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生活に欠かせないUSB充電器
今や生活に欠かせない家電の1つがUSB充電器です。スマートフォンの充電をはじめとして、ガジェットや小型家電・工具などあらゆるものにUSB端子が搭載されるようになり、モバイルバッテリーで手軽に持ち運べる電源としての使い勝手の良さも含め、生活に欠かせない給電方式になりました。
手軽な5V電源として使えるUSB充電器ですが、上手く使うためには、USB充電器と機器で出力仕様や規格などユーザーが把握しきれない部分まで合わせなければならず、意外とその性能を生かし切れていない場合もあります。
もちろんUSB規格は汎用規格なので、性能を生かし切れないとしても使用することはできるのですが、中には少し危なげのある製品もあり、今まで大きな製品事故になっていないのが不思議な部分もあります。
今回の記事では、USB充電器の規格や給電能力についてお話します。
USB本来の給電能力は最大2.5W
今でこそUSB端子は数Aもの電源供給に対応する規格のイメージがありますが、USB本来の最大電流仕様は0.5A(2.5W)までです。
元々、USBは90年代当時のパソコンのインターフェースであるRS-232CやIEEE1284・PS/2コネクタを1つにまとめる汎用的な接続規格として策定された規格でした。
USBに接続する製品はマウスやキーボード・プリンタやモデムの通信を想定しており、そこまで高い給電能力は不要とされ、当時の想定で最大500mA仕様(電力換算で2.5W)で策定されました。少なくとも現在のようなリチウムイオンバッテリー搭載機器への充電用途などは想定されていませんでした。
時代が進み携帯電話などのモバイル機器が普及すると、通信だけではなく機器に電源供給を行う機能も求められるようになり、当時想定された500mAの仕様では対応できなくなってしまったため、USB本来の電源供給能力を拡張するための規格が生まれることになりました。
色々なUSB給電規格+αをいくつかピックアップ
USB充電器のパッケージを見てみると「最大2.4A」のような記載があります。実はこの給電能力はUSB充電器に内蔵されている給電能力を表しているだけであり、その能力を発揮するためには充電器と機器で給電規格も一致させなければいけません。
最大2.4AのUSB充電器を選べば「全てのUSB機器を2.4Aで充電できる」と思ってしまいますが、先述の通りUSB本来の給電規格は0.5Aです。
例えば2.4A出力に対応していないUSB電源供給ポートで2.4Aで受電するUSB機器を充電してしまうと、給電側が過電流出力状態になってUSBポートを破損してしまう可能性があります。
そのためUSB機器では、給電を受ける前にUSBポートの最大供給電力を把握するための給電規格確認を行っており、規格を確認できた場合のみ2.4Aのような大きな電流で給電を受ける仕組みになっています。
このUSB給電の規格は色々と厄介な存在で、例えUSB充電器の最大電流が2.4Aまで対応していたとしても、給電規格の存在を機器側が確認できなければ、USB本来の規格である500mAの給電しか受けることができません。
次の項目では、主要なUSB給電の拡張規格について解説します。USB Type-C関連の給電規格については除外しています。
USB BC (Battery Charging)
USB給電の最も公的な拡張規格がUSB BC (Battery Charging)です。
USB BCは、USBの仕様を定める非営利団体 USB-IFによって策定された規格で、最大1.5A(7.5W)までの電源供給に対応します。USB-IFによって定めらた規格なので仕様書が開示されており、判別回路も比較的簡素なので容易に実装できる特徴があります。
ただし機器開発各社は1.5Aの電源供給能力でも能力不足を感じたようで、より大きな給電能力に対応するメーカー独自規格の乱立が進みました。
Apple独自規格(Apple 2.4A)
USB充電器の事実上のスタンダードとなっているのがApple独自の給電規格です。過去にはApple 1.0AやApple 2.1Aなどもありましたが、現在はApple 2.4Aまで拡張されています。
USB充電器における最大電流2.4Aは、そのほとんどがこのApple規格の2.4A対応を表しています。
一般的にApple製品のみに対応する規格なので、iPhoneやiPadなどのApple製品装着時でしか2.4A給電を受けることができません。
Quick Charge系列
Qualcomm製のSoC Snapdragonを搭載するスマートフォンに対応する給電規格がQuick Chargeです。主に2014年以降のAndroidスマートフォンが対応する規格です。ドコモ端末では急速充電1~3と呼ばれています。
Quick ChargeはUSBが定める規格上の動作電圧 5Vを超える電圧で供給を行うのが特徴で、9Vや12Vまで上げることでより大きな電力を供給できるようにした給電拡張規格です。
MicroB端子を搭載しているAndroidスマートフォンでは主力の給電規格でしたが、現在はUSB Type-Cコネクタが対応する規格であるUSB PDへの置き換わりが進んでいます。
Anker PowerIQ
USB充電器メーカー大手のAnkerが掲げる給電規格がPowerIQです。
PowerIQは厳密に言えばUSB給電の規格ではなく、先述までのUSB BC・Apple2.4A・Quick Chargeに加えてSony系やSamsung系のような多種多様なUSB給電規格を検出して包括的に対応する機能です。
機器側のUSB給電規格が分からない場合は、Anker PowerIQ搭載のUSB充電器を選ぶのも一つの手です。
製品側のUSB対応はさらに無法状態なので注意
ここまでの解説は電源供給側であるUSB充電器側の解説であり、先述も「給電規格の存在を機器側が確認できなければ、USB本来の規格である500mAの給電しか受けられない」とも書いているのですが、それはあくまでも電子回路技術とUSB規格に対する理解、そして開発者として十分なリテラシを備えたメーカーの話であり、受電側のUSB機器側に関しては、給電規格を一切考慮しない無法状態な製品もあります。
例えば筆者が実際に確認した実例だと、VESSEL 電ドラボール USB220が挙げられます。
電ドラボールは優れたコンセプトの充電工具ではあるものの、USB周りの仕様に不審点が多く、USB規格の確認を行わないまま1Aを受電する構造になっています。また給電それ自体の挙動も不安定で、条件次第ではリチウムイオンバッテリーや内部部品を痛める回路構成にもなっているのではないかと推測しています。
USBは容易に5Vが得られる一方で、給電規格乱立の乱立によって上手く使うには複雑すぎる規格になってしまいました。0.5Aを超える用途でUSBを使う場合、安易に手を出してはいけない給電規格と言えます。
従来のUSB端子は電源周りに色々と問題が付きまとうので、電源供給用途を想定して開発され給電規格もUSB PDで統一されたUSB Type-C端子に一刻も早く移行すれば良いのにな、と個人的に願っています。