながら、なぜ40V MAXシリーズを新しく立ち上げたのか、マキタの裏にあるバッテリーの技術的背景や業界動向について解説します。尚、本記事は技術的「憶測」と「ゴシップ」的な内容を多分に含む記事になりますので、小話程度に見て頂けると幸いです。

なぜ、マキタは今更40V MAXシリーズを作ったのか

現在の国内電動工具のトップメーカーと言えば、愛知県安城市に本社を置く「株式会社マキタ」です。近年では通販生活の「マキタのターボ」や園芸工具、コーヒーメーカーやスピーカーなど一般ユーザーの愛好家も多くみられています。ライト層からプロユーザーまで幅広いユーザーに好まれる世界的な電動工具メーカーです。

そのマキタの中核と言える電動工具シリーズがマキタのスライドバッテリー18Vシリーズ(LXT)です。このシリーズは、国内最多の245モデルの電動工具に対応する電動工具でバッテリーを2つ装着する事で36V工具にも対応する18V×2本シリーズ(LXTx2)にも対応しており、幅広いユーザーニーズを掴む積極的な製品展開を行っています。

筆者の昔の考えでは、18Vバッテリーの普及率と「18V×2本シリーズ」による一応の36V対応を実現している点から、マキタはこれからも「18Vシリーズを主力として展開する」予想していましたが、その予想は2019年10月の突然の40V MAXシリーズの発表により見事覆されてしまいました。(ちなみに2017年前後からマキタは36Vシリーズの開発を始めていたとの噂話はありました)

マキタの40V MAXは18Vシリーズとの互換性を排したシリーズとなっており、DeWALTの54VバッテリーFLEXVOLTやHiKOKIの36Vバッテリー マルチボルトは従来機種の18Vシリーズとの互換性を有しているのに対し、マキタは市場で最も多いマキタ18Vユーザーを切り捨てかねない戦略を選びました。

今回は、この決断に至るまでマキタに何があったのかを推測します。

マキタは「あえて」互換機能を搭載しなかったのでは

筆者の考えの前提として、マキタは互換機能を「あえて」搭載しなかったものと推測しています。

既存の主力シリーズを排した新しい主力シリーズの展開は、ユーザー離れや既存シリーズとのカニバリゼーション(競合)を引き起こす可能性もあるため販売戦略的なメリットはさほど大きくありません。

特に、電動工具は技術の成熟によるリチウムイオンの普及・モーターの低価格化、新興ブランド・プライベートブランドの進出によるコモディティ化も進んでおり、主力シリーズの細分化は極めて経営的なリスクが高いと予想されるため、互換性を排した背景にはよほどの理由があったものと考えています。

互換機能を持つHiKOKIのマルチボルトの特許で互換機能を持たせられなかったとの説もありますが、HiKOKI マルチボルトの特許の内容は電圧切替の「構造」に対する特許であり、18Vと36Vの「切替そのもの」に対する特許ではないため、マキタの技術力と知財戦略を持ってすれば特許の回避は可能であったと考えています。

[推測①] 他社のバッテリー高電圧戦略に追随した

最も考えられるのがDeWALTやHiKOKIなどの高電圧の電動工具シリーズにシェアを押される形で40V MAXシリーズの展開を行った可能性です。

一般の電動工具ユーザーはわかりやすい営業表現を好むため、HiKOKIのマルチボルトDeWALTのFLEXVOLTのようないかにもパワーのありそうな高電圧バッテリーのイメージ戦略に押された実状があるのかもしれません。数多くのユーザーがマキタの18Vシリーズから他社の高電圧バッテリーシリーズに移行する現状を憂いて、18Vバッテリーの戦略に苦しんだ(今後のリスクを予想した)背景があったのだと考えられます。

それを象徴するかのように、いざマキタが36Vバッテリーの新シリーズを立ち上げた際には電動工具日本市場の慣例だった1セル3.6V表現を破り、半ば反則的な表現である「40V MAX」のブランドネームを与えています。マキタが他社の高電圧バッテリーに対して何を思っていたのかを伺い知ることができます。

筆者としては40V MAXのブランド名に対して、LiBの無負荷時の電圧を表している点やマキタ従来36Vに対して40V並みのパワーがあるモデルナンバー的な表記ととしてある程度の理解はしています。しかし、電圧の表記を電動工具のパワーの大小に関係するような表現にすること自体、ユーザーに誤った認識を与えてしまう原因になるとも考えています。そのため同時期に販売されたMilwaukeeの高電圧バッテリープラットフォーム「MX Fuel」のように、”V”の単位をつけるブランド名は避けるべきだったと考えています。

[推測②] バッテリー仕様が性能向上を続ける電動工具の要求に答えられなくなった

充電式電動工具の製品性能は年々向上しており、現在ではAC100Vの製品と遜色ない出力の充電式工具も販売されています。しかし、マキタのバッテリーは2005年から変わらず続くバッテリープラットフォームであり、その仕様の古さが今後の電動工具の発展の足枷となるのを危惧したのかもしれません。

マキタの14.4V及び18Vバッテリーはバッテリー側にリチウムイオンバッテリーとして必要な機能のほとんどを詰め込んだオールインワンな仕様になっています。その機能の1つであるバッテリーの各種保護もバッテリー側に内包されています。電動工具が求める性能を出し切る前にバッテリー側の保護機能が働いてしまい、バッテリー本来の性能を活かしきれない仕様になっているのではないかと推測されます。

この図を参考にすると、JR001Gの出力が1000Wとするなら18V×2の出力は約600Wと考える事ができます。バッテリー1つあたりの18Vバッテリーの仕様的な最大出力の定格は300W~500W前後が限界なのではないかと推測されます。
参考:マキタ充電式レシプロソー JR001GRDX|Youtube MakitaProducts

その根拠の1つとして考えられるのが、同じ36Vで動作する40V MAXシリーズと18V×2シリーズの出力の違いです。バッテリー的にはリチウムイオンセル10本で構成する40V MAXよりも20本で構成している18V×2本シリーズの方が出力を高くできると予想されますが、この2つのシリーズを比較した資料では40V MAXシリーズの方が出力が高くなっています。

マキタは2005年から続くリチウムイオンバッテリーの仕様では今後の充電式電動工具が要求する仕様を満たすことができないと判断したため、「スマートシステム」を含む新しい機能を搭載する新シリーズを展開しなければならなくなったのかもしれません。

ちなみに、このマキタバッテリーの技術仕様的な問題については、後述の「21700サイズのセル」や「市場のコピー品」にも関連します。

[推測③] 21700サイズの大型セルを使用したかった

これまでの電動工具バッテリーは18650サイズのリチウムイオンセルを搭載していましたが、21700サイズの大型のリチウムイオンセルを採用したバッテリーパックの展開を進めています。(HiKOKI BSL36B18マキタ BL4040等)

マキタの18Vバッテリーは、18V×2シリーズ(LXTx2)の互換性によってバッテリーの全体サイズを迂闊に変える事ができません。バッテリーサイズの変更は18Vバッテリーの最大の特徴である18V×2本シリーズとの互換性を切り捨てる事となるため大容量セルの21700セルの採用ができない欠点があります。現に、2019年現在でもマキタ18Vバッテリーの21700採用セルは販売されていません。

また、21700サイズのリチウムイオンセルは18650セルよりも出力が高いセルです。従来の18Vバッテリーの仕様のままでは大型セルの性能を活かしきれない欠点と合わせて、今後の展開のために先手を打ったのかもしれません。

リチウムイオンバッテリーセルのサイズ比較図、これまでの主流は左の18650サイズが使われていたが、一部の大容量バッテリーでは21700セルが採用されるようになった。
参考:Battery Classifications 18650 20700 21700|Vaping Vibe

[推測④] 市場に溢れる「マキタコピー品」の一掃を狙っている

現在、マキタを悩ませていると考えられるのが互換バッテリーを中心とするマキタコピー品の氾濫です。電動工具のコピー製品自体は世界的に見れば珍しいものではなく、アジア市場や発展途上国においてはポピュラーな存在です。しかし、近年の国内ECサイトでは一般ユーザーまでもが手軽に購入できてしまう状態になっています。

とマキタバッテリーは他社の電動工具用バッテリーと比べて転用が容易な仕様になっており、マキタ製品のコピー品は比較的簡単に作ることができると考えられます。特に、マキタバッテリーは流通量も多いため、コピー品を扱うメーカーにとって最も狙われやすいバッテリープラットフォームになっています。

写真はAmazonで購入できるマキタバッテリーが使用できる互換製品の一覧。画像の製品はマキタバッテリーの装着が可能で、純正品より低価格なのが特徴。現在のマキタ電動工具は、バッテリーから充電器、工具本体まで購入できてしまう異様な状態になっています。

現在の国内ECサイトでは、純正品より互換バッテリーが検索上位に表示される状態です。バッテリーどころかコピー製品やコピー充電器まで購入できる状態になっている現状は明らかに異常です。

このコピー品が溢れる現状に業を煮やしたマキタは、市場に乱立するマキタコピー製品に終止符を打つべく技術的・特許戦略的にコピー品を作り難いバッテリーとして40V MAXの開発を進めたのかもしれません。

Amazonで販売されているマキタバッテリーの互換品の一例。近年は様々なマキタバッテリー互換電動工具が販売されており、ハンマ・グラインダ・ドリル・USBアダプタ等ラインナップは多岐にわたる。ちなみに写真のグラインダはアマチュアのイメージ図の配置が逆。

[推測⑤] 特許切れに対する対策

スライド式リチウムイオンバッテリーがマキタから初めて登場したのは2005年のTD130Dです。この製品は国内市場の先駆けとなったリチウムイオン電動工具で、当時としては画期的なスライドバッテリーを採用しています。このバッテリーはそれまでの国内1位だった日立工機からシェアを奪い取る切っ掛けとなった製品でもあります。

現時点でTD130Dの販売から15年が経過しており、マキタの保有するリチウムイオンバッテリーの関連特許の期限は少しづつ近づいています。これらの特許切れは先述のマキタコピー品の増加に更なる拍車をかけるものと推測されます。

先述のコピー品の問題も絡み、マキタは市場に低価格なマキタ互換品が溢れる前に高性能な新しいバッテリープラットフォームである40V MAXを展開して、マキタ純正品の優位性を保とうと考えたのかもしれません。

18V互換であればシェアを圧巻できたであろう40V MAX

互換性さえ確保していれば、HiKOKIどころかDeWALTの市場も圧巻できたと予想している40V MAXシリーズですが、互換性を排する決断に至るまでの背景を考えると要因は複数考えられます。マキタが互換性を排した新しいバッテリープラットフォームを立ち上げるのは必然の流れだったのかもしれません。

バッテリーの販売と囲い込みを第一に考えなければならない現在の電動工具メーカーにとって、電動工具事業しか持たないマキタにとって、今後のバッテリーシリーズ展開の戦略は最重要課題だったものと予想されます。

しかし、これまでのマキタの強みはバッテリーの対応ラインナップ数の多さにこそあったため、それを切り捨ててまで新しいバッテリープラットフォームを立ち上げるマキタの方針は、既存のユーザーからしてみれば厳しい反応を取らざるを得ないのが実情です。

現状の40V MAXシリーズは、防水構造に加え従来の18Vシリーズに対してはある程度の性能向上を実現しているのが特徴です。しかし、ニッカドバッテリーからリチウムイオンバッテリーに変わったときほどの劇的な性能向上までは実現していません。そのため、40V MAXは今後のバッテリーの更なる性能向上が実現してからが本番のシリーズと予想しています。

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