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2022年2月22日

日本メーカーが充電式コンプレッサーや電動釘打機を販売しない理由

日本メーカーが充電式コンプレッサーや電動釘打機を販売しない理由

海外市場では、バッテリーで動作する充電式のコンプレッサーやフレーミングネイラのようなコードレスの空気工具が普及しています。しかし、これらの電動工具は日本で見かけることはなく、メーカー側も積極的な製品展開を行っていません。

今回はコードレス空気工具の課題と日本特有の法規制について解説します。

当記事は、筆者の法解釈やメーカー動向について独自の解釈で解説する記事です、実態と異なる場合もありますのでご了承ください。

海外で普及が進むバッテリー式空気工具

海外市場では、バッテリーで動作するコンプレッサーや電動釘打機が普及しています。

日本では最近になって仕上げ釘打ち機のバッテリー製品が普及しはじめたばかりで、海外のような高性能なバッテリーエア工具はほとんど販売されていません。AC電源の高圧コンプレッサーを使ったエア釘打ち機が広く使われています。

海外の釘打ち機では、バッテリーで動作するコンプレッサーや躯体工事に使うフレーミングネイラなどバッテリーで動作するエア工具が販売されています。今回は、これらのバッテリー製品がなぜ日本で販売されていないのかを解説します。

バッテリー式エア工具の普及を阻む銃刀法

バッテリー式コンプレッサーや電動釘打ち機の普及が日本で進まない最大の理由こそ銃砲刀剣類所持等取締法(以下、銃刀法)です。

警視庁は圧縮空気を使用する釘打ち機に対し下記のような見解を公表しています。

圧縮空気を利用した自動釘打器については、常時電源を必要とし、多くの場合他の用途にも利用可能な別置式エアーコンプレッサーとホースで接続された状態で使用されるため、使用時の形態から犯罪者等が凶悪犯罪に使用する危険性が少ないとして、警察庁により、空気銃に該当しないものと判断されている。

市場開放問題苦情処理推進会議第1回報告書(平成6年5月13日)|内閣府

この文面と銃刀法の構文を解釈すると、現在販売されているエア釘打ち機は
常時電源が必要
コンプレッサーとホースで繋がれる
使用時の形態から犯罪に使用されるリスクが少ない
の3つの根拠によって空気銃に該当しないと判断されています。

この解釈を充電式電動釘打ち機に当てはめた場合
バッテリーによって電源を必要としない
「エア供給機器(コンプレッサー)とホースで繋がれない」
この2点が銃刀法に抵触すると解釈できます。

高圧エア工具市場も釘打ち機の電動化を阻む

銃刀法で厳しい規制がかけられている釘打ち機ですが、「高圧」のエア工具も電動釘打ち機の普及を阻んでいます。日本では高圧式のエア工具が広く使われていますが、海外では常圧のエア工具が普及しています。

電動釘打ち機は、コンプレッサー不要の取り回しの良さや経済性などの面で優れる製品ですが、現在の技術では重量・サイズでは高圧エア工具に太刀打ちできません。日本市場に浸透してしまった軽量・小型が特徴の高圧エア工具の市場を覆すのは難しいとされています。

電動釘打ち機の打ち込み方式の違い

ここまで電動釘打ち機の問題について解説しましたが、既存の電動フィニッシュネイラやピンネイラのような電動釘打ち機についても補足説明しましょう。

銃刀法では「装薬銃砲及び空気銃(圧縮した気体を使用して弾丸を発射する機能)」を銃砲と定義しています。釘打ち機に対する鉄砲の解釈は釘を打ち込む方式によっても変わります。

国内で販売されている電動フィニッシュネイラやピンネイラは、バネの力で釘を打ち込むスプリング方式に該当するため、銃刀法には抵触していません。

またスプリング方式の電動釘打ち機にはフライホイールの回転力を打撃エネルギーに変換する「フライホイール式」と、シリンダー内に充填した空気を圧縮する「エアスプリング式」が存在します。

フライホイール方式はモーターの回転力をフライホイールに貯蔵し、一気に打撃エネルギーに変えている。動作原理的には銃よりハンマに近く、銃刀法には抵触しない。
エアスプリング方式はシリンダー内部の空気を圧縮して打ち出している。この方式は原理上、空気銃に該当するため日本での発売は難しい。
エアスプリング方式銃刀法上の空気銃に該当する
スプリング方式バネで直接打込む方式はOK。エアガンのような空気を媒介する方式はNG
フライホイール式銃刀法に抵触しない

バッテリー式コンプレッサーを所持するリスク

近年話題の製品として注目されているのが、バッテリーで動作する電源コードの無い「タンク付き」コンプレッサーです。

日本国内においてはバッテリー式コンプレッサーを直接規制する法律は無いものの、充電式コンプレッサーとエア釘打ち機を組み合わせると、先ほどの「釘打ち機は空気銃に該当しない」の解釈が揺らぐため、銃刀法に抵触する懸念があります。

一応国内でもバッテリー式コンプレッサーは販売されているものの、その最大の問題は、エア釘打ち機で使用していないことをどのように証明するかです。

バッテリー式コンプレッサーの単純所持を規制する法律はありませんが、エア釘打ち機は銃刀法の解釈上「使い方次第で銃刀法に抵触する」特殊な製品であり、今後の動向次第では銃刀法改正や許可制のような規制案が検討される可能性もあります。少なくとも、釘打ち機を所持する大工ユーザーや事業者の方は充電式コンプレッサーに手を出さない方が良いでしょう。

この点を踏まえているエア釘打ち機を販売しているメーカーは、銃刀法の問題を避けるためにバッテリー式のコンプレッサーの販売を避けています。

当サイトの見解としては、現在販売されているバッテリー式コンプレッサーは、メーカー側の対応努力として「釘打ち機を取り付けられない独自カプラにする」ような対応が必要と考えています。現在市販されているバッテリー式コンプレッサーは、銃刀法抵触の可能性を十分に排除しきれておらず、法適合が不十分な製品であり、ユーザーリスクの高い製品であると判断しています。

コードによって行動範囲が拘束されるため、現行の銃刀法の解釈上対象外となっている。
バッテリーコンプレッサーを使用した場合、銃刀法に抵触するのはコンプレッサーではなく「釘打機」になる。

ちなみに海外でよく販売されているバッテリー式のコンプレッサーは、くみ上げ速度が足りないので釘打ち機やネジ打ち機への使用はあまり実用的ではありません。タンク自体が小容量なのに加え、タンク内圧力も0.9MPaの常圧までしか貯められないのでエア不足になりがちです。市場で普及している18V-6.0Ahバッテリー単体でも10分程度しか稼働できないため、作業量は常に不足します。

仕上げ釘以下の釘打ち機なら問題なく使用できますが、このクラスは既に電動釘打ち機で販売されているので現場作業にバッテリー式のコンプレッサーを使用するメリットはほとんどありません。

日本のエア工具市場には技術革新や規制緩和を行う体力がない

日本の建設産業は住宅新規着工件数の減少や職人不足を受け、停滞期に差し掛かっている段階です。

釘打ち機市場に関しても、今から日本のユーザーに受け入れられる電動釘打ち機を展開したとしても、実用的に現在の高圧釘打ち機と同じ水準の製品の製品かは難しく、新市場による需要拡大や買い替え需要の創出も難があると予想しており、既に普及している高圧エア工具からの買い替えによる開発費の回収は難しいと考えられます。

国内動向としては、法規制の現状とユーザーの好みを考慮するならば超高速回転フライホイール方式の電動釘打ち機が高圧釘打ち機を置き換える未来に少しだけ期待出来そうですが、実現については採算性の面から難しいと言わざるを得ないでしょう。

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