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互換バッテリーは発火事故に至る危険な製品
電動工具の互換バッテリーは、リチウムイオン機器として電池発火の可能性を排除した設計になっておらず、常識的な使用方法であっても製品事故を起こす可能性が高い。
リチウムイオンバッテリーはエネルギー密度が高く使用条件も厳しいバッテリーで、その製品には「過放電」「発熱」「過充電」「大電流放電」など、バッテリーが危険な状態にならないよう監視する保護回路が必要になる。しかし、電動工具用互換バッテリーは、これらの保護機能が不十分で、製品として一般販売できる程の安全性を確保していない。
とは言っても、大半の互換バッテリーは故障によって使えなくなるだけで、バッテリーの発火を伴う製品事故まで発展することはほとんどない。互換バッテリーが発火する可能性は0.1%にも満たない。
ただし、互換バッテリーは年間で万単位で発売されており、例え発火する確率が0.1%以下であろうと、発火事故の遭遇リスクは無視できないほどの非常に高リスクな製品と言える。
充電仕様を把握していないまま作られている
通販サイトでは、数多くのメーカーが互換バッテリーを販売しているため、中には不良の発生せず安全に使える互換バッテリーもありそうだと考えてしまう。
バッテリー・充電器・機器が異なるリチウムイオンバッテリーのシステムは、充電仕様・放電制限なの仕様をリチウムイオンバッテリーが危険な状態にならないよう、メーカーによって厳密に定められている。この仕様は、正式に開示しされておらず、純正品以外のメーカーは充電・放電仕様に則ったバッテリーを作ることが出来ない。
特に、電動工具のバッテリーのような民生品として高出力な製品は、急速充電の仕様や保護条件を満たしていないと製品事故に繋がるため、非常に危険である
急速充電器で互換バッテリーを充電すると発火リスクが跳ね上がる
互換バッテリーは「急速充電に対応できない」「過充電の保護仕様に欠陥がある」などの理由から、充電しているときが最も危険な状態にある。niteの報告書では約8割の互換バッテリーが充電中に発火している。
始めは正常に充電出来ていても、内部のバッテリーのバラツキが大きくなると、充電状態のバランスが崩れた充電されるセルアンバランスと呼ばれる現象が発生してします。この状態で充電が行われると発火の危険性が非常に高くなる。
急速充電ではバッテリーセルが損傷を受けてバランスが崩れやすく、過充電の検知も正しく行われないため、互換バッテリーの急速充電はリスクが高い。充電電流の低い充電器ならこのリスクを回避できるが、過充電の検知自体が正しく行われないため、リスクを完全に回避できるわけではない。
互換バッテリーは製品事故時にユーザーを守る仕組みがない
互換バッテリーを取り使う販売店・メーカーは製造物責任法を順守した実績がほとんどない。さらに、業者によっては個人輸入品の扱いになるため、製品事故の責任は自分自身になる可能性が高い。
通販サイトの互換バッテリーを取り扱うストアフロント情報では、中国の住所を記載しており連絡手段もメールアドレスしかない。この中国の住所は名目上のダミー住所であることも多く、肝心な国内発送元も個人輸入代行や通関代行のような名目上な輸入者が大半なので、メーカーや販売者を追跡し責任を負わすこと自体難しい。
本来、製品の発火事故は人命や私財の焼失に関わる重大な製品事故案件だ。
通常であれば、メーカーは事故製品を回収した後、事故原因の調査・責任の明確化・必要によって自主回収orリコールの流れで事故対応を進めるのが一般的1だ。
互換バッテリーが発火をレポートしている動画配信者などもいるが、メーカーが事故品の回収を行わず、公的機関やユーザーに調査報告書を提出していないのは、互換バッテリー販売の実態を表している。
PSEは互換バッテリーの安全性を証明するマークではない
2018年2月にモバイルバッテリーのPSE表記が義務化され、2019年2月にはPSEマークを記載していない全てのモバイルバッテリーの流通が禁止された。これ以降、PSEマークは広く知られるようになり、バッテリー機器の安全性を判断する1つの基準として認知されるようになった
勘違いしやすいのが、PSEマークとは審査や認定によって取得するものではなく、電気用品安全法上の指針に従って設計・検証が行われたことを自主的に証明するマークだ。残念ながら、販売のために試験を行わないままPSEマークを表記している製品も数多く存在している。
「認定」「取得」などの表記をしている互換バッテリーもあるが、これは試験場や試験機器を持たないメーカーのために代理で試験を行う認定機関からPSEを満たす証明を受けたことを表している。しかし、試験が適当だったり、試験を行わないままPSEマークを発行する試験機関もあるため、認定機関からPSEを受けていても鵜吞みにはできない。
行政の動きは非常に遅い・対応できない
製品事故が発生時に力になってくれる行政機関、経済産業省や消費者庁・nite(製品評価技術基盤機構)は、互換バッテリーの製品事故に対して有効な行政的手段を取ることができない。
現状、互換バッテリーに対して最大の規制となっているのは、電気用品安全法であり、製品事故や不備が発覚した時には「一年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれを併科」という事業者に対しての罰則規定がある。さらに、重大な製品の不備や事故が発生した場合、事業者登録のはく奪など厳しい行政手段が取られる場合もある。
しかし、事業者登録をまともに行っておらず、個人輸入同然で販売されている互換バッテリー販売業者に対しては有効な手段になっていない。
本来、PSEマークを記載する製品であれば、電気用品安全法第3条で事業者の届け出が義務とされているので、製造・輸入者は追跡できるはずだが、niteの報告では互換バッテリー製品事故の大半が「輸入事業者が不明であるため、措置はとれなかった。」と報告されており、PSEマークによる互換バッテリーの規制は事実上破綻している。
新たな動きとして、経済産業省主導による互換バッテリーの実態調査と新たな規制の検討が進められているが、有効な規制が施行されるまで数年はかかると予想している。
動画配信やレビューの感想・評価は当てにならない
互換バッテリーの普及と認知が進んだことにより、動画配信者による互換バッテリーのレビューや紹介も見かけるようになったが、現在まで技術的な観点で互換バッテリーの安全性を証明している動画配信者は存在しない。
バッテリー機器の安全性を評価するのであれば、電源回路設計の知識や設計指針・法規制に基づいて調査を進める必要がある。しかし、彼らは電動工具を使って何かを作るプロであり、互換バッテリーの検証の内容も、使用感や定性的な評価に偏りやすく、安全性を評価・アピールするコンテンツとしてはあまりにも内容が不足している。
互換バッテリー販売ページの製品レビューなどでは核心を突いた内容の投稿も見かけるが、レビューや製品ページが削除されてしまうことも多い。なにより、「使えました」「届きました」だけの意味のない肯定的なレビューに埋もれてしまい、大量の高評価レビューでユーザーが判断を誤りやすい。
高評価レビューが多いから安心、有名な配信者が紹介していたから安心、などは安全性に対する根拠とはならない。
製品不良・事故が何度起きても互換バッテリーの販売は続く
バッテリー販売の規制やバッテリー機器の安全性をより具体的に策定する法律は、今のところ存在しない。互換バッテリーの不良や製品事故が何度起きたとしても、互換バッテリーの販売を続けられる販路構造が続いている。
国内製品の基準で考えれば、自主回収・リコール同然の電動工具用互換バッテリーだが、電動工具メーカーや通販サイトは、互換バッテリーの規制活動に対して消極的であり、行政も迅速な対応を取ることが出来ない。
結果、精力的な拡販活動を続けている互換バッテリー業者の一人勝ちの状態が続いている。この歪な販売構造のツケは、ユーザー側に製品事故の形で押し付けられているのが実情だ。
互換バッテリーの危険性から身を守るには、一人一人が危険性を認識し自分や周囲の人命・財産を守るために、互換バッテリーを使わないよう自衛を心がけるしかない。