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基板の作り方にも色々な方法がある
本屋の電子工作書籍コーナーを見ると、電子工作の入門本はあるのに、基板の作成手法まで書いてある本はあまり多くありません。
小規模な回路であれば、ブレッドボードやユニバーサル基板などを使って簡単に回路を構成することが出来ますが、少しでも回路を小さくしたい!とか、表面実装部品(SMD)を使いたい!とか考えると、より電子回路に適した回路基板の制作をしなければいけません。
今回は、個人でもできる基板作成の方法から、業務基板の製造まで色々な基板作成の手法について紹介します。
初期コストが低い基板制作方法
まずは、手軽に作れる回路基板について紹介します。ここでいう「手軽」というのはCADを使用せず、発注や専用機械に頼らず自力で制作できる方法を指します。
使用する電子部品がリード線やDIP形状のものだけで、回路規模も小さいのであればこれらの方法で十分だと思います。
ユニバーサル基板と金属ワイヤではんだ付け
回路を作る方法で一番手軽・低コストなのがユニバーサル基板を使う方法です。ユニバーサル基板は蛇の目基板・万能基板・穴あき基板などとも呼ばれます。
一般的なユニバーサル基板は0.1インチ(2.54mm)間隔でスルーホールが開いており、そのランド(銅箔部分)電子部品を差し込んではんだ付けすることにより、電子部品を固定することが出来ます。
電子部品ごとの配線は、ランド同士を金属線で繋げることで配線できます。一般的にはスズメッキ線という安価な線材を使うことが多いですが、長さが足りれば電子部品の切った足の余ったリード線などでも代用できます。
線材には最も安価なスズメッキ線や、被覆したビニール線やラッピング線(ジュンフロン線)、コーティングしたUEW線など、銅箔テープなど様々な線材を使用できます。回路の種類によって適する線材も異なるので、ユニバーサル基板を用いて電子回路を作る場合は一通りの線材を持っておいた方がいいでしょう。
「生基板」をカッター・フライスで彫り込む
生基板とは銅箔が全面に張り付けられた基板のことです。カット基板とも呼ばれます。
基板表面の銅箔をカッターやリューターで除去すれば基板のパターンを描くことができるので、ユニバーサル基板よりも信頼性の高い基板を作ることができます、穴の形状もドリルで自由に決められるので非常に自由度の高い方法です。
自由度が高い分、加工用の道具やパターンの設計図などが必要になるので、少し難易度の高い方法になります。
「生基板」をトナー転写でエッチング
生基板を使って基板をつくるもう一つの方法として、「トナー転写」と呼ばれる方法があります。
これは、レーザープリンターで使われるトナーを生基板に転写して、薬品で銅箔部分を溶かしてパターンを構成する方法です。
レーザープリンターと光沢紙が必要になるため一般家庭では難しい方法ですが、リード線の電子部品での基板制作であれば十分に高い信頼性の基板制作が可能です。
「感光基板」でエッチング
ハンドメイドの基板制作で、実用性と手軽さのバランスが一番取れているのが感光基板を使う方法です。
感光基板とはサンハヤトが発売している、光に反応する感光剤を生基板の銅箔面に塗布したもので、高価な機材を使用せずに精密な基板を作ることが出来ます。原理的には先述のトナー転写と同じ方法になりますが、個人で精密な基板を作る場合は感光基板が最も手軽で安価な方法になります。
感光基板が優れているのは、複雑な基板の製造を簡単に低コストで済ませられる点です。
感光基板には初めからレジスト剤が塗布されており、そのレジスト剤に光を照射するだけで除去できるという特徴があります。そのため、OHPフィルムやマジックなどでマスクを作ればレジストが済むので、初期投資が安く済むというポイントがあります。
エッチングレジスト後は、基板をエッチング剤に浸して余分な銅箔を溶かします。エッチングレジストした部分は銅箔が残るので、最後にエッチングレジスト部分を除去すれば基板が出来上がります。
感光基板による基板制作では、リード部品から表面実装(SMD)まで幅広く対応できるのが特徴で、外注で製造した基板に近い品質で作ることができます。
業務回路製造、本格的な試作基板を製造する方法
より複雑な回路の基板設計を行うには、専用の機械や外注による専門業者への依頼を行います。
これらの方法では、短い期間で大量の基板を製造する事が可能となり、手作業による基板作成よりも確実な配線が可能で、2層の基板作成も可能なのが特徴です。
ECADが必要になる回路基板作成
電子部品の集積度を上げたり表面実装部品を使用したい場合には、電子回路用のCADを活用した回路パターンの作成が必要になります。
CADを使った回路設計では綿密な部品の配置位置を決めなくてはいけないために少し手間はかかりますが、電子部品の集積度を上げることができ、表面実装部品(SMD)の実装もできるようになるので、電子回路の小型化を実現することができます。また、配線不良などによる回路の動作不良のリスクも減らせるので、手間はかかりますが数多くのメリットがあります。
CADで作った回路パターンデータのことをガーバーデータと言います。ガーバーデータは基板製造の一般的なフォーマット形式で、製造を外注する場合や、フライスで機械的に削りだす時の元となるデータです。
個人レベルであっても、KiCADやEagleなどのフリーのEDAを使うことで、産業品と同等の回路基板を制作する事ができます。
基板製造サービス
最近、個人でも安価な価格で発注できるようになり、個人用途でも浸透しているのが基板製造サービスです。
これは、一般的な基板作成の発注と同じように、業者にガーバーデータを渡して、それに基づいた回路基板を作ってもらうサービスです。
外注によって基板作成を行うメリットとしては設備投資が不要・多層基板の作成・表面処理が可能等が挙げられます。小口発注でも10枚1,500円程の安価な業者も増えており、すべての手法の中で一番手軽に基板を作ることが出来ます。
最大のメリットとしては多層基板も作成できる点です。基板サイズを小さくしたい製品には、2層以上の多層基板が必要になるので、小さい基板を作りたい方には大きなメリットとなります。
アルミ基板やフレキシブル基板、部品の実装サービスなど様々なサービスに対応するのも大きな利点です。レジストの色や、Vカット、端面スルーホールなど細かい指定もできるので、個人でも市販されている製品と同等の基板作成ができるようになっています。
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サンハヤト UV硬化インク使用ダイレクトプリンター
生基板に直接エッチングレジストを印刷して基板を作るのがサンハヤトのMDP-10です。
パソコン上で作成したパターンでのデータを直接印刷してエッチングレジストインクを印刷するため、転写などの手間もなく直ぐにエッチングの工程に移ることができます。
UV硬化インクを使用しており、印刷完了と同時にエッチング工程に入る事ができます。レジストはインク剥離液で綺麗に除去することが出来ます。
初期コストこそかかりますが、ランニングコストが安く、基板製造のスピードも速いので早急な試作基板の制作には最も適した方法と考えられます。
基板用フライスで切削
生基板を使う場合にはカッターやリューターを使用しますが、基板専用のフライスを使用すればより精密に基板を制作が可能になります。
基板専用のフライス盤にはガーバーをCNCフライス用のプログラムに変換するソフトがあるので、フライスに複雑な加工手順を入力する必要はありません。
フライス盤を使うメリットとして、薬剤を使用しない・スルーホールの穴あけが自動でできる・後工程が存在しないなどの大きなメリットがあります。一方で初期投資(フライス盤)が高い、ランニングコスト(エンドミル)が高い、粉じん・騒音の発生などの問題もあるので注意が必要です。
ORIGINALMINDというメーカーからはメイカーズ用のフライス盤として、KitMill CIP100が販売されています。
KitMill CIP100 | ORIGINALMIND オリジナルマインド
まとめ。基板製造サービスの普及が進み、高度な基板制作が可能に
今回は基板の作成方法についてまとめてみました。
色々な基板作成方法がありますが、簡単な回路を作るだけであればユニバーサル基板を使い、複雑で高密度な回路を作るのであればCADを覚えて、PCB製作サービスを使うのが現在の主流です。
PCB製作サービスがまだ一般的ではない頃は、エッチング液を使う基板作成が主流でしたが、うまく露光できなかったり廃液が面倒だったり、ドリルを持ってきて穴を空けたりと、とにかく面倒な思い出しかなかったです。今ではPCB製作サービス様様です。
電子回路用のCADも、無料化のソフトや日本語対応しているものもあり、表面実装の部品を使った設計も比較的行いやすくなっています。最近のICやマイコンなどは表面実装の形状も増えているため、少し複雑なガジェットを作ろうとすると、CADを使わざるを得ない時がくるかもしれません。