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2022年5月13日

ここ最近のマキタの経営や製品展開の傾向に感じること【工具業界コラム】

ここ最近のマキタの経営や製品展開の傾向に感じること【工具業界コラム】

とにかく色々作り始めたマキタ

現在のマキタは「充電式製品の総合サプライヤー」を謳っており、充電式電動工具で得たリチウムイオンバッテリー製品の開発技術をより多方面に活かそうとする動きが見られます。

ここ最近の製品開発傾向を見てみると、ケトルやテレビ・ロボット掃除機など一介の電動工具メーカーに収まらない新製品を販売しており、嘘か誠か電子レンジ電動アシスト付き自転車の開発を進めているなど、奇抜な製品の開発にも取り組んでいるようです。

その甲斐もあってか、電動工具以外の園芸機器や清掃・防災機器などの新市場開拓にも一定の成功を見せており、マキタ過去10年の売上高を見てみると比較的堅調な成長を実現している企業として拡大が進んでいます。

引用:2022年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)|マキタ投資家向け情報

国内競合ブランドの強みを刈り取る動きを見せるマキタ

「新たな分野の新製品開発と拡販を進める」とするマキタですが、その裏では国内競合メーカーが強みとする製品と同じような製品の開発を進めるダーティーな部分も見受けられます。

もともとマキタは国内電動工具市場で製品数や取扱店の面から圧倒的優位な立場にいるブランドですが、昨今の製品展開状況を見る限り「もうマキタだけで良いんじゃないか…?」とも考えてしまう程です。

もちろんこれはマキタ主力製品の18Vシリーズのラインナップ展開のみに着目した話であり、ユーザーの心象や販路戦略などは別の話なのですが、純粋な製品展開を見る限りでは、日本国内シェアの覇権を目論んだ動きであるとも観測しています。

次の項では、ここ最近のマキタの競合他社戦略について解説します。

Metabo HPT(北米HiKOKI)のコードレス電動釘打機

北米市場における工機HDは日立工機時代にエア釘打ち機 NR83A3が大ヒットした影響もあり、電動工具よりも釘打ち機ブランドの印象を持つユーザーが多いと聞きます。その影響か、HiKOKIブランドはフィニッシュネイラフロアタッカなどの電動釘打ち機を得意としており、北米Metabo HPTブランドにおいても電動釘打ち機を積極的にアピールしています。

そんな北米市場は、DeWALT・Milwaukee・MetaboHPTの競合各社が電動釘打ち機の開発を競って進めている訳ですが、マキタも2021年の1月にガスバネ式の充電式釘打ち機に関連する特許を出願しています。

北米電動工具市場はDIYの本場なこともあり、一度根付いたブランドイメージを覆すことは難しいと思いますが、HiKOKIが持つマキタに対しての数少ない優位製品である釘打ち機でさえも、マキタは営業力とバッテリープラットフォームで正面から打ち破る構想があるのかもしれません。

ちなみに話は逸れますが、工機HD(HiKOKI)とマキタは世界市場でも争う長年のライバルではあるものの、現在の工機HDは製品展開や成長戦略よりも経営動向や財務状況の方を注視すべき状態にあると見ており、経営的な状態を理由を理由としてマキタのシェアを脅かす存在には当面至らないと評価しています。

京セラ(Powerブランド)の低価格家庭向け園芸機器

近年は家庭向けの電動園芸機器が静かなブームになっていますが、ホームセンターでは京セラ(旧リョービ)ブランドをはじめとする低価格な充電式園芸機器が並んでいます。

充電式園芸機器だと、マキタがセミプロ向けのエンジン移行の充電式園芸機器・京セラを含むホームセンタープライベートブランドが低価格な家庭向け園芸機器 のようなユーザーの棲み分けがされていたのですが、マキタは2022年3月に家庭向けの低価格な充電式園芸機器の展開を始めました。

マキタブランドを掲げる充電式園芸機器ながらも、家庭向けブランドの充電式園芸機器と十分張り合える程のコストパフォーマンスを実現しており、今後ホームセンターの販売棚面積さえ潤沢に確保できるならば、これまでの家庭向け充電式園芸機器市場を一掃できるほどのポテンシャルを秘めています。

マックスの充電式鉄筋結束機

ここ最近のマックスは鉄筋結束機に力を入れており、インダストリアル機器部門の主力製品として拡販を進めています。

1993年の充電式鉄筋結束機「リバータイア」の発売以降、エア釘打ち機に並んでマックス工具のインダストリアル機器を牽引してきた製品ですが、2018年にマキタは充電式鉄筋結束機 TR180Dを発売し、現在も新構造による40Vmax後継機の開発を進めています。

鉄筋結束機のノウハウについては間違いなくマックス鉄筋結束機の方が優位ですが、工具シェアは性能以外に販路構造も大きな要因を占めるため、海外販路の強さでマキタとマックスに大きな開きがあると評価しています。充電式鉄筋結束機の需要については今後も世界的に拡大を続けると予測しているので、海外市場におけるブランド力をどこまで発揮できるかが勝敗の要点になると注目しています。

鉄筋結束機のパテント防衛網に自信を見せるマックスだが、競合他社品も世代を重ねれば順当に性能は向上し、ある一定の性能水準を超えてしまえばユーザー満足度も飽和するので、その先にある戦略をどのように考えているか注視したいところ。
引用:2022年3月期 決算及び修正中期経営計画説明会 質疑応答録|マックス株式会社

パナソニックの充電式電設工具

マキタは電気・設備関係の電動工具も拡充しており、2022年4月にマクセルイズミの充電式ケーブルカッタ TC100Dをマキタブランド品に加えたことで、パナソニックが取り扱う全て電動工具の充電式電動工具を取り揃えるに至りました。

細かい使い勝手やパナソニック資材向けに最適化された工具などを完全にカバーできた訳ではないものの、電気設備系の作業に使う電動工具をマキタに染めてしまっても困ることはほとんど無くなったのではないかと思います。

パナソニックの電動工具シェアは、性能やブランドイメージよりもパナソニック代理店の特殊な販路構造が大きな要因を占めているため、単純に同じ電動工具があるからと言ってユーザーの移行が起こる訳ではないものの、電動工具を新しく買う新規ユーザーにとってはバッテリーを使いまわせるマキタシリーズの方が魅力的に映るかもしれません。

マキタの競合相手は国内よりも『世界』

そんなわけで、最近のマキタの動向は国内競合メーカーの強みに対して同じ製品をぶつけている印象が強く「えげつないな」と思ったり、マキタ一強になってしまうことの不都合などを考えたりするものの、マキタがこの先相手にするべき競合企業は世界規模の展開を行う米SBD社や香港TTI社であり、国内制覇と言うよりもこの先の海外展開を強く出るための戦略と見ています。

電動工具の世界動向は、先進国市場における充電式電動工具の普及率は高い水準に達しており、当面の技術革新も無いとみているのでマーケットシェアの大きな変化は起らないと予想しています。方向性としては、性能に優れるだけの製品投入でシェア獲得するよりも、既存ユーザーを手放さない戦略と新カテゴリ製品による新市場創出にどこまで取り組めるかが肝になっていくでしょう。

新興国需要の分野では、建設産業の牽引によって電動工具産業も成長拡大すると見ていますが、現地の工具メーカーや格安中国ブランドの台頭など、先進国市場とは違った形態の競争が進んでいます。

2020年代の電動工具産業は、より一層のグローバリゼーションが進んで技術動向的にも他産業を巻き込んだ形で発展していくと予想しており、多くの資本を投入した企業が勝つパワーゲーム的な展開で進んでいくと考えています。

Stanley Black & Deckerが毎年公表する工具産業全体のシェア。
マキタは成長している企業ではあるが、マーケット全体としては業界平均程度の成長率であり米SBD社・香港TTI社との差が広まりつつあると評価されている。
参考:Investor Presentation Version 05.24.2021 | Stanley Black & Decker

今後のマキタに対する経営期待度は高い

マキタについては、売上額や成長率・投資額の状態から工具産業のパワーゲーム化にある程度追従できている状態にあると見ており、今後も成長が見込める企業として評価しています。

個人的な評価ではありますが、この過去10年に渡るマキタの売上拡大はマキタに強い影響を持つ事実上のオーナー経営者である後藤家による一貫した経営目標によって成し遂げられたものと考えています。

一貫した長期目標を維持できたからこそ現在までの成長を実現できたものであり、仮にマキタが日本の大企業グループと同じようなサラリーマン経営者やファンドによる経営下にいたならば、今のマキタの成長は存在しなかったでしょう。

2017年6月に新たに就任したマキタ取締役社長の後藤宗利氏は就任時点で42歳でした。東証プライム市場の製造業上場企業の中では若手の経営者に分類されます。

これはマキタ後藤家による世襲ではあるものの、例え形式上であったとしても経営層の若返りに取り組んだことは評価できると言えるでしょう。この先の複雑化する電動工具産業に上手く対応するためには、柔軟な行動をとれる若手経営者の強力なリーダーシップが必要になってくると考えています。

とは言うものの、マキタは古き良き名古屋式経営を特徴とする堅実経営の企業であり、「石橋を叩いて渡らない」とも揶揄される程の経営指向性を持ちます。技術革新や市場構造の大変化が差し迫り、巡り廻る情勢下でも同じような成長を維持できるのかは今後大きな課題と言えるでしょう。昨今の世界情勢も合わせて先行き不透明な状況ですが、今後も日本発の世界電動工具ブランドとして頑張ってもらいたいものです。

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