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中国ブランドTenblutt HiKOKIマルチボルト互換バッテリーを分解・検証

中国ブランドTenblutt HiKOKIマルチボルト互換バッテリーを分解・検証
  • HiKOKIマルチボルトの互換バッテリー
  • 全セル監視機能を搭載
  • バッテリーセルの実態が不明
  • PSEマークが正しく運用されていない
  • バッテリー容量詐称の疑惑あり
  • 保護回路設計は比較的良いが、全体的に作りが雑
  • 価格が純正バッテリーと変わらない

中国Tenblutt製 HiKOKIマルチボルト互換バッテリー

今回検証するのは、HiKOKIマルチボルトの互換バッテリーです。ブランドは中国Tenbluttです。

マルチボルトバッテリーは、2017年に販売が始まった18Vと36Vの切り替え構造を持つ電動工具用バッテリーです。中身は直セル5セルの18Vバッテリーを2組内蔵した構造になっており、工具側のターミナルの配線の切り替えによって18Vと36Vを切り替える仕組みになっています。

マルチボルトに対応する互換バッテリーは国内初であり、販売価格も6,999円と互換バッテリーとしては高めです。

マルチボルトの36V動作は、電源コードの電動工具に匹敵するほどの高い出力性能が求められています。そのため、セルもハイレート対応の搭載が期待されます。

外観確認

まずは製品外観の確認です。バッテリーのケースはよくコピーされていて、全体的な形状が純正マルチボルトバッテリーに酷似しています。取付の感じも良好で固さ・緩さなどは気になりません。

マルチボルトの電圧切り替えはターミナルの配線切り替えによって実現されているため、ターミナルの精度は非常に重要です。今回の互換バッテリーはコピー品としてはよくできていますが、ターミナルのツメが若干ずれていて、絞まりも純正品より強いものと推測されます。

これだけでは確定できませんが、この互換バッテリーの長期的な使用は、工具側のターミナルを傷つけてしまったり、ターミナル間の短絡により発火する可能性が純正品より高くなるものと推測されます。

PSEマーク記載の運用で不適合

バッテリー裏側のラベルにはPSEマークの記載はあるものの、PSEマークの近くに輸入事業者の企業名が無く、PSEマーク記載の運用基準に違反しています。この互換バッテリーはPSE不適合品です。このようなPSEマーク既製品は販売プラットフォーム側で取り締まるべき例です。

電気用品安全法 第十条では、電気用品のPSEマークの表示とマークの近くに届出の製造(輸入)事業者をフルネームで表示することを規定しています。

セルの確認

セルの品名は18650-H10C FA20です。セルのデータシートは見つからなかったためスペックは不明です。

電動工具用の3.0AhセルであればSamsungSDI 30Qの搭載が理想的ですが、高出力36V仕様の純正バッテリーは3.0Ahセルの採用を避けており、高出力重視の2.5Ahセルを搭載しているのが現実です。

純正バッテリーのセル事情を考えれば、ラベルの記載通り本当に3.0Ahを搭載していたとしても36V動作で高負荷放電を行うような作業は避けた方が良さそうです。

ちなみにH30Cの横に「3.」と書かれた刻印があります。バッテリー容量を考えれば3.0Ahと記載されていることを期待しますが、下のFA20は2.0Ahを表す品名に見えるので、実際は3.6Vと書かれているのかもしれません。

タブのスポット溶接部を確認すると、全タブに電圧測定用のリード線が接続されており、全セル個別監視を行っていることが確認できます。

スポット溶接に使用しているタブの形状は板金を打ち抜いたシンプルなもので、斜めに溶接されている部分もあり品質にばらつきがあると考えられます。また、一部のタブは歪んだ状態で溶接されており、振動や衝撃によって剥がれる可能性があります。

電子部品確認

リチウムイオン制御ICには、中国Cellwise社のCW1053が搭載されていました。このICは直接5セルの保護ICなので、2機搭載によって10セル分の保護構造仕様にしているものと推測されます。

そのほかの電子部品に関しては、トランジスタやチップコンデンサのようなディスクリート部品しか搭載されておらず、シンプルな回路構成になっているようです。

回路そのものはコーティングされていないため、電動工具に使うバッテリーとしては不適切です。部品点数が多いので、鉄粉や水の付着で誤作動を起こす可能性が高いと推測されます。

回路裏面に電子部品は実装されていませんでした。温度測定のサーミスタだけ見えます。回路上に冗長性が無いと予想されるので、回路上の1部品の破損で回路上の保護機能が全て失われるものと推測されます。

互換バッテリーの容量確認

バッテリー容量は3.85Ahでした。バッテリーのラベルには6.0Ahと記載されていましたが、中国互換バッテリーは6.0Ahラベルに4.0Ahセルを乗せるのがお家芸なのでこれはいつも通りです。

測定機器にはCT-3を使用し、電子負荷は3.0Aで容量測定を行っています

過放電検知端子の働き

バッテリーの電圧が単セル2.5V前後の電圧で過放電を検知するLD端子の信号が有効になり、LD端子有効時の信号は560Ωのプルダウンでした。この過放電保護信号は日立工機の純正バッテリーに準じた仕様です。

過放電保護の詳細は不明ですが、CW1053のデータシートによると単純な電圧しきい値で過放電保護を判別しているようです。高負荷接続時などはON/OFFを繰り返してしまうかもしれません。

日立工機リチウムイオンバッテリーの過放電保護について

日立工機リチウムイオンバッテリーの過放電端子の補足説明として、特許公報2008-62343を元に解説します。

1:工具本体,2:モータ,3:工具内部トリガスイッチ, 4:工具内部保護回路, 5:バッテリー, 54:+端子, 55:-端子, 56:LD端子
画像引用:電動工具 特開2008-062343

日立工機の14.4V/18Vスライドバッテリーは、モータに電力を供給する+端子/-端子のほかに、過放電保護用の端子(バッテリー上のLD端子)を備えています。このLD端子は、正常状態で開放、過電流・過放電検知時に560Ωのプルダウン状態になります。(特許請求事項と実製品の挙動からの推測)

日立工機のバッテリーは、バッテリー側に保護検知回路を備え、本体側に備えられた遮断回路によってバッテリー保護を実現する構成になっています。

この端子の信号は、図中番号58のバッテリーに搭載されたスイッチによってプルアップ抵抗をON/OFFするスイッチです。この端子働きによって、工具本体側に搭載されているパワートランジスタ410の通電状態を制御する仕組みになっています。

スイッチ58がオフ(過放電保護が働いていない)の場合には、抵抗411経由でパワートランジスタ410のゲート電位がバッテリー電圧と等しくなり、モータ2が動作できるようになります。このスイッチ58がオン(過放電保護検知)になると、パワートランジスタ410のゲートの電荷が引き抜かれてトランジスタ410遮断状態になるので、工具への電力供給が遮断されます。

マキタ互換バッテリーに比べれば良い方だが

今回検証したTenbluttの互換バッテリーも、安全に使用できるとは言い難い製品でした。

セルに関しては6.0Ahと謳いながら4.0Ahセルを搭載する中国互換バッテリーのお家芸とも言えるお粗末さですが、リチウムイオンバッテリーに求められる必要最低限な保護機能を搭載している点は好印象です。

セルの問題を抜きにすれば、高負荷や大電流充電に注意することで比較的安全に使用できるんじゃないかなと評価できるバッテリーですが、日立工機のリチウムイオンバッテリーは、保護方式や工具本体との信号のやり取りに関するパテントの縛りが強く、純正品相当の保護機能を搭載するような互換バッテリーは特許侵害になります。

今回のTenblutt製のマルチボルト互換バッテリーに関しても、回路構造やターミナルの構造も含めあらゆる点が特許侵害のオンパレードであり、僅かな期間であったとしても販売されていたこと自体が奇跡のような互換バッテリーです。

この互換バッテリーは2020年12月の売り切れ以降、再販どころか販売ページも削除されており、工機HD側から何らかの法的手段が下されたものと推測されます。今後、Tenblutt以外の互換バッテリーも含め、マルチボルトバッテリーの互換バッテリーが販売されることはないと予測されます。

ちなみに、実使用的な観点からマルチボルト互換バッテリーを評価すると、HiKOKIマルチボルトバッテリーの互換バッテリーを購入する利点は1つもありません。

マルチボルトバッテリーの純正品は、HiKOKIが過去に何度も行ってきたバッテリー配布キャンペーンによって販売価格の下落が進み切っており、ネット通販の最安値だと今回の互換バッテリーと変わらない値段で販売を行っているネット販売店もあります。

互換バッテリー市場としても、HiKOKIの製品は世界的なシェアで競合他社に大きく差を付けられているためスケールメリットによる低価格化も行えず、バッテリー基板も複雑なので原価を下げにくい欠点があります。そのため、営業戦略による値下げを続けているマルチボルト純正バッテリーに価格差を生むことができず、純正バッテリーよりも互換バッテリーの方が割高になっているのが実情です。

安全性や製品保証の観点からも互換バッテリーを使用する利点はありません、HiKOKI マルチボルトユーザーの方は、今後マルチボルトの互換バッテリーを見つけても純正バッテリーを購入することを推奨します。

この記事を書いた人

VOLTECHNO編集部
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