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マキタ互換18V-12.0Ahバッテリーを検証、21700セル採用の大型マキタ互換バッテリー

マキタ互換18V-12.0Ahバッテリーを検証、21700セル採用の大型マキタ互換バッテリー
  • バッテリーセルの品目が不明
  • バッテリー容量を詐称している
  • ハイレート充放電に対応しているか怪しい
  • 充放電保護回路の動作は純正に近い

当記事は製品の解説・調査を行う検証記事であり、解説する製品の使用や購入を推奨するものではありません。

ついに登場、マキタ純正を超える12.0Ah互換バッテリー

今回、久々に検証するのはマキタ純正18Vバッテリーを超える容量を持つ12.0Ah仕様の互換バッテリーです。

リチウムイオンバッテリーは大別すると円筒型と積層型の2種類があり、電動工具向けの円筒型リチウムイオンセルには長らく18650サイズのセルを採用していましたが、最近は高出力大型バッテリーを中心に21700サイズのセルを搭載するようになり、電動工具用バッテリーの大容量化が進んでいます。

マキタ18Vバッテリーに関しては、マキタの開発方針からか18Vバッテリーでは18650セルを搭載する6.0Ahバッテリーに限られていますが、中国の互換バッテリー市場では2~3年前から21700セル用のケース販売が始まっており、今年に入ってからは日本のネットモールでも21700セル採用のマキタ互換バッテリーが販売されるようになりました。

そんなわけで今回の記事では、Amazon Japanで購入できる21700セル採用のマキタ互換バッテリーの中でも最大容量となるVANKO マキタ互換18Vバッテリー BL1812Bを検証します

マキタ18Vスライド互換バッテリーのチェックポイント

当サイトの互換バッテリー検証では下記の4項目を中心に分解検証を進め、互換バッテリーの安全性を評価します。

電動工具用バッテリーに関しては、電気用品安全法への適合のほかにも、純正バッテリーに準拠する機能の搭載が求められます。

  • ハイレートセルの採用(PSE非定義)
    電動工具は急速充電、大電流放電で使用するため、高い充放電性能を持つハイレートセルの搭載が必須。バッテリー内部抵抗測定や放電レートを変えた時の放電容量で判断。
  • 保護回路(PSE一部定義)
    リチウムイオンバッテリー機器で必須の「過放電/過電流/過充電/過熱/低電圧保護」の有無。加えて全セル監視を行っていること。特にマキタ14.4V/18Vスライドバッテリーは、放電保護機能をバッテリー側に依存しているため、バッテリー側での遮断機能が必須。
  • 製造元・輸入者・販売店情報(PSE定義)
    電気用品安全法における輸入事業者の情報、およびバッテリーの情報を適切にラベルに記述していること。

2番目のバッテリーセルの保護回路については、令和4年12月に電気用品安全法の改正が行われており、全セル監視搭載の保護回路仕様が必須となっています。

外観の確認

搭載セルは21700-40T (SamsungSDI模倣セル?)

搭載セルの品名を確認したところ、セルのラベルに21700-40Tと書かれているのを確認しました。

同じ品名のセルにはSamsung SDIの40Tがあり、電動工具各社の純正バッテリーにも採用されているリチウムイオンセルです。

ただし、今回のセルはSamsun SDI製セルの刻印とは大きく異なるデザインであり、中国ローカルブランドが模倣した40Tの模造セルか全く別の格安セルに40Tの刻印だけを行った低価格セルと推定されます。

充放電両方に保護FETを搭載

保護基板の実装部品を見たところ、充電側と放電側にそれぞれ遮断用と考えられるFETの実装を確認しました

マキタ互換バッテリー保護基板の大半は充電側に保護遮断機能があるものの、放電側には搭載していないことも多いので、保護基板としての機能は純正に近いものと想定されます。

個別ブロック監視機能と基板実装用のパターンを確認

基板のパターンを確認したところ、各ブロックの電圧を測定するパターンを確認できました。

加えて、保護基板実装時の接点チャタリングの影響を低減するためのパターンもあり、リチウムイオンバッテリー保護基板の実装ノウハウが向上していることが確認できます。

しかし、保護基板にコーティングが施されていないため、屋外での作業や金属加工が行えるようにはなっていません。水や金属粉が内部に入り込んだ場合、保護基板が正常に動作しなくなり製品事故のリスクが上昇します。

タブのスポット溶接品質はまずまず

リチウムイオンセルのタブ付けは、パッと見た限りずれや変色、変形なども無く特段問題ないように見えます。

スポット溶接の箇所にバラツキがあるため、自動機によるオートメーションされたタブ付けではなく、固定電極による手作業でタブ付けしたものと推測されます。

VANKO マキタ互換18V-12.0Ahバッテリー性能検証

バッテリー実容量は公称値よりも低い

容量測定を行った結果、公称容量12.0Ahに対して測定結果は6.0Ahとなりました。

販売ページに記載しているバッテリー容量の半分程度の容量しかなく、これは不当表示防止法における優良誤認に該当する可能性があります。

不当景品類及び不当表示防止法 第五条(不当な表示の禁止) 
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの。

加えて、12.0Aの放電レート測定を行った結果、4.0A放電時では6.0Ahだったのに対し、12.0A放電時では実容量5.0Ahまで減少したことから、このセルはハイレート仕様ではなく大電流充電には対応できないセルと想定されます。

画像は12.0A放電時の放電レートグラフ
(4.0A放電時の放電レートは後日追加)

40Tセルはデータシートで単セル10A放電時の放電容量 3,900mAhを製品仕様として定めており、12.0A放電電流であれば最低でも7.8Ahの容量が計測されなければなりません。

測定結果より、今回の互換バッテリーが搭載するセルはSamsung 40Tに準拠せず、電動工具用途にも適さないセルと想定されます。

内部抵抗は純正40Tより高い

各ブロックの内部抵抗の測定値は、平均7.8mΩとなり最大値は8.4mΩとなりました。

Samsung SDI 21700-40Tのデータシートでは内部抵抗を12mΩ以下と仕様として定めています。

内部抵抗測定は2並列状態の測定値であり、これを1並列に換算すると15mΩであることから、この互換バッテリーに搭載しているセルはSamsung SDI 40Tに相当しないリチウムイオンセルであると想定されます。

マキタ互換保護基板は充放電保護を搭載し純正バッテリーの動作に近い

過放電保護および過充電保護動作を確認した結果、それぞれの保護遮断動作が確認できました

放電保護動作は、バッテリー電圧14V(単セル2.8V)で放電遮断保護が働き放電動作が停止しました。

充電保護動作確認については、25V-2AのCCCV充電を行い、バッテリー電圧21.5V(単セル4.3V)の時点で充電遮断保護が働き充電が停止しました。

マキタ18V純正バッテリーは、バッテリー単体での充電保護遮断機能に加えて、過放電保護遮断機能も搭載しなければいけません。本互換保護基板の遮断機能は純正基板に近い保護機能を備えているものと想定されます。

今回の互換バッテリーは保護基板に限ればまともな互換品と言える程度

今回のマキタ互換バッテリーに関しては、21700セルを採用しながらも実容量は6.0Ah程度しかなく、公称容量12.0Ahは詐称となる互換バッテリーとなりますなります。

21700セルの利点は、体積が大きいことによるバッテリー容量の増加と充放電レートを多くとれる性能の高さなのですが、本互換バッテリーは体積が大きいのに純正バッテリー以下の性能であり、電動工具に使うためのバッテリーそれ自体としても怪しいレベルの製品です。

今回のマキタ互換バッテリーに関しては、保護基板だけを見た場合、マキタ純正バッテリーの動作に近いものであるため、バッテリーセルさえもう少しまともなものを搭載していればある程度の評価はできたかもしれません。

話は少し変わりますが、互換バッテリーそのものの存在は否定しておらず、むしろある程度の普及が進んでも良いと考えています。むしろ互換品の存在はユーザーの選ぶ権利を確保するために市場にとって必要なものと思っており、知財権利切れによるサードパーティの参入などは、市場に多様性をもたらすものとして歓迎すべきものであるとさえ考えています。

リチウムイオンバッテリーのサプライチェーンに関連する話ですが、常識的な仕様のマキタ互換の18Vリチウムイオンバッテリーを企画することを考えた場合、売価1個4~6千円はあり得ない価格設定となります。

電動工具での用途を想定する場合、ハイレートセルの採用によるコスト高は避けられませんし、そこに輸入コストや規格適合コストや検品コストを加えてさらに利益を出そうとする場合、確実に売価1万円を超える価格設定にしなければ事業として成り立ちません。そういう意味で、格安の電動工具互換バッテリーは、サードパーティとしてのコスト削減の限度を超えており、安全性や規格適合義務、事業者が持つべき倫理感を無視した製品であると考えています。

現在の格安互換バッテリーは、ユーザーがリスクを負う形の低価格要因によって市場が形成されており、商材として不健全なものであると考えています。

VANKO BL1812Bまとめ

VANKO マキタ互換18Vバッテリー BL1812B

VOLTECHNO製品評価 1.5 out of 5 stars (1.5 / 5)

21700セル搭載のマキタ互換バッテリー

良い点
  • 互換基板は一定の評価
悪い点
  • バッテリー容量詐称あり
  • 体積は大きいのに純正以下の性能
  • ハイレート充放電に非対応
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