目次
タジマのパワーツールが廃盤へ
TAJIMAブランドを展開する株式会社TJMデザイン(東京都板橋区)は、2020年9月に太軸インパクト・パワーツールの廃盤を発表しました。
廃盤対象は、TAJIMAブランド製の太軸インパクト・パワーツールの一部1、それに関連するバッテリー・太軸ソケット・バッテリー含む製品が対象です。
TAJIMAの電動工具は2016年に太軸インパクトの販売を開始から始まりました。太軸インパクト F300Aは10mm径の六角軸を備え、足場鳶・鉄骨鳶向けのインパクトドライバーとしてタジマパワーツールのデビュー製品となりました。
2018年には新型の太軸インパクトPT-F300A・レシプロソーPT-R400A・グラインダーPT-G100A/125Aの投入で製品ラインナップも強化していたものの、新たなプロ向け電動工具メーカーの参入で電動工具市場はどう影響するか、と思われた矢先の廃盤となりました。
性能や知名度だけでは生き残れないプロ向け電動工具市場
タジマのパワーツールは、性能だけで見ればマキタやHiKOKIなどの大手電動工具メーカーにも劣らない製品でした。
ブランド力の観点からもコンベックスやハーネスなどブランド力も高く、金物屋・作業着・ホームセンターなどの広い販路も持つため、一見すれば隙が無くプロ向け電動工具市場にとって黒船のような存在感を放っていた時期もありました。
展開直後はソケットの割引やパワーツールとのセット販売での値下げ戦略により、競合他社に対して価格面で大きなアドバンテージも確保していました。
タジマの電動工具が早期撤退に至った原因は「新規需要層の薄さ」「ユーザー移行を前提としたシェア確保戦略」「販売店の事情」の3点に集約されると考えられます。
決定的なのが、プロ向け電動工具の新規需要の薄さです。
プロ向け電動工具は常に一定の需要があり、一度シェアを確保すれば安定した買い替え需要を確保できる市場ですが、新規ユーザーの需要はほとんどありません。
現在の充電式電動市場は、2005年のマキタリチウムイオン電動工具のリリースから15年が経過し、各メーカーによるバッテリーのユーザー囲い込みが完了している超成熟産業です。
シェアを獲得するには、他社からのユーザー移行を中心に展開を進めなければいけませんが、性能面で優れた製品をリリースすればシェアを確保できるような単純な市場でもありません。
筆者は、電動工具市場は安易な性能向上や独自機能によるシェア確保が難しい市場と評価しています。
現在の電動工具は多様化が進み、さまざまな充電式機器によってバッテリー囲い込みが進んでいます。
一昔前のようにインパクトやドリル・丸ノコ数台程度の買い替えならメーカー移行のチャンスもあったかもしれませんが、十万円代の専用工具や十数台も電動工具を揃えたユーザーになると、機器を買い替えるユーザーの負担はあまりにも大きく、その手間に見合う性能/コスト的なリターンはほとんどありません。
販売店の事情も考えてみましょう。もし販売スペースの限られた販売店の立場であれば、売れる製品に販売スペースを割きたいと思うのは当然のことです。
陳列スペースに同じような製品を置くのであれば、マキタ・HiKOKIなどの有力電動工具メーカーの製品を増やすか、コンベックスなどタジマブランドを生かしやすい販売スペースを増やしたかったのが販売店の本音だったでしょう。
タジマの電動工具は、新規参入メーカーとは思えないほど完成度が高く、製品仕様・独自構造・パネルディスプレイを始めとした拡販戦略等、魅力・販売手法共に有力他社と比較しても決して劣ってはいませんでした。
ユーザー・販売店視点では、膨大な買い替えコスト・陳列スペースの圧迫を上回るほどのメリットを提供できず、電動工具ラインナップを強化してマキタ・HiKOKIの2大巨頭の市場に挑戦するには10年参入が遅かった、と言わざるを得なかった実態があります。
パワーツールの投入後、僅か1年ちょっとで電動工具事業撤退の判断を下したのは、賢明な決断だったかもしれません。今後もタジマのコンベックスや各種測量機器、LEDライトなどのラインナップ拡充に期待しています。
プロ向け電動工具市場の構造は変わらない
当サイトは、電動工具市場の観察を行っており、国内外の電動工具メーカーの動向を逐一チェックしていますが、最近は「電動工具市場のシェアは覆ることは無い」と考えています
現在の国内電動工具市場は、マーケティング戦略で解説される「リーダー」「チャレンジャー」「フォロワー」「ニッチャー」に位置するメーカーがバランス配置されていて、それらのメーカーが強固にポジションを確立している市場です。1メーカーの動向程度で現在の市場シェア構造が崩れることは無いと考えています。
タジマの電動工具参入は、製品仕様が他社水準であること・ブランド力に優れていることから、販売開始当初は高い期待で迎えられましたが、超成熟状態にあるにあるプロ向け電動工具市場で地位を確立するのは難しかったようです。
この先プロ向け電動工具市場構造が再編されるとすれば、次世代二次電池のような技術革新が到来した時か、既存の電動工具販路を根本から変えてしまう新販路が現れた時のどちらかになり、その時にもう一度新規参入できるタイミングが発生するかもしれません。