回路の仕様を決めている時、電源の電圧と電子部品の電圧が合わない場合にはレギュレーターIC等を使用して対応すると思いますが、3端子レギュレータなどで簡単に行える降圧と違い、昇圧となるとスイッチング回路の構成などで敬遠してしまう方も多いと思います。
今回は、昇圧スイッチングICを使って昇圧DCDCコンバーターをブレッドボード上で動かしてみます。
目次
低い電圧を高い電圧に上昇する昇圧DCDCコンバーターとは
昇圧DCDCコンバーターとは入力電圧よりも高い電圧を出力する電子回路です。
電源を昇圧する最大のメリットは、電子回路の電源の自由度が上がる事です。電子回路のICなどは5Vや3.3Vで動作するものが多く、電源はそれ以上電圧のものを選び、電圧を下げるのが一般的です。
これがACアダプタであれば適切な出力電圧の製品を選ぶことで最適な電源を得られますが、バッテリーで動作させようとするとアルカリ電池の1.5Vやリチウムイオンバッテリーの3.6Vなど種類によって電圧が異なり、バッテリー残量による電圧変動の影響も考えなくてはいけません。
電圧付属に関しては電池の直列本数を増やすことで電圧も上げることもdえきますが、電池の本数も増えてしまうためモバイルデバイスとしては大きく重くなってしまいます。
そんな電圧の低いバッテリーでも昇圧型のDCDCコンバーターを使用する事で、3.3Vや5Vより低い電圧の電源を使っても高い電圧を得る事ができるようになります。
昇圧DCDCコンバータの原理
電気回路を少し学んだ方であれば、昇圧を行うには「交流電源」と「トランス」を用意しなければいけないと考える方も多いと思います。
昇圧を行う方法はそれだけではありません。電子回路においては、直流のままでもコイルとスイッチによる「昇圧DCDCコンバーター」で電圧の昇圧が可能になります。
コイルには急激な電流の変化が発生すると、同じ電流を維持しようとする力が働きます。このエネルギーは大きく、空気の絶縁を破り火花を飛ばす電圧までも昇圧することもできます。
昇圧DCDCコンバータは、このコイルの性質をうまく利用した電源回路です。スイッチングICによってスイッチ時間を精密に操作することでコイルのON・OFFを巧みに切り替え、コイルが生み出す起電圧を制御して任意の電圧まで昇圧を行っています。
データシートを元に昇圧回路の構成を考える
早速、今回は、秋月電子から調達できるスイッチングIC”NJW4131GM1-A”を使って5V電圧から24Vまで昇圧させる回路を作ってみます。
昇圧用スイッチングレギュレータIC 40V NJW4131GM1-A-TE2 (2個入)
昇圧DCDCコンバーター回路は複雑な回路ですが、専用ICを使うことで比較的簡単に実現することができます。このスイッチングICは、昇圧DCDCコンバータに必要な要素のほとんどを備えており、いくつかの外付け部品を実装する事で昇圧が可能となります。
専用ICを使うには、まずデータシートを見るところから始めましょう。
データシートには定格のほか、参考回路や電子部品の必要な定数の計算方法などが記載されています。今回は単純に動かすだけなので、データシートのアプリケーション設計例を基本に回路構成を進めます。
アプリケーション設計例には部品の定数を決めるための計算式なども記載されています。計算から求められる数値の電子部品は存在しない事の方が多いので、部品選定の際はあまり厳密に考えず柔軟性を持たせた回路構成にしましょう。
ブレッドボードに実装して昇圧回路を作る
定数の計算が終わり、部品の手配も出来たら早速組み立てに入ります。電子回路の試作には様々な方法がありますが、今回はブレッドボードに電子部品を実装して動かしてみます。
ブレッドボードは動作周波数の高い回路には向きません。幸い、NJW4131の発信周波数は300kHzから1MHzまで調整できるので、動作に問題が発生した場合には周波数を再調整して対応します。
スイッチングICにはDIP化変換基板を使う。
NJW4131GM1-AはSOP8と呼ばれる外観形状のICです。
細かい話を抜きにすると、これは表面実装(SMD)と呼ばれるはんだ付けに使用する電子部品なので、普通だとブレッドボードどころかユニバーサル基板へのはんだ付けすらできません。
そんな電子部品には秋月電子から販売されているDIP変換基板を使ってブレッドボードに実装できるよう下準備を行います。高性能なICは表面実装形状で開発されているので、このような変換基板をいくつか準備していると便利です。
SOP8(1.27mm)DIP変換基板 金フラッシュ (9枚入)
表面実装コイルもリード線をつけて実装
ICと同じように、コイルやコンデンサでも表面実装形状のものが販売されています。
今回用意したコイルはパワーインダクターのNRシリーズなので、これも同じようにブレッドボードに実装できるように処理を行います。
他の電子部品から切り落としたリード線を側面の電極部にはんだ付けする事でブレッドボードに実装できるようになります。
動作確認
回路図通り部品が実装出来たら、電源に接続して動作を確認してみます。
この回路はUSBの5V電源を入力して使用することを想定していますが、配線間違いや不意の短絡などがあるとUSB機器周りを破損させてしまうので初めの試験的な動作では安定化電源を使用するようにしましょう。この時、出力電流も抑え、部品を焼損させたり破裂しないように十分注意します。
電源入力5Vの回路ですが、昇圧回路によって12Vまで電圧が上がり、3本直列の青色LEDを点灯させられるようになりました。
青色LEDのVfは約3.6Vなので3本直列の場合10.8V程度の電圧が最低限必要ですが、昇圧DCDCコンバーターを通すことで低電圧の電源でも高い電圧を必要とする電子部品を駆動できるようになります。。
なんでもできそうな昇圧DCDCコンバーターですが
昇圧したからと言って「電圧が上がるならどんな回路でも動く!」とはなりません。電圧が上昇した分、大本となる電源には多くの電流が必要となります。原則として、電力が増えるわけではありません。
例えば、USB電源の5Vを昇圧して18Vのリチウムイオンバッテリーを充電する回路を考えてみます。
18Vのリチウムイオンバッテリーを4Aで充電する仕様とするなら、5V電源には出力に15AものUSB充電器を使用しなければいけません。USB充電器で15Aも出力できる製品はまず見かけないため、現実的には不可能になります。
このように昇圧回路を使ったからと言って全ての回路を満足に動作させられるわけではありません、大本となる電源の容量や実際の用途などを考える必要があります。